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第一章
1-11:敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶ










「サイト!ルイズ!」





キュルケとタバサが風竜から降りて、駆け寄ってきた。

俺はバンザイをして土に埋まりながらその様子を眺める。





「ルイズ!すごいじゃない!見直したわ!」


「きゃ、わ、何するのよ!」





キュルケがやや興奮した様子で、俺の前でへたり込んでいるルイズに抱きついた。

抱きつかれたルイズは、キュルケの賞賛にまんざらでもないようだ。

ルイズは胸を押し付けるように抱きついてくるキュルケを振りほどくと、んしょ、と可愛い声で立ち上がり

むんずと折れた剣を握る俺の右腕を掴んだ。





「キュルケ、サイトを引っこ抜くの、手伝ってくれる?」


「ええ、いいわよ。……ひゃああ!」





俺の左手を握ったキュルケが突然エロい……もとい、変な声を上げ尻餅をついた。

俺、そんなにイケメン?……な、訳ないよなあ……





「ど、どうしたのキュルケ!?」


「どうした?お、おれ何もしてないぞ?」


「あ、え?、えっと。ダーリンの左手を握ったら急に体の力が抜けたというか、魔力が吸い取られるというか……
 ごめんなさい、それでビックリしたの。」





俺とルイズは思わず顔をあわせる。

どうやら他にも特殊能力があったらしい。

だけど、さっき二人を抱きかかえた時はなんとも無かったよな?

そう思案してルイズに目をやると、ルイズがはっ、とした顔になっていた。

ん?ルイズ?何か心当たりがあるのか?

彼女はワナワナとして、一歩後ろに下がる。





「サイト。」


「何だ?」


「見た?」


「はえ?」


「みみみみみ、みたでしょ!」


「う?」


「パンツ見たでしょ!!この変態犬!!!」





超怖い。


そりゃ、位置的になあ……

だけど、俺、土の中の部分はボロボロでそれどころじゃな痛ってえええ!!!

ルイズ、サッカーボールキックはダメだって!

あ、踏まないで!お願い!って、なんでキュルケも一緒になって踏んでるの!!

さっきまでダーリンダーリン言ってたじゃん!

く、暗くなってきた……ルーンを強く発動したから武器は手放す訳にはいかん。い、意識をしっかり……





「はぁ、はぁ、はぁ、まったく!油断も隙もないんだから。」


「ふぅ、ふぅ、そ、そうね。ダーリンも一言言ってくれれば幾らでも見せてあげるのに……」


「お、お前らなあ……俺、土の中は怪我してるんだぞ?土の外も今怪我したけど。」


「と、とにかく引っこ抜きましょうか、キュルケ?」


「え、ええ。でも近寄ると下着見えちゃうから、タバサのシルフィードにお願いしましょうか、ルイズ?」





そう言うとキュルケは、後方で俺たちの様子をみていたタバサに声をかける。

近寄ってこなかったのは俺の位置からは、パンツが見える事に気が付いていたからだろう。

うん、思慮深い子だ。

政治をやらせたらアンリエッタより凄かったもんな、タバサ。

くそう、白、赤と来たから絶対ブルーが来ると予想してたのに。

あ、シルフィード?や、やさしく噛んでね?

あだ!あだだだだだだ!!!食い込んでる!犬歯食い込んでる!!シルフィード、お前半分位ならとかおもってねえか?!

いくら俺でも半分も齧られたら死んじゃうぞ?だから食べちゃダメだぞ!?わかった?





「食べちゃだめ。」


「悲鳴を上げながらドラゴンに齧られて引っこ抜かれるダーリンも素敵……」


「まるでマンドラゴラね。」





タバサ……お前の食べちゃダメ、は頭にお腹を壊すから、って付いていそうだな。

俺はシルフィードに地面から引っこ抜かれて、ぺっと吐き出された。

唾液がたくさん付いてしまった。……ちょっと食いたかったのか?シルフィード。そんなに名残惜しそうな顔するんじゃない。

やれやれ、と思いながら怪我の具合を確かめる。

ルーンを発動させてルイズの側に居るから、痛みはそれほど感じないんだけど……





「フーケは?」





タバサの問いに俺たちは崩れた土を探してみる。

もうすぐその辺から出てくるよ、とは流石に言えない。

当然、いない。

その様子を見ていたのか、茂みからミス・ロングビルが出てきた。

この後一応小芝居に付き合ってやらんとな。

フーケも昨日の夜『破壊の杖』を盗んで使い方分からなくて、ここまで往復してるから寝てないんだろうし。

良く見ると目にクマできてるじゃん。

寝ないとすぐ肌が荒れるぞ?

