限界だったのかも知れない。
サイトと共に私の魔法への入り口を探していて、そこにツェルプストーの邪魔が入った。
わたしの、ヴァリエールの宿敵とも言えるあいつは、わたしに魔法での勝負を挑んできた。
相手はトライアングルクラスのメイジ。
わたしは幼い子供と同じように、コモンマジックへの入り口を探している状態のメイジ。
始めから勝負になどならない。
勝負にすらならない。
平民が貴族と決闘するようなものだ。
これを受けるのは愚かで、無謀で、無茶な事だ。
勝負を断っても、わたしの体面に気にする必要が無い。
理は始めから私にあるし、あのすぐにからかってくる、風邪っぴきのマルコリヌもここには居ない。
勝負を受ける必要など始めから無いのだ。
そんな事はわたしが一番理解していた。
だが、わたしはそれを受けた。
"敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶ"
そう私の使い魔は口にした。
腕は折れ、顔は醜く腫れ上がり、ボロボロになりながらも尚その言葉を発した。
相手はメイジ、決して平民では届かない筈の存在。
始めから勝負になどならない。
勝負にすらならない。
使い魔はそのメイジと決闘した。愚かで、無謀で、無茶な事だ。
それでも、その言葉を胸に使い魔は敵に向かっていった。
その、使い魔の、主であるわたしが、どうしてここで、敵に背中を、見せられよう?
だめだ。
絶対にだめだ。
前の主の言葉を胸に戦う使い魔の目の前で、その前の主と比較されるような真似は絶対に出来ない。
比較され、評価される事など絶対に許さない。
この使い魔は私を"お前こそが貴族やメイジの理想だと思う"と口にしたのだ。
"お前の使い魔でよかったと思ってる。" とも言った。
だから、私は逃げない。
ここで逃げるのは、あの使い魔の主として相応しくない。
わたしは、勝負を受け、そして敗れた。
落ち込みもしたが、魔法を失敗する事自体いつもの事だ。
誰かから、からかわれないだけマシだ。
そう思い直していると、なんと大きなゴーレムがその場にやって来た。
ツェルプストーは悲鳴を上げて逃げていった。
当然だ、こんな大きなゴーレムは初めて見る。
わたしも使い魔を連れ、逃げようとした瞬間。
使い魔……サイトがゴーレムに挑んでいた。
あっけなく返り討ちにされ、壁に叩きつけられ、 "アレ" を使って必死に戦っていた。
わたしは逃げようとした己を恥じた。
"敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶ"
この言葉の重さを理解していなかった。
先程の勝負では、負けてもせいぜいプライドが傷つく程度だった。
このゴーレムはどうだろう?
挑めば魔法の使えないわたしなど、簡単に潰されてしまうだろう。
だからわたしは真っ先に逃げようと考えた。
挑もうとは微塵も思わなかった。
そして理解できた物もある。
"敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶ"
サイトは貴族だ。
身分は平民かもしれない。
だけど、戦う彼の心に真の貴族が宿っているのだ。
そして、その彼を誇り高く突き動かしているのはわたしではなく、前の主なのだ。
その事実が強く、深く、わたしの心を抉る。
わたしは、無力な子供だ。
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超怖い。
ゴーレムが襲撃してきた後、学院は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
教師に俺たちは顛末を話し、とりあえず今日は部屋ですごすよう指示された。
別にそれが怖いわけじゃない。
何事かと廊下に出てきていた女生徒のネグリジェとかもう眼福だったし。
怖いのはその間、ずっと俯いて無言だった未来の妻だ。
バレてないと思ったんだけどなあ……ああ、せめて破壊の杖奪還まで骨は勘弁してもらわないと。
部屋に戻った俺がルイズの着替えを用意すべく、クローゼットの前に立った時だ。
「サイト。こっちを見ず、そのままで居なさい。」
「はい?」
「こっち見るな!そのままそこで立ってなさい!!!」
超怖い。
ものすごい剣幕だ。
やっぱばれてたか。
ゴーレムに蹴られたわき腹がさっきからすっげえ痛いんだがなあ。
お仕置き、やだなあ。
これから大事な話をルイズにしなきゃならんのに。
そう思って多分来る強い衝撃に備えると、不意にぽふっと気の抜けた振動が背中に伝わってきた。
何事?新しいワザか?こんなの俺でもしらねえぞ?と少し混乱していると、背中の方からすすり泣く声がする。
「ルイズ?」
返事は無い。
「どう、し、て……」
部屋に鼻をすする音がやけにはっきり響く。
「ど、うし、て、わた、し、魔法、使え、」
「ルイズ」
「どうし、て、あんたは、そんなにた、たたかえんの、よ、」
「どうし、てわたしは、ゼロで、あん、たは、きぞ、く、なのよ!」
まて。
俺貴族じゃねえぞ?
