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第三章
3-1:立派なメイジになりたい










超怖い。





別におイタをしたわけじゃない。

大怪我をしたわけでもない。

お説教をされるような事も何一つしてないし、理不尽な言いがかりをつけられて蹴られたわけでもない。

ルイズの生理だってまだ先だからイライラしている様子に怯えることも無い。

え?

どうして知っているのかって?

そこは聞かないのがエチケットって奴だ。



では何が超怖いのか?

それは……





「おい!ルイズ!そこは僕の席だぞ!どうしてその平民を座らせてるんだ!」


「うるさいわね。あんたは他所で食べてればいいじゃない!この風邪っぴき!」


「『風上』だ!お前記憶力もゼロなのか?おい、平民。さっさとそこを退けよ。」


「なぁ、ルイズ。俺、同じメニューを食わせてもらえるなら別に床や厨房でもいいぜ?わざわざ朝からケンカすることはないさ。」


「だめよ。ここに座っていなさい。これは命令よ。」


「あ、ああ。わかった。命令なら仕方ないな。」


「こら!平民!さっさと退けよ!その汚いナリで僕の席を汚すんじゃなブヘ!!」





言い終わらない内にルイズの拳がマリコルヌの顔面に突き刺さる。

脇を閉め、最短距離を奔る見事な一撃だ。

お、おい、やりすぎなんじゃないか?と言いかけて慌ててルイズから目をそらしてしまう俺。

超怖い。

こういう時は絶対に声を掛けてはいけない、と記憶している表情だったからだ。





「マリコルヌ、『ゼロ』と私を呼ぶのは構わないわ。ううん、むしろ "言い得て妙" だとも思うの。いくらでも言うといいわ。
 だけど、私の使い魔を侮辱する事は許さないからね?」





ルイズはそう言うと何事も無かったかのように席に着いた。

その仕草は大貴族の淑女にふさわしいものだ。

周りの席からおい、どうなってるんだよ?という視線が俺に突き刺さる。

俺は床に転がり鼻に手を当てるマリコルヌを助け起こしながら小声で悪い事言わん、椅子持ってこいな?な?と少し焦った調子で囁いた。

マリコルヌはコクコクと頷いて椅子を取りにすっ飛んでいく。

いつもと違うルイズの事は置いといて俺はとりあえず周囲の視線は黙殺し、食事前のお祈りを済ませて黙々と食事を進める事にした。



今日はカボチャのポタージュにいつもの白いパン、スクランブルエッグにハシバミ草のサラダ、そして肉汁たっぷり厚切りのベーコン。

ちくしょう、うまいったらありゃしない。

ハシバミ草の苦さがベーコンの脂っこさを和らげるって寸法だ。

こりゃ、たまらんね!

