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赤い花の咲く空の下
作:霜月伊麻里



4話−それは、優しく輝く光


「じゃーねぇ!沙優ちゃーん!!」


太陽が沈みかけた頃、俺の家(正確にはばあちゃんの家)から夏実サンと、渉サンが出て行く。

子供好きの夏実さんは、沙優ちゃんにだけ大げさに手を振っている。

「じゃーなぁ。沙優ちゃん、恭平」

渉さんはちゃんと俺にも別れの挨拶してくれた(でも、俺の名前は恭也だよ、渉さん)。

夏実さんはまだ手を振り続けている。

横を見ると沙優ちゃんもまだ手を振っている。

そのままだとだいぶ長引きそうだったため、俺は家のドア(っていうか引き戸)を開ける。

沙優ちゃんも慌ててついてくる。

家の中に入ると、食べ物の匂いがした。

俺は台所をのぞく。

沙優ちゃんも真似してのぞいてる。

「何か手伝うことある?」

俺がそう言うと、ばあちゃんが振り返った。

「沙優ちゃんの相手しとき」

了解。

俺は沙優ちゃんと居間に行く。

「テレビ、見てていいから」

パチッとテレビをつけて、俺は縁側へ。

ケータイを取り出して中を確認する。

メールが一件。真島からだ。

「……」

内容を見て、思わずケータイを投げつけそうになる。

『初回CDGET!!やったぜッ(*´ω`*)』…ケータイ料金ヤバイから、どうでもいいメールするなって言ったのに。

バイト代の一部で料金払ってるんだけど、上限が5000円だからかなりキツイ。

―っと思ってたら、一つ思ったこと。

「ねえ。ケータイとか、親持ってないの?」

見ると、沙優ちゃんはニュース番組を見ていた。変な子だ。

「お父さんは持ってるんですけど…番号が…」

…まあ、仕方ないか。

「もし、この三日で親が見つかんなくっても、大丈夫だから。家の番号は覚えてるんだろ?」

俺の言葉に、沙優ちゃんはコクッと頷く。

いざとなったら、家に3、4日後に電話すればいい。

まあ、その間にこの子を探し回っているであろう沙優ちゃんの親には悪いけど。

「…恭也」

は…?

突然、自分の名前を呼ばれて目が点になる。

…今の、この子だよな…?

