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令嬢と王子の婚約破棄のやつ 作者:七草
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後編







「幾久しゅう、ユリオプス殿下」

逸る気持ちを抑えつつ、きっちり背筋を伸ばし、伸ばした指先までゆったり優雅に、淑女の礼をとる。

「おや、見つかってしまったようだね」

鮮やかなスカイブルーの豊かな髪をかきあげて、全く困っていなさそうな顔で笑う、その人を目にした瞬間、あたりが水を打ったように静まり返った。


この国の現在、第二王位継承者のユリオプス・エイプリール殿下だ。
肩ほどまでの水色の髪は緩やかに波打ち、端正な顔立ちは国王陛下そっくりでありながら、随分と昔に病で儚くなった前王妃陛下に似た灰色の瞳と飄々とした雰囲気。すらりとした長身と相まってどこか他者を寄せ付けない近寄りがたさを感じさせる。

現王妃陛下譲りの白金の髪と碧眼。直情的なアルメニアクム殿下と顔の造形は似ているものの、色彩と内面ではまるで正反対な、腹違いの第一王子殿下だ。




ユリオプス殿下はいろんな場所で人々の暮らしを見聞するのが好きで、実地で独学でさまざまなことを学び、家庭教師について必要な学問を早々に修め、学校には行かずに、国内はもとより周辺国を訪問していることが多い。王族ゆえの勉強方法だろう。

勉強ではあるのだが、視察をしながらもあっちへふらふら、こっちへふらふら。その地位の高さもあいまって止める者も無く、興味の赴くまま世界を飛びまわっている自由人だ。

公費を使うその旅だが、それがまったく無駄な場所であったり、贅を凝らした旅であったり、あまりにも放浪が過ぎるのであれば陛下からも苦言を呈すこともあるのだが、それがまた、後を見据えた場合、そこに寄っていることが有益であったり、場合によっては身分を隠してまるで平民のように自分の足で歩いたり乗り合い馬車を使ったり、節目節目にはきちんと王宮へ帰還を果たしていたり、国内の問題を視察での経験を元に意見書を提出したりと間違いなく必要な働きを果たしており、そこのところは生来の如才の無さでさすがの陛下もぐうの音もでない。

陛下としては前王妃陛下の忘れ形見が手元に居らず寂しい限りなのだろうが、これほどまでに優秀な殿下が実際に今後外交を一手に担うようになれば、国に齎す益は計り知れないのだから、こればかりは我慢するしかないのだと思う。
そういう意味で有能すぎる殿下を止められる人は居ないのではないだろうか。

私でもお会いするのは半年ぶりだったように思う。


「まったく、相変わらずの風来坊ぶりですわね」

「いやいや、何を言うか。立派な公務としての外出だよ」


話しながら、お互いにゆったり歩み寄る。私たちの間にある雰囲気はとてもやさしく、穏やかで親しげな物だ。
この方は(もうひとりの殿下と違って)周りの見れる、優しい方。



「今回はどちらまでお越しになったんですの?」

「ああ、リーノに行ってからサバランにね」

「まあ、反対方向ではないですか」

「一度我が国にも寄ったんだが、君は相変わらず忙しそうだったから声を掛けずに出てしまったよ。――――まあ、アルメニアクムのところにも行ったんだけど、そっちもそっちで随分と楽しそ――忙しそうだったからね。いろんな意味で」

「そうだったんですのね。無事に帰ってきてくださって嬉しいですわ、殿下。――――お帰りなさいまし、ユリオプス様」

「ああ、ただいま。アイビー」

他の人と相対するときの微笑みで読めない内情とは裏腹に、私には幼い頃よりの親しさゆえか、とても優しげに微笑む。
それは私だけに特別に向けられる、裏も表もない飛びっきりのものだ。
私も王妃教育で培った微笑みは久しぶりに会えた喜びでどこへとも消えてしまって、残ったものは本当に大切な人にだけ向ける満面の笑顔。


ええ。……白状する。

物心ついたときから、全てがかっこよくて、大人びていて優しくて、かっこよくて、頭がよくて、かっこよくて、何よりも自分だけを特別扱いしてくれる。そんな人とずっと一緒に居て落ちない女子がいるだろうか。いや、いない(断定)


私はこの方が、幼い頃より好きだ。
その頃は、この兄弟と仲良しでよく三人で遊んでいた。
まあ正確に言えば私とアルメニアクム殿下がユリオプス殿下のあとをくっついて回っていた。
二つしか変わらないとはいえ、子供のころの二つは大きい。

