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  カカの天下 作者:ルシカ
カカの天下489「お見合いミッションTWO スタンバイ!」
 ども、引き続きトメがお送りします。

 ついにお見合い場所へと潜入した僕とテンですが、相手の方に問題が起きた様子です。

「申し訳ない! どうも息子が遅れているようで……」

「い、いえいえそんな! わたしたちが早く来すぎたのですから!」

 真摯に謝るおっさん……最初は気に食わないと思ったが、根はいい人っぽいなこの人。そしてそれに恐縮しがらぺこぺこ頭を下げまくるテンの母親。聞いたとおり、確かに気弱でおとなしい人のようだ。

「そう言っていただけるとありがたい。では少し連絡をしてきます。君たちは先に中へ入っておきなさい」

「い、いえ! わたしも残ります! ほらテンカさん、その、トメさんも、お先にどうぞ」

「はい」

「わかりました」

 ま、ともかく。初っ端からいいのをかましたおかげもあって、僕もテンも自然体のままで戦場へと臨むことができそうだ。

 そう、思っていたんだが……

「お待ちしておりました」

 その見覚えのある仲居さんが現れた瞬間、この店は一気に不自然な世界となってしまった。

「え……と、サラさん? なんで?」

「なんでと言われましても、私はここで働いていますので」

「え、っと。お久しぶりですね、サラさん」

 いつもと違って丁寧なテンに驚いたのか、一瞬目を丸くするサラさん。しかし店員根性が染み付いているのか、すぐに元の笑顔に戻った。

「ええ、お久しぶりです。お話は聞いていますよ。ささ、どうぞ。お席へとご案内します」

 普段はおとなしいが暴走すると厄介なこの人がここに――そんな恐怖を抱いたのだが、それは杞憂だったのか。あくまで丁寧に僕たちを案内するサラさんは、さっきの僕らに負けないくらい自然体だった。

「お、部屋の前に名前が書いてある。予約した人と……見合いする両人の名前か、って」

 それを見て驚いた。

「なぁテン、これ」

「おう、そういや漢字見るのは初めてか。オレの名前な、天鹿天下、っていうんだよ」

 どえらい名前だ。一目じゃ読めないどころか名前にすら見えない。四字熟語だろどう見ても。

「てんか、テンカ?」

「そうだよわりーか」

「悪くはないけど、なんだってそんな」

「ま、座れ」

 案内された部屋は洗練された和室で、いかにも高そうな印象を受けた。庶民感覚としては居心地の悪さを感じながらも、テンと肩を並べて座布団に腰を下ろす。相手とはテーブルを挟んで対峙する形になるだろうから、この座り方でいいはずだ。

「そんな難しい話でもないんだけどな。昔、母さんは結婚する前にオレを生んでな。それから結婚しようって話になったんだが……テンカっていう苗字は天涯孤独な母さんしか持っていなくてな。結婚すれば父さんの苗字になるから消えちまう。二人はそれを嫌がったんだとさ。元々父さんも母さんのこと『テンカ』って呼んでたらしいしな」

 聞けば父方の家は厳しい家柄だったらしく、婿入りや夫婦別姓という考え方は皆無だったらしい。

「それで娘の名前をテンカに? でも」

「……結婚する前に父さんは死んじまった。だから苗字は変わらず、名前ももちろん変わらず、そのままオレは上を読んでも下を読んでもテンカって名前になったわけだ。ま、どうでもいい話だけどな」

 そう、か。片親だったのか。テンが母親を大事にするのも頷ける。

 その過去を聞いたことを、僕は謝ったりしなかった。一度、学生のときに母子家庭だった友人の話を聞いてしまい、謝ったことがある。するとそいつは怒り出したのだ。『それが普通だったんだから、俺にとっては不幸話でも何でもない。だから謝られても困る』と。

 人一倍我が強い――いや、単純に強いテンのことだ。そんな余計なことを言ったらきっと蹴られる。殴られる。殺される。や、最後のだけはやめてくれ。

「そうだったのか、テンテン」

「そのあだ名だけはやめろ」

 結局蹴られた――お?

