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幕間劇:序
intermedio0:ダブル










突然だが俺、平賀才人は懐かしい夢を見ている。





『フリッグの舞踏会』が行われる少し前、夕方の時分だろうか。

土くれのフーケを捕らえ、オスマン学院長に報告をした後でルイズの部屋に戻り治療を受けた時だ。

俺は捕縛の報告の後、学院長の部屋に残り一向に話そうとしないデルフの仮病を見抜いてもらってから、自身のルーンの事を話した。

ガンダールヴである事、使うと反動が凄まじいという事、フーケのゴーレム相手に使った事、そして今も発動させ続けてその反動を抑えている事。

前回と違い異常な能力である事は言わなかった。どうせ、わかりっこない。

そして学院長にフーケ捕縛の褒美として、すぐに医者と秘薬を用意してもらい、治療を行って貰えるよう交渉していたのだった。



何が何でも『フリッグの舞踏会』でルイズと踊りたかったもんな。

俺、アンリエッタにティファと一緒に必死で練習"させられてた"んだぜ?

三国の王配だから、パーティーに出ないわけにいかない事も多かったし。

作法やらレッスンやらで必死に色々覚えて、豪華絢爛煌びやかなパーティー会場へ赴いて、眠い眼を擦りながらダンスこなして

ゲストの貴族どもを笑顔でお見送り、ヘトヘトになって馬車に乗り込んで、その帰りがけに暗殺者に襲われる、ってスケジュールを

ずっとこなしてたんだ。

ちなみに暗殺者イベントが余りに面倒臭くなった時、ロマリアで何本か仕入れてた『破壊の杖』で吹き飛ばしてやった事もあった。

暗殺などを行う貴族の風上にも置けない相手には俺は一切容赦しなかったから、一部貴族の間じゃ結構な悪評だったんだぜ?

貴族向けの戯曲なんかで俺、女好きの変態で卑怯な悪党にされてたりした事もあるし。

まあ、ロケランはちょっと可哀相だったけど、その時の暗殺者がスクウェアだったお陰で暫くは狙われなかったのは良かった。

そこまでして培ったこの技術、なにも知らないルイズに見せ付けてキャーステキ!って思って欲しいじゃないか。



閑話休題。

俺の希望通り医者と秘薬を用意してもらい、事前に許可を取っていたルイズの部屋のベッドで寝てからルーンを解除したときの事。

俺は気を失わなかった。

激痛が体中を襲い、バチン、と脚の腱が切れる音を聞き、同時にゴキンと右腕が折れ、ぎゃあ、と情けない悲鳴を上げた。

やはり強化ルーンを使い、超速移動までは行わなかったとはいえ、あのデカいゴーレムの一撃を支えて押し返した事が不味かったようだ。

それでも以前とは違い内臓にまではダメージは来なかったようで、比較的?軽症であり意識も失わず早く魔法治療が終わったのだった。



俺を治療した医者は例の奴で、ますます俺の血が秘薬の一種だと確信を深め、治療の跡コッソリ血を抜こうとしていた。

仕方ないから適当にタコ殴りして、廊下に放り出しておいた。

多分、フレイム辺りがお持ち帰りしてくれるだろう。

次やったらシルフィードに食わせてやるからな。

そんなやり取りの後、俺は少し眠った。

大きな傷はある程度癒えていたが、やはり時間をかけて回復させる必要があるし、疲労も溜まっていた。

ま、とりあえず今日の夜の舞踏会に出席できればいいからな、動きゃいいんだよ、体なんて。

寝過ごす事だけが気がかりだったが、そこはデルフに起してもらうよう頼んだ。

そしておれは冒頭に至り、その夢を見た。



とても懐かしく、愛しい夢を。












「どう?調子は。まったく、随分無茶ばかりしてるわね。」





ルイズだ。

いつも夢に出てきて俺にお仕置きや調教や折檻や肉体言語での説教をする方の、妻で大人のルイズだ。

背は伸び、胸は……控えめなままだけども、凛としてスラっとした外見で。

手足は細く白く、同じく白い首筋にピンクブロンドが映えてとても美しい。……彼女が最も外見的に輝いていた時の姿だ。





「"たまに見える"わよ?サイトが約束を守ろうとしてくれる事、とても嬉しいわ。」





そう彼女は言いながら柔らかに笑う。

ルイズ?なんかいつもと違うな?いつもならまた泣かせたわねー!!ってオークみたいな怖い顔して俺の関節を獲りに来るのに。





「はあ?あんた何言ってんの?」





へ?