まだ、私たちが婚約をする前のこと。



ああ、また少し背が伸びたんじゃないだろうか。
追えばゆらりと逃げていってしまうくせに、そっと私の頭をなでる手は温かく。
少し目を細めて笑む姿に心臓が高鳴る。

ああ、かっこいい。
殿下とエリカ嬢のせいですっかりささくれだっていた心が、浮き足立っているのを感じた。



それ、でも。

この人は、自由な人だ。
自由でなければいけない人だ。
王位に縛られることを嫌い、手放した代わりに自由を手に入れた人。

そして、貴族であることを放棄できない私は自由であってはいけない。守りたい物がある。民も、家族も、誇りも全て。私はとても欲張りなのだ。

沢山のものがのった右側の受け皿の反対が、小さなこの気持ちひとつでは、天秤は揺らぎもしない。


私の、焦がれるこの思いは、一生秘めてゆくべき物。
大丈夫、大丈夫、大事に大事にしまっておけば。
きっといつか、優しい思い出になってくれるだろうから。


殿下登場の硬直から戻ってざわめく周囲をよそに、輪の中心は静かな物だ。


「兄上……アイビー……二人とも、そんな、笑顔なんて……」

呆然とする、アルメニアクム殿下。何をそんなにも驚いているのだろう。
少し会わなかったくらいで自分の兄を忘れてでもいたのだろうか。お隣の令嬢も呆けたような顔をして。


「あ、兄上! いったい今更何をしに帰ってきたのですか!」

「アルメニアクム、久しぶりだね。何って、どうなったかなと思って。まさか、アイビーが虐げられてやしないかと思って様子見にきたんだけど、実にいいタイミングで帰ってきたもんだよね」


顎に、すらりと伸びた指先をやりながらユリオプス殿下はにっこりと笑った。
反対にアルメニアクム殿下の顔はかっと赤くなった。


「兄上が何を仰りたいのかはよくわかりませんが! 仮に、もし仮に、私が虐げていたとして! エリカとは違い、とても小賢しいそこの女に! 嘆いて儚く涙を流すような、そんな殊勝な心がありましょうか! いいでしょう。義はこちらにあります! その悪女を断罪するところを、兄上にもご覧に入れて見せます!」

大して離れてないのにいちいち叫ばないでほしい。
状況はかなり不利になっているのに強気な物だ。
私の予定も把握せず、随分とお粗末な戦いを仕掛けてきたというのに。


そして、そんな空気を読まない女がひとり。

「あ、あの、私、エリカ・マーチといいます。ユリオプス様。お願いします。助けて下さい」

馬鹿殿下をおしのけて前に出てきたエリカ嬢が涙ながらに語る語る。

「学園に転校してきてからずっと、オーガスト様にいじめられていたんです。大勢で罵倒されたり、持ち物を壊されたり、階段から突き落とされたり! 今までは学園内でしたので無事でしたが、卒業してしまえば私、殺されてしまうかもしれません!」



アルメニアクム殿下が肩に置いた手を振り払って楚楚とユリオプス殿下にすがりつく。
味方を増やしたい算段か、もしくは、変わり身が早いというか、なんと言うか。


玉座を譲っているとはいえ、廃嫡されているわけでもなく臣下に降りているわけでもない、第一王子で眉目秀麗なユリオプス殿下にすり寄るその姿は浅ましい。

ないがしろにされたアルメニアクム殿下が振り払われた右手を中途半端な位置にあげたまま呆然としている。一度下ろし、声をかけようとして再度上げたり下げたり。さすがに哀れ。涙誘う。嘘。ちょっとざまあみろって思った。


「私……私、もう、どうしたらいいのか、わからなくて……。お願いします、ユリオプス様……」


さっきまでの騒ぎをユリオプス殿下も見ていたと知っているのに、さすがに馬鹿にされすぎじゃないだろうか、私たち。
ああ、馬鹿に馬鹿にされているなんて、何て屈辱。



相当の自信があるのか。小さな手で殿下のお腹辺りの服をつかみ、潤ませた瞳を見せるエリカ嬢にさすがのユリオプス殿下もほだされたのか、そっとその手を掬い上げる。

古来より、男性はかよわい女性の涙に弱いと相場が決まっているのだけれど、まさか、よね。

エリカ嬢を見下ろして微笑む瞳はとても優しげに見える。
まさか、そんな。ユリオプス殿下まで……?
ああ、冷静でいられない。落ち着かなければ。





「ねえ、君。知っているかな?」

「は、はい。何をでしょう」


「次代の王は現在そこのアルメニアクムの予定なんだけれど、私も王子としてそれなりに忙しい身でね。主に国内並びに周辺国の視察を父王より任されている。前に公務で立ち寄った国で、面白い話を聞いたんだ」


「え、あ。はあ、それであの、オーガスト様の件は……」

「うん。なんでも、そこの国では、最近次代の国を担う予定だった高位貴族の子息たちが揃って廃嫡されたらしい」



涙目ですがりつくエリカ嬢の話を完全にスルーして、突然どこかの話をはじめるユリオプス殿下。
何の話とばかりに困惑した様子のエリカ嬢の顔が一瞬、強張ったように見えた。

ショックから復活したのかそこにまた口を挟んでくる馬鹿殿下。意外と打たれ強い。


「その話なら私も存じております! 次期宰相の三男、騎士団長の次男、大公家の長子、それに皇太子までも、何があっての沙汰かまでは把握しておりませんが、大方国内の勢力争いに負けたのでしょう。愚かな事だ」