「やぁ、申し訳ないね二人とも」

 謝りながらダレのおっさんが現れた。もちろんテンの母親も一緒だ。

「息子は渋滞に引っかかったようで、もうしばらくかかるらしい。昨夜急に出張が決まってな、その帰りがここまで遅くなるとは思っていなかったのだが……いや、これは言い訳だな。本当に申し訳ない」

 むぅ、正直肩透かしだ。せっかく気合入れてきたのに。

「しかしもう昼食をとるにはよい時間だ。お二人さえよろしければ先に食事を始めようと思うが、いかがかな?」

 テンと目をあわせ、頷いた。

「よし、では」

「はい、お伺いします」

 立ち聞きでもしていたかのごとく、即座に現れるサラさん。

「料理を」

「かしこまりました」

 あくまで仲居らしく丁寧にお辞儀し、去っていくサラさん。なんとなく不安を覚えた僕は、「お手洗いにいきます」と言って立ち上がり、後を追った。

 サラさんはすぐに見つかった。呼び止めると、

「んふふふふー、何か?」

 とんでもなくおもしろそうに笑っていた。怪しい。怪しすぎる。

「あの、サラさん。何かする気じゃないよね?」

「いぃえぇ、ぜぇんぜんそんな気はありませんよ……私は」

「え、最後なんて言った?」

「いえいえ、お気になさらずーふふふ」

「……楽しそうですね」 

 にやにやするサラさんを見て思わず口にした言葉。

 言うべきではなかった。

「楽しい? 楽しいですよラブラブなお二方を見れてふふふ」

 目が笑ってない。

 勘違いしてた。

 この人怒ってらっしゃいます!!

「料理に、毒とか、はいってないと、いいですねぇ、ふふふふ」

 気分がハイってるのはあなたでしょう、と言いかけて怖いからやめた。

 その後は何を聞いても笑うばかり……さっきまで格好つけてたけど、なんとなく僕の天下はもう終わったんじゃないかなぁ、なんて思いながらトイレをすませる僕なのだった。
 


 どうも、カカでーす。

「トメ兄の部屋、ろーっくおん!」

 お見合い会場の隣の部屋で待機している私たち工作員は、もう、なんてーかこれ以上ないほどわくわくしていた。

「アレは運び込んでおいたわよっ。今はどんな状況?」

 準備してたサユカンが戻ってきた。

「ご飯食べるみたいだよー」

 残念ながら見合い会場そのものは見えないけど、話し声だけは聞こえてくるのだ。

「ご飯かぁ。何かするのサエすけ? アレの他にもいっぱい持ってきてなかったけ、君」

 我がクラブの冥参謀、じゃなかった名参謀は、にこにこーっと微笑んで、

「いろんな事態を考えてきましたのでー。もちろんお食事から仕掛けますよー」

 我が恋人、じゃなくて相棒だけあって恐ろしい。私はアイデア係、サユカンは実行係兼情報係、そしてサエちゃんは作戦係なのだけど、その作戦の詳しい内容はあまり教えてくれないのだ。

 用意するものはした、それをどう使うかはお楽しみ。そっちの方がおもしろいから――だそうな。

「みなさーん、ご飯運びますけどどうします?」

 おっと、ここで我らの強い味方、現在この料亭でただ一人の仲居さんが現れた。他の邪魔者、じゃなくて余計な従業員は、偶然にもシフト表の書き間違いによって皆休みになってしまったのだ。

「仕掛けますー。私行くから、カカちゃんたちはここで待機しててー」

「わかったわっ。耳をすませてるわね……先生がトメさんとお見合い始めないように」

 耳がダンボになるサユカン。『トメ兄が彼氏のフリをする』っていう情報を持ってきたときのサユカンのハリキリ様はすごかったからね。人間、勢いで耳もでっかくなるらしい。

 それにしてもサユカンはどこから情報を仕入れてくるんだろう。サラさんも然りだけど、トメ兄が彼氏のフリするなんて話……聞いても「電話でそういうこと教えてくれる人がいるのよっ」としか言わないし。

「あ、そうそうサユカちゃん。その辺にたまたま小さな穴が空いてますから、隣の見合い会場を覗けますよ」

 サラさんの指差す壁を見る。本当だ。ドリルで開けたような都合のいい穴が! 偶然ってすごいね。

「サラさん、ここまでして大丈夫なんですかー?」

「いいんですよ、他の予約のお客様も誰かが偶然キャンセルしちゃって、このお店は今すっごく暇なんですから。あ、厨房には人がいますので、見つからないように」

 ほんと偶然ってすごいね。

「おぬしも悪よのー」

「ふふふ、さっさとお見合い壊して私がトメさんとお見合いするんです」

 仲良く歩いていく二人の後ろに黒いオーラが見える……サラさん、最初はおとなしい人だと思ってたのに。なんだかそんな人ほど次々とたくましくなってく気がするなぁ。私のせい? まさかね。

「サラさんって暴走すると侮れないのよね……トメさんとお見合いするのはわたしよっ」

「はいはい、覗き続けるよ」

 さぁ、これからが本当の作戦開始だ。
 

 さて、ここで一つ問題です。
 このお見合い話に関してまるっきり放置されているあからさまな伏線っぽいモノが一つあります。それはなんでしょう?
 ま、わからなくても支障ありませんが笑
 ささ、まだまだ準備が終わったところ。続きます。
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