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第一章
1-7:やい!デル公!










昨日は酷い目にあった。





教室で寝起きにルイズから強烈な蹴りを顔面に受けたり、部屋で鞭打ちをされたりした。

ルイズの容姿と年齢なら、部屋での鞭打ちはむしろご褒美になりそうなものだけど、生憎俺にそんな趣味はない。

昨日のアレをうらやましい!なんて言う奴は、一度あいつに極められてしまえばいいと思う。

あの何食ったらこうなるんだ?って思えるほど細っそい脚で首を絞められると……いや、違う、俺にそんな趣味は断じてないはずだ。

結局あの後、オモプラッタという肩関節技とレッグロックという文字通りの脚関節技を教えさせられた。

そんな技の名前はルイズはもちろんしらないはずだが、うっかり俺が寝言で呟いていたらしい。

まあどうせ将来何処からか覚えるものだし、鞭打ちの他に金貨が入った皮袋で殴打されるより余程マシだ。

それに同じお仕置きされるなら、体を密着出来るほうがいいじゃないか。

その為なら骨の一本や二本、くれてやってもいい。



さて、本日は虚無の日。

今朝早くトリステイン魔法学院を発ち、俺たちはトリステインの城下町に足を運んでいた。

ルイズに前から俺が必要だと訴えていた剣を買うためだ。

馬で片道三時間の移動時間が余りにヒマだったので、昨夜のドタバタの顛末や試しにオモプラッタをかけてきたルイズの

太ももの感触を反芻していたのだった。

いや、あの感触と甘い匂いは地獄の痛みに耐えた甲斐があった。



俺たちはブルドンネ街の大通りに差し掛かった。

久々に見る大通りは初めてみた時よりも狭く感じた。

まあ、実際5mも無い道幅に露天がひしめいてるもんな。

日本なら一車線しかない道路の両脇に、縁日の露店が並んでいるようなもんだ。

こういう商業の要所で王宮からの兵隊や貴族が通る道は広く作る事が鉄則だ。

特に貴族がこの道を馬車などで通行しているとき、簡単に暗殺されてしまうだろう。

あまりに狭い為、道をふさいだり接近したりする事が容易なんだ。

ここで何度も暗殺されかけたから良くわかる。



こんな道が王宮へと続く道だというのだから、この時代のトリステインの為政者の無能を如実に表してるよな。

いや、案外襲撃しやすいから、ワザとこのままにしてあるのかもしれん。

多大な賠償金を抱え込んだガリアのタバサや、ハーフエルフというハンデを背負って即位したティファより

ゲルマニアに次いで国力を温存できてたトリステインの女王が最も苦労してたなんて、なんの冗談だよと思ったもんだ。

アンリエッタが心労で倒れ、怒り狂った息子が大粛清をしようとするのを宥めるのは骨が折れた。

のほほん、とした雰囲気でありながら人知れずストレスを溜め込んで、頭に血が上ると大爆発させるのは母親の血だよな。



俺は深くため息をついて、懐にあるルイズの財布をスラれないよう注意しながら歩を進める。

名ばかりの大通りを外れ、ゴミや汚物が散らばる細い路地を歩く。





「ピエモンの秘薬屋の近くだからこの辺ね……」


「ルイズ、ここじゃないか?」


「あ、あった。」





ルイズは剣の形をした看板を確認すると嬉しそうに店に入っていった。

俺もはやる気持ちを抑えつつ店に入る。





「旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売をしてまさあ。」


「客よ。剣を頂戴。」


「こりゃおったまげた!貴族様が剣を!」


「私じゃないわ。こっちの使い魔が持つ物よ。」


「さようですか。昨今は貴族様の使い魔も剣を振るようで。」


「私は剣の事は良く解らないから、適当に選んで頂戴。」





ルイズのその言葉にしめしめとほくそ笑む店主に俺は釘を刺す。





「店主、主は剣の事がわからんと口にしたが、俺はよくわかるからな。」


「さ、さようですか。」