「しかしそれが今の私たちとなんの関係があるのでしょうか、兄上」

「アルメニアクム。答えは、エリカ・マーチ令嬢が持っているんじゃないかな」



見るからに真っ青な令嬢に視線がふりそそぐ。ちくちく、そんなものではなくぐさりといった視線だ。
両陛下、私の両親、そして海千山千な貴族たちも。



すがりつかれたユリオプス殿下がなぜ急にそんな話をはじめたのか。エリカ嬢が誰よりも知っていると言う、その理由。
物的証拠はなにもないが、状況証拠ならエリカ嬢の顔色で十分だ。
この人数の前でマナーもへったくれもなく、冷たい視線もものともせずにあれだけ振舞える人だ。
その彼女がここまで青くなっている。
それは、つまり……?


そこにいる全ての人々が察していた。わかっていないのは当事者たる殿下だけ。



そして私はその渦中において、周囲とは全く違うことを考えていた。

わーこれユリオプス殿下めっちゃ怒ってるやーつー。


さっきエリカ嬢に向けた優しげに見せかけた顔は、今思えば、ただの王子としての仮面だ。
外交の経験の豊かなユリオプス殿下が処世術として身に着けた、ある意味での鉄の仮面。
例えどんなに悲しんでいようとも、逆にどんなに怒り狂っていようとも、微塵も感じさせず、微笑を絶やさない。外交としての基本は相手に本音を悟られないことなのだから。
表情や反応から真意が読めず、穏やかに微笑んでいるのに背後にゆらりと立ち上る鬼が見えた気がした。




ユリオプス殿下の話は続く。


「なんでも、とあるの令嬢が短期間の間に廃嫡された全ての子息と関係を持っていたらしいね。あなただけだ、と。まあ誑かされたとでも言おうか。大きい期待とプレッシャーにさらされていた彼らはその令嬢の甘い言葉に揃って骨抜きにされ、そして令嬢至上主義になり、子息の婚約者たちは一様に婚約を破棄された」

至近距離で顎をすくうユリオプス殿下に、強張った顔のエリカ嬢。常であれば恋愛劇のような一幕だが、雰囲気はあまりに張り詰めている。

「正当な理由なしにそんなことをすれば当然彼女たちの生家は烈火のごとく怒る。勝手な行動をとられた子息たちの生家も。当然だ。その婚姻は全て意味のある契約だったのだから」


婚約破棄、そこまで言って、やっとアルメニアクム殿下も理解をしたのか真っ青になっているその令嬢を仰ぎ見る。



「そして全てが明るみに出たとき、騒ぎをおこした令嬢は国外追放。輝かしい未来の待っていた彼らも家から出され、辺境で隠居」

「中でも、皇太子は令嬢と共に衆目のあるところで大々的に婚約者に婚約破棄を宣言し、濡れ衣を着せ、断罪しようとしたが、失敗。王族から存在を抹消され、平民に落とされた。さて、これが昨年に起きた事件だ。その国にとっては驚天動地の大騒ぎだ。何事もなく才気溢れる彼らに世代交代が滞りなく済んでいれば、彼らの代には間違いなく国の発展が約束されていた。それが、その寸前で、たった、一人の令嬢の存在によって脆くも崩れ去ってしまったんだからね」



「件の令嬢の気持ちはさっぱりわからないんだけど、私なりにすこし推測してみたんだ」


「きっと、計画が目前で瓦解してしまって、さぞかし悔しかっただろうね。そして、思うんだ。途中まではうまくいっていた。男を騙すのなんて簡単だ。次はうまくいく。うまくやってみせるって」


にっこりとエリカ嬢に笑いかけるユリオプス殿下。ああ、確信犯。わかってて言ってる。

良かった。ユリオプス殿下まで彼女に落ちてしまったらどうしようかと思った。
ユリオプス殿下は彼女のことを始めから知っていたみたいだけれど。それでも、不安はつきなかった。


だって、たったの半年。

最近は疎遠であったとはいえ、どれだけの時間を共にすごしてきたのか。10年どころじゃない。物心ついたときには、二人はもう側にいた。

そのアルメニアクム殿下がエリカ嬢に落ちるまで、たったの半年。
自尊心が高く、何も見ようとしなかった殿下がただちょろかっただけなのかもしれないけれど、その可能性は多分にあるけれども、少なからずその令嬢にはそういった方面でも能力があったということでしょう。見かけの彼女の可愛さ儚さは本物だもの。

ならば、ユリオプス殿下も、と、不安になるのだ、私といえども。
私にとってのユリオプス殿下は、唯一なだけに、尚更。


まあ、全くの杞憂だったわけなのだけれど。




「ねえ、アルメニアクム。どこかで聞いた話だと思わないかな?」

「そ、そんな話はエリカとは関係ない! 実際にアイビーがエリカに害を成したんだ! 兄上は国内に居なかったから分からないんだ! アイビーの所業の数々を! 放課後に呼び出したりはしていなかったのかもしれないが、証拠がある以上、それがいつ起きたのかなんて関係ない。階段からエリカが落とされたのは紛れもない事実だ!」

