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第一章
1-3:下げたくない頭は、下げられねえ。










「諸君!決闘だ!」





さっきまで食堂にいたのだけど、俺はいまヴェストリの広場に居る。

予定通りシエスタに飯を食わせてもらって、デザートの配膳を手伝い、食堂でギーシュと悶着を起して決闘をする事になったのだ。

ギーシュがさっきからなんか吠えてる。

生涯の親友だったけど、お前この時はホントやな奴だったんだな。

あれ程嫌ってた貴族どもと変わらんじゃねぇか。

俺はルイズに食堂で言われた言葉を思い出す。

やっぱりというか、当然というか、俺が勝つとは微塵も思っていなかった。

まあ、当然だわな。

青銅のゴーレムを操るメイジ相手に平民が決闘だもんなあ。

ま、今の俺にはルイズがくれた短剣があるから余裕なんだけどね。





「とりあえず、逃げずに来た事は褒めてやろうじゃないか。」


「へいへい。」


「さてと、では始めるか。」





ギーシュはそう宣言すると弄っていた薔薇の花を振り、青銅で出来たゴーレムを作り出す。





「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。したがって青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ!」


「ルイズの使い魔、平賀才人だ。」





俺はそう名乗るとルイズから貰った短剣を抜く。

瞬間、左腕のルーンが激しく光りだした。





「へ?」





俺は戸惑う。

なんでルーンはこんなに激しく発光してるんだ?

そういや、召喚された時前のルーンはどうなったんだろう?

重ねて刻まれたから、ルーンの性能が上がったとか?