魔法使えないし。
絶対に口に出せん雰囲気だけど。
「みんな、わたしの、こ、と、ゼロ、ゼ、ロ、よん、で」
「わた、し、きぞくじゃ、ない、メイジ、でも、ない、あんた、こそ」
支離滅裂だ。
でも、俺にはわかる。
溜まってたんだろうな、鬱憤やら劣等感やら。
宿敵はメイジとして優秀だし。
大貴族でありながら魔法は使えない。
おまけに使い魔は冴えないカラス以下と来ちゃあな。
そこに来て今夜の事で、悔しかったんだろうな、多分。
俺は暫く無言でルイズの好きにさせた。
彼女はその内言葉を発する事をやめ、しゃくりあげるだけとなった。
頃合を見て、俺はルイズの方を向く。
彼女は背中から離れ、立ち尽くして右手を胸に当て、左手の甲で目を抑えていた。
「ルイズ。」
「こっち、見ないで。あっち、向いてなさい!」
「ルイズ、悔しいか?」
「あたりまえ、じゃない!!!」
「なあ、みんなを見返す方法があるんだ。」
「あるわけ無いじゃないの!わたしは魔法がつかえないのよ!ゼロの、ルイズなのよ!」
ゼロのルイズ。
それを口にした彼女の声は悲鳴のようでもあった。
「それがな、あるんだ。ゼロのルイズにできて、この学院のどのメイジにも出来ない事が。」
「どうせ、つまんないことでしょう!」
「そうか?そんな事ないと思うぜ?あの"土くれのフーケ"をお前の活躍で捕まえるんだからな。」
そう俺が言うと、ルイズはえ?っと顔を上げる。
なにこれ超可愛い。
じゃねえ!いまは落ち着け!俺が落ち着け!!
「ほら、最近噂の盗賊だよ。知ってるだろ?てか、ルイズにこの前聞いたじゃん、教室で。」
「う、うん。知ってるわ。」
「昨日のあれ、多分そうだぜ?学園の宝物庫をあんなデカいゴーレムで狙うなんて、並のメイジじゃない。」
「……そうね、あのゴーレムはそこらのドットやラインのメイジじゃ無理だもの。」
「ああ。それに、教師の連中の口からフーケって言葉を聞いたしな。」
(ウソだけど。いまはルイズに信じてもらえればいいのだ。)
「そうなの……でも、わたし……」
「ご主人様。」
俺はルイズの言葉をさえぎり、その場で片膝を付いて頭を下げる。
「どうか、私めに機会を与えてください。このゼロのルイズが使い魔、平賀才人がご主人様を最高の魔法使いだと証明して見せます。」
……なあ妻ルイズ、今の俺ってかっこいいよな?
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「ご主人様を最高の魔法使いだと証明して見せます。」
思いっきり無様な姿を晒した私に、使い魔はこう言って来た。
わたしは困惑する。
あの巨大なゴーレムを操るメイジに、このわたしがどうやって?