ルイズだったら怖くて近寄れなくなる位なんだから。





「ミス・ロングビル!フーケはどこからあのゴーレムを操っていたのかしら?」


「さあ、わたしにもわかりませんわ。」


「あ、ルイズ。指大丈夫か?見せてみろよ。」


「な、なによ、急に。」


「ほら、土を素手で掘ってくれただろ?ミス・ロングビル!『破壊の杖』をちょっともってて。」





俺はそう言いながらルイズから『破壊の杖』を受け取り、ミス・ロングビルに渡す。

ほれ、仕事しやすくしてやったぞ。さっさと終わらせようぜ。

さっきからすこし脇腹が痛いんだ。

ミス・ロングビルは俺から『破壊の杖』を受け取ると、スっと距離をとって俺たちに突きつけた。





「ご苦労さま。」


「ミス・ロングビル?!」


「どういうことですか?」


「さっきのゴーレムを操っていたのはわたし。」


「え?!じゃあ、あなたが……」


「そう、土くれのフーケ。流石は『破壊の杖』ね。私のゴーレムがばらばらにされてしまったわ。」


「くっ、俺たちを騙していたってわけか!!」





どう?俺いい演技してる?

一度でいいから台詞のある役をしてみたかったんだよね、学芸会とかでさ。

恥ずかしいから立候補とか出来ない子だったんだよな。

推薦されるほど人気なかったし。





「おっと、動かないで。『破壊の杖』があなた達を狙っているわ。全員杖を捨てなさい。そこのすばしっこい使い魔君も剣を捨てなさい。」





皆言うとおりに杖を捨てる。

俺もルーンを発動させながら剣を捨てる。

すこし圧迫感を感じた。剣を持ってない分、負担がかかっているのだろう。





「どうして!」


「そうね、説明してあげる。わたしね、『破壊の杖』を盗んだのはいいのだけど、使い方が分からなかったのよ。」


「使い方?」


「ええ。振っても、魔法をかけてもウンともスンとも言わなかったもの。使い方が分からないんじゃ、宝の持ち腐れでしょう?」


「それで魔法学院に戻って捜索隊を出させ、使わせる状況を作ったという事か。」


「ええ、そういう事。あなた達が知らなかったらそのままゴーレムで踏み潰して、また学院に戻れば良かったしね。」


「このっ!」


「ルイズ、言わせてやれ。」





海辺の断崖絶壁で自分の罪や謀を告白するのは犯人の権利だからな。

ここ、森の中だけど。





「サイト!」


「随分物分りのいい使い魔ね。続けるわよ?お陰で『破壊の杖』の使い方もわかったし、ほんと、あなた達には感謝してるわ。」


「俺たちをどうする?」


「残念だけど、ここでお別れね。」





フーケはそう言うと俺たちに向かって『破壊の杖』……ロケットランチャーを肩に担いで構えた。

タバサ、キュルケは目を瞑る。

ルイズは目に涙を浮かべて、悔しそうにフーケを睨みつけていた。

なにこれ、横から見てても超怖い。





「なあ、フーケ。」


「なに?使い魔君。命乞い?」


「いいや。聞きたい事が残ってるんだ。」


「……いいわ。言ってごらんなさい?」


「お前、貴族ばかり狙う盗賊だよな?」


「そうよ。間抜けな貴族の顔を見るのがすきなの。」


「そうか。お前もその間抜けな貴族がするように『破壊の杖』で、杖を捨てて何も抵抗出来ないこいつ等を殺すのか?」





一瞬、フーケが驚いたような顔をする。

まあ、知ってるしな、フーケの事情って奴も。

卑怯だけど、説得・説教パートがなければ犯人は後悔してくれないし。





「なあ、フーケ。お前も、気分次第で力のない平民に暴力を振るうような貴族と同じなのか?」


「それは……」





俺はフーケが動揺した隙を突いて、一気に距離を詰め腹に拳を突き立てる。

フーケはうぐ、と呻いて気を失った。

ゴメン、監督。やっぱ説得とか説教とかめんどくさくなっちゃった。

俺、そんなに頭よくないし。息子も説教よりもブン殴って怒る事が多かったしなあ。

あ、娘には手をあげた事はないぞ?