そんな考え事をしている内にギーシュのゴーレムが迫ってくる。

とりあえず考えるのは後だな。

俺はワルキューレを迎撃すべく、短剣を逆手に持ち間合いを一気に詰める。



ガキン、と金属音が広場に響く。

ギーシュは驚いた顔をしていた。目で追えない俺の動きに。

丁度人込みをかき分け、やってきたルイズも俺の動きの速さに目を開いて驚いていた。

でも、一番驚いていたのは俺だろう。



折れていたのだ、ルイズに貰った短剣が。





「ええええええ!!これ儀礼用かよ!!」





俺は思わず見物人の輪の中にいるルイズに詰め寄る。





「メ、メイジが戦闘用のナイフを持ってるはず無いでしょ!ペーパーナイフが鉄を切れる訳ないじゃない!!」


「うわぁ!うわぁ!これペーパーナイフなの?!俺、ペーパーナイフ持って決闘してたの?!」


「し、知らないわよ!!」





そんなやり取りに気をとられている内に、俺は致命的なミスを犯していた。

ワルキューレの接近に気が付かなかったのだ。

ルイズにさらなる抗議を行おうとした所で、鈍い音とともに俺は宙に舞った。

ワルキューレの一撃が横薙ぎに胴に当たり、吹っ飛んだのだ。





「がっ!」





息ができない。

折れた短剣もどこかへ落としてしまったようだ。

ルーンも消えてしまっている。

やばい。もう気が遠くなっている。

遠くでルイズとギーシュが言い争っている。

俺は歯を食いしばり立ち上がる。





「ルイズ、君はその平民を庇うけど好きなのかい?」


「だ、だれがよ!やめてよね!自分の使い魔がみすみす怪我するのを、黙って見ていられるわけないじゃない!」


「だ、だれが怪我するって?おれはまだ平気だっつ、の。」


「サイト!」





ああ、悲鳴のような声を上げて震えながら心配してくれるルイズは可愛い。

そんな場違いな事を思いながら、俺はワルキューレの方へ一歩足を踏み出す。

まずい。

腹に食らったからか、足が思い通りに動かない。





「おやおや、立ち上がるとは思わなかったな。手加減しすぎたかな?」


「寝てなさいよバカ!どうして立つのよ!!」


「だってさ……ムカつくだろう?」


「平民がメイジに負けるのは恥じゃないわよ!」


「ちがう。」


「え?」





ルイズが怪訝な表情を浮かべる。





「今朝ルイズに聞いたよな?気分次第で平民をぶったりするのがメイジや貴族なのかって。」


「!」


「俺はな、お前の使い魔でよかったと思ってる。それは、お前こそが貴族やメイジの理想だと思うからだ。」


「何いってるのよ!私の事……!」


「『識ってる』って知ってるだろ?……だから許せねえんだよ、ああいう貴族は。」


「やるだけ無駄だとおもうがね。」





ギーシュが薄笑いを浮かべて俺とルイズを見ている。

俺はともかく、ルイズを負け犬のように見るその目付きにカチンときた。





「全然効いてねえよ、おまえの銅像よわすぎ。」





その言葉にギーシュの薄笑いは消える。

ざまみろ!と一瞬思ったが、たしかこの後ワルキューレにフルボッコなんだよな……・




「ぶ!」




顔面にパンチを食らった俺は無様に吹き飛ぶ。

それでもこのまま寝てる訳にいかず、立ち上がる。





殴られる。

立ち上がる。やっぱルーン無しじゃ手も足も出ないな。





殴られる。

立ち上がる。それに今の体じゃうまく避けられねえか。後で鍛えないとな。





なぐられた。

たちあがった。













左目が見えなくなった。

とりあえずたちあがろう。





ああ、さっきから鼻が痛いと思ってたが・・折れてるな、こりゃ。ギーシュめ、覚えてやがれ。

おっと、立たなきゃ。





あれ?いつ殴られた?急いで立たないと……





あがっ!いまの腕がおれたんじゃねえか?!

野郎……大事な俺の第二の恋人である右腕を……俺はこの後ルイズの下着を洗濯しなきゃならんのだぞ!!

おいこら!立つんだからゴーレムに顔を踏ませるんじゃねえ!

あ、ヤバい。暗くなっていた……





目を開けると涙目になっているルイズの顔が見えた。

一瞬、決闘が終わってルイズの部屋で看護されてるのかとあせったが、違うらしい。

よかった。

どうやら気を失ったのは一瞬だったようだ。





「お願い、もうやめて。」


「……泣いてるのか?お前。」
(かわいいぞ!ルイズ!)


「泣いてない。だれが泣くものですか。もういい。あんたは立派に戦ったわ。こんな平民見た事無い。」


「いっっ、すっげえ痛え。」


「痛いに決まってるじゃないの。当たり前じゃないの。何を考えてるのよ!」


「ご主人様のことさ。」


「なっ」





そう呟くと俺は立ち上がろうとする。

……が、立ち上がれない。

やっぱ武器が無い俺はカラス以下だよな。

武器、武器。武器がほしい。

まあ、ほっといてもギーシュがこの後くれるんだけどな。

でもよく考えればなんか癪だよな。

せめて武器無しでルーンの発動ができればな……

……俺の肉体こそ武器だ!って出来ないもんかね?





「終わりかい?」

「……ちょっと待ってろ。休憩中だ。」

「サイト!」





ギーシュの野郎、こっち見て嫌味ったらしく微笑んで剣を錬金しやがった。

それを俺のほうに放り投げる。

あいつ、錬金の腕はいいんだよな。

あっさり石畳の地面に剣が突き立ちやがった。

まったく、作るんならもっと早く作れっての。





「君。これ以上続ける気があるのなら、その剣を取りたまえ。そうじゃなかったら一言、こう言い給え。
 ごめんなさい。それで手を打とうじゃないか。」


「ふざけないで!」





ルイズが怒鳴ってる。

この剣を取れば勝利確定なんだけど……

やっぱ一発殴っとかないときがすまんよなあ。

さっきのアレ、ルーンが反応してくれないかな?

俺の肉体は武器ですよ、俺の肉体は武器ですよ、おれのにくたいはぶきですようっと。

……はは、いいぞ。本当に痛みが消えて立ち上がれる気がしてきた。










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「ご主人様の事さ」





そう私の使い魔は言った。

腕は折れて、もう立ち上がる事すら難しいのに、私の使い魔はまだ戦おうとしていた。

この使い魔は私の事を理想の貴族、メイジだと言った。

コモンマジックも使えない、ゼロのルイズと蔑まれる私を、だ。

私は己を恥じた。

こいつは私を主と認め、命を懸けるほどの私への忠誠心を持っている。

なのに私が彼にした事はなんだったろう?