「へえ、でも実際にアルメニアクムは出会ってわずかな期間でそのエリカ嬢に落とされたんだろう? それこそ後先考えずにアイビーとの婚約を結婚目前で破棄してしまおうとするくらいには。アイビーがどんな風に学院で過ごして来たのか私は知らない。けれど、小さい頃から一緒に居るアイビーと、最近出会ったばかりのエリカ嬢。さて、騙しているのは、騙されているのは一体どちらかねえ」


楽しそうなユリオプス殿下。嗜虐趣味は無かったはずだけれどこの様子では目覚めてしまったのかもしれない。禁断の扉に。
殿下、まだ間に合うのでその扉はそっと閉めておいてほしい。切実に。

エリカ嬢は真っ青なまま震えるだけで、何も言っていない。
みっともなくわめいているのは、アルメニアクム殿下のほうだ。兄に対して敬語も忘れて。今更、間違ってたとも認められないだろう。貫き通すしかないのだ。この茶番を。

「時間は短くても確かに愛を育んだんだ! ほら、このリボンだ! これがアイビーの物である証拠に、ちゃんとオーガスト公爵家の家紋が入っている! こんな一品はそう手に入る物ではないし、家紋まで入っているのだから確実だろう!」


そう。そのリボンが問題だ。むしろそのリボンだけなのだ。問題は。

王妃陛下が言ってくれた通り、この身が自由になる時間は少ない。放課後に呼び出したりする時間は無かった。
ましてや、四日前なんて。ほんとにすごく忙しかった。

それでも、ゼロではない。
一人で空気を吸いたい時もあるし、ぼんやりしたいときもあるし、お手洗いにだっていく。人間だもの。

時間の事を議論してもただの水掛け論になる。
やったことを証明するよりも、やってないことを証明する方が遥かに難しいと言うあれだ。

それならば、物的証拠であるあのリボンだ。
それさえなければ、もはやこの身の潔白は証明できたといっても過言ではない。
いくら頭の弱い殿下といえどもこんなざるの様な計画で意気揚々と婚約破棄などしにはこなかっただろう。

しかし、とても口惜しいがあのリボンを何とかしないことには、強引にこの場を切り抜けられたとしても後々に禍根を残すことになってしまう。

なにか、なにかいい手はないだろうか。



はっきりと私と公爵家の潔白を証明し、ただの冤罪であることを証明する手は。
尚且つあの二人をぎゃふんということができたなら最高。

そもそも、私のリボンは今どこにあるのだろう。
公爵家にそうそう忍び込めるものでもないだろうけれど、あのリボンは果たして本物、私のリボンなのだろうか。

思案する私に、ふとユリオプス殿下が視線をくれた。
何かを促すように意味ありげにその視線が示す物は、証拠として意気揚々と掲げられているリボン。




「ちょっと、そのリボンを見せていただいてもよろしくて?」

渋るアルメニアクム殿下の手から、ユリオプス殿下がリボンを引き抜いて渡してくれた。

「はい、どうぞ。レディ」
「ええ。ありがとうございます」

わざわざ私の右手を掬うように握って、掌に落とされるリボン。
握られた右手が熱い。まるで閉じ込めた心が内側からとんとんとノックしているように、鼓動が早くなった。

優しい瞳に笑みを讃えて、右手が解放された。
今、絶対、顔、赤い。



リボンの片側に緻密なレースのついた白くてさらりとしたリボン。
もともとしわのつきやすい材質で、殿下やらエリカ嬢やらが握り締めていたせいであちこちがすっかりしわになってしまっている。

一見すれば、それはまさしく私が長年使っていたリボンのように見えた。
それを証明する公爵家の印は確かに入っているが、私はそれに違和感をおぼえる。

……もしかして。


「リボン、リボンですか……」

言葉を切って、辺りを見回す。
陛下や両親は私が、私達が、この場をどう納めるのか、伺っているのだろう。貴族たちは、分かっていながらも隙を見せればもしかしたらあちらに荷担するものも出てくるかもしれない。

そろそろ、勝負をつけなければ。
ここまでユリオプス殿下にお膳立てしてもらって、きっちり閉めねば女が廃る。
あくまで、優雅に。




「これ、私のリボンではございませんわね」
「何、を、言っている!」
「よく、耳を澄ませてくださいまし」


大きなリボンの端と端を持つ。
周囲の緊張と、遠くのほうで陛下たちでさえも身を乗り出して真剣に音を拾おうとしているのが目に入った。
賢王の呼び名は伊達ではなく。国を治めることに関しては文句のつけようがない人だが、その実人間としてはひどくかわいらしい人だと思う。