そう思っていると、不意に使い魔は立ち上がり私をみてニカっと笑って見せた。
なんだか分からないけど、その笑顔はとても眩しくて、胸がどきどきした。
サイトはそんな私を余所にその案を話し始めた。
私はその話に耳を傾ける。
何故だろう?
私はこの使い魔なら、サイトならきっとこの信じられない提案を、現実にしてくれるのだと確信していた。
それはそうと、わたしがツェルプストーと揉めてるのに暢気に色目を使ってた事や、他の女生徒のネグリジェを嘗め回すように見てた事
後ろ向くよう命令したのに従わなかった事、どさくさにまぎれてゼロのルイズって言った事についてしっかりお仕置きしなくちゃ。
はあ、躾って大変よね。
私はサイトの案を聞き、自分の役割を何度も何度も復習しながらその日は就寝した。
サイトも明日に備え、お仕置きを受けたらすぐに寝ていた。
……何よ、あんたまで泣く事ないじゃない。
器用な子ね、寝ながら泣いて謝るなんて。
すまん、そんなつもりじゃなかったんだルイズ!って、そんなに必死に謝らなくても、あの位わたしはすぐ許してあげるわよ。
失礼しちゃうわね。
そして翌朝。
宝物庫では教師達がなにやら揉めていた。
どうやら盗られたものではなくて、責任の在り処を探し回っているらしい。
特にあの厭味ったらしいギトーが喚いている。
あいつが女生徒の中で、評判が最悪なのが良くわかる。
彼の事を話す時にはだれもギトー先生とは呼ばないわけだ。
あ、ミセス・シュヴリーズを泣かせた!
最悪ね、アイツ。
女性を泣かせるなんて貴族が聞いて呆れるわ。
レディを泣かせる奴は絶対に許さない。
制裁が下されるべきなのよ。
全身の骨を砕いてもまだ生ぬるいわ。
ん?コッぱげが私を呼んでる。
オールド・オスマン学院長の所に行くのね、行くわよ、サイト。
「目撃者はこの三人です。」
「ふむ……君たちか。」
……まあ、サイトは使い魔だから人数に入ってないのはしょうがないわね。
でも犯行現場の目撃者なのに、平民だからと除外するのはどうかと思うわ?
「詳しく説明したまえ。」
「はい。あの、大きなゴーレムが現れてここの壁を壊したんです。肩に乗っていた黒ずくめのローブのメイジが何かを盗んで……
……多分、"破壊の杖"だと思います。そしてもう一度ゴーレムの肩に乗って、城壁の外に歩き出して、最期に崩れて土にもどりました。」
「それで?」
「後には土だけが残りました。肩に乗っていたメイジもどこかへ消え去っていました。」
「後を追おうにも手がかりは無しという訳か……」
わたしの説明を聞いたオールド・オスマン氏はふむ、とため息をついた。
それから脇にいたコッぱげに向いた。
本人の前ではコルベール先生と言わなければならないが、女生徒の間ではもっぱら親しみをこめてコっぱげと呼ばれている事は内緒だ。
この先生、意外と人気あるのよ?