うまいうまいと食ってると、不意に隣の席から皿がついっと移動してきて視界に入った。

驚いて顔を皿がやってきた方向に向けると、ルイズがベーコンをくれると合図らしき事をしてきた。

俺は目を開いて彼女を見る。

ルイズは少し頬を染め、眉根を寄せてうぬぬっといった調子で俺を睨んでいた。





「いいのか?無理すんなよ?」


「なによ。ご主人様の厚意が受けられないって言うの?!」


「いや、そうじゃないけど、な?」


「あんたが美味しそうに食べているからあ、あげたくなったのよ!悪い?!」


「い、いや。ありがとうな?」





礼を言うとルイズはフン!と鼻息を鳴らして俺の皿にベーコンを移し、自分の食事に戻った。

俺はドギマギとしながらも旨いベーコンに舌鼓を打つ。

その様子を目を丸くしながら周りの連中は見ていたが、なによ?とルイズが睨むとすぐに各々の食事を再開していた。



そういや、朝からルイズがおかしい。

一人で着替えたがるし、顔も一人で洗っていた。

洗濯も俺に言い付けるのではなくメイドを呼んで頼んでいたし、掃除もしなくていいととまで言い出したのだ。

俺、仕事無いんだけど?と聞くと、あんたの仕事は私の使い魔でしょ!と怒られた。

いや、雑用全般が使い魔としての俺の仕事だってお前が言った事なんだが……と言いかけてやめた。

別に火竜の尾を踏む必要はないしな。





「えっと、じゃあルイズ。俺、鍛錬してるから授業頑張れな?」


「え?だめよ!サイトは私と一緒にいるの!」





食事を終え、食堂を出るときに意外な事をルイズは口にした。

これまでの彼女なら絶対に言わないような台詞だ。





「え、いや?あの、その、な?俺 "ダブル" 封印の為にも強くならないといけないだろ?」


「そんなの、夜やんなさいよ!」


「そりゃ、そうなんだが……」


「あのね?私、昨日考えたの。」


「おう?」


「サイトはいつも大怪我をしているでしょ?」


「べつに、そんなことは……無いと思う。」


「それに、きっと私の知らないところで女の子口説いているわ。」


「そん、そんなことないぞ!」


「うそおっしゃい!昨日私に言ったように、あのメイドやエイムラントにも言ってるのよ。お前を守る、お前だけを見る、お前を愛してるって!」


「言わない!言わないよ!……守る位はちょっとは言うかもしれないけど。」


「そらみなさい!そしてあんたは大怪我すんのよ!」


「しないって!」


「だからね?あんたをずっと目の届く所に置いておくことにしたの。」


「うげ!」


「うげってなによ!大体ね、いくら私とはけ、けけ結婚するとは限らないからってあんたは未来の私とは結婚してるんでしょ!?」


「あ、ああ。」


「なのに浮気をしてる所をこの私が見逃してたら、未来の私はきっと悲しむわ!だから私が代わりに見張るのよ!」


「あ、あの?言ってる意味が……」


「とにかく!あんたはずっと私に張り付いていればいいのよ!」





なんだこれ?

可愛い。

うん、可愛いんだが……なんだこれ?ちょっと行き過ぎなんじゃないか?

なんだかトイレにまで付いて来そうな勢いだぞ?

あ。

そっか。

多分、ルイズ自身も俺への好意はあるんだ!

元々独占欲や嫉妬心は強いから、そういったものをまだ恋人でもない俺に発揮するには使い魔って立場が便利だったんだよな。

そこに未来の自分の夫であるあんたを監視するという大義名分を得たって事か。

ふふふ、よーしよし。

着実に俺に靡いてくれてるってことか!

いやあ、ワルド相手に痛い思いをした甲斐があったぜ。

電撃で焼かれたり、斬られたり、刺されたり、左耳が聞こえなくなったり、ルイズには内緒だけど左目がたまに霞むようになったりと散々だったからな。

ふふ、可愛い所があるよな。

これからは四六時中いっしょかあ、ドキドキしてくるぜ!

……ん?なんでだ?すっごく重い気もする。

こう、なんだ。

前に浮気の疑惑が持たれ、激しいお仕置きの後に真実が伝わり「あんたの脇があまいからよ!」と四六時中あいつの側に居る様命令された時のような?

そういやルイズって極端だからなぁ……

これ、エスカレートしたらトイレやフロの中まで付き合わされるんじゃないか?

いや、風呂は大丈夫だけどさ。

むしろウェルカム、一緒に入りたい。

あ!そういや風呂まだ作ってないや。後でマルトーさんに大釜をもらおう。





「ほら、いくわよ!」


「へい。」





いつものように考え耽っているとルイズに促されてしまい、あわてて教室に向かった。

教室に入ると先に入っていたルイズはクラスメイトに囲まれ、質問攻めに会っていた。

どうやらアルビオンの一件が噂になり、ルイズが何か王女様の密命を果たしたと知れ渡っていたのだ。

だれだよ漏らした奴はと思いながらキュルケとギーシュをにらむ。

タバサはあり得ないから除外。

キュルケは首を振り、ギーシュはプィっと目を逸らした。

お前か、ギーシュ。

ルイズとクラスメイトの会話から、昨日の午後はどうやら授業には出ていなかったらしい。

結局俺の看病を一日中してた、って事か。





「ねえ、ルイズ。一体どんな任務だったの?ギーシュに聞いても肝心な所は教えてくれないの。」


「教えられる訳ないじゃない、モンモランシー。密命だったんだし。」


「いいじゃない、ちょっと位。」


「だめよ。いいわね?キュルケ。ギーシュ。もし漏らしたら打ち首よ?」





ギーシュとキュルケはコクコクと頷く。

取り付く島もないルイズの様子にクラスメイト達は不満を漏らし、今度は負け惜しみを口にした。





「なんだよ。まぁ、どうせ大した事じゃないんだろうさ!」


「そうよ。だって、ゼロのルイズだもの。魔法が使えないルイズに大した事できるわけないじゃない。
 危険な事はその使い魔がきっと全部やってくれたんだわ。だって、あんなに強いのにいつも大怪我しているものね?
 まったく、いいわね。自分は安全な所にいて危ないことは全部その使い魔がしてくれるんだから。」