ささやき一つもらさないよう、息すらも潜めた観衆の中に、2枚の布をこすり合わせた際に起こる、きゅ、きゅ、という音が――――



鳴り響かなかった。かさり、という布のこすれる音のみ。


「なんだ、アイビー。何も聞こえないじゃないか!」

勝ち誇ったようなアルメニアクム殿下とは裏腹に、周囲の貴族たちはため息を漏らす。
どこかから、決まりだな、というささやきが流れてきた。

よく分かってない様子だったエリカ嬢も、殿下と周りの声でよくわからないが自分のほうが形勢が有利になったと見たらしい。殿下に飛びついている。さっきまで真っ青だったのに、元気じゃないの。

「殿下!」
「ああ、エリカ!」


はー、ほんとになんておめでたい。


「そう、鳴りませんでしたわね」

「ああ、偽物であれば鳴るはずの音が鳴らないんだろう! つまりそれは正真正銘アイビーのリボンだってことだな!」

なんでよ。

あ、身を乗り出してた両陛下、遠い目してる。
私の両親が肩に手を置いて、慰めに回っている。陛下たち今にも泣き出しそう。


ふと、私の肩に置かれた手に気づいた。振り返る。
やさしい視線が見えた。ユリオプス殿下にうなずき返して、にっこり笑う。

「もちろんちがいますわ」
「え」
「アルメニアクム殿下は、絹鳴りってご存知ですか?」

分からないようで、エリカ嬢揃って首をかしげている。
周りの貴族たちは分かっているようなのでこの二人は本当に、なにも勉強しなかったんだろう。
代わりに答えたのは、ユリオプス殿下。

「本物の絹ってこすり合わせると、きゅ、と鳴るんだよね」
「ええ。その通りですわ、殿下」

そう。絹であれば、鳴るのだ。絹は毛羽立ちやすい素材の為、頻繁に試してはそれ自体の価値が下がってしまう故にあまりやらないが、最近絹の模造品が出回っていると聞く。素人目には判断がつきにくい為知識あるものの間ではその判別として、こすり合わせてなるのが絹、鳴らないのが模造品という常識だ。


「それで、今、このリボンは鳴りまして? 殿下」

青くなるアルメニアクム殿下。
「いや、確かに鳴らなかった、が、しかし」


いや、これはエリカが証拠だといってもってきたもので、であればあれはアイビーのものであるはずで、それが、偽物? いやまさかそんな……


うつむいてぶつぶつつぶやく殿下。やっと分かってもらえたのだろうか。
いや、これはまだあきらめていないんだろうな。
いい加減めんどくさい。

「で、殿下! だまされないでください! きっとユリオプス殿下と話し合って私に言いがかりをつけてきているんです! 王位を狙っているんです」
「エ、エリカ! そうだよな! エリカを一瞬でも疑ってしまったよ。すまない。兄上と一緒になって俺たちの幸せを邪魔しようとしているんだよな!」
「そうですよ! そのリボンが本物じゃないだなんて、ごまかす為に適当なことを言ってるかもしれないじゃないですか!」


あら、往生際が悪い。まだ言うつもりかしら。

「ユリオプス殿下。私たちが共謀して次期王位簒奪を目論んでいるそうですわよ」
「やれやれ、全く妄想力逞しいね。笑えてきたよ」

逞しすぎてあきれてしまう。

「殿下、笑っている場合ではありませんことよ」

胸を張り、顎をつんと上げて往生際の悪い二人を見やる。

「私が、この私が、王妃の座にしがみついて誇り高きオーガスト公爵家の家紋を汚すような真似をすると?」 

随分と軽く見られたものだ。

「冗談じゃありませんわ。その紋の重さ、大事さは私が一番よく理解しております。誇り高き公爵家の家紋を刻むのにリボンが本物の絹ではなく模造品だなんて。絹鳴りが一番誰にでも分かりやすい判別方法だとしても、見る人が見たら分かるのですよ。そんな愚は冒せません。そもそもそうしなければならない理由なんて一つも私にはありませんから」


「だから、私を陥れる為に階段から落とすときだけこのリボンにしたんでしょう!」

「私には毎日放課後に王妃教育がありますから。リボンを付け替える暇なんてありません」

「リボンを結ぶのなんて一瞬じゃない!」

「公爵家の紋付のリボンなんです。一瞬でなんてもちろん無理です。そもそもそのリボンはあまりに繊細で、自力でなんて結ぶのはできません。生半な格好で人前に出ることは私の誇りが許しませんから」

まあ、ここ数日は忙しさのあまりそのリボンは放り出していたのだけれど。今はそれは関係ないから言わない。


そこで、ユリオプス殿下が思い出したように手を打った。

「ああ、そういえばアイビーに渡そうと思ってた物があったんだ」
「まあ、なんですの」

殿下は懐から一枚の紙を取り出した。

広げた紙の間から、大事そうに柔らかい布で包まれた何かを取り出す。
大事な物だろうか? やけに幾重にも包まれている。

殿下がその布をゆっくりと広げた。
「はい、アイビー。これ、君のだろう?」

やわらかく、つややかで上品な光沢があり、長年使っていてもしみ一つ、皺一つないそれは、
繊細なレースが可愛らしく、鹿爪らしい紋をたたえたそれは、
――――――まさに私のリボンだった。