今ならルイズがあんたに口で説教するよりも楽だからと言いながら、肉体言語でお仕置きしてた気持ちがちょっとわかる。

……まじめな話、フーケをここで説得し、味方にしようと俺は思わないし味方になるとも思えない。

政争の末、家族を殺され家を潰され貴族を憎んでいる彼女は、孤児院の子供達を支援するような善良な一面もある。

ティファニアの事もあるし、仲良くしたいのも確かだ。

だが果たして彼女は今の俺たちの説得を聞き入れるだろうか?

俺がもしアルビオンでワルドにルイズを殺され、どこかで初めて会う同じレコン・キスタのメンバーに

俺はワルドと違うと言われて、その言葉だけで納得するだろうか?

ティファの立場のように、レコン・キスタに狙われている子を保護していて、戦っているメンバーの相手がその存在を知っていると聞かされ

相手を始末するならともかく、味方だという言葉を信じられるだろうか?

下手するとティファの隠れ家を変えられ、二度と会えなくなるのかもしれない。

結果、ヴィットーリオの手に落ちたりする事も十分考えられる。

しかもフーケは凄腕のメイジで、今、俺たちは命のやり取りをしているのだ。

現に彼女は『破壊の杖』を躊躇なく俺たちに向けてきた。

もたもたしてる内に彼女に杖を持たせ、再びあのゴーレムを錬金されると目も当てられない。

ここで捕まえても後で逃げおおせる事もわかってるし、アルビオンの時も犠牲はでないし、放っておいても後で和解出来るフーケを

今この場で出来るかどうかわからない説得を行うのは、俺の自己満足でしかない。

そんなものの為にルイズ達を付き合わせて、これ以上危険に晒す訳にはいかないしな。


俺は悪いな、と心で詫びながらフーケから『破壊の杖』を取り上げて、ルイズに差し出した。





「サイト?」


「フーケを捕まえて、『破壊の杖』を取り戻したぜ。」





俺はニヘヘと笑い、三人を見た。

三人は顔を見合わせると、歓声をあげて抱擁しあった。

俺は捨てた折れた剣を拾って学院までの帰路、ルーンが維持できるかなあ、と一人肩を落とした。










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「死んだ方がいいのでは?」





私もそう思う。

オールド・オスマン学院長が、ミス・ロングビルことフーケを秘書として雇っていた理由を聞いた感想だ。

まさか居酒屋でおしりを触らせてくれたからだなんて……

一瞬どこの関節から外してやろうか真剣に悩んだじゃない。

あ、コっぱげ先生、オスマン学院長に説得されちゃった!

なんか幻滅……

そんな私たちの冷たい視線に気付いたのか、コホンとひとつ咳払いをしてオスマン学院長は続ける。





「さて、君たちは良くぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り戻してくれた。先頃、フーケは城の衛兵に引き渡したし
 『破壊の杖』も学院の宝物庫に無事戻った。一件落着じゃな。フーケの奴も観念したのかえらく大人しかったとの事じゃ。」





オスマン学院長はそう宣言すると、私たちの頭を優しくなでてくださった。

先程のフーケの話を聞いていなければ、今日は髪を念入りに洗おうとは思わなかっただろう。

そう言えば、森からの帰りにサイトのルーンの能力を調べる為、フーケを実験につかっちゃったのよね。

ずっと左手で触らせてたら、フーケの奴みるみる弱って……

あいつのルーンって一体何なのだろう?

珍しい、というか見た事ないルーンよね。今度じっくり調べましょ。





「そこでじゃ。ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプストーには『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。
 ミス・タバサには『精霊勲章』の授与申請をな。追って沙汰があるじゃろう。」


「本当ですか?」


「本当じゃ。君たちはそれだけの事を成し遂げた。胸をはりなさい。」





私はその言葉にとても感激した。

やっと、やっと認めてもらえた!

そう思うと涙が再びこみ上げてきたが、あることに気が付いた。





「オスマン学院長、サイトにはなにかないのですか?」


「残念ながら彼は貴族ではない。」


「でも!サイトは命がけで戦ったわ!誰よりも真っ先に敵と剣を交え、誰よりも傷を負ったわ!なのに貴族じゃないからって……
 魔法が使えるから貴族と呼ぶんじゃない!敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶのではないのですか!」





わたしは思わず声をあらげ、学院長に詰め寄る。





「いいんだ、ルイズ。俺はお前の使い魔だろ?俺の手柄はお前の手柄さ」


「でも!……いいわ。オスマン学院長、失礼しました。」


「うむ、気にする必要はない。彼には私から何かお礼をしよう。さて、今日は『フリッグの舞踏会』じゃ。
 『破壊の杖』も戻ってきた事だし、予定通り執り行う。今日は君たちが主役じゃぞ。」