モンモランシーのその言葉にルイズは何かを言いかけたが唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべる。

別にルイズは安全な所から俺を危険な目に会わせている訳じゃないが、そう見られてもおかしくはない部分もある。

言い返せない彼女がすこし可哀相だったので、代わりにおれが反論する事にした。





「それは誤解だよ、ミス・モンモランシ。使い魔がご主人を体を張って守るのは当たり前だろう?
 俺が大怪我してしまうような任務だったんだ、ルイズが安全な所にいたんなら俺も体を張る必要がないじゃないか。
 フーケの時だって、ご主人が真っ先に杖を掲げたんだぜ?少しは評価する度量をみせてやれよぅ。」


「ふん、生意気な平民ね。あんたはすっこんでなさい。何よ、きったないなりして……何?」





気がつくと、ルイズが俺とモンモランシーの間に割って入り彼女を睨み付けていた。

その様子を見て怯えるマリコルヌ。

おう、気持ちはよくわかるぜ?怖いよな。





「ミス・モンモランシ。いい?覚えといて。私の使い魔を侮辱しないで。それは私への侮辱でもあるわ。
 サイトは平民かもしれないけど、わたしの使い魔でもあるのだからね?」





なにこれ?

いくらなんでも、いきなりやさしくなりすぎなんじゃないか?

こう、意中の殿方を庇う女の子って感じじゃないぞ?

その気迫にうろたえながらも、ふん!と言い残してモンモランシーは自分の席に戻っていった。

周りの空気が重い。

視線も痛い。

居心地の悪さを我慢しながら、やがて来たコルベール先生の授業が始まった。

そしてコルベール先生謹製の愉快なへび君をルイズが爆散させ、いつかのように俺達が後始末をすることになったのだった。



そしてその夜。

やっぱりというか、当然というかルイズは俺の鍛錬にまでついて来た。

虚無に目覚める為には虚無の魔法を一度唱える必要がある事をルイズはもう知っている。

だからもう「きっかけの魔法」を探す必要はなく、彼女が鍛錬に付き合う必要性はない。

無心にデルフを振るう俺を眺めながら、ルイズは人気のないヴェストリの広場の隅で膝を抱えてちょこんと座っていた。





「サイト、暇。」


「じゃあ部屋に先にもどってなよ。」


「あんたも一緒じゃないといや。」


「んなこといったってさぁ。俺、強くならなきゃいけないんだし。」


「今でも十分強いじゃない。スクウェアメイジだったワルドに勝ってるのよ?あんた。」


「 "ダブル" 使ってな。」


「前はどうだったの?負けちゃってたの?」


「なんとか勝てた。」


「ならいいじゃない。」


「よくねぇよ。前もボロボロだったんだし。これからも何度かボロボロになるんだぞ?」


「う、それはやだ。」


「だろ?前と違って俺の戦闘経験はあるけどさ、そんなもん今のままじゃ殆ど役にたたねぇんだよ。」


「どうしてよ?」


「体がついてこない。ルーンの身体能力強化は素の俺を基準にしてるみたいだからな。鈍ってるままじゃ意味はないさ」


「今のままでも十分なんじゃない?」


「あのな。今の俺はルーンの力無しじゃ何もできないも同然なんだ。
 そりゃ、前と違って技や経験はあるさ。だけどそれらは体が出来上がって初めて使えるんだ。
 ワルドはルーン無しでも俺の動きについてきた。つまりな、鍛えれば今の動きはルーン無しでもある程度は出来るって事だ。
 素の俺がワルド並みに動けるようになれば、ルーンを使った時の効果はずっと上がるはずだろ?」


「そんな事できるの?ひょろっちぃあんたに。」


「全盛期の俺って結構凄かったんだぜ?」


「信じられないわね。」


「信じてくれよぅ。俺、今よりもっと強くなるんだってば。」


「今でも十分強いわよ。」


「だめだ。」


「なんでよ?」


「確かに今なら俺はどんなメイジにも負けないだろうさ。 "ダブル" が無くてもな。
 だけど、その強さは魔法の無効化ができるデルフとルーンがあって初めてもてる強さだ。
 そんな動くマジック・ウェポンなんて俺は嫌だ。」


「いいじゃない、それで。」


「じゃあ、今のままルーン使いまくって怪我した方がいいのか?」


「やだ。」


「だろ?だからこうして鍛錬しておくんだよ。強くなれば怪我をする事もなくなる。
 それに体さえ作ればあとは思い出しながら、なんとか取り戻していけるだろうしなっと。」





