1 『さよなら』(プロローグ)
七海は家路を急いでいた。
通い馴れた道。
何もかも知り尽している筈の道。
だから、この道の危険度は充分理解しているつもりだった。
それが油断に直結したのかも知れない。
或いは、結婚を翌日に控え、浮かれていたからかも知れない。
七海は聞いてしまった。
自動車のブレーキが突然最大限に踏み込まれ、制動距離があやふやになってしまったタイヤの悲鳴を。
七海は気付いてしまった。それが自分に向かって急接近していることに。
そして、見てしまった。
その悲鳴の主がもう手遅れな程、目の前に迫っているのを……。
『何でわたしが……、
死にたくない……。
明日結婚なのに!
何で!
助けて!
助け……』
自動車は七海の臓物を押し潰し、頭蓋骨をへし折って、前方の石垣に激突して……、
燃えた。
石垣と自動車の間には……、
七海……。
『隆行……、
ごめんね……。
最期に……、
……、……、……会いたい……。
せめて……、わたしの口から……、さ……、よ……、……、……』
炎は、まだ意識のあった七海の体を、心を、命を、その存在全てを焼き尽してしまった……。
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