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第七章
7-13:extra_episode/美姫は空を征き、英雄は地を逝く
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  "片目" のネルソンは才人の予想に反して、やせ細った老人であった。

  "麗しのアンリエッタ号" を無事係留し終えたウェールズは、かねてより予定していたネルソンとの会談を行う為、アジトの中へと案内されていた。
 ウェールズに同行したのは、ルイズと才人の2名だけである。
 これは相手を刺激せぬ為に最小の人数でと言う訳ではなく、単に才人が何があっても守れそうな最大の人数であるという事で決まった数字だ。
 無論、当初はウェールズと才人の二人きりの予定ではあったが、ルイズがごねた為、3名で "片目" のネルソンと会談に臨む運びとなってしまっていた。
 だがしかし、空賊達はそのような事情は知る由もない。
 それにウェールズ達が "魔の空域" を抜けて来たという噂も相まって、その勇気には相応の敬意が払われ、丁重に扱われてもいた。

「――よく、きたな。皇太子よ」
「ご無沙汰しております、ネルソン提督。約束通り、 "魔の空域" を抜け参上しました」
「ククク、まさかお前さんのようなひよっこが、あの空域を抜けるとはの、ゲフ! ゴフ、ゴォフ!」

 空賊の頭領の寝室に通されたウェールズは、天蓋付きの、やけに豪華なベッドに横たわる老人とそのような挨拶を交わした。
 直後、老人は激しく咳き込みはじめて苦しそうにしたまま、枕元の水差しからカップに水を入れて飲もうとする。
 ウェールズは思わず前へ出て手を出しかけたが、当のネルソンはそれを制止し、自分でカップに水を入れ一気に飲み干した。

「――お体の具合が思わしくないようですね」
「ああ。君の父上が亡くなってからこっち、特にな。……ハルは元気にしているか?」
「ええ。私もまだまだ教えを請う事も多く、引退もできぬと常々小言を言われております」
「ふん、あの青二才が偉そうに」
「ははは、先々代のアルビオン国王の治世から活躍しておられる空の男にかかれば、何人も青二才でありましょう?」

 ネルソン老人はウェールズの言葉にふん、とつまらなそうに鼻を鳴らし、もう一度カップに水を注いで一口、口を濡らす。
 部屋は暗く、昼間であるにも関わらずカーテンは締め切られているためか、才人はこの時始めて目の前の老人が片目であることに気が付いた。
 つまりその左目には黒い眼帯が覆われ、そこに描かれている髑髏の紋章が見えたのである。
  "片目" のネルソンという二つ名から予想できようものではあったが、空賊の二つ名は大概、相手に脅威をあたえる事が多い。
 従って、才人のように "抵抗した相手の片目をえぐる" から "片目" のネルソンと呼ばれる、と勘違いする者はハルケギニアでは珍しくはなかった。

「……まあ、俺も空の男だ。二度と王家の飼い犬になるつもりはなかったが、約束は守るとしよう」
「では……」
「ラックスフォードへの侵入の手助けと、お前のフネの留守を請け負ってやる」
「ありがとうございます。作戦の成功の暁には、相応の礼を……」
「まて。俺の話はまだ終わっちゃいねぇ」

 声は低く厳しく、交渉の成立に胸をなで下ろしかけていたウェールズは心中に冷や水が浴びせられた。
 また、ルイズと才人にも、皇太子と空賊の首領の会話の全貌が見えなかったものの、どうも雲行きが妖しくなりそうだという緊張が走る。
 そんな3人の事など気にも留めず、ネルソン老人は話を始めるでもなく、ベッドに横たわったまま、水差しの隣に置いてあったハンド・ベルを鳴らした。
 しばし間を置いて、才人達が入ってきた入り口とは別の部屋の奥にあった扉がゆっくりと開く。
 それから、一人の人物が入室して来てネルソン老人の枕元まで歩み寄って来た。
 人物はルイズよりかは身長は高かったが小柄で、男物の服装にカットラスと小銃を腰に下げてはいたがウェーブがかかった金髪を首元で束ねており、女性であるとわかる。