そう言って俺は思いっきりデルフを薙ぎ払う。

止めの位置でピタリとさせるつもりだったが、体は流されて泳いでしまった。

やっぱりまだまだだよなぁ、と苦笑いを浮かべた。





「……ねぇ。」


「なんだ?」


「虚無ってどんな魔法?」


「そうだな……お前の失敗魔法あるだろ?あんなかんじなんだぜ。エクスなんとかっって名前の。」


「爆発?それが虚無?」


「いや。他にも幻影を作り出したり、瞬間移動したり、記憶を消したり、いろいろできるぜ?」


「そうなんだ。」


「どうした?」


「……あのね、ワルドが言ってたの。あんたは伝説の使い魔だって。」


「ま、な。だけど俺が凄いんじゃないぞ? このルーンとデルフが凄いだけさ。それがイヤだからこうやって鍛錬してるんだけど。」


「なのに、そんなあんたを使い魔にしている私は魔法ができないわ。」


「今はな。」


「あのね、私ね? 立派なメイジになりたいの。強く無くてもいいから、きちんと呪文使えるメイジになりたい。」


「もうちょっとの辛抱だ。もうすぐ使えるようになるさ。覚えようとして覚えられるもんじゃないし。」


「うん。」





ルイズはそれっきりで黙り込んでしまった。

俺も再び鍛錬に集中する。

それからすこし経ってから俺は鍛錬を切り上げた。

ちなみにデルフは先日ルイズが我を失って俺に飛び掛った時の事を見て以来、何も話さなくなっていた。

お前、一体何を見たんだ?

どうしてその事を聞くとカタカタと震えるんだ?





「じゃ、サイト。部屋にもどりましょうか。」


「ああ、先に戻っててくれ。」


「……何よ?私に内緒でどこかにいくの?」


「違うって。ほら、俺汗かいてるだろ?だから洗濯場で体を拭いて服を着替えるんだ。」





ちなみに俺は厨房の見習いの兄ちゃんからズボンとシャツを分けてもらい、鍛錬する時や一張羅を洗濯した時に着ている。

ああ、そういや俺の一張羅もそろそろ限界だよなぁ。

ワルドの奴に穴をぽこぽこ空けられたし。

同じデザインの服を作りたいけど金がないんだよなぁ……

アンリエッタ女王からのアルビオン行きのご褒美は、個人的な密命だったからあの水のルビー貰っただけだし。

王子の風のルビーは王女にあげちゃったし、どうしようかなぁ。

……また血を売るかな。





「な、なななにしてんのよ。い、いくわよ!ほら!」


「ん?」


「洗濯場!そこで体を拭くんでしょ!?」


「あ、ああ。だけど……」


「ついていく。」


「ええ?!はずかしいよ!」


「な、何がはずかしいよ!あんただって散々私の服を着せるときに下着姿見てたじゃない!」


「あれはお前がそうしろって命令だったし仕事だったろ?それに今は着替える時は廊下に出ているじゃないか。」


「私だって仕事よ!あんたが浮気しないように見張らなくちゃいけないんだし!」


「い、いや、浮気って、俺たちまだ……」


「勘違いしないで!未来の、そう!未来の私のためなんだから!ほら、いくわよ!」





ルイズはそう言ってズンズンと洗濯場の方へ歩いて行ってしまった。

夜目にも分かるほど耳が真っ赤になっており、がに股で手と足が同時に前……というか横に出ている。

音にするとギーコ、ギーコと歩く彼女の後ろで俺はやれやれ、とかぶりを振ってせかすルイズに続いた。

洗濯場では案の定、服を脱ぎ体を拭く俺に変なモノを見せるな!と桶を投げつけてくる。

だったら見なきゃいいのに。

そりゃ、上半身だけですむならいいけどさ。

アッチの方も拭いておかないと、ルイズと同室で暮らすにはいろいろとまずい。

っていうか、その顔を覆う手はなんだ?目を塞いでいるつもりか?

指の間から瞳が見えているんだが、見たくないのか?見たいのか?どっちなんだよ?

