挿入劇
E-2:extra_episode/イーヴァルディの勇者と白い贄2
夢を見た。
ルイズが空を飛ぶゼロ戦の風防を開けて立ち上がり、目を閉じて魔法を唱えている夢だ。
唱えている魔法は "エクスプロージョン(爆発) "
紡がれる長い呪文は、夢の中であっても俺の心を激しく揺さぶり昂ぶらせてゆく。
ゼロ戦は群がる竜騎士を機関砲で蹴散らしながら、ルイズの事など気にも留めていないように上昇し下降し旋回し回転する。
その様子を見て振り落されやしないかとハラハラしたが、完成へと近づく呪文の詠唱がそれよりも強く心の昂ぶりを更に加速させていた。
そんな俺の心を表すようにゼロ戦はレコン・キスタのものと思われる戦艦からの砲撃を、狂おしそうに身をよじってかわし続け空を駆け上がっていく。
そして、完成する呪文。
閃光。
虚無の白が世界を染め上げていく。
ただ一点、光の向こう側に小さくピンクブロンドの髪の少女が見えて、聞こえるはずの無い声が聞こえた。
サイト、やったわ。
俺はその声を確かに聞いた。
目を覚ました時、俺は作業台の上でなく床の上に寝かされていた。
顔の前まで左手を持ってきて、甲に見慣れたルーンが刻まれている事を確認する。
ただ、ルイズがくれたあの抑制魔法のラインは跡形もなく消え去っていた。
「目が覚めたか?ガンダールヴ。」
俺の位置から見える作業台の裏の反対側から、あの黒猫がひょいと顔を出した。
ノルンの顔を見て俺の身に何が起きたかを思い出し、上体を起こして体のあちこちを触る。
どこにも異常はない。
左耳も再び聞こえるし、かすみがちだった左目もスッキリとした感覚で見える。
「ふむ、成功したようじゃな。立てるか?」
俺は手を付き、よっこいしょと立ち上がった。
視界が上から下に流れる。
そして立ち上がった時に、作業台の上にあるものを見て驚いた。
そこに横たわる "俺" とその脇でちょこんと座るノルンを見て。
「どうじゃ?鏡を使わずに初めて己の目で見る己は。」
「……なんか、複雑。」
「くっく、じゃろうのぅ。」
黒猫は楽しそうに笑う。
作業台の上に横たわる自分をまじまじと見て、それから両手の平を握ったり開いたりしてみる。
違和感らしきものは何も感じなかった。
室内は相変わらず薄暗い。
唯一差し込む扉の光も、作業台の上を照らす程度の物でしかなかった。
「ほれ、いつまで呆けておる?無事 "グリムニルの槍" に体を移し終えたんじゃ、もっと喜ばぬか。」
「……実感がわかねぇよ。それに、とうとう人間まで辞めちまったんだ。喜べるワケないだろ?」
「ふん、元々未来から過去の自分の体に憑依融合しようとしておった時点で、人間と胸を張って言える存在でもなかろうに。」
「う、そう言われるとそうだけどさぁ。」
「くく、そう落ち込むな。 "何をもって人間とする" かなんぞバカが気にした所で答えなんぞ出はせん。
今のお主は力があり人とは違う組成の体ではあるが、ちゃんと飯も食えるし傷みも感じる。子供も作れるし、老いて死ぬこともできるのだぞ?」
「本当か?」
「嘘をついてどうする?わしとて "グリムニルの槍" のような危ない代物を他人に貸してやるのだ。保険位用意しておる。
