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第一章
1-5:もう!違うってば!










「説明して。わかりやすく。」





朝の光が優しく部屋を包んでいた。

ルイズはベッドにすわり、側でかしこまるミイラ男のようになった俺を睨んでいる。

彼女のピンクブロンドの髪が光を受け、とても美しい。

俺の手には鳩をあしらったかわいい形のペーパーナイフ。

これを手放すとすさまじい激痛がして話どころではないので、ルイズが学院の購買で買ってきたのだ。





「いやあ……最近鈍ってたからさ。一昨日の夜、ルイズが寝た後に外で鍛錬をしたんだよ。」


「ふぅん。あんたの国の鍛錬って、折角治った腱や筋肉が切れちゃうまでやるんだ?」


「い、いや!?ちがうよ?違うんだってば!!」


「じゃあ、なんでこの前みたいなケガして倒れてたのよ!!心臓が止まるかと思ったじゃない!!」


「あはは……ちょっとルーンを使ってみようと思ってさ?」


「なによそれ!」





医者も驚く程の回復力を見せた俺は、今後の戦いの為にも早速鍛錬を開始した。

基礎的な筋力トレーニングを行った後、肉体を武器とイメージしてルーンを発動させたのだ。

無手によるルーンの発動はうまく行き、色々と試す事にした。

やっぱ自分の能力を知っとかないとな!とその時は能天気に考えていた。

まず、武器無しでのルーンの発動。

これが出来れば、常に発動状態で俺最強じゃん!と考えていたが、結果として無理だった。

ある程度の集中力が必要になる為、武器を手にしている時よりも消耗がはげしい。

次に身体能力の向上。

この支援効果はその強弱をコントロール出来るようになっていた。

まあ、弱とは言っても今まで武器を振るっていた従来の能力だが……問題は"強"の方だ。

すごい。

それはもうすごい。

イメージが体の動きに追いつかない。

うん、俺って最強だな!

心地よい高揚感に身を任せ、どんどんギアを上げる。

思い切りジャンプをすると学院の屋根ごしに森が見えた。

浮遊感と夜空にうかぶ二つの月の姿にさらに昂ぶった。

よし、次はソニックブーム出してみよう!

全国の男の子の憧れ、衝撃波だぞ!

そう調子付いて、適当な破壊対象物を探そうと一旦ルーンを消した時だ。





「一気にルーンの力の負荷が来ちゃってさ。いやあ、お恥ずかしい、ハハッ」


「まぁ!うふふ、サイトったら……うっかり屋さんなのね。」


「あはは!ルイズが笑ってくれるならうっかりした甲斐があったよ。」


「そんな訳ないでしょうが!!」





ルイズが花のような笑顔から一瞬にして般若のような顔になり、サっとおれからナイフを取り上げる。

たまらず悲鳴をあげる情けない俺。

あ、でも怒ったルイズでも、心配してくれてる時の顔は可愛いんだよな。





「大体ねぇ、夜中に外から呻き声が聞こえてそれが "るいずぅ、るいずぅ" とか言ってるのよ!?オバケかと思ったじゃない!
 確かめに出てみると、あんたがボロボロになってるし、次の日変な噂が立つしでもう散々だわ!」





そこに二日間寝ずに看病した事を入れない所はルイズらしいな。

あぁ、でも残念だな。

せっかく無敵のガンダくんになったと思ってたのに。

次の戦闘イベントはなんだっけ?

フーケのゴーレム?次にえっと、……ワルドか。

うーん……体削ってまで圧勝したい相手じゃないよなあ。

俺の寿命は84歳。

多分、ガンダールヴのルーンを使わなければもっと長生きできたと思う。

使用した実感として、若い頃はそんなに感じはなかったけど年を取ってからルーンを使うとよくわかった。

ガンダールヴのルーンは命を代償にしてるんだ。

ルーンの力で動いた後の反動はすごいけども、そもそもその動き自体が人間の動きじゃない。

死なない程度の肉体的反動で済むはずがないのだ。

俺は……一日でも長く生きていたい。

今度はルイズを泣かせないようにしたい。





「ちょっと!聞いてるの?!ご主人様が話している時は顔をあげなさい!!」


「……!…………!!……・!」


「……ほら、ナイフ。」





うん、激痛でまったく動けない時でも思考できるってすばらしい!