「わたしよ、あんたを送り出した方の。」





ええ?!"あっち"のルイズか?!





「そうよ。」





でも、おれ……





「あんたね、使い魔とその主の絆って奴、舐めてない?異世界や時空を超えた位で切れるものですか。
 ましてやあなたは虚無のルイズの使い魔、 "ガンダールヴ" のヒラガサイトなのよ?
 時間を遡り、若い肉体を取り戻した位で逃げられる訳ないじゃない。
 流石にいつも、って訳じゃないけどたまにね、"見える"のよ、あんたのこっちに送ってからの記憶。」





そ、そうか。……そういや以前似たような事をロマリアで言われた気がするなあ。誰に言われたっけ?





「そんな事はどうでもいいの。こうやって "繋ぐ" のも堪えるのよ?わたし、ここじゃ見てくれはこうだけど
 ホントはしわくちゃのお婆ちゃんなんですからね。サイト、あなたに伝える事があるわ。」





な、なに?出来れば再会を喜びたいんだけど……





「いいから!この "繋ぐ" 魔法ってのは条件が沢山あってタイミングがとても難しいの。次はいつになるかわからないのよ……
 あんた、その次の時にはそのルーンのお陰で死んでるかも知れないのよ?」





げ!そうなの?て、お前、知ってるの?このルーンの正体。





「全部ではないけどね、大体は分かってるわ。いい?黙ってきくのよ?いいと言うまで返事以外口利いちゃダメよ?」





俺は頷く。

ルイズの様子がすこし、焦っていたからだ。

余程のことなのだろう。




「いい?あのね、きっかけは……そうね、あんたがギーシュと決闘をした記憶が流れてきた時ね。ルーンが変につよく反応してたでしょ?
 そして、反動と言うにはあまりに大きな怪我。その記憶を見て、色々と調べたのよ、今のサイトのルーン。」





うん





「大分仮定も混じるけど、多分間違えないと思うから信じてね?まず、今のあんたの状態ね。
 サイト、あなたはいま左手の同じ場所にわたしと、そっちのちいさなルイズの二つのガンダールヴが宿っているわ。」





へ?二つ?上書きとかじゃなくて?





「そうよ、二つ。通常は片方だけ発動してるけど、そこから更に力を求めると二つ目が発動するようね。」





そうなのか……





「問題はこの二つ目……そうね、便宜上二つ発動した状態を "ダブル" って名付けましょう。
 で、ダブルが発動するとお互いのルーンと共鳴して効果が相乗されるわ。」





うん、それは使った俺が良く分かる。





「ただ、問題は反動の方ね。ダブルをまともに全開で使うとまず、死ぬわ。」





だよなあ。





「でね、サイト?ガンダールヴの本来の意味、覚えてる? "魔法を操る小人" ね。いい? "武器を操る小人" じゃないの。
 "魔法を操る小人" なの。」





う、うん。おれ、魔法つかえないけどな。





「そこよ、問題は。元々、ガンダールブの能力は身体能力の向上が主だったようね。そして、その身に宿す者は
 ルーンの力の代償に魔力を吸われるはずだったのよ。でもあなたは魔法が使えない。」





うん。





「つまり、サイトは今までルーン発動の代償として魔力の代わりに体……命を差し出していたって事。べつに無理矢理体を動かして

 その反動で体が傷ついて居た訳じゃなかったのよ。」





げ!そうだったの?!





「考えてみればおかしいもの。あれだけの動きをした後で、せいぜい筋肉痛とかで済むのって。
 特にダブル発動時の耐久力とか超スピードとか、全開でないにしても人間の体で反動を受け止められるはずないじゃない。」





まあ、そりゃあなあ。





「で、調べて分かったのは、ガンダールヴは魔力を代償に、体を魔法で強化するルーンなの。身体能力を物理的に上昇させるわけじゃないわ。
 当然、相応の魔力があれば別に体に反動はこない。ま、武器の知識は歴代ガンダールヴが蓄積した、経験を利用したオマケみたいなものね。」





おお!それじゃ、無反動でルーンを仕えるのか?!





「そんなわけないじゃない。あんた、魔法使えないでしょ?」





しゅん……





「でも、手が無い訳じゃないわ。デルフリンガー、持ってるでしょ?あれ、元々ルーンが賄い足りない魔力を
 補う役目だったようなのよ。だから、左手用の剣だったわけね。まあ、魔法防御も兼ねてるのも事実っぽいけど。」





おお!そういやあいつ攻撃魔法を吸収できるもんな!