「――――――は?」

全会一致で言葉がもれた。
周りの貴族たち、陛下や両親、だけでなくエリカ嬢と殿下でさえも。

「ななななななんでこれがここにあるんですか?」
「そそそそそうよ! なんでそれがそこにあるのよ!」


不覚にもエリカ嬢と声をそろえてしまった。
そういえばじゃない! うっかり忘れる物でもないはずだ!
もっと、はやく、出して下さい……殿下。

殿下はそれを両手でつかみ、楽しそうに無作為にきゅ、きゅと鳴らしている。

それによって雰囲気が ああ、そちらが本物なのね~ なゆるい空気になっているけど!

それはとってもありがたいことなんだけれども、とても釈然としない!
なんでそれがここに!
そもそも毛羽立つからあんまりやらないでほしい。とっても高級品なのだ。

それにしても、今までの私たちはなんだったの。


陛下たちが完全に脱力しているのが見えた。
私もそっち側で人事のように脱力したい。そっちに混ぜて下さい。

「さあ、おいでアイビー。これをつけよう」
「まあ、殿下がつけて下さるのですか?」
「そうしたいのは山々なんだけどね、さすがにきれいに結われた髪を乱してしまうのは忍びない。頼んだよ」

殿下が人々の外に目を向ける。
自然とそちらの人垣が割れて、女性が姿を現す。

堂々とした足取りで現れたのは、別室で私を待っているはずの私の侍女、カロライナだった。
そして彼女はこの扱いの難しいリボンで私の髪を結い上げる天才だ。
初めは髪結い技術で私付になった彼女だったが、同い年の気安さと忠誠心の高さ、固い見た目とは裏腹に例外的な出来事に対する柔軟さもあり、現在では私関連のことは全て彼女が一手に引き受けている。
それゆえに私の卒業と結婚を控えた今は我が家の使用人たちのなかでも誰よりも忙しく、朝はいつも彼女にリボンで髪を整えてもらっていたのだが、ここ数日は私も気を使って声をかけずに通りがかった侍女に髪を簡単にまとめてもらっていた。
まさかそれがこんな形で裏目に出るとは思わず、彼女に合わせる顔がない。


つややかな黒髪を乱れなくきっちりと結い上げ、切れ長の同色こ瞳と鉄仮面で知られる彼女は並び立つ貴族たちを居ない物として一切スルーし、まっすぐに殿下の下へと馳せ参じた。

「承知いたしました。お任せ下さい」
指先を整え頭を下げる彼女はさすがオーガスト公爵家の侍女らしく、威厳に満ちていた。
怒りにも満ちているように見える。矛先は私じゃないことを祈る。

「それではお嬢様、すぐに終わらせますので失礼します」
「えー―と、ここ、で、かしら」
「ええ。一瞬で終わらせて見せます」
眼光鋭いカロライナに腰が引けるが、彼女はこうなるとてこでもうごかない。

ここで殿下がどこからか椅子を運ばせてきた。
「ありがとうございます、殿下」
「このぐらいのエスコートはさせてもらいたいね」

手を引かれて、素直に座る。

髪の締め付けがなくなり、早速カロライナが髪を解いたのがわかった。


それにしても、何だろうかこの状況は。

伝統ある学院の卒業パーティで、並み居る貴族たちはもとより、両陛下ならびに両親に見守られながら自家の侍女に髪を結われる。

もちろん社交界のマナーとして、ありえない。
パーティに侍女が堂々と入ってくるなんて、ありえない。
先程淑女らしくないからとため息をこらえていたのはなんだったのか。

そもそもこのような場での婚約破棄だって前代未聞だったのだが、それがもはや霞んでいる気がする。
醜聞は二家の間で密やかに終わらせるものだ。


「アイビー、そのリボンはね、カロライナが私の元まで届けてくれたんだ。ついさっき」

隣に立つユリオプス殿下にささやくように言われた。私に伝えているようで、周りの貴族たちに聞かせている。
ああ、なるほど。普段は品行方正なオーガスト家の侍女らしく生真面目な彼女がこうして衆人環視のなかで
マナーぶち壊して髪を結っているのは、このリボンがユリオプス殿下が金に明かせて用意させた物ではなくカロライナが家から持参した物だという印象付ける為か。あまりにタイミングがいい本物の登場も、理由さえはっきりしてしまえば誰に何を言われることもない。


「ええ。控え室で他家の侍女たちと待機しておりましたが、お嬢様を窮地に立たせるわけにはまいりませんので」
「そう。苦労を掛けたわね」
「問題ありません」
「ちなみに、どこにあった?」
「ここ最近新しく入った下女が隠し持っていたそうです」
「……そう」
「ご安心下さい。侍女長に捕まっておりました」
「アイビーのところの使用人はとんでもないね」
「滅相もございません」