くぐった修羅場が違うんだよ、修羅場が。 ……大半はルイズが相手だったけど。





「はぁぁぁ、死ぬかと思った。」


「ホントに死に掛けといてよく言うわね。」


「う……ゴメン。」


「まったく。あんた、武器を買うまでルーンの使用禁止ね。」


「えええ?!それじゃルイズの護衛なんてできないじゃん!」


「なに言ってるのよ!いまのあんたはカラス以下よ、カラス以下!いいえ、カエルにすら劣るわね、きっと。」


「ひでぇ……」


「とにかく!傷が癒えるまでは部屋でおとなしくしてなさい。ベッドも使っていいからね。」





ルイズはそう言うと、授業を受けるべく部屋を出て行った。

俺はおとなしくベッドに入り、脇にペーパーナイフを置く。

襲い来る激痛に耐えかね、そのまま意識を手放した。










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「『我らの剣』がきたぞ!」





腹を減らした俺は厨房に足を運んでいた。

俺が無茶な鍛錬でボロボロになり、目を覚ましてルイズにルーンの使用を禁じられてから更に4日経った。

本来なら全治数ヶ月だったらしいのだが、なぜか学院長が親切にも良い秘薬を融通してくれたらしい。

それでも脅威の回復力だったらしく、医者から





「これはすごい!使い魔くん、きみの血はきっと強力な治癒の秘薬で出来ている!是非私に譲ってくれないかね?」





と血走った目で迫られた程だった。

ちなみにその医者には無手でのルーン発動(最弱)の実験に協力してもらった。

後でルイズにルーンを使ったお仕置きを極められたが、医者に血を抜かれそうになったと説明したら折るのは許してくれた。

俺の未来の妻は優しいのだ。

ともかく、暫くは医者のお世話になれなくなったから、怪我には気をつけないとな。





「こんにちは。メシ、いいですか?」


「おう、座れ!今日のシチューな絶品だぞ!」





俺は厨房内の一角に設えられた専用の席につく。

ふかふかの白いパンと暖かいシチューをトレイに乗せ、シエスタがニコニコしながら運んできた。

別にマルトー親父なりほかの調理人のおっちゃんから直接貰って、自分で席に運んでも良かったのだがなぜか厨房一丸となって断られる。





「今日のシチューは特別ですわ。」





シエスタが誇らしげに配膳をしている。

いつもより更に味に自信があるのだろう、マルトー親父も俺と目が会うと胸を張ってガハハと笑いかけてきた。

俺は早速シチューを一口ほおばる。

うん、うまい。

初日の塩のスープよりずっとうまい。

て、いうかあれは暖かい塩水だった。





「うん、うまいよ親方。こんなうまいもん、あいつら残しているんだから信じられねえよなあ。」


「ふん!あいつらの魔法は確かにすごい。ドラゴンだって操るんだからな。でもな、こうやって絶妙な味に料理を仕立て上げるのだって

 一つの魔法さ!そう思うだろ、サイト。」


「まったくその通りだ。あ、シエスタおかわりいい?」


「いい奴だなサイト!おまえはまったくいい奴だ!おい、『我らの剣』、キスしてやろう!」


「その呼び方と接吻はやめてくれよ。あー、シエスタ?肉大目で頼める?水もお願い。」


「どうしてだ?」


「どうしてって、そりゃムズがゆいからだよ。俺、小心者なんだ。」


「お前はメイジのゴーレムを切り裂いたんだぞ!わかってるのか!」


「あ、うん、まあ……」
(本当は剣は使ってないんだけど……噂じゃそうなってるんだよな。)


「なあ、どこで剣を習った?どこで習ったらあんな風に剣を振れるんだ?」


「うーん、剣の基本はどこでも習えるって。あとは経験。みんな一緒だよマルトーさん。」





マルトー親父の質問にもそろそろ参ってきた。

厨房に顔を出すたびに聞かれるとなぁ……





「お前たち!聞いたか!」


「聞いてますよ!親方!」


「本当の達人というのは、こういうものだ!決して己の腕前を誇らない!見習えよ!達人は誇らない!」


「達人は誇らない!」


「やい!『我らの剣』!おれはお前がますます好きになったぞ!どうしてくれる!」





居心地がわるい。

そもそも、俺の力はルーンのお陰だし……皆の笑顔がまぶしくて直視できない。

なんだか騙しているようで気がひけ……あ、さんきゅう、シエスタ。この肉が旨いんだよね。



……さて、俺の隣でうっとりと見つめて来るシエスタをどうしよ?

一応、タルブ村の草原で振ってるんだけどな。

でも、結局俺が81歳になるまでメイドとして仕えてくれるんだよなあ……

年を取って孫が生まれた後も、教皇を引退したルイズと一緒に俺の身の回りの世話をしてくれてたけど

結局タルブ村の子供の家に帰省した時、流行病で逝っちゃったんだっけ。

メイドとしてまた俺とルイズの友人として、なんとかいい関係にできないものか。

あんなに信頼できるメイドなんて多分、彼女以外にできないだろうし。

……一番優しい身内だったしな。

なんとかやんわりと恋慕だけ断ち切りたい。

うーん、と腕組みをする俺。





「シエスタ!」


「はい、なんでしょう親方!」


「われらの勇者に、アルビオンの古い奴注いでやれ!」


「いやいや、親方。俺、これからルイズの授業に同行するんだ。好意だけでいいよ。」





急いでシチューの残りをかきこみ、パンを口に押し込んで水で流し込むと俺はそそくさと席を立った。

またこいよ、というマルトー親父のデカい声とメイドの熱い視線を背に俺はルイズの元へ急ぐ。










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私はイラついていた。

隣の席で私の使い魔が居眠りをしている。

本来なら床に座らせるべきなのだが、こいつは女生徒のスカートを下から見上げていたので教師に頼んで隣の席に座らせたのだ。

授業中に居眠りをすると注意される事は普通なのだが、この使い魔はここの生徒じゃない。

夜行性の生き物を使い魔にしている生徒も普通にいるので、使い魔がここで寝ても問題はない。

問題なのはこいつの寝言だ。





「うぅ・・やめてくれ……・泣かせるつもりはなかったんだって……」


「なんの夢みてるのよ……」


「いたい……やめてくれ、オ……オモプラッタ・・どこで覚え……外してくれよ・・」


「オモ?なに?」


「やめ、いた……折れる。折れ……あ……・ダメ!体重かけちゃダメ!!」





さっきからやたら苦しそうだ。

傷がまだ痛むのかしら?