いいか?お主の体は人と同じ生理現象を忠実に再現してくれる。そうでないと、感情や思考も人のそれと段々かけ離れていくからの。」
「うーん、そういうもんなの?」
「そういうものじゃ。体と精神は密接に結びつくからの。わしとて猫の体を借りた時に迂闊にも発情期だったりすると "もてあます" んじゃ。」
「それは……すこし違うと思うんだけど?」
「違いはせん。ふん、どうでも良い事をぐちぐちと……すこしはもっと自分の新しい体の事を知ろうとは思わんのか?」
ノルンはそう吐き捨てた。
それから耳の裏を後ろ足でひっかく。
……ノミでも居るんだろうなぁ。
よくみると結構薄汚れているし。
痒い思いはしたくないから、なるべく近寄らないでおこう。
「とにかくな、お前の体は基本的には人間と同じじゃ。人とは違う所を説明した方が早い位にの。」
「どこが違うんだ?」
「まず、ルーンじゃな。 "ダブル" はもう使えん。二つある内の一つを体の制御に割り当てたからの。
じゃが、身体的な強度は人のそれとは比べものにならん。心の震え方次第でどこまでも強くなれるぞ? "ダブル" と遜色無い程にの。」
「おお!本当か?!」
「本当じゃ。ルーンの反動を幾らでも受け止められる体じゃからの。
"ダブル" 並の反動でも死ぬ事は無い……というか、むしろ "死ねない" と言った方がいいか。」
「死ねない?」
「その体は人のそれとは違う。勿論、傷を負えば血液を吹き出し、大量に血を失えば気を失う。風邪も引くし、下痢もしよう。
だがある程度……平たく言うと、普通の人間が死ぬ程のダメージを受けると強く体の再生が始まる。
無論、そうでもない怪我にもゆっくりとじゃがその作用は働くがの。
わかるか?お主は死ねないのじゃ。無論そのまま永遠に生きることも可能だが、わしはお主の体に "寿命" を設定した。
お主が死んだ日が訪れると、自動的に死を再現するようにな。
わしは不老不死の最強の存在なんぞ創り出す程悪趣味ではない。
ま、逆に言えばその日以前なら死ぬ事は無いと言う事じゃな。 "死ぬ程" 苦しい思いをするだけじゃ。」
「うーん?」
「まあ、おいおい分かるさな。 "丈夫な体になった" とでも覚えとけ。いいな?」
「わかった。とりあえず、八十四歳で死ぬ日までは大丈夫だって事だよな?」
「うむ。」
「それに、 "ダブル" は使えなくなったけれど、 "ダブル" 並に動けるようになったって事だろ?
最高だよそれ!!俺、無敵の戦士になった気分だ!」
「阿呆。心の震え次第とも言ったじゃろうが。上限が無くなっただけの話で、ほいほい "ダブル" のような動きを出来るようになったわけではないわ。
お主は『ガンダールヴ』じゃ。心を震わせ、主の側で戦ってこそ初めてすべての力を引き出せる。
むしろ今まで心の震えも無しに、いつでもあの力を発現できていた事の方がおかしかったのじゃ。」
うーむ。
つまり、ルイズの側にいて初めて力を発揮できるって事か。
で、今までのルーンの使い方と同じように心の震えで力を得る、と。
ただ上限が無いって事は心の震えが大きければ際限無く大きな力を取り出せて、それの反動も受け止める体になったワケだな?
