カカの天下539「夏祭りだよ、わかってる!?」
こんにちは。サカイです。
断腸の思いでサエと別れ、いまだ混乱している祭りの中を歩いていると……警官姿の大きい人に声をかけられました。
「もし、すいません」
「はいー?」
「今夜は騒ぎを起こしたりしないんですかな? お祭り怪人さん」
「……どこから聞いたのかしらー? ゆーたさん」
相変わらず大きいわねー、この人。
「あなたが知らないところで、情報はそれなりに落ちているものなのですよ」
「そう。それでー?」
「なんでしょう」
「私とサエのこと、報告するの? 監視役さん」
彼とは少なからず縁がある。私の夫だった人の親戚である彼の家に、まだ赤ん坊だったサエを預かってもらったことが何度かあったのだ。
「……ミエ様」
しかし親族としての立場は低いのか――彼らの親族とはすでに離れた私のことも彼は『様付け』して呼んでくる。とは言っても、もはやあの家の手先なわけだけど。
私とサエが会った。そのことが報告されれば、あの家は何らかの対処をしてくるだろう。そうなると厄介なんだけどー……
「はて? 私はサエ様の浴衣姿に夢中で、他は何も見てませんでしたので。むふー」
「このヘンタイ」
「そんなに褒めないでくださいよ」
「じゃーもう言わない」
「もっと言って!!」
「どっちー?」
半分呆れながら、半分感謝しながら私は笑った。この人は昔からバカなことばかり言っているけど、紛れも無くいい人なのだ。
「……よかった。くそじじいのとこに乗り込むのはいいけど、ちょっと準備が必要だから。先に動かれると困るんだよねー」
「ほほう、お得意の裏操作ですな」
「そーそー。陰湿さにかけては自信があるしね。なんでもするよー、あの子と一緒になるためなら」
「大変、素晴らしい判断かと」
「ありがとう」
「つきましては、ご一緒になるときはぜひ私も」
「あなたはいらない」
「手厳っしぃー! もっと言って」
「言ったら黙ってる?」
「それはもう」
「あなたの親は泣いてるよー」
「それは言いすぎ!!」
さて、と。まずは準備だけど、とりあえずその前にゆーた君に娘自慢でもしますかね。どの話がいいかなー。あの子が「浴衣ありがとー」って言ってくれた話はクライマックスに持ってこよう。気づいててくれたんですよあの子! 愛ですよねー愛! むふー!
「さーさー、私を『様』と呼ぶなら、ちょっと付き合いなさいなー」
「はぁ、それは構いませんが……夏祭りのこの事態を放っておくわけには。いくら雨が上がったとはいえ」
「大丈夫ですよーそんなの。ここにはトボけてて騒がしくておもしろくて、何でもかんでも愉快にまとめてしまう人たちがいるんですから、きっとその人たちがなんとかしますよー」
うん、多分。
こんなにぐちゃぐちゃで陰気くさい雰囲気になったら、それを気に食わないあの子たちが何かぶちかますでしょー。
サエですー。
お母さんと感動の再会をしてしまったので顔がくしゃくしゃでしたけど、なんとか回復してイベントステージがあった場所に戻ってきました。もう止みましたけど、さっき雨が降ってて助かりました。誤魔化しやすいです。
「あ、サエすけっ! よかった、無事だったのね」
「サユカちゃん、会えてよかったー」
「うん。火事が収まってからここがみんなの集合場所っぽくなったみたいだから……あれ、どうしたの。目が赤いわよっ」
「あ、うん。ちょっと火事のときに乾燥したみたい」
サユカちゃん目ざといなー。
「カカすけっ!! サエすけ見つけたわよっ!」
「サエちゃーん!!」
おっとー! なんか飛びついてきたと思ったらカカちゃんだ。無事でよかった……心配してくれてたんだねー。
「よかった……よかった……」
「うん、よかった」
抱きしめあう私たち。
ホッとしたカカちゃんの顔。
そして見つける、その感情。
「安心した? カカちゃん」
「え、うん!」
「なら……別のことが気になってきたみたいだねー」
カカちゃんは、ばつが悪そうに頬をかいた。
周囲から聞こえてくる会話と、その雰囲気。地震に火事、数々の屋台倒壊などのハプニングによって夏祭りに参加した人たちのムードは最悪だった。災難にあったと嘆く人、屋台が壊れたことに泣く人怒る人……知り合いとはぐれたままの人とか大怪我した人は“なぜか”いないみたいだけど、明るい人など誰一人として居ない。
「ん」
カカちゃんは言った。
「気に食わない」
うん、こういう子だ。私の親友は。
「行くの?」
「うん」
「手伝おうかー?」
「な、何するか知らないけど、わたしも力になるわよっ!」