「……紹介しよう。俺の右腕で孫娘のメアリだ。今は俺の代理をして手下をまとめている。なにせ、俺はこのザマなんでな」

 ネルソン老人の言葉の真意がつかめず、才人達は少し会釈を送ってそのまま説明を待つ。
 しかし、老人の紹介に続いたのは説明などではなく――

「覚悟!」

 突如、メアリはカットラスと小銃を抜きながら、ウェールズに突進したのだ。
 カットラスとは空賊や海賊がよく使う片手用の曲刀で、狭いフネの甲板上でも振り回せるよう、取り回しが重視された武器である。
 特に狭い室内などで振り回す分には、かなり有利になる武器の一つだ。
 これには流石のウェールズも虚を突かれ、腰の杖を抜く事すら忘れて反射的にその腕を上げ、既に振り上げられたカットラスを受け止めようとしてしまう。
 しかし、振り下ろされたカットラスは肉を断つことはなく、代わりにギィン! と鋼と鋼がぶつかる音がした。

「いきなり何をするんだ?!」
「殿下!」
「ネルソン提督?!」

 まず何時の間に移動したのか、ウェールズとメアリの間に身を滑り込ませた才人が、デルフリンガーで振り下ろされたカットラスを受け止めながら叫び、その後にルイズとウェールズの言葉が続く。
 一方、メアリは少し驚いた表情を浮かべはしたものの、振り下ろしたカットラスから力を抜こうともせず、あろう事か更に攻撃を加えるべく後に飛びながら銃を構えた。
 銃は単発式で威力はそれ程でもなかったが、それでも至近距離から発砲されれば致命傷は免れない。
 その銃口は正確にウェールズの眉間に狙いが定められて――
 刹那の後、部屋に轟くは、火薬の炸裂する音と同時に先程と同じような金属がぶつかる音。

「……嘘……そんな……」

 この時、何が起きたのか理解していたのは二人だけ。
 才人とメアリである。
 メアリは今度は信じられないといった驚愕を表情にありありと浮かべながら、見かけよりもずっと若い声の独白を口にする。
 無理もない。
 引き金を引くと同時に、彼女が定めていた必殺の射線上には白い剣閃が煌めき、火花が散ったのだ。
 その一瞬、タイミング、距離、狙いともに、いかなるメイジを屠るにも万全の状況であった。
 にもかかわらず、まさかその弾丸を剣で打ち落とされるとは誰が想像できよう。

「――い! 聞いてるのか? 武器を捨てろ」

 その一瞬、メアリは呆けてしまっていたらしい。
 気が付くと喉元にはあの剣士が使う大剣の切っ先が突きつけられ、武器を捨てろという声が耳に届いていた。

「メアリ、武器を捨てろ。お前の負けだ」

 緊張感が急速に膨らみ、対峙する二人にネルソン老人はやっと声をかけた。
 同時に、ボトリと音を立ててメアリの手から武器が床に落ちる。
 しかし、才人はデルフリンガーを降ろさず、警戒を解かずに神経を研ぎ澄ます。
 武器を降ろした瞬間、隠し扉が開いて空賊の手下がなだれ込んで来ないとはかぎらないからだ。

「皇太子、すまねぇな。この子の親は貴族にとっつかまって、縛り首にされちまったもんで、こうしねぇと気がすまねぇって聞かねぇんだ」
「ちょっと! 殿下は危うく死ぬ所だったのよ?! そんなの納得――」

 ネルソン老人の言葉に噛みついたのはルイズであった。
 しかし、その言葉を遮ったのは命を狙われた当のウェールズ本人である。
 彼は隣で怒鳴ろうとするルイズを制止ながら、一歩前に出てじっとデルフリンガーを突きつけられたメアリを見つめた。
 メアリは未だ信じられないといった表情をしていたものの、剣を突きつけられているにもかかわらず恐怖は感じていないようで、向けた視線に強い意志を込めた眼差しを返して来る。

「私が憎いのかね?」
「……いや。あたいのオヤジやオフクロが縛り首にされたのは、他人の命だって奪ったりもした空賊だったからだ。アンタを憎むのはお門違いさ」
「じゃあ、なぜ?」
「一つは八つ当たり。ジジィも言ってたろ? 一回、貴族のぼっちゃんに死ぬ思いさせねえと気が済まなかったんだ。残りはあの "魔の空域" を抜けた、空の男の腕試しさ」
「……気はすんだかね?」
「……ああ。後はこの化け物みたいな剣士の気が済むのを待つだけさ」

 言って、メアリは口の端をつり上げながら大仰に肩をすくめた。
 ウェールズはもう一歩前に出て、長大な剣を突きだしたまま、微動たりともしない才人の腕に手をやって、もういいとばかりに頷く。
 才人はその合図を受けて警戒を解かずにゆっくりとデルフリンガーを降ろし、背にした鞘に納めた所で緊張は一気にしぼんだのであった。