そう思ったが、どうやらなにやら夢をみているらしい。





「もうし・・しない……しないから……・レッグロックだけは……足だけは……」


「ちょっと!何の夢みてるのよ!!」


「おいおいルイズ!お前、使い魔に何やってるんだ?もしかして毎日苛めてるのか?すごく苦しそうだぞ?」


「待ってよ!私そんな事しないわよ!」


「お、おおお……ダメ、だめだって……・・わかったから……約束するから……」


「おいルイズ!もう勘弁してやれよ!だからこいつ包帯をいつまでも巻いてるんだろ?」


「もう!違うってば!!起きなさいよサイト!!!」





私は立ち上がり、サイトと間合いを少しあけてから顔面に向けて回し蹴りを放つ。

小さな体を補う為にわざと一回、体を回転させて腰へ力を貯めからお見舞いしてやった。

母様が言うには動く相手だと当て辛い、隙の多い蹴りとの事だが幸い相手は熟睡している使い魔だ。

ぶ、とくぐもった声をあげて使い魔は床に昏倒した。

ここでわたしは周りの視線を感じる。

やだ、パンツを他の生徒に見られたかしら?

恥ずかしい……母様の言いつけを守らなかった罰ね、これは。反省しよう……





「な、なにすんだよいきなり?!」


「起きた?あんたの寝言のお陰でわたしはあらぬ疑いをかけれてるの。」


「ほぇ?寝言?」


「夢見てたでしょ?」


「あ、ああ。」


「寝言でね、"おもぷらった"とか、"れっぐろっく"とか言ってたわよ。それからとっても苦しそうにしてた。」


「あ、うん。それ、技……護身術の技の名前でね。とっても苦しいんだ。」


「そう。でも今はそんな事どうでもいいの。あんたの寝言のお陰で、わたしは毎日使い魔を苛めているメイジと思われたわ。」


「へぁ?」


「いまどんな夢を見てて、わたしがあんたを苛めていないとこの場で証明しなさいって言ってるのよ、このバカ犬!!」





私はそう言うと周りを見渡す。

皆が私と目を合わないよう、サっと目を逸らす。

不愉快だ。

私はこの使い魔を理由もなく苛めたりしていないのだから。





「あの、ですね。みなさん。えっと、あ、おれルイズの使い魔の平賀才人です。どうぞよろしく。で、ですね」


「いいから!さっさと説明なさいよ!」





ビクッと体を震わせ、怯える子犬のような目で私を見る使い魔。

……ちょっと、ますますクラスメイトに誤解されてるじゃない。





「は、はい。えっとですね、俺、剣士なんです。で、昔の訓練を思い出してうなされていたんです。」
(本当は嫁ルイズが出てきてまた泣かせたわね、と俺にお仕置きしていたんだがな。)


「それで?」


「そ、そんなに睨むなよぅ。それでですね、皆様。わたしのご主人様に向けられた嫌疑ですがそれは誤解なのです。
 わたしが大怪我をした時は、自身のベッドで傷を癒す事を許していただけますし、食事だってご主人様の手ずから食べさせてくれます。
 決してご主人様はいわれなく私に暴力を振るったりしません。」





これでよし。

私は満足げにサイトに頷き、座席に座ってよしと許可を与えた。

……何よ。

まだなんかあるの?みんなザワザワしちゃって。





「ミ、ミス・ヴァリエール。」


「ん?何かしら?」


「先程あなたの使い魔が言った事は本当?」


「ええ、本当よ。私は使い魔を苛めるようなメイジじゃないわ。」


「いえ、そうじゃなくってね……」


「?」


「あなたの使い魔さんが言っていた、その……『自身のベッドで傷を癒す事を許す』って……・」


「そうね、それに手ずから食事を食べさせてあげるなんて……」


「あ!」





思わず声を上げてしまった。

聞きようによっては男女の関係の事を語っているようにも受け取れてしまうじゃない!

このバカ犬!!と思い、サイトを睨む。

慌ててプイ!っと顔ごと視線を逸らされた。

いい度胸ね、後で "おもぷらった" と "れっぐろっく" をじっくり教えてもらおう。

そんな事より今は誤解を解かなきゃ。

私は今度はピンク色の想像をするクラスメイトに説明をするはめになった。





そんな私とサイトを見て、ツェルプストーがやたら楽しそうにしていた事が何より私をイラつかせた。





※現在暫定的に復帰中です。


このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。

リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)


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