当の沙優ちゃんは、全く呼び捨てにした事は気にせず、俺から少し離れて同じように縁側に座った。

「恭也のお父さんとお母さんはどうしているですか?」

「え…?」

沙優ちゃんは、俺の目を覗き込むように目を合わせる。

「ここ、恭也のおばあさんの家ですよね?お母さんは?」

蝉の鳴き声が、一瞬止んだ気がした。

「親…は…」

どう答えていいのか分からず俺は言い淀んだ。

俺の様子を見て、沙優ちゃんは首をかしげる。

なかなか言い出さない俺に向かって、沙優ちゃんは口を開いた。

「サユのお父さんとお母さんは、少し困りモノなのです」

「……」

俺から視線をずらして、沙優ちゃんは苦笑した。

そのしぐさは、あまり子供らしくない。

「…いつもいつもケンカばかりだったです」

そういう沙優ちゃんは、とても悲しそうだった。

「ずっとずっと、長い間それが続いているです。…だから、本当は今回のことをきっかけに仲直りし
てほしかった…。でも、やっぱり無理ですね」

そう言って、沙優ちゃんは足を抱え、ひざに顔を埋めた。

…何かいわなきゃならない雰囲気だ。

意を決して、俺は口を開く。

「母さんは、入院してるんだ。だからばあちゃんの家にいる」

なんでもない風に俺はそう言った。

「……。父親は…顔も知らないよ」

俺の言葉に、沙優ちゃんは顔を上げた。

アノ人のことだけは、普段通りに話せない。

「母さんは、独りで俺を産んだんだ」

その言葉に、何か不吉なモノを感じたのか、沙優ちゃんが真顔になった。

俺は慌てて笑顔を作る。

「な…なんちゃって…」

…しくじった。

気まずい空気が流れる。

「そういえば、さっき言ってたお祭りってなんですか?」

沙優ちゃんが突然そう言った。

さっきの真顔から一変して、今はニコニコしてる。

「え…?あ、お祭り?」

俺は、話題を変えてくれたことに気が付く。

そういえば、確かに夏実さんがそんなこと言ってたな。

「13、14、15、16ってお祭りがあるんだ。名前…何だったかな」

「今日もやってるですか?」

沙優ちゃんが目をキラキラ輝かせる。

俺もそうだったけど、子供って祭り事好きなんだよな…。

「やってるけど、一番にぎやかなのは明日と明後日だよ」

ここでは提灯を持って、行列で町内を13日に歩き回って、16日に神社か寺で送り火をするらしい。
だからあまり人は来ないんだろう。

「―もしかして、行きたいの?」

「……う…。い…行きたい…です」

―その時、ちょうどばあちゃんがおっきなお盆を持ってこっちに来た。

「言ってきてもええよ。恭也、連れてってあげな」

「へ?」

思わず、すっとんきょうな声が出た。

「でも…親探しは?」

「どうせ、こんな広い範囲じゃ見つからないやろ」

言った…。さらっと言った。

だいたい計画性ってモノがばあちゃんにはない。

大阪からじいちゃんを追って来た時も、全くアテがないくせにこっちまで来たらしい。

きっとそのノリで「ま、なんとかなるやろ」って感じにテキトウに考えてるんだろう。

「それにせっかく茨城にきたっていうんに、ただご両親探しじゃ、つまらないよねぇ」

そういいながら、ばあちゃんはテーブルに夕飯をのせていく。

ばあちゃんに同意を求められて、沙優ちゃんは曖昧に頷いた。

「さて、早く食べんとっ」

それから、なかば仕切られる形で夕飯は始まった。



「可愛いこじゃね。どこの子?」

「北条さんのお家で少しだけお世話になってるです」

俺は、「北条さん」に敏感に反応して振り返る。

見ると、沙優ちゃんが近所のおじさん、おばさん連中に囲まれてた。

知ってる顔は少ないけど、ここじゃあんまり心配にならない。

―今は午後8時ちょっと前。

これから町内を歩く。8時になるとどっかの鐘が鳴るらしいから、それを合図に歩き始める。

あともう少しだ。

その時―

「よっ。恭平!」

後ろから、突然声を掛けられた。

…この間違え方は、渉さんだ。

「俺の名前は恭也です」

振り返ると、案の定渉さんだった。

「細かいこと気にスンなっ」

俺の名前は細かいことか…?

―ちょうどその時、鐘が鳴った。

その鐘を合図に、列が動き始める。

「じゃ、俺ふけるから」

「…は?」

俺の肩をポンッと叩くと、そう言って渉さんはどこかへ行ってしまった。

…何しに来たんだ、あの人。

…ま、いいか。

渉さん一人が抜けたところで、行列が止まることもなく、いつのまにか、田んぼの真ん中を俺たちは
歩いていた。提灯だけが辺りを照らす唯一の光だ。

「恭也!」

今まで、前の方でオジサン連中と一緒に歩いてた沙優ちゃんが、突然戻ってきた。

「…どうしたの?」

隣を歩く沙優ちゃんに俺は尋ねる。

「蛍は見たことあるですか?」

「…え?」

俺の質問には答えずに、沙優ちゃんはそう聞いてきた。

見た事なんてない。

俺の家の周りには、蛍がいるほど綺麗な場所はない。

「ないけど」

俺の答えを聞いて、沙優ちゃんは満足そうに笑って、俺の手をつかんで引っ張った。

「…?ちょ…何っ?」

「見せてあげるですっ」

見せる?蛍でもいたのだろうか?

沙優ちゃんは、小走りで前へと進んでいる。

仕方なしに、俺も小走りで走る。

おかげで、提灯の火は消えてしまった。

やがて、ぼんやりと無数の小さな光が見えてきた。

近付くと、確かに蛍に見えた。

止まっている人もいれば、訝しげに歩いている人もいる。

沙優ちゃんは、止まっている人たちの人垣をわけ、前の方で立ち止まった。

俺もその隣で立ち止まる。

幻想的な風景だ。

広い草むらの中、数え切れない蛍が飛び交っていた。

俺はその光景をただ、じっと見ている。

その隣で沙優ちゃんも、俺の手をつかんだままそれを見ていた。

―ふと見ると、俺の(正確には沙優ちゃんの)隣に、セーラー服を来たオサゲの女の子が立っていた。

女の子のスカートは今時珍しく、ひざ下だ。

沙優ちゃんもその女の子を見ている。

女の子はフラッと草むらの中に入っていった。

止めようと伸ばした手を、沙優ちゃんが止めた。

気が付くと、草むらの中央には、古ふるしい学生服を来た男の子が立っていた。

…間違いない。女の子は男の子の方に歩み寄っている。

男の子が、女の子に手を差し出した。

女の子もその手をとる。

二人は、幸せそうに笑っていた。

―その刹那、強い風が吹いた。

思わず俺は、目を閉じてしまう。

次に目を開けると、そこはただの草むらになっていた。

蛍も、男の子も女の子もいない。

「…どうして…」

ポツリと俺は呟く。

でも、その呟きは周りのざわめきにかき消されてしまった。

立ち止まっている周りの人の表情を見ると、どれも驚きや戸惑いがうかんでいた。

ただ一人、優しげな表情をした沙優ちゃんをのぞいては。


その日、家に帰って布団に入っても、さっきまでの光景が浮かんでいた。

疑問が残る。

蛍や女の子、男の子はいったいなんだったのか、なぜ消えてしまったのか。

その不思議な出来事に答えが出ることはない。

やがて、俺は深い眠りについた。


ずいぶん間があいてしまいました。かなり長くなってしまった今回の話ですが、これから話がだんだん不思議(?)になっていきます。
まあ、気長にお付き合いください。











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