「んー、いいよ」
カカちゃんはおもむろに人ゴミの中に手を突っ込んで。
「よっ」
なんとトメお兄さんを引っこ抜いた。
「トメ兄いれば、それでいいや」
「え? え? 何……おお! 三人とも! 無事だっ――」
「はい、行くよートメ兄」
「は? な、なに、おい引っ張るなって!」
「カカちゃん!!」
親友と、そのお兄さんが振り向く。
さっきの素晴らしい出会いも手伝って、きっと私は最高の笑顔で言った。
「いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
「どこへ!?」
二人を見送りながら……なんだか自然に笑みがこぼれてきた。
「いってらっしゃいばっかり言ってると、なんだか私がお母さんみたいだなー、ふふ」
「サエすけ何か言った?」
「んーん、なんにも。ささ、見物しましょーや、サユカちゃんやー」
「そう? じゃ、そうしますか、サエすけさんやっ!」
ニコニコ顔でステージ前へ。
さー、やっちゃえカカちゃん!
ちは、カカです。ちょっと怒ってます。
「おい、カカ! 本気か!?」
私のやりたいことを教えるとトメ兄は文句たらたらです。ええい、大人のくせにだらしがない!
「本気も本気。ちょー本気」
「や、それはいくらなんでも」
「私とトメ兄だよ? それくらい楽勝っしょ」
「……まぁ、な」
私の言葉で乗り気になったのか、トメ兄は頷いてくれた。よっし、これで怖いものはない。
こっそりステージ裏に忍び込んで深呼吸。言いたいことを心の中で復唱する。
……ええと、あれと、あれと、あれも言いたいなー。でもなー。んー……あれ、トメ兄どこいった? まぁいいや、先に考えをまとめてっと……
んー……
やめた。
面倒くさい。
思ったこと言おうっと。
「よ、スタンバイおっけーか?」
「トメ兄どこいってたの!」
「こっそりスピーカーとか繋げてきた。ほれマイク」
「……手馴れてるねトメ兄」
「昔、よく姉にこんな手伝いやらされてたからな。照明もいじれるぞ」
「さすが忍者の子供」
「僕は大したことできないけどなー。さて、ではそろそろ?」
「いきますか!」
照明がステージを彩った。
提灯が消え、真っ暗だった祭りに火が灯る。先ほどまで火事に怯えていた人たちは身を竦めるが、ただの明かりだと気づくと安堵のため息をつきながらステージに注目する。
そこには仁王立ちする私! そして後ろに控えるトメ兄!
視界に入る人たちの視線をあらかた独り占めしたことを確認して――私は始めた。
「あんたらのその顔が気に入らない!!」
スピーカーの音量は最大なのか響き渡る私の声! ぽかーん、とする一同。構わず続ける。
「今日はお祭りだよ? 楽しい楽しい夏祭りじゃないの? それをなんで暗い顔で過ごさなきゃいけないの!?」
「仕方ないだろカカ。さっき地震やら火事があってさ、みんな疲れてるんだよ」
そんなことを言いつつ隣に立ってくれるトメ兄。そう、これは口だけだ。
「疲れてる? ならもっとお祭りを楽しんで、その疲れを吹き飛ばしたらいいじゃん」
「そう簡単にはいかないよ。あれだけのことがあったんだ。みんな気分が落ち込んでるのさ」
「なんで落ち込む必要があるの。ひどい怪我した人はいないし(お助け忍者調べ)屋台が壊れた人にはお金ちゃんと出るらしいし(忍者の裏づけあり)何も問題ないじゃん!」
「だから、そう簡単なもんじゃないんだって。災害があった、それだけで人は落ち込むもんなの」
「災害? なにそれ。さっきのなんて神様のイタズラでしょ?」
ステージ前の人の失笑が聞こえた。「神様? 子供は気楽でいいわねぇ」「俺たちがどんだけ怖い思いをしたか」「きっと雷が落ちてもはしゃぐんでしょうね。ただごとじゃないってのに」「神様が居るならこんなこと起こらないだろ」なんて、そんな根暗なことをヒソヒソと呟く。
でも私の心は折れない。
むしろムカついた。
「そんなこと言ってるから神様が怒ったんじゃないの?」
皆が押し黙る。
「いいこと言った。居る居ないは別として、少なくともいま汚いことを言ったようなやつに神様が微笑んでくれるわけがない。神様がよほどの阿呆で無い限りはな」
トメ兄の援護もあって、ヒソヒソしていた嫌な人たちは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「笑うヤツには福きたる、笑わないヤツには厄しかこない!!」
「おーまたいいこと言った! カカさんや、その心は?」
「笑え!!」
再び呆気に取られる一同。そして再び構わず続ける!