「ネルソン提督。説明きちんとしていただけるのでしょうね? 先程、約束は守ると確かにおっしゃっておりましたが?」
「……ああ。それは、ゴフ! ゴホ、……失礼」
「いい、ジジィ。あたいが説明する。大人しく水でも飲んでろ」
「君が?」
「ああ」

 そう言って、メアリはニヤリとした。
 彼女の背後では、ネルソン老人が再び水差しからカップに水を注いでいる。
 また、手にしたカップの水を飲み干しても何も言わない所を見ると、どうやら後の説明をメアリに任せるつもりのようだ。

「最初にジジィが言ったとおり、ネルソン一家はあんた達との約束は守る。まぁ、さっきのはあたいのワガママだったんだが、これからの本題にも関係があんだ」
「是非、その本題を聞きたいものだね」
「ああ、今説明してやんよ。なに、話は簡単だ。ジジィは見ての通りこのザマだろ? で、その跡目があたいみたいな小娘と来てる。って、わけで、今ネルソン一家は大変なんだ」
「大変って、どういうことだ?」
「なに、王子様のお家と一緒さ。昔かたぎのジジィやあたいが気にいらねぇ、って大勢の手下連れて出て行ったクソったれが居るんだよ。でな? そいつらがいなきゃ、守れる約束も守れねぇんだわ」
「な、なんですって! そんな言い訳、通るとでも思ってるの?!」

 その、あまりに無礼な物言いと先程の仕打ちにルイズが思わず、暴発してしまった。
 ウェールズは今度は制止せず、ただ困ったような視線を才人に送り、才人の方もあっちゃあ、と頭をかきむしる。
 しかし、怒りに瞳を曇らせたルイズにはそんな二人の様子など目に入らない。

「そっちにどんな事情があるかはわからないけど、約束は約束でしょう?! 大体何よ! 偉そうにふんぞり返ってるくせに、不意打ちをしてくるなんて! 恥を知りなさい恥を!!」
「へっ、お貴族様は言う事が違うねぇ。お前、立場わかってんのか?」
「何がよ!」
「俺達は確かに恥知らずかもしれねぇ。だから別に約束だって守らなくても困りゃしねえんだぞ?」

 メアリはそう言って、ニヤリと口の端をつり上げた。
 対して、怒りに身を焼くルイズは思わず口を結び、罵倒の言葉を呑み込む。
 幾ら頭が白く焼けているとはいえ、メアリの言葉の意味を理解出来る程度には思考が働いているらしい。

「やめねぇか、メアリ。天秤にお前のワガママと一緒に俺の約束を乗せるんじゃねぇ。……皇太子、すまねぇな。約束は守る。そっちの嬢ちゃんの言葉も水に流すから、どうか孫の無礼を許してくんな」
「それは、まあ……けが人も居ない事ですし」
「殿下! こんモゴモガ」

 八つ当たりで命を狙われた事と、自分の無礼が釣り合うはずがない。
 ルイズはそう訴えようとして、才人に取り押さえられ口を塞がれてしまった。
 バタバタと暴れるルイズに耳元で囁くようにして必死に大人しくするよう、説得を試みる才人。
 先程のやり取りを見て、力関係が決して対等ではないと感じ取っていたからこその行動である。

『バカ! やめろ! 殿下の立場を悪くしてどうすんだよ!』
『でも!』
『冷静になれ! ここで相手の体面をへし折って誰が得するんだ?!』
「……元気のいい部下だな。羨ましいこった」
「いえ、彼女達は私の友人です、ネルソン提督」

 ウェールズの言葉にネルソン老人は一つしかない目で才人とルイズを順番に見つめた。
 視線は鋭かったが、どこか羨望が混じり、小声で言い争っていた二人は居心地の悪さを覚えて、思わず動きを止めてしまう。
 やがて何を感じたのか、ネルソン老人はくくと喉の奥で笑い、視線をウェールズへ戻した。

「そうか。――そこの若い剣士といい、皇太子、あんた中々いい友人を持っているようだな」
「自慢の友人ですよ。それで……メアリ殿。続きの説明をお願いしても?」
「……ああ、いいぜ。どこまで話したっけか?」
「手下が大勢居なくなったと話しておいででしたが」
「ああ、そうだった。少し前までは若頭にドレイクって野郎を使ってたんだが、じじぃがこの有様になった途端、好き勝手始めやがったんだ。で、頭領代理のあたいと衝突した後、唾つけてた部下をごっそり引き抜いて出て行きやがったんだよ」
「では私との約束は……」
「果たしたいが、数が足りねぇ。そこで、だ。あんた達に頼みがある」

