2 七海編 第一部『閉ざされたあの世への入口』
どんよりと曇った空。
吹き荒む風。
向こうには、日本の城の様な巨大な建物。
その存在感、圧迫感に押し潰されてしまいそうだ。
今まで経験した事もない強風が、ここがただの城ではないことを物語っているようだった。
辺りを見回すと延々と荒野が広がっている。
目標とできそうな場所は、城しかない。
《ここは……、どこだろう?》
見たこともない風景だ。
全く知らない場所に一人で放り出される不安。得体の知れないものに立ち向かわねばならない恐怖が七海の心に重くのしかかる。
《わたしは……、死んだ》
それは認識できている。
だが、
この光景は自分がイメージしていた【あの世の入口】とは大きくかけ離れている。
《とりあえず城に行くしか無さそうだ》
七海は城へと向かう……。
目の前には門。
それは、まるで七海の入門を拒否しているかのように高く高くそびえ建っている。
《ここが入口なのかな》
そう思い、扉に手を触れようとした刹那、それは訪れた。
〈ここはあの世の入口【西の門】……。
ここには、事故で亡くなった方が訪れます〉
声と同時に空間が歪み、そこから小柄な人型が現れる。
始めはもやもやしたエネルギー体でしかなかったそれは、時間と共にその形状をはっきりとした形に変えていく。
《……、お化け……?》
空中に浮遊し、融合と凝縮を繰り返すその青白く輝く人型のエネルギー体は、遂に一人の人間としての姿を現し始めた。
小柄な体躯、背丈の割に長めの脚。
がっちりした筋肉質の体格は、アスリートを思わせる。
だが、それよりもっと印象的だったのは、チェーンジャラジャラの革ジャン、革パンツに、ツンツンに立てた赤い長髪という、典型的なパンクルックだったことだ。
この亡霊が馬鹿丁寧な口調で語り掛けてくるのだ……。
もはや、【笑える】という感情を超越した不気味さを感じずにはいられなかった。
《あなたは……?》
《私は、西の守護神【広目天】……、……、って、止めた止めた。
こんな堅苦しい言葉、俺の口から出すもんじゃねえよな》
やはりこの類だったか……。
だが、七海を不気味がらせていた雰囲気は一向に消えていない。
なにか、存在自体にまがまがしさが漂っているような感覚を覚え始めていた。
《とりあえずあんたが今置かれてる状況を説明するぞ。
お察しの通り、この門は【あの世への入口】だ。
あんたがあの世へ逝く資格を完全に満たしてるなら、触れただけで開く》
《……、もし……、満たしてなかったら……?》
《当然満たすまで開かねえ》
あの世へ逝く資格。
それがなんなのかは解らない。
おそらくこの空間に於いてそれを理解しているのは広目天を名乗るこのパンクスしか居ないだろう。
七海は恐る恐る、扉へと手を伸ばす。
《お願い!
開いて!》
たいした距離ではない。
目標の扉は目の前に有るといってもよかった。
が……、
七海の不安がその距離を詰めることを躊躇させる。
《逝けなかったらどうしよう……》
じわじわと詰まっていく距離。
小柄なパンクスに見守られながら……、ゆっくり、かつ、確実に詰めていく。そして遂に……、
【運命の刻】
《開いて!!!》
目を閉じて祈る七海。
……、……、……、……。
目の前には、門……。
その扉は固く閉ざされたままだった……。
《なんで……?》 |