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  カカの天下 作者:ルシカ
カカの天下269「サユカの任務、お茶飲みリトライ編」
「小倉ようかんと栗ようかん、どっち好き?」

「えと、えっと、えっとぉ……ううぅぅ」

「や、そんな悩まなくても」

 悩んでるんじゃないんです悶えてるんですっ!

 どうもいきなりすいません、サユカですっ! 今日はなんとトメさんに誘われて二回目のお茶会にきています! 

 二回目ともなれば少しは慣れたはず。トメさんと二人で緊張せずに楽しくおしゃべりできる……と思っていたんだけど……

「お、おお、おおおおオオクラようかんです!」

「オオクラさんて誰?」

「ち、ちがっ! オクラようかんです!」

 オクラのようかんってなによっ!?

「じゃなくてっ、おけらようかん! じゃなくてっ!」

「いいから落ち着きなサユカちゃん」

 ううぅ……なんでわたしはいつまでたってもトメさんに慣れないんだろう。二人きりになった途端にわたしの心はオーバーヒート。頭の中でオオクラさんがオクラを食べておけら(コオロギみたいな虫、ジージー鳴きながらよく跳ねる)に変身してしまった……

「ほら、お茶飲んで気持ちを落ち着けて」

「はい……」

 味がしないっ!

 これじゃ前と同じじゃないのっ。頭の中のオオクラさんも『これはヤバイ』と跳ねまくってるわっ。

 ……ううん、がんばれ、がんばるのよサユカ!

 そう、前と同じってことは、最後はきっとうまくいくのよっ!

「おお、トメとサユカか」

「なんでこういうときに限って絶対登場するんですかテンカ先生っ!?」

 ここまで同じにしなくていいのにっ! なぜっ!? 誰かの陰謀としか思えないわっ。オオクラさんも跳ねて抗議してるわよっ!

「ここでよく会うな、テン」

「ん、オレもこの店好きだしな。どれどれ」

 テンカ先生はトメさんが何を食べているのか見ようと、トメさんに近づいて皿を覗き込んで――

 あ。

 ああ、あああっ!

「ほう、小倉ようかんか」

「テン、顔近い」

 そうよ近すぎよっ! ねぇオオクラさん!? あぁもうオオクラさんはどうでもいいわっ。

「なんだトメ。オレの綺麗な顔が目の前にあって恥ずかしいか」

「息がくさい」

「さっきギョウザ食ったからな。はああぁぁ」

「うええっ、ニンニクくさっ!」

 耳に息なんか吹きかけちゃった……!(注、実際は鼻に向かってくさい息をかけただけ)

 あれ、漫画でカップルがやってた……!(注、普通のカップルはニンニクブレスを発射しません)

「これで二人はクサい仲だな」

「あのな……」

 クサい仲!? 漫画であったっ、『ほとんどカップル同然のあやしい仲』って意味だったわ、たしかっ!(注、ニンニクくさい仲とは意味が違います。あれ、注意するまでもない?)

 どこからかボソボソ聞こえてくる注意がどうとかいう声は置いといてっ。

 もう我慢ならないわっ!

「ニンニクテン先生!」

「勝手にニンニク天ぷらの先生にすんな」

「い、いくらなんでもふざけすぎですっ」

「そか? ニンニクブレス発射しただけだが」

「だから天ぷらとか言われるんですっ」

「言われてねぇよ」

「この天ぷら先生っ!」

「だから何の先生だよそれ」

「まーまー! 二人とも落ち着け」

「オレは落ち着いてるぞ。サユカは熱くなりすぎだな。そりゃ天ぷらも揚がるわ」

「揚げてないですっ!」

「まーまー!」

 はぁ、はぁ……うう、確かに熱くなりすぎかも……

「ふぅ……なぁ、二人って仲悪いのか?」

 え?

