カカの天下38「ハッピーソバイヤー」
こんばんは、トメです。
ただいま大晦日の0時まであと少し、というところ。
僕と妹のカカはご近所のサカイさん宅へ招かれ、年越しそばパーティをしています。
どんなパーティかというと、サカイさんと交流のある人たちがサカイさん宅の大きな庭に集まって、0時とともに年越しそばを一気にすする、という割とわけのわからない集いです。
でもぶっちゃけた話、サカイさんは変な人ですがお金持ちで、さぞかし豪勢なおいしいそばが食べられるのだろう……と期待してのこのこ来てしまったわけです。どうせ予定もないし。
そしていま、その庭はご近所の方々やなんか外人っぽい人まで全員が、そばの丼を手に持って箸を構えています。
極めてわけのわからない光景です。
「もうすぐ今年も終わりですねー」
そう声をかけてきたのは、この変なパーティの親玉……じゃなくて主催者のサカイさんだ。僕とカカはとりあえず丁寧にお辞儀をしておいた。
「今日はわざわざお呼びいただいて……ありがとうございます」
「いえいえー。こんなおかしなパーティでごめんなさいね」
まったくだ……と言いたいのをぐっと堪える。
「ところで、それなに?」
カカが指差したのは、サカイさんの肩に乗っている生物である。
「なんか飲みすぎたみたいですー」
ぐでんぐでんに脱力した、たしか姉とかいうその生物は、魂の抜け切った目をしながらも丼をしっかりと握っていた。
「ほらー、カツコさん。しっかりしてくださいー」
「うー……ハムカツは神だ……」
このわけのわからない生物、我らが姉の名前はカツコである。すごく遅い発表だが、別に作者が考えてなかったとか、むしろ考えるのが面倒だったとかいうわけではない。多分。
「ハムカツかー、いいですねー。今度はハムカツパーティしましょうか。0時と共にハムカツをかじるんです」
なんのおもしろ魔術の儀式ですかそれは。
「いいねー……ハムカツかじろー」
なんだか知らないが、この間のカレーについて議論を交わした際に友情でも生まれたらしく、この二人は仲良くなっていた。変な方向へと前も見ずに走り続ける姉カツコと、歩いたり止まったり首をかしげながら生きているサカイさん、うんピッタリだ。表現がわけわからないとかいう苦情は受け付けない。
「あ、そろそろカウントダウンですよ」
サカイさんが庭の隅に立っている柱にかかっている時計を指差しました。古ぼけた時計はゆっくりと秒針を進めていきます。
そして――、カチリ、という機械的な音と共に、
「ハッピーニューイヤー!」
「あけおめことよろー!!」
「アウグーリオ、ボナーノ!!」
様々な挨拶と共に、全員が一斉にそばをすすり始めました。
少しすすって……僕とカカは唖然としました。
なんだか知らないけど、皆すごい勢いですすってる。なんか一気食いとでも言えばいいのか……一口でやめたのは僕ら二人だけみたいだ。
僕とカカは目を合わせ、頷いたあと、周りに倣ってそばをおもいっきりすすりまくった。
少し時間を置いたにも関わらず結構熱くて、でもものすごいおいしかった。
そして僕ら二人が食べ終わるころには、庭にいる全員が食べ終わっていた。なんで新年早々こんなせかせかしてそばを食べなきゃいけないんだろう……
「ああ、失敗ですー!」
と、サカイさんがめずらしく大きい声で言いました。
「あの時計、十分速かったんです!」
……はい?
「でもご心配なく、こんなこともあろうかと思って、まだおそばは用意してありますー」
執事っぽい人達がささっと現れ、次々と丼を配っていく。僕もそれを仕方なく受けとった。カカは露骨に嫌そうな顔をしていたが、一応受け取った。
「ささ、カウントダウンいきますよー、三、二、一」
自分の腕時計を見ながらカウントするサカイさん。そして、
「0!」
またもや庭に響くそばをすする音。
さきほどよりも若干時間をかけて、なんとか全員がそばの二杯目を完食した。
もうお腹一杯……と、思ったら。
「ああ! 申し訳ありません! この腕時計も五分速かったんでしたー」
……えー
「でも大丈夫。こんなこともあろうかと思って――」
思ってるんだったら時計直せよ。
そんなわけで、僕らの新年はそばで胃を満たしまくることから始まった。
……苦しい始まりだ。うまいけどさ……
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