何度も後ろをむけよ!と言っても向いちゃくれないので、俺がルイズに背を向けてかまわず体を洗う。

後ろからきゃぁきゃぁと声が聞こえるが無視だ。

あ、ついでに脱いだ服も洗っておこう。



粗方体を拭き終わり着替えを終えて後ろを振り返ると、ルイズは俺に背を向けしゃがんでなにやらブツブツと呟いていた。

……何がしたいんだお前は。





「おーい、終わったぜ?」


「お、お、お」


「戻って来ぉい、ルイズぅ」


「お、お?おわ、終わった?え?」


「ああ、終わった。……お前、熱でもあるんじゃないか?ちょっとおかしいぞ?」


「きゃあ!あんな所触った手で触んないで!!」


「ああ、もう。わかった!分かったから騒ぐなって!」


「はぁ、はぁ、色々と刺激が強すぎるわね。」


「そりゃ、男の入浴?を堂々と見りゃな。」


「……入浴?私が?」


「ああ、そういう事だろ。……まさか、そこまで頭が回ってなかったのか?」


「……いやあ!ちがう!わわわた、私はそんなつもりじゃ!」


「じゃあ、どういうつもりだったんだよ?」


「あんたが浮気しない、ように、その……」


「もしかして、そればっかりになっちまってほかの事まで頭が回らなくなったのか?」





ルイズはコクリと頷いた。

大きくため息をついてからルイズの目を見て俺は続ける。





「なあ、ルイズ。一体どうしたんだ?」


「な、何がよ?」


「お前、変だぞ。」


「変じゃないわよ!」


「いいや、変だ。雑用はしなくていいとか言い出すし、こんな所までついて来るし。」


「……なんでもないわ。気にしないで。」


「まぁ、いいけどさ。でも、風呂とトイレ位は一人にしてくれよ?」


「……そうね。私、どうかしてたわね。ゴメン、サイト。」


「いいさ。なんか思うところがあんだろ?気にすんな、部屋に帰ろうぜ。」





俺はそう言って部屋に帰るよう促す。

ルイズはすこし恥ずかしそうな顔をして、そうねとぼんやり答えて俺の後ろをついてきた。

その帰路、彼女は呟くような声で話の続きを始めた。





「……あのね?その……アルビオンから帰ってきてからね?今までの事考えてる時に、私、サイトに何もしてあげて無い事に気がついたのよ。」


「いいよ、気にするなよ。怪我の看病とか色々してくれてたじゃないか。デルフも買ってくれたし。」


「あんなのはメイジとして当たり前よ。それに、あんたにロシェールで酷い事を言ったわ。」


「あれはしょうがないさ。嫉妬してたのも本当だったし。」


「でね?急にあんたに愛想つかされるんじゃないかと怖くなったの。目を離すと、どっか行ってしまいそうで。
 あ、でも未来の私の為に監視しようと思ったのも怪我しちゃうと思ったのもホントだからね?」


「そっか。」


「そ。」


「まあ、心配すんな。できれば、今まで通りにしてくれると助かる。」


「あら?ご飯は今までの奴がいいの?」


「いや、それは今の待遇で。」





悪戯っぽく笑うルイズに俺もニヤリとして答えた。

なんだか、無性に胸が弾んでくるのを感じる。

既に寮内に入って静かな廊下を歩きながら話していたが、こんな会話をずっとしていたいと思い始めていた。

しかし、目的の部屋はもうすぐそこだ。

伝えたかった事を言えて気が晴れてきたのだろう、ルイズは俺の前を歩き出して話を続ける。

今度はいつものご主人様の声だ。





「寝床も考えてあげるわ。」


「あ!そういや、お前どうしてロシェールで前の主人の事……」


「ごめん。手紙、読んじゃった。」


「それで……」


「悪かったと思ってるわよ。」


「まぁいいけどさ。こうして全部話したし。」


「だから、そのお詫びと言っちゃなんだけど、今日からあんたベッドで寝ていいわ。」


「なぬ?」


「だ、だから!何度も言わせないでよ!私のベッドで寝ていいって言ってるのよ!」


「ば、ばか!こんな所で大声出したら!」





瞬間、ネグリジェ姿の女子生徒達が一斉に各々の部屋のドアを開けて声の主を注目する。

惚れた腫れた寝ただの振られただの、色恋沙汰は彼女たちの大好物だ。

即座に俺はルーンを発動させてルイズを担ぎ上げ、猛然と元来た廊下を走り出した。

無理だ。

あれをフォローするなんて無理だ、ルイズ。

しばらく部屋に戻らないほうがいい。

もしかしたら良く顔を見られていなかったのかもしれない。

そう後で説明してルイズと共に深夜遅くまで外で過ごしてから朝方コッソリ部屋に戻ったが、その甲斐も無く見事なまでの速さで噂は広まってしまった。





当然、誤解を解いて回るのは主に、寝不足の使い魔の役目となったのだった。










※現在暫定的に復帰中です。


このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。

リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)


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