「私に続いて笑いなさい! さぁいくよ! わっはっは! はいっ」
『わっはっは!!』
いきなりの要請に応えてくれたのはトメ兄と――ステージの真ん前にいるサエちゃんとサユカン!
でもそれだけ。まだまだ足りない。
「わっはっは!」
『わっはっは!』
今度はちょっと大きくなった。どこにいるのかわからないけどアヤちゃんグループとかキリヤさんにサラさん、ゲンゾウ三きょーだいが加わってくれたからだ。でも――
「全然小さいよ! このままだと神様が欲求不満で、また地震が起こっちゃうよ!」
「欲求不満て……おお!?」
ズン、と一揺れ。騒ぐほどでもない、しかしはっきりとわかる揺れが絶好のタイミングで訪れた。
「ほらほら! 神様も怒ってるんだよ。笑いなさい! わっはっは!」
『わっはっは!』
ちょっと増えた。でも。
「小さい!!」
ズン、と催促するようにもう一度揺れる! うわ、なに私、もしかして超能力とかあるんじゃないの? そんなことを思いつつ続ける!
「わっはっは!!」
『わっはっは!!』
よーし、地震への怯えも混じってるけど大きくなってきた!
――舞台裏。
「カツコ! カツコ! 今のどうやったんですか!?」
「ん? この人形に命令してるだけだよ」
「カツコ様、本当に大丈夫なのでしょうか? こ、このような地震など……」
「いいのいいの、一回揺れるだけなら被害もないし」
「それならばいいのですが……皆様が心配でございます」
「……人形、あんた性格変わったな。すげー効き目だ、あのシール。今度親父に貼ってみるか」
「呪いの人形から祝いの人形にチェンジしたのですね!」
「ま、長くはもたないだろうからまた封印するけどね。さて……頑張れー、あたしのきょーだいども」
「わっはっは!」
『わっはっは!!』
んー、いい調子! もういっちょ!
「わっはっは!」
『わっはっは!!』
「ぺっぺっぺ!」「きたねーよ!!」
スパンと一発ツッコミきました。んー、これはダメか。
「かなり元気出てきたね」
「無理やりな気がするけど、まぁな」
「それじゃー今度は私に続いて言ってねー。楽しい楽しい夏祭り! はいっ」
『楽しい楽しい夏祭り!』
んー、ノッてきたね!
「地震のせいで大壊滅! はいっ」「キツいわ!!」
トメ兄のツッコミを挟みつつも『地震のせいで大壊滅!』とノッてくれるみんな。いいよー!
