第一章
1-4:忘れないで!あんたは私の使い魔なんだからね!
「オールド・オスマン。」
場所は学院長室。
マジックアイテム「遠見の鏡」でヴェストリの広場での決闘を見ていた二つの影。
トリステイン魔法学院の学院長、オールド・オスマンと炎のメイジでもある教師のコルベールだった。
コルベールの呼びかけにオスマン氏はうむ、と答える。
「あの平民、勝ってしまいましたね……やはり彼は "ガンダールヴ" では……」
「うむむ……」
決闘騒ぎが起きるすこし前、コルベールは才人の腕に刻まれたルーンについてある事実を報告する為、学院長室に訪れていた。
才人の腕に刻まれたルーンは始祖ブリミルがかつて使役した使い魔、ガンダールヴのものだとわかったからだ。
その報告の最中に当事者が決闘を行う、と報告が入ったので「遠見の鏡」でその一部始終を観察する事にした二人だった。
「オールド・オスマン。早速王宮に報告して、指示を仰ぎませんと!」
「……それには及ばん。」
「どうしてですか?これは世紀の大発見なのですよ?!」
「ミスタ・コルベール。彼の主人は誰なのかね?」
「二年生のミス・ヴァリエールですが……」
「彼女は優秀なのかね?それこそ始祖ブリミルのように。」
「いえ……むしろ無能といいますか……」
「その無能なメイジがなぜ"ガンダールヴ"を使役できたのかね?」
「それは……」
「それに、あのガンダールヴの少年の力は常軌を逸しておる。武器を使っていなかったようにも見えるのも気になる。」
「たしかに、ガンダールヴの能力は"武器を使いこなす"でしたな。」
「うむ。このような状況で王宮に報告をあげてみよ。暇を持て余した連中がぞろ戦を始めるじゃろうて。
はっきりしない事が多すぎる。わしは可愛い生徒を戦場へ送るような愚は犯すつもりはない。」
「ははあ、学院長の深謀には恐れ入ります。」
「この件はわしが預かる。他言は無用じゃぞ?ミスタ・コルベール。」
「は、はい。かしこまりました!」
コルベールに強く口止めをした後、オスマン氏は再び「遠見の鏡」で少年を見つめた。
少年は満身創痍だったが、どこか満足げに眠っていた。
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「使い魔の癖に勝手なことばかりして!」
どこからかルイズの声が聞こえた。
なんだか怒ってる。
そんなに怒るなよ、俺ケガ人なんだぞ?
まったく、泣くなよ。前も大丈夫だったろ?
うぉお!?今度は大きい方のルイズか……うわ!ゴメン!俺だって泣かせるつもりはなかったって!!
あれもお前のだな、成長に必要だったんだよ?
女がらみじゃなかったし、予定通りだからいいじゃん……こ、こら!やめろ!そんな顔で泣きながら腕を取りに来るなよ!!
お前どこでチキンウィングアームロックなんておぼえたんだ?!あだだだだ折れる!折れる!!折れるってええ!!!
「うぅ……折れ、折れて…… はっ?!夢?」
目を覚ましてみると、俺はルイズの部屋で寝ていた。
朝の優しい光が窓から差し込んでいる。
痛い。
体中が痛い。
確認するとやっぱり体中に包帯が巻かれていた。
とりあえず、俺はギーシュを思いっきりブン殴った所までは覚えてる。
だけどその後の事は記憶にない。
多分、今回もルイズがここまで運んでくれたんだろうな……
「しかし、一体どうなってるんだ?」
気付いたことがある。
ガンダールヴのルーンの能力がおかしい。
自分の肉体が武器だ、と意識する事でルーンの発動が出来たまでは良かった。
ただ、身体機能の強化が半端でない。
あの時、ワルキューレに飛び掛かり、蹴り上げてその隙にギーシュへ接近するつもりだった。
ワルキューレの懐に入る為に地を蹴ると、突然視界が赤くなり、今まで経験した事が無いほど速く、それでいてゆっくりと感じる程体が動いた。
驚きつつもワルキューレを思いっきり拳で打ち上げようとすると、振るおうとした腕がルーンの発動中にもかかわらず重い。
それでも無理に腕を振りぬくとふっと軽くなって、ワルキューレがプリンのようにぐちゃぐちゃになりながら空へすっ飛んでいった。
ソニックブームって奴なのか?とぼんやりその時は考えながら、ギーシュにキメポーズを見せ付けてみる俺、気分だけイケメン。
うん、ルイズはバッチリ見てくれてたな。
で、その後新たに出現した6体のゴーレムには、また視界を赤くしながらも上から押しつぶすように腕を振るってみると
石畳の地面ごとペチャンコに。
これってアレだよな?
ウンチが光の速度で動いたら地球ヤバい、って奴だよな?
でも、人間の体ってそんな動きに耐えられるようなもんだろうか。
周りにもっと被害も出てないとおかしいともおもうんだけど、ルイズや見物してた連中には被害なさそうだったし……
やっぱこのルーンのおかげ、なのかなあ。
ガンダールヴのルーンに同じガンダールヴのルーンを上書きしたせいなのか?