メイジと使い魔は強い絆で結ばれる。

だが私から彼への絆などあったのだろうか?

そう思いながら、わたしは強がる彼……サイトの名を呼び、止めようとする。

そんな私たちを見て、ギーシュが一振りの剣を錬金してなげてよこした。

まずい。

これをサイトが取ったらもう引き返せない。





「君。これ以上続ける気があるのなら、その剣を取りたまえ。そうじゃなかったら一言、こう言い給え。
 ごめんなさい。それで手を打とうじゃないか。」


「ふざけないで!」





私は思わず声を荒げる。

ここでこの忠誠の厚い使い魔を失ってたまるもんですか。

サイトの方に目をやると、折れた右腕を剣に伸ばしていた。





「だめ!絶対だめなんだから!それを手にしたらギーシュは容赦しないわ!」


「でも……あいつは、弱い者に魔法を使って手をあげる貴族だ。」


「そうよ!でもしょうがないじゃない!死んだら元も子も無いわよ!」


「それでも俺は下げたくない頭は、下げられねえ。……知ってるか?」


「……何よ?」


「前の主の言葉だ。敵に後ろを見せない者を貴族って呼ぶらしいぜ?」





そう言うとサイトは笑いながら地面に突き立つ剣を手に取り、それを杖として立ち上がった。

って、なによ!やっぱりあんた貴族の事知ってるじゃない!

そう言おうと思った瞬間、サイトの異変に気が付いた。

左手のルーンが激しく光っている。

あれほどフラフラだったサイトが、今では杖としてすがっていた剣から "手を離し" 、ギーシュを睨み付けている。





「まずは褒めよう!ここまで貴族に楯突く平民が居る事に、素直に感激しよう!」





ギーシュがそう宣言すると、ゴーレムをサイトにけしかけてきた。

ああ、だめだ。

殺される。

そう思った時だった。


ドォン!と轟音が辺りに轟く。

まるで落雷のような音だ。

周りにいた女生徒のみならず、男子生徒からも悲鳴が上がっていた。

わたしも驚いて目を瞑ってしまっていたが、慌ててサイトの姿を探す。

……居た。

広場の中央で、空をみている。

釣られて私も空をみると、人の手足のようなものが振ってきていた。

ソレは、ギーシュのゴーレムの破片だった。

サイトの周りにゴン!、ゴン!と降り注ぐゴーレムの破片。





「な、なな何があった!」


「……さあな。とりあえず、今度はお前がピンチだってことさ。」





サイトはそう言うと落ちていたワルキューレの右腕を拾ってギーシュに突き出し、不敵に笑っていた。

わたしは思わず、その姿に見蕩れていた。……ちょっとかっこいい。

ギーシュが慌てて六体のゴーレムを練成する。

それを見て、サイトに注意を促す為に声をかけようとしたが、その姿は消えていた。

それと同時に先程の雷音のようなものが立て続けに起こる。

轟音と共にバン、バン、と石が砕ける音を立てて、広場の石畳に大きな窪みがいくつか出来る。

その窪みの中にギーシュのゴーレムの残骸が転がっていた。

サイトはというと、呆然とするギーシュの目の前に立っていた。





「歯、食いしばれ。」


「へ?」





サイトはそう言うと、ギーシュを思い切り殴りつけていた。

……その後で、折れた右腕を抱え転げまわっている。

……ああ、折れた方の腕で殴ったのね。すこし見直したのに……バカなのね、あの子。

じゃ、ない!怪我!怪我を見なくちゃ!!

わたしはサイトの傍に駆け寄る。

左手のルーンの輝きはわずかに光る程度のものになっていた。





「続けるか?」





サイトが私に助け起されながら、殴られて尻餅をついた姿勢のギーシュに問うた。

ギーシュは震えながら答える。





「参った。」





その言葉を聞いたサイトは、肩を貸す私の方を見てニカッと笑い、気を失った。









※現在暫定的に復帰中です。


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