 んと……

「仲? 悪くはないんじゃねぇかな。オレはサユカ好きだぞ」

「え!? あ、その……」

 恐る恐るテンカ先生の顔を見ると……なんだか楽しげに笑っていた。こ、これじゃわたし一人で熱くなってバカみたいじゃないっ!

 ……仕方ないか、バカだよねわたし。バカだからオオクラでオクラでオケラで天ぷらなんだよね……はぁ。

「えっと、こほん。わ、わたしもテンカ先生、好き、ですよー?」

「天ぷらなのにか?」

「あ、その……すいません、なんかひどいこと言っちゃって」

「はは、いいよ別に。オレも天ぷら好きだから気にしてねぇよ」

 先生……なんて清々しい人なんだろうっ! もし天ぷら嫌いだったらどうなってたのか気になるけどっ。

 わたしはちょっと感動した。

 一方的に悪者扱いして……いや、天ぷらは悪いものじゃないけど……とにかく、反省しないとっ。

「んじゃ、ちなみに」

 あ、あれ。なんですかその邪悪な笑いっ!?

「トメのことは、好きか?」

「え? なに? ほわっと!?」

 そりゃとてつもなく大好きだけど!

 だけど……それを、言う、なんて……

「あれー、オレは好きなんだろ? トメは?」

 意地悪げなテンカ先生っ! さっきの感動を返して!

「さ、サユカちゃん、いいよそんな無理しなくて」

「いやそのっ、別に嫌いとか、そんなんじゃなくてですねっ」

 トメさんがわたしを見つめてくる……

「あの」

 ああトメさん格好いい……

「その」

 瞳がキラリンと光ってるし肌は綺麗で光沢ツヤツヤだし歯はキュッピーンって光ってるし(注、激しく美化されてま――)やかましいテレパシー。それからそれから……

「ああ、うう」

 ああっ! 身悶えるほど大好きなのに言えないっ、嫌いって誤解されそうで早く撤回しなきゃいけないのがわかってるのに言えないっ!

「……あぁ、ううぅ」

「ああ! トメ。忘れてたけどこいつ、男が苦手なんだよ」

「……ぇ」

「そうなのか?」

 自分の情けなさに涙がにじんできたところで、テンカ先生が助け舟を出してくれた。

「だから男に面と向かって好きなんて言えないんだよな。悪かったな、サユカ」

 おかげでわたしは自分の気持ちを言わなくて済んだ。

 済んだ?

 違う。

 いつかは言わなきゃいけないのに。

 先生はせっかくその機会をくれたのに。

 逃げただけ……だよね、これ。

「さて、オレは買うもん買ったし帰るわ。じゃな」

 テンカ先生は帰り際、わたしにだけ聞こえるようにボソッと耳打ちしてくれた。

「ホント悪かったな。あせるな、ゆっくりやれ。若いんだから」

 先生……あなたは悪魔のような天使だわ。

 ありがとう。

 先生が去ってから――わたしは気合を入れてトメさんを見据えた。

「トメさん!」

「お、おお」

「わたし、す、好きです!」

 言った!

 言っちゃった!

 ついに言ってしまったわっ。

 ……もうダメ。

「――小倉ようかんが!」

「あ、ほんとか。じゃこれちょっと食べる?」

「はひっ、ありがとうございまふっ……うううぅっ!」

 涙が出るほどおいしいよぅ……

 ん!

 わたし、強くなるわっ!

 いつか自力で告白できるようにっ!

 いつか、ね。

 今のところはこの甘い間接キスだけで幸せだからいいやっ。

 ほんとにこれでいいんだからっ!

 いいんだからねっ!
 
 惜しい!
 もうちょっとで告白できたのにっ!

 告白ってやっぱ心の準備とかいりますよねー。まぁ勢いに任せて言ってしまう場合もよくあることだと思いますが(ちなみに私はそのタイプ)

 サユカちゃんはまだちょっと、勇気が足りないみたいです。
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