なんでもないように言っているが本当にとんでもないと思う。
カロライナの口ぶりだと大切なリボンがないことに気づいた侍女長が場所を突き止めてくれていたのだろう。
そして、カロライナがこの短時間で公爵家と連絡をとり、会場を行き来したと。
……我が家の使用人達は過ぎるほどに優秀だ。


「お嬢様、終わりました」
「ええ、ありがとう」

宣言通り瞬く間に仕上げ、一礼して下がっていくカロライナに、家に帰ったら改めて御礼を言おうと決心した。なんなら特別手当もお父様に相談してみよう。


椅子から立ち上がるときに、私の長く伸ばした榛色の髪が揺れる。
複雑に編まれた髪の先に、白く輝くリボンが見える。いつものように寸分の歪みもなく、カロライナの仕事は急いでいても完璧だ。

やっと自分が帰ってきたような感覚がある。


さて、思わぬ展開ではあったのだけれど、リボンが今ここにある以上、私には糾弾されるいわれは一切ない。


「アルメニアクム殿下、エリカ様、お待たせいたしました。私のリボンはこのように我が家にずっとあったようですわね。エリカ様には私の不注意で勘違いさせてしまったようで、申し訳ありませんでした。
それで、ええと、なんの話でしたかしら? そこの布切れがなんでしたって?」

となりのユリオプス殿下と揃ってにっこり笑う。

「まだ、何か言うことはあるのかな?」

件のリボンと私のリボンでは、比べてみれば全然違う。
所詮模造品は模造品なのだ。絹の光沢が安っぽい。

私が今までつけていたのがどっちで、どちらが本物か何て目の肥えた貴族達には一目瞭然だろう。



顔色をなくしたエリカ嬢に、殿下。
先ほどまでぴったりと寄り添っていたというのに今は大きな間が開いていた。

「……エリカ、どういうことなんだ」
「…………」
「エリカ!」



じっと固まって目もあわせないエリカ嬢に詰め寄る(馬鹿)殿下。

「アルメニアクム殿下」
「アイビー、違うんだ! 僕はこの女にだまされて! い、いや、君の王妃としての資質を計らせてもらったんだ! ほら、これから王妃としていろんなことがあるだろうから、君がそれにくじけずに僕を支え続けていけるのかってね」

飛んできた片瞬きを叩き落としたい。ユリオプス殿下を身代わりにさりげなく避けた。

はあ。隠しもせずに思いっきりため息をついた。
マナーなど、今更取り繕うのも馬鹿馬鹿しい。

「そうですか。それで、どうでした? 私は殿下のお眼鏡に適いまして?」
「あ、ああ! 君は最高だよ! こんな女に騙された僕が愚かだったんだ!」

「アルメニアクム」
「兄上! お陰で目が覚めました! 私の王妃はやはりアイビーしか居なかったようです!」
ユリオプス殿下が、まるで初めて会う人に対するように、上っ面だけで弟に対して微笑む。

エリカ嬢への愛をささやき、私を詰っていたその声で正反対の事を言う。
ぺらぺらと薄っぺらい人だ。
殿下が喋れば喋るほど、場の雰囲気は冷えていき、言葉は上滑りしていく。

周囲の貴族たちの冷たい視線が殿下、エリカ嬢の両方に向かう。

「……もう、よい。」
静かな声とともに、王妃を伴った陛下が輪の中心に現れた。

「ここまで謝罪ではなく、令嬢一人に罪をなすりつけるとはな。見下げた根性だ。アルメニアクム」
「陛下! 私は騙されていたのです!」
「もう、何も喋るな。これ以上、王家の品位を落とすな」
「な、そんな――――」

怒りを押し殺したように話す陛下に、耐えるように目を瞑った王妃陛下。



「そもそも、そこの娘が何を言おうと、貴様が初めからアイビーのほうを信じていればこんな事態にはなっていない」


「……いや、信じる信じないの話ではない。正しく判断する為には、正しいことが何であるかを正確に見極めねばならなかった。王には、謝罪は許されない。間違えては、ならないのだ。
学院は、親元を離れ、自由に選択し、その結果を自身で振り返り正しいものを見極める力を培う、謂わば許されたモラトリアムだったのだ」

「それを理解し、そこで自身を研鑽し未来を見据え行動できればよかったのだが、アルメニアクムはひたすらに遊んでいたようだな。甘やかしすぎた私達にも責任はあろうが、これではっきりした。知識も集めず、経験も積まず、生まれついての身分を笠に着て甘言に惑わされる貴様には王の資質はない。明日に控えた立太式だが、立つのはユリオプスだ」

「望み通り、アルメニアクム・エイプリールとアイビー・オーガストの婚約は白紙に戻る。良かったな、アルメニアクム」


沈痛な面持ちの陛下は、そこまで告げると踵を返して広間から退室していった。

「へ、陛下! そ、そんな……」

「アルメニアクム……」

呆然とした様子の殿下に、王妃陛下が声を掛ける。

「は、母上!」

「母は、悲しいです……。あなたのアイビー嬢ならびにオーガスト家にしたことは決して許されることではありません。これからあなたは王族から籍を抜かれ、一般市民として生きていくことになるでしょう。恐らく、親子として言葉を交わすのもこれが最後です。自分の身勝手な行動で傷つけた人がいる事を、よく考えるのですよ。愛する人と、元気で……」