「そうじゃ。思ったよりかは阿呆でな無いようじゃな、その認識で間違いではない。」
「で、基本的に大怪我はするけれど死なない体って事だよな?」
「うむ。尤も怪我があまりに酷ければ回復にもそれなりに時間はかかるが。いいか、過信はするなよ?火山の中にでも落ちれば目も当てられんからのぅ」
ノルンはそう言って意地の悪そうな表情を浮かべ、ひっひと笑う。
思わず想像して、俺は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
……冷や汗もかけるのか。
なかなかよくできた体だな、これ。
「あとな、これはブリミルの趣味なんじゃが……お主、槍をイメージしながら右手を床に当ててみぃ?」
俺は言われた通りにしてみた。
するとボコボコと音を立てて、床に一振りの槍が現れる。
イメージしていた手投げ用の小さな槍が。
まるで石畳の床を材料にして槍を作ったかのように、その周囲は陥没していた。
「 "グリムニルの槍" は万物を構成する粒を操る。
本来はお主に触れる物すべてを微塵となるまで分解し、または別の何かに構成し直して変える事ができるのじゃが当然、制限をつけた。
危なっかしい事この上ないからのぅ。ブリミルの趣味と同じく、右手に触れた生き物以外を槍に変えるという物じゃ。
槍を投げたりその手から話すとその内元の材料に戻るがの。」
「……俺、結構すごいもんもらちゃった?もしかして。」
「今頃実感するか、お主はやはり阿呆じゃのぅ。これではルイズの奴が苦労するのも頷けるわい。
よいか?そこまで制限をかけても "グリムニルの槍" を使っていたガンダールヴは暴走させてしまっておった。
お主の場合はまぁ大丈夫だろうが、くれぐれも過信はするなよ?」
「わかったよ。でも、本当にすげえ体だな!これならでかい韻竜と戦っても勝てそうだ。」
「当然じゃ。勝って貰わねば困る。あ、 "グリムニルの槍" は貸しただけじゃからの?
"死んだら" 返せよ?何、取りに行くから死に場所に気を遣う必要はない。だがくれぐれも火山の中や海の底でくたばらんようにな。
流石のわしも火の海や水の中は無理じゃ。……うむ、説明は以上じゃな。
後は使いながら慣れていけ。
それでは、次。この何も知らん "お主" を送り返す前にお主が潰した左耳と左目を治すから手伝え。」
「手伝うってどうやるんだ?」
「そうじゃな、まず手を出せ。どちらでもいいぞ。」
少々不穏な空気を感じつつも、おれはノルンに右手を差し出した。
瞬間、シャー!と声を上げてノルンが俺の右手の平をその爪で深く抉る。
熱い痛みに思わず引っ込めた右手の平には、深いひっかき傷が出来て血がドクドクと吹き出ていた。
「いでえええええええ!何するんだよ!」
「決まっておろう?お主が潰した左耳と左目を治すんじゃ。」
「治すんじゃ、じゃねえ!俺が怪我しただけじゃねえか!」
「お主の体は万物を構成する粒を操る小さなゴーレムの集まりじゃ。その血も、髪も、すべて、な。」
「それがどうしたんだよ、おぉ、痛ぇ。」
「体……正確にはルーンと繋がった体から離れたお主の一部は、見た目の通りの物になる。つまり、血は血に、髪は髪に、夜な夜なコッソリ迸らせておる精は精に、の。」
「……だからなんでそういう事知ってるんだよ。」
「だが、その体から離れなければお主の血は強い治癒の力を持つのじゃ。ほれ、傷が塞がらぬ内にお主が潰した左耳と左目に手を当てい。」
「無視かよ、まったく。……こうか?」
言われたとおりに自分の顔や耳に手を当てる。
血がべっとりと顔や髪に付いて、傍目には怪我でもしているかのように見えた。
実際は俺が怪我してるんだけどな……
「ま、その位でよかろう。恐らくは治癒は成功しておろう。そのために抑制の魔法を外したのじゃからのぅ。」
「本当にこんなもんで治るのか?」
「多分な。どれ……ふむ、ほう、うむ。よしよし、うまく治っておるぞ?」
「本当かぁ?すっげぇ胡散臭い。」
「疑り深い奴じゃのう、ホントに。きちんと治っておるわ。さ、元居た場所へ送り返すぞ。ほれ、手を顔から離して台から離れておれ。」
「あ!ちょっと待ってくれ!」
俺は急いで横たわる自分からルイズが持たせてくれた小物入れと手紙を取り、作業台に立てかけられていたデルフを手にして離れた。
ノルンも作業台から降りて、にゃあと一声鳴く。