 そう言いながら、メアリは落とした銃とカットラスを拾いあげ、鮮やかな手つきで納刀と納銃を行い、何故か才人の方を見てニヤリと笑う。
 才人とルイズはなんとなくイヤな予感を覚えつつも、メアリの頼みとは何か、もみ合う姿勢のままじっとして、次の言葉を待った。
 果たして、メアリの頼みとは……



「野郎共! 聞け!」

 時がほんの少し流れた、 "片目" のネルソンのアジトである浮島。
 島の一部をくりぬいて作られた館の外には、数十人からなるネルソン一家の手下達が集められていた。
 そんな手下達の視線の先には、彼らを纏めるメアリと、才人にルイズ、ウェールズと特殊な椅子に座るネルソン老人が在った。
 ネルソン老人は既に自力では歩けないらしく、大の男が二人で担げるよう、取っ手が付いている椅子に座り、膝に毛布が掛けられている。

「ここにいる3人は、お頭との賭けに勝ってあの "魔の空域" を抜けて来た英雄だ!」

 メアリの言葉にどよめきが走る。
 空賊に限らず、空の男達にとって "魔の空域" とは絶対不可侵の空域であるからだ。
 なにせ、そこを通り抜けてくると言う事は数千年の間、だれも成し遂げては居なかったのだから。

「お頭は約束した! もし、ここにいる連中が "魔の空域" を抜ける事が出来たなら、ラックスフォードへの侵入の手助けをしてやると!」

 再び、手下達の間にどよめきが走る。
 しかし今度は驚愕ではなく、不安の色が濃かった。

「お嬢! ラックスフォードっていや、この辺りを取り締まる空軍基地がある街ですぜ!」
「おう、それがどうした?!」
「無茶だ! あそこは警備は厳重だし、高速哨戒艇が3隻もいるんですぜ?! それに、こっちの手の内だってドレイクの野郎があそこに居る限り、近寄る事すら難しい!」
「へっ、この "北風" メアリが "人喰い" ドレイクを恐れるかってんだ!」
「しかし!」
「まあ、話を最後まで聞け! あたいが今まで、お前達の意見一つ聞かずに物事を決めた事があるか?」

 メアリの言葉に、手下達のどよめきがしぼんでいった。
 彼女は手下達の信頼をそれなりには得ているらしい。
 やがて無言となった手下達をメアリは見渡して、少し声の音量を落としながら演説を再開する。

「いいか? ネルソン一家は約束は絶対に守る。それに、この仕事がうまくいきゃ、この辺りの通商権をまるごとあたい達が手に入れられるんだ。そうすりゃ、こんな危ねぇ浮島ともおさらばさ」
「お嬢! そ、そりゃ本当ですかい?!」
「本当だ。それに、諸君らにかけられた賞金と今日までの罪状をすべて、撤回しよう。このウェールズ・テューダーの名において、約束する」

 答えたのはメアリではなく、ウェールズであった。
 手下達は再びざわめき、口々にあのプリンス・オブ・ウェールズが、と近くの者と話し始め、ある者は色めき立ち、ある者は疑いも露わに皇太子を見つめる。

「どうだお前達! この仕事の見返りはでかい! 危険を冒す価値はあるだろう?」
「――しかしお嬢!  "人喰い" ドレイクはどうするんですかい?! あいつ、大勢の仲間を引き連れてまんまとラックスフォードの総督に取り入って、今じゃ空賊を取り締まる空軍気取りだ!」
「そうですよ、お嬢! あいつが居る限り、空戦は無理だ! あいつ程空賊の戦い方を熟知している奴はいねえ! 当然、こっちのやり口は全部しってやがる!」
「心配すんなっつってんだろうが! 今、手前らのフニャチンを蹴り上げるようなもん、みせてやるからまってろ!」

 メアリはそう啖呵を切るや、くるりと回れ右をして、才人とウェールズの方を向いた。
 それからニヤリと笑いながら、さあ、と手を差し出し、前に行くよう促す。
 才人はウェールズと思わず顔を見合わせてから、その真意を測りかねてメアリを問い詰める事にした。