エリカ嬢に一瞥をくれた後、きれいな瞳から一筋の涙を溢して、アルメニアクムを悲しげにじっと見つめ、それでも背筋を伸ばしてドレスの裾を揺らしながら王妃陛下も出ていった。
自分のたった一人の血の繋がった息子に対して、臣下の前のこの状況ではこれ以上の対応はできない。彼女もまた、王妃としての立場に縛られているのだ。殿下の自業自得とはいえ王妃陛下が流した涙を思うと、心が辛い。


「そんな……こんなはずじゃ……僕は……僕は…」
「どうして。途中まで上手くいっていたじゃない。また、最後でだめになった。……全部、全部アイビーが悪いのよね。きっとそう。私はこんな結末認めない。そうよ。アルメニアクム殿下がダメならユリオプス殿下がいるわ!」

膝から崩れ落ちて慟哭するアルメニアクム殿下を、王宮の侍従が外へ促す。私を睨み付けてくるエリカ嬢もさりげなく誘導しようとするが、それを振り払ってこちらに突撃してきた。

「アイビー!」

ユリオプス殿下の隣にいた私はそのまま、突き飛ばされた。殿下の伸ばした手が、空を切る。

「きゃあ!」
「どきなさい! 邪魔よ! あんたなんかに私の幸せの邪魔はさせないんだから!」

そのままユリオプス殿下にしなだれかかる。
「ユリオプス様! あのう、私と……」

ぶつぶつつぶやく様子から、武器でも隠し持っているのかと思った。
ただ押されただけで良かった。いや、よくはないけど。

えーと、さっき殿下にあしらわれたのを忘れたのだろうか。
ユリオプス殿下は凍てつく冬の冷気のような冷え冷えとした瞳をその双眼に浮かべながら、無言でエリカ嬢を侍従に引き渡した。

「えっ、あの、ユリオプス様!」
そのままずるずると引きずられていく。陛下付の王宮の侍従だけあって、中々力も強いらしい。


「アイビー! 大丈夫かい?」
差し伸べてくる手も、私を見る灰色の瞳も、先程とはうって変わって温かく、優しい。
変な勘違いをしそうになる。

「あ、ありがとうございます」
「怪我はしていない? 私のレディ」
「ええ、大丈夫です……」
「そうか。よかった」

答えた瞬間、ぐっと抱き寄せられた。
心臓が、口からでるかと思った。綺麗な顔が、随分と近い。

「この場を、収めなければいけないね。一曲、踊っていただけますか?」
「……ええ。喜んで」


周囲から、拍手が聞こえた。


私達の婚約破棄劇は、完全に他人事の貴族達にとってそれなりに面白い茶番だったのかもしれない。
エリカ嬢とアルメニアクム殿下の二人が言っていた事はちゃんと調べればすぐにわかることだし、途中から完全に破綻していたのでまかり間違っても殿下達の主張が受け入れられることはない。

両陛下はそこまでボンクラではない。
よって、少し将来が普段からアルメニアクム殿下を肯定するばかりの取り巻きだった子息達を除いて、殿下とエリカ嬢が処罰されるところまで含め、今回のは中々いい余興だったに違いない。

その証拠に、嵐は去ったとばかりに何事もなかったかのように談笑に移っている。本当に、この国の貴族は強かで狸達の多いこと。

まあオーガスト公爵家にかけらでも傷をつけられるかも知れないと期待していたものは笑顔の裏で今頃臍を噛んでいるのでしょうけれど。


まあ王家にとってはもろもろ含めて醜聞には違いなく。
両陛下が退室してしまった現在、この場を納めるのは残る王族の一人、ユリオプス殿下しかいない。


そんな訳で私と殿下が一曲踊ることにより、この卒業パーティーは何事も無かったかのように動き出す。
今日のために招かれた楽団の腕は一流で、完全に戸惑わせてしまっていたことを申し訳なく思う。
まあ私のせいではないのだけれど。


二曲目からは他の卒業生の生徒達もそれぞれのパートナーを伴って踊り出した。
三曲目からは、傍観するばかりであった貴族達も。




波乱を巻き起こした卒業パーティは、なんとか無事に幕を下ろし。
この一件ではオーガスト公爵家は愚かな王子と一人の令嬢によって言いがかりで瑕疵を押し付けられそうになった、あくまで被害者として詳細に記録され、その内容は周知の所となった。



こうして、王子である第二王子殿下と、悪役令嬢の役をエリカ嬢に押し付けられた私の婚約破棄は相成った。


設定ふんわりです。絹やら模造品やら、ふんわりファンタジーだと受け止めていただけたら幸いです。
グダッた感は否めない。
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