「だけどみんな、生きている! はいっ」
『だけどみんな、生きている!』
「生きているから歌うんだ! はいっ」
『生きているから歌うんだ!!』「なんかの歌詞か!?」
「しぶとく汚く生きている!」「オイ!」
と、ここで中断。
「なんでそんなこと言うんだよカカ」
「何が」
「せっかくみんなポジティブになってるのにさ、しぶといとか汚いとか」
「生きていることが何より大事なんだよ!」「だからなんでいちいちいいこと言うんだよおまえ!」
「いいこと言っちゃいけないの?」
「いや……いいけどさ」
「続けていい?」
「どうぞ」
「こほん……さぁいくよ! 楽しい楽しい夏祭り! はいっ」
『楽しい楽しい夏祭り!』
「参加者の半分は警官!」「なんだその厳重体勢」
「残り半分はヤクザ!!」「抗争でも起こす気か!」
「なにトメ兄。さっきから文句ばっか」
「言ってることメチャクチャなんだよ……なんだよ警官とヤクザのお祭りって」
「いっぱいいるよ?」
「や、たしかにそうだけどさ。私服警官も屋台ヤクザもいるけどさ。観客はどうした」
「さっき燃えた」「おまえ被害ゼロって言ってたろ!?」
「あ、そうだったそうだった。言い直すね」
「ああ、ちゃんとやれよ?」
「うん……いくよ!」
「おう」
「楽しい楽しい夏祭り! はいっ」
『楽しい楽しい夏祭り!』
「参加者はみんな燃えた!」「そうじゃなくてね!!」
「なにさ」
「みんな燃やしてどうすんだよ」
「いやいや、心がね」
「あー心が」
「そうそう。心を燃やしてくのよ、今から」
「なるほど。ごめん、わからなかった」
「こっちこそわかりにくくてごめん。もっとわかりやすくいくね」
「うんうん」
「観客の心を燃やして燃やしてーって。燃えて燃えてーって」
「お願いするよ」
「了解。いくよ!」
「どうぞ」
「萌えて萌えて萌えて!!」「字が違う!!」
『萌えて萌えて萌えて!!』「なんで元気にノッてくるんだおまえら!?」
「萌えて萌えて、たまに燃やして!!」「燃えるのはおまけなのかよ!?」
『萌えて萌えて、たまに燃やして!!』「おまえらもちゃんと復唱するのかよ!?」
そろそろいいかな?
「はい、回って回ってー」「おー踊りが入りましたよ」
『回って……回って』「ちょっとやりにくそう」
やりにくいっていうか、ノリにくいんだね。まだ見てるだけの人いるし。
おっし。それなら……
「右にちょちょいっと。はい踊ってー」「あ、ちゃんと皆でやらないとぶつかるよ、人が密集して狭いから」
トメ兄ナイスフォロー!
「もっかいいくよー! 右にちょちょいっと」
『右にちょちょいっと』
「左にちょちょい!」
『左に……ちょちょい』
無理やりノせて、いい感じ!
「ここで一曲お願いします! ここにいるトメ兄が歌います!」
「僕!?」
「トメ兄で、曲名は、盆踊り!」「それ歌ねーよ! それに盆じゃねーよ!」
「ボーン!」「意味わからん。けどミュージックスタート!」
誰がやってくれたのか、流れる軽快な音楽。もともとお祭りの最後のために用意されていたのかもしれない。
無理やり笑わせて、無理やり躍らせて。
全部無理やりで強引だけど。
笑ってれば楽しくなるし、踊ってればうきうきする。
それがお祭り、だよね!
「もうっ、カカすけったらメチャクチャにしちゃって……」
「まぁまぁサユカちゃん。そんなに妬かないのー」
「べ、別に妬いてなんかっ」
「いろいろな組み合わせで漫才とかやってたけどー、あのコンビには敵わないよねー」
「……なんか、おもしろいとか色々通り越して問答無用な組み合わせよね、アレ」
「ふふ、まぁ楽しいからいいけどねー。さぁ、サユカちゃんも踊ろー」
「わっ、ちょっとっ」
「楽しいとき、嬉しいとき、お祭りのときは楽しく笑って踊るのだー♪」
人と事情が入り乱れるこの夜に、幾百幾千の想いが一つになる。
それらはもちろん、全く同じ想いではなかったが――誰もが総じて楽しそうだった。
夜が更ける。
闇を照らすは心の炎。祭りの踊りはゆるやかに、激しく、愉快に、もう少しだけ続いたのだった。
と、ゆーわけで!
夏祭り編、ようやく完結です。長々とお付き合い、ありがとうございました……
またもや投稿時間が遅くなってしまいましたが……
ゆったりお酒飲んでたらこんな時間になったのは内緒。
酔っていい気分で書いてたら長くなってしまったのも内緒。
まったく内緒にしてませんが笑
んー、ほら、あれですよ。お祭りのときはやっぱり飲まないと笑
ま、私の酔っ払い事情は置いといて!
参加表明していただいたのに出られなかった皆様。申し訳アリマセン。くじ運が悪かったと思って……そしてその分どっかでくじ当たると思ってお許しを^^;
そろそろお盆ですね。
飲食業にはキツイ時期です……夏祭り終わってよかった笑
それでは明日からはまたゆるゆるーっといきますので、お付き合いいただけたら幸いです^^
気に入りましたら、こちらお願いします♪
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