すると横たわる俺の上にあの光の門が平行に現れ、ゆっくりと下へ降りてきた。
俺……十七歳の俺はその門に飲み込まれて行き、やがて門は消えその姿は完全に掻き消えた。
「ふぅ、これでよしと。……くく、どうやらお主がこっちに来て一週間後に送り返せたようじゃな。おぅおぅおぅ、こってりとシボられておるわい。
あ、泣いた。くっくっく、なんと間抜けな面よな?」
「見える、のか?」
「見るか?」
その問いは予想以上に心を揺さぶる。
遙か過去にあきらめた故郷。
死に目にも会えなかった両親。
それを、見せてやると目の前の "時の魔女" は言ったのだ。
「いや、いい。変に里心が付きそうだし。それに……そこに見える両親は "あいつ" のもんさ。俺にはルイズがいるし、な。」
「そうか。意外とあっさりしておるのだな、お主は。」
「そうか?」
「うむ。それになかなか良い顔をする。なるほど、ルイズの奴がわしに会わせたがらないのはこういう事か。」
「ルイズが?」
「そうじゃ?あやつにはわしの本体を見せておるのだが、お主の前には使い魔の姿で会うようあろう事か師であるわしに脅しをかけてきよった。
くく、なかなか見物じゃったぞ?使い魔にしておった黒猫を人質にして杖を当て、わなつきながらお願い!先生!ときたもんじゃ。」
「なんでまた……」
「大方わしの美貌を見て取られるとでも思ったのじゃろう。こう見えてわしはばいんばいんで可憐で傾国じゃからな?」
「あー、はいはい。性悪ってのはよくわかったよ。」
「……信じておらぬな?残念じゃ。わしの本体を見ればきっとこの場で作業台の上に押し倒されておろうにの。」
「そんな事はやらねって。」
「ふん、せいぜい夜の慰みの供を逃してしまったと後悔するがよいわ。」
「……お前、ロクな事言わねぇな。出歯亀ばっかしてるんじゃねえのか?」
「しとるよ?それが "時の魔女" としての唯一の楽しみでな。ひっひ。」
ノルンは心底楽しそうに笑う。
この様子からすれば、恐らくは俺が決して他人に見せたくはないと思う姿を把握しているのだろう……
あまり考えたくはない。
むしろ、忘れ去りたい。
きれいさっぱりと。
「さて。これでお主の問題もすべて解決したの?今のお主なら七万の軍に突っ込もうと死ぬ事はあるまい。
ではいよいよわしの仕事に取りかかって貰うぞ?」
「ああ。韻竜と戦って、 "ミョルニル" を奪って来ればいいのか?」
「うむ。多少手順を踏まねばならんが概ねそうじゃ。」
「手順?」
「ただ竜の巣に突っ込んでいって、戦って、宝物を持ってくる、といった類の物ではないのじゃ。」
うん?と首を傾げる俺。
どうやら力尽くで行う仕事でもないらしい。
「なんだよ?俺、そんな難しそうな事はできねぇぞ?」
「なに、難しい事はない。ある少女の世話を焼いてやればいいんじゃよ。」
「少女?どういう事だ?」
「因果律という物があってな。その少女は例の韻竜の元に赴く事になっておるのじゃ。
お主が "ミョルニル" にたどり着くためには力尽くでなく、その少女について行き韻竜と対峙しなければならん。」
「なんかめんどくさいな。もうちっと単純な内容にできねぇのか?」
「ふん、わしはルイズとは違う。後世に影響が出るようなやり方はせん。むしろ、そうする方が必然なんじゃぞ?」
「んーわかったよ。仕事だしな、言われたとおりにするさ。」
「うむ、大分聞き分けが良くなってきたのぅ。良い事じゃ。」
くつくつとノルンは笑った。
その含みのある笑いから、他になにかを隠しているような気がした。
薄々気がついていたが、こいつはトラブルを眺めては楽しむタイプだ。
絶対に間違いない。
「で、その少女ってのはどこにいるんだ?」
「うむ。そこの扉から外に出ると、とある村の外れに出る。そこに住んでおるよ。」
「じゃ、早速行ってくるよ。」
「あ、まて。まだ話は済んでおらん。」
扉のノブに手をかける俺を見て、焦った調子で背中からノルンの制止の声がかけられる。
その声の調子は初めて聞くノルンの焦った様子だった。
どうやら大事な話がまだ残っていたらしい。
ノルンはちとまっとれよ?と言って先ほどの大きなタルの中を再びごそごそと漁りはじめ、やがて小さな櫛を加えて作業台の上に戻ってきた。
その様は生ゴミでも漁っている野良猫のようだ。
櫛を手に取り見てみると、普通の物よりもかなり小さくて歯も幅厚で、櫛目も細かい。
なんだこりゃ?