「それに、魔法を吸収したデルフリンガーから魔力をルーンに送る為に、ルーンの能力として魔力を吸収することが出来るはずよ。
 ダブルを使うとデルフだけじゃなくて、魔法そのものやメイジからも補給できるはずよ。
 ルーン同士の共鳴効果で、魔力を補給する為の経路が外にむき出しになる構造みたいね。でもこれはダブル発動後じゃないと使えないわ。」





つまり……ダブル使って、その戦闘中にデルフや左手で魔法を吸収したり、戦闘後に誰かメイジを触って、魔力を補給すれば……





「ええ、ある程度の反動は無くなる。」





やった!





「そんなに甘くないわよ?元々魔力が有る人間の為のルーンですもの。外から吸収できる量なんて知れてるわ。
 あくまで外からの補充は補助目的なのよ。一度に大量に吸収は出来ないみたいだし。それに、魔法から直接吸収するのもダメね。
 サイト、ファイヤーボールに手を突っ込んで無事に済むと思う?」





熱いのはイヤです。





「わかってるじゃない。だからね、魔力の吸収で反動を和らげるのは気休め程度に考えておきなさい。
 事前に蓄積するのもダメ。魔力を使うのはルーンであってサイトじゃないもの。サイトには魔力を貯める事はできないしね。」





そうか……ま、理屈がわかっただけでもよしとするか。





「ごめんね。だけど、少しだけ私も力になれるわ。」





……もう、十分力になってくれてるよ。





「……ありがと。ね、サイト。左手を見せて?」





俺は左手を差し出す。

彼女は俺の手を優しく獲とり、左手の甲のルーンの中央をさえぎるように、手首から中指へかけてつい、とその白い指でなぞった。

ルーンの中央を交差するように幅1cm程度で一本の線が入る。





「ルーンの身代り魔法……というか、呪いね。」





の、呪い?!浮気したら強制的にダブルになるとか?!!





「……それもいいわね。次までに考えておくわ。これはね、体の任意の場所へ反動を導く魔法よ。」





……失言だったな……





「普通の反動はたとえダブルでも "癒える" わ。だけど、これを使って反動を導かれた部位は二度と "癒えない" 。」





意味ないんじゃない?




「あるわよ。たとえば、左目をこれで身代わりにしてダブルを全開にした場合、全身を引き裂かれながら死ぬより
 左目が見えなくなる方がよほどマシでしょ?それに、魔法の補充がうまく行けばすこし視力が落ちる程度で済むしね。」




ああ、なるほど。




「どこから身代わりにするのはこの魔法が選んでくれるわ。選択権はないわよ?この左手の線が真っ赤になったら
 身代わりの部位が完全に死んでしまうサインだからね。ちなみに、全開だと身代わりとなった部位が死ぬまで三秒がいいとこね。
 もうちょっと引き伸ばしたかったけど、このルーンの使用魔力を体の部位を生贄にする方法で代用するとこれが限界だったの。
 あ、最初の犠牲部位は左耳の聴力みたいね。」





よし!これでダブルは使い物になるな!





「何言ってるのよ!ふざけないで!」





ルイズの突然の剣幕に俺は驚く。

彼女は怒りを露にし、涙が頬を伝っていた。





「あんたね!ギーシュの時の記憶を見た私の気持ちがわかる?!
 その後、遊びで発動させて寝込んだ時の事を知った私の気持ちがわかるの?!!
 いくら身代り魔法があったって、使うたびにサイトの体を確実に蝕むわ!
 普通のルーンの反動もそっちにいくのよ?!更にダブルを使うたびに確実にサイトは死に向かうのよ?!
 なんの為にそっちへ送ったと思ってるの?!どんな想いを込めてここへ届けたと思ってるの?!
 ふざけないで!」





ルイズはそう言うと、子供のように泣き出した。

俺はただ、ゴメンと呟くしかできなかった。

やがてルイズは顔を俺に向け、神妙な面持ちで口を開く。





「ねえ、今でも私のこと、愛してる?」


うん、愛してる。


「私のこと、最後まで守ってくれる?」


うん、きっと守るよ。最後まで、生きて。


「私の為に戦ってくれる?」


うん。何度でも、お前が笑ってくれるなら。


「約束、して。」





夢から覚めつつあるのか、ルイズの姿は消えていた。

しかし、俺には彼女がどんな顔をしているかわかっていた。

きっとあの時と同じだろう。





「約束するよ。」


「愛しているわ、サイト。」





そしてガンダールヴは夢から覚めた。










※現在暫定的に復帰中です。


このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。

リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)


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