「以前儀礼用の装飾剣を高値で売ろうとした商人がいてな、俺がそれを指摘すると

 怒った主が無礼打ちで、店ごとふき飛ばしてしまった事があるから気をつけろよ。」


「は、はい。ご親切にどうも。」





そう俺は店主に言うと、驚いて俺を見るルイズにニカっと笑ってみせた。

ルイズの方も俺の意図を理解したのか、ふっと微笑を浮かべる。

店主はなにやらブツブツ呟きながら奥へ引っ込んでしまった。

うまく騙して儲けるチャンスだと思ってたんだろうが、そうは行かない。

ま、貴族相手に変な商売をしてると、何れ痛い目にあうしな。

それに、もう買う剣は決まっている。

俺は乱雑に剣が積まれている一角へ向かう。

……いた。

久しぶりだな、相棒。





「ルイズ、予算はいくらなんだ?」


「新金貨で50よ。」


「へ?100枚じゃないの?」


「何よ、その数字どっから出てきたわけ?大体、あんたの怪我の治療でかなり使ったのよ?」


「う、ごめん。」


「まったく、週一のペースで大怪我する奴なんて見た事ないわ。」


「で、でも昨日のエキュー金貨の袋……」


「あ・れ・は!!わ・た・し・の、お小遣い!!貴族で、ヴァリエールで、しかも女の私はなにかと入用なの!」





まずい。

非常にまずい。

デルフってたしか新金貨で100枚だったよな……

どどどどどどうしよう?!

まずいまずいまずい……うー、値切れるか?!うー、うー、うー。





「なあ、ルイズ。おれ、これがいいんだけど……」


「は?なんでそんなボロっちい剣を選ぶのよ?!」


「言ってくれるじゃねえか娘っ子!それに坊主!確かに見る目はあるようだがな、自分の体見た事あんのか?お前には棒っきれがお似合いだよ!」


「な、何?だれ?」





落ち着けルイズ。

久しぶりだなデルフ。相変わらず口が悪いな。





「ルイズ、この剣だよ。これ、インテリジェンスソードみたいだよ?」


「へー、珍しいわね。」


「わかったらさっさとお家に帰りな!娘っ子、お前もだよ!!」


「失礼ね!」


「口は悪いけど、いい剣だよこれ。」





そんなやり取りをしていると、店の奥から店主が血相を変えてやってきた。

粗相をすると店ごと吹き飛ばされかねない貴族に、悩みの種であるあの剣が絡んでいる声が聞こえたのだろう。





「やい!デル公!お客様に失礼な口をきくんじゃねえ!」


「お客様?剣もろくに振れない小僧が?ふざけんじゃねえ!!」


「なあ、店主。これいくら?」


「へ?こんななまくらでいいんですかい?」


「あ、ああ。年季が入っていそうだしな。時を経て残る武器ってのは、いい鉄を使ってる事が多い。なまくらは絶対に長持ちしないからな。」


「ちょっと、もっと綺麗な剣にしなさいよ!」


「うるせえ!娘っ子、武器の良し悪しもわかんねえ癖に!早く帰れ!!」


「何よ!」


「で、店主、これいくら?」


「そうですねぇ……新金貨で百枚でいいですよ?」


「五十枚にならない?」


「お客様!いくらなんでもそれはあんまりです!!」


「だよなあ……」


「サイト!こんな鉄くずじゃなくてこっちの綺麗な方にしなさいよ!」


「貴族様、そちらは新金貨で五百枚となっております。」


「何よ!五十枚にしなさいよ!」


「そらみろ!武器の目利きもできねえじゃねえか!!お家でお人形でも弄ってろ!!」


「き、貴族様、どうかご容赦を……」


「何よこのボロ剣!!溶かしてやるわよ?!」


「おもしれ!やってみろ!!」


「き、貴族様!店の中で魔法は勘弁してください!!」





ううむ、どうしたものか。

親父の顔が悲壮に歪んでいる。

すこしかわいそうになってきたが、こっちもデルフを是非にも連れて帰らないとなあ。

このままだと折れたキュルケの剣持ってアルビオンに行き、ワルドとやりあう事になるぞ……

雷撃で黒こげになるか、ルーンの全開戦闘であいつをミンチにした後に、今度はおれが反動で死ぬかの二択はなあ。

ん?そうだ!キュルケの剣!