どんなマジックアイテムだ?
俺が櫛に気を取られている間、ノルンはその辺から鍋を引っ張り出してきて軽々と作業台の上に引っ張り上げにゃあと鳴く。
すると作業台の上に置かれた鍋の中に水が張られた。
「なんだよ?まだ何かあるのか?」
「なに、今度は難しい話ではないぞ?その櫛でわしの体からノミを取ればよいのだ。。」
え?とあっけに取られる俺。
ノルンはもう一度同じ内容の言葉を口にした。
冗談ではないらしい。
むしろ、これだけは絶対にやって貰うぞ!と気迫が込められている。
"ミョルニル" や "グリムニルの槍" の話をしていた時のような、どこか淡々としていて他人事のような雰囲気は消え去っていた。
今のノルンの態度はエサをねだる猫のそれのようで、どこかソワソワとしていて喉をグルグルと鳴らしていた。
「はぁ?何でだよ?」
「わしは使い魔の契約せずともあらゆる場所の黒猫を、一時的に使い魔として使役できるんじゃ。しかし、これには条件があってのぅ。
体を使った黒猫に礼として餌を与えたりノミを取ってやったりしなくてはならんのじゃ。」
「なんだそれ。」
「と、言うわけで頼む。あ、ノミ取りの櫛は持って行け。何かあったら黒猫を探せばわしに繋がるからのぅ、連絡を取る都度ノミ取りをして貰わねばならんしな。」
「……わかったよ。ほれ、じっとしてろよ?……こうして、こうやって、……おい!エロい声を出すなよ!」
「くく、劣情をもよおして来たか?くあぁっ、そこ!そこが痒かったのじゃ!くぅ、たまらん!」
「……おい、これくらい魔法で何とかならんのか?」
「馬鹿者!あらゆる時代を生きてきたわしが、最後にたどり着いたんん、快楽の境地ぞ?そんな魔法ごときでアッサリと、あぅ、処理なんぞできるかいや。」
「……使役の条件じゃねぇじゃねーか。」
「いや、条件には間違いはない。ただ、実益っっんん!……はぁ、お主なかなか上手いの。今のは頭の芯までしびれた。!!はぁん!」
「……頼む、黙っててくれ。」
「ひっひ、股間を膨らませて良く言う。本当に男という物は悲しい生き物じゃな?くく、ルイズには黙っておいてやるから安心せい。」
俺はそれから暫く悶々としながらも櫛でノミを梳き取り、それを鍋の中の水に放り込んでいった。
櫛で梳く度にこいつのあられもない嬌声を聞かせられ、元気になったガンダくんをからかわれる。
絶対わざと声を出しているんだろうな、うん。
くそ、覚えていろよ?純情な八十四歳のオトコノコをからかった仕返しを、いつか絶対してやる。
「もう、この位でいいか?そろそろノミも取れなくなってきた。」
「うむ、よかろ。中々気持ちよかったわ。」
「うるせぇ!最後だけ甘えた声色を使ってるんじゃねぇよ!」
「色々と切なそうじゃのう。くく、いや愉快。」
「……じゃ、もう行くぞ?」
「うむ。外は何かと危険じゃ、気をつけてな?まあ、お主をどうかできる存在などそうそうにはおらんがのぅ。くっく」
俺はルイズの小物入れと手紙を懐にしまい、デルフを担ぐ。
そこで初めて自分の服装に気がついた。
前とかわらない。
いや、あれほど痛んでいたパーカーなどは新品同様だった。
ノルンに聞くと、 "グリムニルの槍" で俺の体を再現する時に一緒に作ってくれたのだとか。
そういやお前、ガンダールヴのルーンも無しにどうして "グリムニルの槍" を使えたんだ?
