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  カカの天下 作者:ルシカ
カカの天下12「カカVSラスカル」
「ヤツは敵だ」

 トメです。や、僕が敵なわけじゃないですよ?

「最近、敵おおいなーおまえ」

 家に帰ってくるなり開口一番そんなことを言った僕の妹カカは、はぁはぁと肩で息をしながら膝をつきました。

 微妙に服が汚れていて、なんかよくわからんけど負けた人間って感じだ。

「うう……あのラスカルめ」

「えっと、アライグマがどした?」

「犬だよ」

 なんつー名前だ。

「近所に最近引越してきた家にいるの……その犬が襲い掛かってきてさ」

「噛まれたのかっ」

「組み伏せられて舐められた」

「なーんだ」

 じゃれてきただけじゃないか。心配させやがって。

 考えてみれば、噛まれてたらこんな呑気に喋ってはいないか。

「なーんだじゃないよ。舐められたんだよ? 犬畜生に!」

「おまえ妙な言葉知ってるよな。あと舐められたの意味が多分違うから」

「許せない……今度は勝つのっ。ゆきじょくせんなの!」

雪辱戦せつじょくせんな。で、具体的にはどうすんだ?」

「今度は私がマウントポジションをとる」

 最近の小学生はいろんな言葉を知っている。いや、知ってて当然の言葉かこれ? 理解に苦しむところだ。

「だからトメ兄には背中をあずけた」

「背中も何も相手は一匹だろうに」

「いざ勝負!」

 要は僕を助っ人に呼びに来たのか。

 やれやれ、と思いつつ腰を上げようとして――ふと思いつくものがあり、台所でそれを持ってから「早く早く」と急かすカカの後を追った。



 そして近くの河原で、宿命の二人――じゃなくて一人と一匹は対峙した。

 ひがーしー、いもうとのーやまー。

 にーしー、こいぬのーうみー。

「はっけよい、のこった!」

 適当に言ってみた僕の声を合図に、カカと子犬は同時に足を踏み出した。

 カカは腰を低くして相手に詰め寄る。が、腰の低さで犬に敵うわけがない。滑るように突進してきた子犬は突き出されたカカの手をあっさりとすり抜け、勢いを殺さずに懐に飛び込んで体当たりをかました。

「ぐほぁっ!」

 割とマジっぽい呻きをあげてカカが背中から倒れていく。子犬はそれに覆いかぶさり、なんか勝利者っぽくカカを地面に押し倒した。

「いやー、元気な子犬ですねえ」

「そちらこそ元気な妹さんですねー」

 じゃれあってる一人と一匹……めんどいから二匹でいいや。

 その二匹の飼い主である僕ともう一人は、ほのぼのと喋っていた。

「私、あそこに住んでるんですよー」

「ああ、あの青い家の。じゃあすぐ近くじゃないですか」

「あらあらー、それはそれは。今後ともよろしくですー」

 間延びした声で話すのは、やたらおっとりした感じのお姉さんだった。姉と同じくらいの歳かなぁと思ったりもしたが、女性に歳なんぞ聞けん。こあいから。

「あらあら、あんなに舐めちゃって……よっぽどララちゃんのこと気に入ったんですね、ラスカル」

「カカです」

「カラ?」

 空なのはあなたの頭では? と言いそうになったのを咄嗟に堪える。

「ああ、カカちゃんですか。ラスカルと混ざってしまいましたー」

 しかし何を思って純白の子犬に伝説のあらいぐまの名前をつけているのかは計り知れないが、まぁ子犬も飼い主も可愛いから許す。

「く、く、くっそー……えい!」

 おお、カカが子犬を引き剥がした。一度組み伏せられると結構難しいんだよね、引き剥がすの。

「ふー! ふー!」

 カカは犬もかくやというくらい興奮しているご様子。やれやれ、仕方ない。ここは持ってきた秘密兵器を投入しよう。

「ほら、カカ。これやるから落ち着け」

 僕は懐から一口サイズのチョコを取り出した。いざというときカカを鎮めるために持ってきたのだ。

「ほら、カカ」

「む」

 むくれるカカに向かって、ポーンとそれを投げた。

 カカはそれをキャッチしようと手を伸ばして――横からすっ飛んできた白い風に奪われた。

 ラスカルだ。器用にも包みを開けて中のチョコを食べている。って、は?

「おまえ……やっぱり敵だー!」

 機嫌よさげに「アン!」と吼えながらチョコを食べ終えたラスカルは、清々しそうに夕焼けに染まる河原を走る。そしてそれを追いかける少女カカ。発端がチョコのわりには絵になるなぁ。

「ところで、あの。あなたの犬、チョコ食べちゃったんですけどいいんですか?」

「はい。毎日食べてますから大丈夫ですよ〜」 

「待ちなさい。それは糖尿病とかなるから全然大丈夫じゃない。それにアレルギーとかあってだね」

 なぜか僕が犬の食生活について講義しているころ。

 カカは追いかけていた犬に追いつき、飛び掛った。しかし距離が足らなかったらしく、犬のヒップに激突してしまう。

 カカはそのまま河原の草原に倒れこんだ。ラスカルはカカの攻撃に驚いたらしく、同じく草原に寝転んでいた。

 それはまるで――河原でケンカしたあとに友情が生まれるようなシチュエーション。そう、「いい拳だったぜ」とか言いながら夕日を見上げる、どこが発端かは知らないが知名度の高いシーンだ。

 だがカカは別に拳を振るったわけじゃない。だからこう言った。

「いい尻だったぜ……」

 セクハラオヤジかおまえは。


 お話の中での注意を一つ。
 ラスカルがチョコを食べていますが、これは糖尿病の危惧以外にも中毒のおそれがあるため、犬にチョコをあげるのはやめましょう。病気の原因になります。
 というわけで今すぐラスカルの食生活を改めなさい、サカイさん。
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