おれは親父の近くに呼ぶ。

ルイズの相手は暫くデルフがしてくれそうだ。





          「こ、この鉄くず!私を誰だとおもってるのよ!!」

「なあ、親父。あのインテリジェンスソードを新金貨五十枚で売ってくれるなら、いい儲け話を教えるぞ?」

          「うるせ!どいつもこいつも威張り散らしやがって!貴族がナンボのもんだって言うんだ!!」
「へ?」

          「失礼ね!私はそんな威張るだけの貴族じゃないわ!!」

「最近、城下で『土くれのフーケ』が出没し、貴族の間で剣を下男に持たせる事が流行ってるだろ?」

          「口だけは達者だな!上等だ、ほれ、俺を魔法で溶かしてみろ!!」
「へえ、よくご存知で。」

          「うぐぐ……よく言ったわね!後悔しても知らないんだからね!!!」

「俺たちは魔法学院から来たんだが、学院でもそれが流行っててね。今日もう一組剣を買いに来る貴族がいる。」

          「へっ、口だけなら平民だってそういえら!!ほら、やってみろよ!!度胸ないくせに!!」
「へえ。」

          「な、なによ!!本当に溶かしてやるんだから!!」

「この貴族、剣の目利きはできない。しかも金持ちで気前がいい。おれが保障する。」
(ごめんなキュルケ。おれ死にたくないんだ……)

          「じゃあやってみろってんだ!!お前みたいなペッタンコでチッコイ娘なんざ怖かねえや!!」

「なんと!しかし、何故また……」
          「きぃぃ!!!本当に無礼な鉄くずね!!わわ、わたしの胸はまだまだ発展途上なのよ!」

「なに、その貴族と俺の主は仲が悪い。あとは……わかるな?」

          「ふん!!度胸も無ければ胸もないってか?!こりゃ傑作だ!!」

「な、なるほど。しかし、五十枚は……」

          「な、言うに事欠いて……みてなさい!!今私の魔法を見せてあげるわ!!」

「はやく決めなよ。ほら、ご主人様が杖取り出したぞ?」


「お、お客様!!貴族様!!どうか落ち着いて!!わかった!わかった!五十枚でいいです!!ですからどうか、どうか落ち着いて!!」


「離して!あんたもまとめて溶かしてやるわよ?!!!離しなさい!!」


「後生です!貴族様!後生ですから落ち着いてくだせえ!!」





ほ、なんとか値引きに成功したようだ。

親父、大の男がそれくらいで泣くなよ。

ルイズ相手にそんなんじゃ身がもたんぞ。

教皇様の特別説教に比べればそんなもん、子守唄みたいなもんだ。





「ふーっ、ふーっ、ふーっ」


「落ち着いた?ご主人。まあさ、手持ちが足りないんだしこれで我慢しようよ。」


「とっとと帰れ!」


「ほら、お前も。」


「うるせえ!そんなヒョロい体して俺が使いこなせるか!」


「信じてくれよぅ、俺結構強いんだぜ?」





そう言うと俺はデルフをつかむ。





「……おでれーた。おめ、 "使い手" か!」


「納得したか?」


「ああ。坊主なら文句はねえ!」


「わたしは文句あるわよ!」


「お貴族様!どうか魔法は!後生です!!」


「名前は?」





俺は知っている。

だけど、これは儀式だ。

もう一度、共に戦う半身を確認する為に。





「デルフリンガー。覚えておけ!」


「よろしくな、デルフ。」


「よろしくないわよ!絶対溶かしてやるんだからこの鉄くず!!」


「お貴族様!後生です!!ごしょ、後生ですうううう、ですから!!お願いぃ!」





ははは、泣きすぎだぞ親父。

そういう時はさり気なくルイズを褒めるんだよ、そうすりゃ勘弁してくれるのも早まるから。

あえて挑発して怒りを引き付けるのも手だ。

ほら、オーク狩りでオークをバカにして囮になったりするだろ?

あの要領だって。





「なあ、デルフ。おれが使い手だとわかるんなら、こっちのご主人が何なのかわかるな?」


「ああ、まあな。」


「まだ "自覚" してないんだけど、すごい魔法使いなんだぜ?」


「そうか。そりゃそうだろうな。」


「だろ?デルフもそうおもうだろ?」


「な、なによ急に!」


「デルフがルイズをすごい魔法使いだって認めて、謝りたいんだとさ。……たのむよ、デルフ。」


「……すまなかったな、娘っ子。」


「ふ、ふん!わかればいいのよ!!」





すごい魔法使い、という言葉が効いたようだ。

あれほど怒り狂っていたルイズを鎮めることに成功した。

親父は涙ながら新金貨50枚をルイズからうけとっている。

それから俺に抱きつき、ありがとう、ありがとうとむせび泣きからが礼を言ってきた。

余程怖かったらしい。

……気持ちはわかるよ、親父。





俺たちが意気揚々とその店を出た後、やがてやってきた二人の貴族に一時はほくそ笑んだ親父だったが

色香に負けて大損をし、自棄酒を煽る事になるのだった。





※現在暫定的に復帰中です。


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