主人もおなじ「ルイズ」だしな。重複効果がでたんだろう。
うん、俺程度の頭で考えてもしょうもないし、それで納得しとこ。
うへへ、俺ってかっこいい?武器なしでも発動するとか無敵じゃん、この新生ガンダくん!
そんな風に考えながら左手のルーンを眺めていると、ノックがありドアが開いた。
「お目覚めですか?サイトさん。」
シエスタだった。
そういや、ギーシュに広場に来いって言われた後、恐怖のあまりどっかに行っちゃってたんだっけ。
手に持ってる銀のトレイにはスープの入った皿が乗っている。
「あれからミス・ヴァリエールが、ここまで貴方を運んで寝かせたんです。それから先生を呼んで
治癒の呪文をかけてもらって、それでも足りなくて秘薬を用意して……大変だったんですよ。」
あちゃぁ、今回も世話かけたんだな。
「あいだ!!!!」
「あ、急に動いちゃダメです!!いろんな所の骨が折れてて、腱もたくさん断裂してて、内蔵もめちゃくちゃだったらしいんですから!!
治癒の呪文でも治しきれなくて、あちこちから秘薬をかき集めてやっと容態が落ち着いたんです!」
「そ、そうなの?」
(前よりひどくなってんな……あれだけ無茶な動きをすれば当然か。新生ガンダくんって更に諸刃の剣になってるのね。)
「はい。あ、お食事はここにおいておきますね。もし食べるのも辛かったら言って下さい。食べさせて差し上げます。」
「ありがとう。俺、どの位寝てた?」
「三日三晩。皆心配してたんですよ?」
「皆?」
「厨房の者です……あの、すいません!あの時逃げ出してしまって……」
「あ、いいって。貴族怖いもんな。謝る必要はないよ。」
「本当に貴族は怖いんです……私のような魔法も使えない平民には。でも、わたし、サイトさんを見て感激したんです!
平民でも貴族に勝てるんだっておもったら、怖いのも少しだけ平気になったんです!!」
「はは・・そう?でも無茶はしないようにね。」
俺はシエスタから目を逸らし、苦笑いを浮かべた。
この目はヤバい。
早急に対策を施さなければ、彼女を振る時のダメージが大きくなってしまう。
お互いに。
「ところで俺のご主人は?」
「そちらのお机でお休みになられています。」
ぎぎぎ、と痛む体を捻ると椅子に座り、机に突っ伏す形で寝ているルイズが居た。
「ずっとサイトさんを看病をされていましたので、お疲れになったのでしょう。
お医者様からサイトさんお体の状態を聞いたミス・ヴァリエールは、それはもう取り乱しになられて。
……サイトさんは最初の一日は本当に危なかったんですよ?
それで、ずっと寝ずに包帯を替えたり、顔を拭いたりしておられました。」
「そうなんだ……シエスタ、悪いけどルイズの分の飯も頼める?」
「はい。わかりました!」
そう返事をするとシエスタは部屋から出て行った。
「……ありがとな、ルイズ。」
「使い魔の癖に主人を呼び捨てにするの?」
「やっぱ起きてたか。」
「フン。治ったらさっさとベッドから出て行きなさいよ。」
「ルーン使えば何とか動けるかな?」
「……あんたには色々と聞きたい事が出来たわね。」
「お、お手柔らかに頼むよ。とりあえず体中がまだすっげえ痛いんだ。このままでいい?」
「まあ、いいわ。まず、一つ目。あんた、やっぱり貴族知ってるんじゃない!」
「あ……うん。ゴメン。でも異世界から来たってのは本当だぞ?」
「どういうことよ?」
「前に一度、こっちに召喚されてたんだよ。」
「だれかの使い魔をやってたってこと?」
「そういう事。で、使命を果たしてその……俺、死にかけててね。
運がいい事にルイ……ご主人に丁度その時に召喚されて、使い魔契約のおかげで一瞬で回復して一命を取り留めたってわけ。」
「今度は本当でしょうね?」
「ああ。前の主人との使い魔の契約が切れる程弱ってたからな。ご主人との契約が切れでもしたら死んでしまうかもって思ったんだよ。」
(まあ、これもウソなわけですが。)
「ふ~ん……まあ、いいわ。次!あんたのそのルーン、一体何なの?ギーシュのゴーレムをやっつけたのって魔法なんじゃないの?」
「いや、俺はメイジじゃないぞ。このルーンは武器を使いこなす事と身体能力の大幅な向上をさせる事が出来るんだ。
ゴーレムをやったのは……技だよ。何度も言ってるだろ?俺、元剣士だから結構強いんだよ。」
(ただ単に思いっきりブンなぐっただけだがな!)
「じゃあ何で最初からその力を使わないのよ!!」
「いや、武器があればいいんだけど、体を武器として使うと……ほら見ろよこのザマ。な?ギーシュにやられたケガより酷いだろ?
あの動きは人間に出来るもんじゃないからな、ボロボロになっちゃうんだよ。」
「あんた、まさか前の主人の所でもこんな無茶しまくってたんじゃないでしょうね?」
「いやあ、はは……」
(鋭いな、さすが俺の未来の嫁!何度この直感で酷い目にあったことか……)
「まったく!自分の使い魔にこんな無茶を何度もさせるなんて!!メイジの風上にも置けないわ!