オスマン学院長は目を細めてそう言った。

私たちは礼をして部屋を後にしようとしたが、サイトは残った。

なんでも大事そうに抱えているボロ剣が喋らなくなったとかで、オスマン学院長とコっぱげ先生に相談するのだとか。

不良品じゃないのそれ?と言うと、誰のせいだよ!と怒られた。

まったく、ちょっと見直したというのに八つ当たりするなんて失礼しちゃうわ。

あとでしっかりお仕置きしとかなきゃ。

はぁ、躾ってほんと、たいへん。

そう思いながら部屋を退出し、教室へ戻ると皆が私たちの話を聞こうと待ち構えていた。


そこにはもう私に嘲る目を向ける者はいなかった。










その夜。

『フリッグの舞踏会』が食堂の上のフロアで予定通りに開かれた。

入り口の扉の向こうでは皆、煌びやかに着飾り豪華な食事や音楽、ダンスや男女の語らいに時が経つのを忘れている。

暗い廊下に立ち、衛士が私の名を叫ぶのを待つ。

ここから見る光景は見慣れたはずだったのに、今居る場所からはまるで別の世界のようにもみえた。





「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなぁぁぁぁりぃぃぃぃぃ!」





わたしはその声を聞き、会場へ足を進めた。

皆が私を見る。

昨日までは嘲笑、侮蔑、あざけり、悪意、憐憫。

今は羨望、好意、憧憬、嫉妬。

まるで違う。

世界が違う。

人の目をみると、いつも己の誇りを守ろうとしていた。

そうしないとすぐに誇りが瓦解し、劣等感が丸出しになってしまうからだった。

今は、胸に抱いた誇りを守る必要さえ、ない。

男の子たちが好意の目をむけ、わたしをダンスに誘ってくる。

女の子たちが羨望の眼差しで、私とお話をしようと囲んでくる。



邪魔だ。

邪魔しないで。

わたしは彼を探さなければ。

彼に会わなくてはならない。

彼に一言、お礼を言わなければ。

本来会場内に貴族でも無い彼が入れるはずはなかったが、わたしが掛け合って参加できるようにしておいた。

だが、彼はいない。

どこよ?

どこに居るのよ?

もくもくと食事をしているタバサの側にもいない。

男の子達に囲まれてダンスの予約をこなしているキュルケの側にもいない。

私がイラつきながらサイトを探し、ふとキュルケと目が合うと、彼女は微笑みながらバルコニーの方を指差した。


いた。

知らず胸が高鳴る。

中には居辛いのか、バルコニーの手すりにもたれかかり、外を眺めていた。

手すりにはワインのグラスと簡単な食事を盛った皿が置いてあり、抜き身のボロ剣が立てかけてあった。

……どうやらまた喋るようになったようね。





「楽しんでるようね。」


「まさか。服もボロボロの土だらけ、体は包帯まみれだぜ?」





私はサイトに声をかける。

胸の高鳴りが更に加速していた。

ボロ剣が「馬子にも衣装じゃねえか!」とちゃかしてくる。

うるさいわね、今度はお風呂につけるわよ、と返したららそれきり黙ってしまった。

冗談なのに失礼しちゃうわ。





「傷の具合はどうなの?かなりうなされて、夜まで寝込んでたけど。」


「ああ、もう大丈夫だ。寝てる間にルーンの秘密もわかったしな。」


「そうなの?」


「ああ。後で説明するよ。ま、今は忘れようぜ。今夜はお前が主役だろ?お姫様。」





サイトはそう言うとニカっと笑った。

私も同じように笑ってみせた。





「ほら、向こうでこっちをチラチラ見てるぜ?行ってダンスの相手をしてこいよ。」


「いやよ、あんたわかってて言ってるでしょ?」


「ばれたか?はは、さすが俺のご主人様だな!」


「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのよ?ほら、ご主人様の右手がお留守になってしまってるわよ?」


「踊っていただけますか?レディ。」





サイトは私の手を取り、こうべを垂れた。

すこしキザっぽい仕草のあと顔を上げてふたたびニカっと人懐こく笑う。

なによ、こいつやれば出来るじゃない。

きっと前の主人に仕込まれたのね……すこしムカつくわ。





「よくってよ、ジェントルマン。私の足を踏んだらあとでお仕置きだからね。」


「はは、お手柔らかに。」





そしてサイトの前の主人にわたしはもう一度、嫉妬する。








彼はダンスがとても上手かったのだ。











※現在暫定的に復帰中です。


このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。

リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)


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