「……どういうつもりだ?」
「なに。頼みってのは、こいつらの説得さ」
「はぁ?! なんで俺達が?!」
「話聞いてたろ? あたい達は今、とてもじゃないがラックスフォードに近寄れる状況じゃねえんだ」
「でも約束したんだろ?」
「ああ、約束は守りたい。が、その力がねぇっつってんだよ。今のままじゃ手下を無理に働かせても、どうせ誰かが裏切る」
「じゃあ、どうしようもねぇじゃねえか!」
「そうだ。――そこで、だ。あんた達に "魔の空域" を抜けて来た力を見せて欲しいんだ」
「……はぁ?」
「空賊っつっても迷信深い連中ばっかだからな。なんでもいい、こいつはすげぇ! って思えるようなもん、見せてやってくれ。そうすりゃ、根は単純な連中だ。皆、死力を出して働いてくれる」

 つまり、こういうことか。
 こいつは、約束を守ろうにも守れない状況になったから、俺達に部下を説得しろとけしかけてるのか?
 ……きったねえ。そんなもん、無理に決まってるじゃねぇか。
 いや、それをネタにして諦めさせようというわけか。
 才人はさあ、早くと急かすメアリを見ながら、心中でそう毒づいてウェールズにどうするのかアイコンタクトを取った。
 視線が合ったウェールズもまた、メアリの真意に気が付いているようで、しかしその表情には迷いがありありと浮かんでいる。
 ウェールズにしてみれば、なんとしてもアルビオン大陸への上陸を果たしたいはずだ。
 それに、この旅の目的はアンドバリの指輪の奪還にある。
 そう考える才人にとっても、アルビオン大陸への上陸はかならず成し遂げる必要があった。

「サイト?」
「サイト君?」
「おお、やっぱお前か。ただ者じゃねえって感じてたんだ。よし、なんでもいい、一発派手な芸でも見せてやってくれ!」

 そうだ、迷う事は無い。
 才人は一歩前に出て、メアリに導かれるまま、集まった手下達の前に立った。 
 メアリと手下達の会話から察するに、問題は "人喰い" ドレイクという人物と、空戦の戦力にあるらしい。
 ならば――

「なあ、ミス・メアリ?」
「呼び捨てでいいぜ。あたいは強い奴は好きだしな」
「そっか。じゃあ、メアリ。あの浮島ってさ、使ってるか?」

 才人はそう言って、アジトのある浮島の少し上方に浮かぶ他の浮島を指差した。

「ん? いや。ありゃ、使いもんになんねぇし」
「誰か住んでたりとかは?」
「んなわけあるか。誰もいねぇよ」
「そっか。じゃあ、みんなにあの浮島を見るよう、言ってくれないか?」
「わかった。――お前ら! あの島を見ろ! 今から "魔の空域" を抜けた勇士が、その不安が吹き飛ぶようなもんみせてくれるそうだ!

 台詞とは裏腹に、メアリは不審そうな表情で一度才人を見て、上を向いた。
 また、ウェールズも不安な表情のまま、才人の言うとおり上方に浮かぶ島へと視線を向ける。
 ただ一人、ルイズだけは自慢げな表情を浮かべて、才人が地面から槍を作り出すのを確認し最後に上を向いた。
 そして。
 寒いが抜けるような青い空に一筋、銀光煌めく槍が飛び、周囲に幾つも雲のリングを作りながら多くの視線が集まる島へと吸い込まれ――次の瞬間。
 まるで何百もの落雷が同時に起きたかのような轟音と共に、島は派手に爆散したのだった。
 その、久しぶりに行った "グリムニルの槍" の全力投擲の威力は凄まじく、爆音に遅れて爆風がその場に居た者達を襲い、次いで静寂が辺りを包んだ。
 勿論、さっきまで見上げていた浮島は跡形もなくなっている。

「これでどうだ?」

 あまりの出来事に自失して、いつまでも空を見上げていたメアリに掛ける声があった。
 慌てて視線を戻すと、そこには才人の茫とした顔があって。
 思考がやっと現実に追いついた時、何を思ったか。
 気が付くとメアリは目の前の黒髪の男に抱きつき、激しいキスをしていた。
 その行動はその場に居た誰もが予想だにしていなかったらしい。
 ただ一人、ルイズだけが怒りの声を上げてはいたものの、メアリはお構いなしに才人の唇を、舌を貪り、他ならぬ才人自身の手によって引き剥がされた時、その瞳はすっかり、恋する乙女の物となっていた。
 その行動の一部始終は衆人環視の元で行われ、才人の体を奪い返し、歯を剥き威嚇するルイズの事など目に入らないかのように、人目を憚らず "北風" メアリは言い放つ。

「お前、あたいの婿になれ! お前こそ、ネルソン一家の跡取りに相応しい男だよ!」



※現在暫定的に復帰中です。


このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。

リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)


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