10 七海編第四部 『天に還るために』
鬱蒼と樹が生い茂る庭を取り囲む、ブロック坪。正面に佇む、高い石垣。そのすぐ側には電柱があり、【注意! 死亡事故多発】という立て札がかかっている。
死の交差点。
そこは、死の名所であるだけに地縛霊の溜り場となっつている。
その数は実に、四人にも上った。元々多いだろうことは予測してはいたが、実際に目の当たりにすると、いかにここで多くの自動車が人の命を喰らい潰してきたかが手に取るように判る。
今日から、七海もこの地縛霊達の仲間となる。そのためにこの、忌まわしい交差点に舞い戻ってきたのである。
怨霊と化しても成仏できる、つまり、あの城を完全にスルーして、一気にあの世ヘと逝くことが出来る奥の手を実行するにはどうしてもここに来る必要があったのだ。
同じ死に方をした者を七人、更に、人柱を一人用意すれば儀式は完了、いわゆる七人御先である。残り三人。七海の狙いは当然麻里愛と隆行を巻き込むこと。しかも、なるだけ麻里愛を人柱にしたい。あの女が隆行をたぶらかしたに決まっているのだ。
そのために七海がまずしなければならないことは、ここの地縛霊達を仲間に引き込むことである。七人御先を成功させる最大のポイントは、志を同じくすることなのだ。スポーツの団体競技で全員が勝ちたいと思わなければ勝てないのと同じようなものである。
最初のターゲットを七海がひき潰された石垣の直ぐ脇で蹲って震え続けている、ぱっと見で十代後半ぐらいの茶髪の女の子に絞って接触を試みた。
「こんにちは。どうしたの?」
とにかく彼女には、事故の危険はもう去ったのだということを理解してもらわななければならない。そして、それによって自分がもう、生きた人間ではなくなったのだということも、受け入れてもらわなければならなかった。
女の子はなんの反応も示さず、只只打ち震えているだけ。どうにも長期戦に突入しそうな気配が満々だ。
「あのさ、もう車、行っちゃったよ。もう車いないから、顔上げても大丈夫だよ」
まず話を聞いてもらえなければ話にもならない。ここは、どうにかおちつかせることに専念しなければ。それにしても……、怯え方が異常だ。七海自身事故間際には、恐怖で身動きがとれなくなってしまったが、せいぜいその程度である。
この様な体勢では、運転手の顔も確認できないのではないだろうか。いや、意図的に顔を見るのを避けようとすらしている体勢であると言える。
……、もしや……。
「あなた、事故死じゃなくて誰かにここで、普通に殺されたわね?」
確信は無かったが、もしこれが正解だったなら、彼女を御先に引き込むことが出来ず、余計な犠を一人増やしてしまわなければならなくなる。できることなら、否定してほしい。外れていてほしい。只でさえ、余計な犠を一人作らなければならないことが確定していて、気分が滅入っているのに。
周りの木木が、風にざわめいている。七海の気持もまた、それに比例して俄にざわめき立ち始めた。七人御先の成否は、もはやこの少女一人にかかっていた。 |