……ああ、そうだな。バカな俺に説明してもわからねぇもんな。
言わなくてもわかるよ、その目を見てりゃ。
俺、多分いま世界で一番猫の表情を読める人間だと思う。
悪意限定、だけど。
「ほ、中々分ってきたではないか。」
「うっせ。とりあえずお前が持ってる俺の評価ってのはよぉく分ったよ。」
「なんじゃ、つまらんのぅ。言っておくがわしはお前の事を高く買っておるのじゃぞ?」
「嘘付け。」
「ちと疑り深いのは確かにつまらんが……いや、それでもお主は面白い。うむ、 "グリムニルの槍" を貸してやるだけの価値がある。
お主を眺めておると本当に退屈しないからのぅ。」
「ああ、そうかい。そうやって手の届かない所から見物してろよ。」
「くく、怒るな怒るな。なんじゃ?さっきからかった事を根に持っておるのか?ん?なんじゃったら、わしの本体でお主の劣情を受け止めてやろうか?」
「あ、いや、その……」
「おっと、それではルイズの奴との約束を破ってしまうか。いや、残念。くっく、許してくれ?」
やっぱりこいつは性悪な女だ。
黒猫は慌てた俺を見て楽しそうにくつくつと笑う。
またからかわれたと理解した俺は頭をボリボリとかいて、さっさとこの場を立ち去ろうとノルンに背を向け恐らくは出口であろう扉のノブに手をかける。
そしてそのままの姿勢で最後の質問をした。
「で、この扉の向こうは何処の村で、少女はどうやって見つけるんだ?」
「村の名はブレケ。今で言うとゲルマニアの北部の村じゃな。」
「今で言うと?」
「この当時はゲルマニアなぞ存在せんしな。言わなかったか?ここは数千年前のハルケギニアじゃ。」
思わず扉のノブを握ったまま後ろを振り替えり、ノルンを見る。
あいつはあの笑みを浮かべていた。
楽しそうで、悪戯っぽい黒猫の笑みを。
「聞いてねえよ!」
「そうか、まあ気にするな。些細な事じゃ。仕事が済めばきちんと戻してやるわい。」
「……頼むぜ、本当に。で、少女は?」
「白い。」
「へ?」
「白い。」
「それだけ?」
「それだけで十分じゃ。さ、はよ行け。」
ノルンはそう言って、それっきり喋らなくなった。
欠伸をして差し込む光が当たる場所に移動し、丸くなる。
どうやらただの黒猫に戻ってしまったらしい。
数千年前のハルケギニア、ゲルマニア北部のブレケ村、そして白い少女、ね。
"グリムニルの槍" 、韻竜に "ミョルニル" か。
正直頭が追い付いてこない。
まだ夢の続きを見ているかのような感覚だ。
ルイズ、俺思ってたよりずっと遠くに来ちまったみたいだ。
でもな、必ず帰る。
だから待っててくれよ?
扉を開け放つと、夢で見た虚無の白のような強い光が世界を支配した。
思わず目を瞑ったおれは夢で聞いたあの言葉を思い出す。
サイト、やったわ!
その言葉は夢の中で聞いただけにも関わらず、不思議と心が昂ぶった。
※現在暫定的に復帰中です。
このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)
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