どうせ私が召喚した時もこんな無茶やって死に掛けてたんでしょう?!」
「い、いや?前のご主人は優しかったぞ?俺が勝手に無茶してたんだよ。」
(まさかお前だよ、お前!って言えないしな。フォローしなかったら夢に出てきそうだし……)
「……やけに肩をもつのね?」
「そりゃあ、ご主人だったからな。 ……なんだかんだ言ってても、すごく優しい奴だったよ。」
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「そりゃあ、ご主人だったからな。 ……なんだかんだ言ってても、すごく優しい奴だったよ。」
サイトはそう言うと、とても懐かしそうな、そして愛しそうな目をした。
わたしはなぜか内心うろたえた。
こいつの前のご主人はきっと女だ。
間違いない。女の直感ってやつだ。
こいつが女物の服の扱いに手馴れていたり、下着をみてもうろたえない所があるから間違いない!
そ、そういえばこの前「久々に頑張っちゃう」とか言ってたわね……
まままままさかその女主人とああああああんなことやここここんなことを(※やっていました。)
「どうした?」
サイトが心配そうに私の顔をみている。
私は思わず指を折り曲げ、ネコの手の様な拳を作り、サイトの上唇と鼻の間めがけて打撃を加えていた。
「なんでもないわよ!この性欲発情犬!!!」
禁じられている母様直伝の技が咄嗟に出てしまうのは我ながら恥ずかしい。
なぜだあ!と呻くサイトをなだめ、私は話を続ける。
「とにかく、そのルーンは武器があれば体もそこまで酷くならない訳ね?」
「ああ。武器があれば大分ちがうからな。」
(でも武器もってても全力出せば一緒だろうなあ、多分。)
「そう、わかった。その内剣でも買ってあげる。あんたの能力は流石に認めてるしね。」
「さんきゅぅっってえ……」
(よし、これでデルフを迎えにいける!あいつとは久しぶりだなあ……)
サイトがガッツポーズをしようとして悶えてる。
傷が痛むのだろう……バカな子だ。
「それとは別に、あんたになんかご褒美をあげないとね。」
「ほぇ?」
「ギーシュ相手によく頑張ったご褒美。メイジより強い使い魔を従えてるなんて、わたしも鼻が高いし。多少のの事なら聞いてあげるわよ?」
「マ、マジ?」
「ええ。言ってごらんなさい。で、でもわわわたしの体はだだだめだからね。」
「……名前、呼ばせてもらっていいか?」
「ダメ!いくら私が魅力的だからってそんな……へ?名前?」
「うん。それも呼び捨てで。ずっと名前で呼びたかったんだ。」
そうサイトは言うと私の顔を真剣に見つめてきた。
その目は先程の前のご主人の事を語っていた時と同じものだった。
わたしの胸はなぜか早鐘のように高鳴る。
「い、いいわ。ついでにあんたの事も名前で呼んであげる。」
「ありがとう、ルイズ。」
そう言うとサイトはニカっと笑った。
それから傷が痛むのだろう、悶えている。……バカな子だ。
「じゃあ、サイト。ベッドの事なんだけど……」
「ああ。ルーン使えば動けなくもないけど、ナイフかなんかある?」
「いいわよ、そのままで。あんたの前の主人じゃあるまいし。」
「あ、ああ。ありがとうな?」
(なんだ?何気に競ってるのか?!つか、お前の事だぞ?)
「ベッドはもう暫く貸してあげる。それよりお腹減ってるでしょ?」
「あ、ああ。」
「た、食べさせてあげるわ。丁度メイドがスープ持ってきた所だったみたいだし?」
「そ、そうだな。ありがとう、ルイズ?」
「ここここれも主人の役目よ、きにしなくてい、いいわ、サイト?」
気まずい。
名前でいきなり呼び合う事になったからか、なにやら甘い空気になりつつある。
「ほほ、ほおおおら!あぁんしなさい!」
「あ、ああ!あ、あぁぁ……」
その時、ノックの音が部屋に響き、先程のメイドが部屋に入って来た。
「失礼します。ミス・ヴァリエールの分のお食事を……」
固まる空間。
「……失礼しました。」
メイドは手に持っていたトレイを机の上に素早く置くと、足早に部屋を出て行った。
廊下からきゃあきゃあと声が聞こえる。
わたしは無言でスープの皿を机に置くと、引き出しからちぃ姉さまから貰ったお気に入りのペーパーナイフを取り出し、サイトに手渡した。
「行って。」
「えっ?」
「行ってあのメイドの誤解を解いてきなさい!!」
「えええええ?!俺大怪我してるんだぞ?!」
「さっきルーン使えば大丈夫って言ったでしょ!!とっとと行く!!」
私はナイフを握り、ヨロヨロと廊下へ出て行く使い魔にも釘を刺しておく事にした。
「忘れないで!あんたは私の使い魔なんだからね!」
※現在暫定的に復帰中です。
このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)
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