変人だけど。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……朝から姿を見ておりません。」
「この非常時に何処にいったのじゃ?」
「どこでしょう……」
ミス・ロングビル?ああ、あのオールド・オスマン氏の秘書のお姉さんね。
そんな事を思っていると、そのミス・ロングビルが現れた。
「ミス・ロングビル!何処に行っていたのですか、この大変なときに!」
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしていましたの。」
「調査?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎではないですか。それに宝物庫はこの通り。
すぐに壁のフーケのサインを見つけたので調査を行っていましたの。」
「仕事が早いの、ミス・ロングビル。」
「そ、それで結果は?」
「はい、フーケの居場所が分かりました。」
「な、なんですと!」
私はしめた、と思った。
昨夜のサイトの案ではフーケを探さねばならなかったからだ。
私は運がいい。
「誰に聞いたのかね?ミス・ロングビル。」
「はい。近所の農民に聞き込んだ所、近くの森の廃屋に入って行く黒ずくめのローブの男をみたそうです。
おそらく彼がフーケで、その廃屋がアジトかと。」
「黒ずくめのローブ?それはフーケに違いありません!」
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬車で4時間といった所です。」
「すぐに王室へ報告しましょう!魔法衛士隊をの兵士を差し向けてもらわねば!」
「ばかもの!そんな事をしている内にフーケが逃げてしまうわ!これは魔法学院の問題じゃ!当然、我らで問題を解決する!」
あーあ、怒られちゃったわね、コっぱげ。
オールド・オスマン学院長は怒気を収め、悠然と周囲を見渡し続ける。
「では、捜索隊を編成する。我と思うものは杖を掲げよ」
私は躊躇なく杖を掲げた。
周りがざわめく。
なによ、随分掲げている奴は少ないわね。
……私一人じゃない。
まあ、いいけどね。わたしにはサイトがいるしその方が好都合よ。
昨日のあいつの話は信じる価値がある。
「どうした?他におらんのか?フーケを捕まえて名を上げようとする貴族はおらんのか?!」
居なくていい。
ゼロのルイズとして蔑まれ続けたわたしが杖を掲げ、蔑んでいた者達が臆病にも杖を掲げようとしない。
この状況でこそ、この場でこそ私の胸に誇りは蘇る。
見てなさい、私が、私こそが真の貴族、真のメイジだと見返してやるんだから。
「ミス・ヴァリエール!何をしているのです!あなたは生徒ではありませんか。ここは教師に任せ……」
「誰も掲げないじゃないの!」
わたしがそう言うと、つい、っと掲げられる杖をみた。
あれは……
「ツェルプストー!君は生徒じゃないか!」
「ふん、ヴァリエールには負けられませんわ。」
「私もいく」
「タバサ。あんたはいいのよ、関係ないんだし。」
「なに言ってるのよ!私とサイトだけで十分よ!!」
「心配。」
タバサと言う子はツェルプストーだけでなく、私の方もみて言った。
ツェルプストーを見るといつもの強気な瞳でなく、どこか心配そうな目で私を見ていた。
私は……
「……ありがとう。キュルケ、タバサ。」
その好意を跳ね除けることはしなかった。
……私の活躍を目撃する人間が必要だっただけよ。
キュルケ、しっかり見てなさいよね!
そんな私たちを見て学院長が笑いながら側にやって来た。
「そうか、では君たちに頼むとしよう。」
「オールド・オスマン!私は反対です!!生徒達を危険に晒すなど!」
「では君が行くかね?ミセス・シュヴリーズ。」
「い、いえ。私は体調が優れませんので……」
んー、庇おうとしてくれるあたりいい先生なんだけどな。
ここでへたれなきゃ、すっごく尊敬できるのにもったいない。
「彼女達は敵をみておる。その上ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」
「本当なの?タバサ。」
タバサはこくんと頷いた。
私はその様子をサイトが間抜けな顔で見蕩れているような気がして、サイトの姿を確認する……・やっぱり。
もう、私の品格が疑われるじゃない!あとでお仕置きしなきゃ。
本当、躾って大変よね。
「それにミス・ツェルプストーはゲルマニアで優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、優秀な炎のメイジだと聞いておるが?」
(次は私の番よね。)
「その、ミス・ヴァリエール……の使い魔は先日ドットクラスとはいえメイジを倒したと聞いておる。」
「なっ」
なによ!と叫びそうになった。
それ、サイトの紹介じゃない!
……いや、いい。
今は、いい。
私にはまだ誇れるものがないのだから。
「この三人に勝てるという者がおるのならば、一歩前へ出たまえ。」
三人……私とサイトでメイジ1人分よね、やっぱり。
はあ、落ち込むわ。
当然、だれも前へ出てこなかった。
「魔法学院は、諸君の義務と貴族の義務の期待する。」
そしてオールド・オスマン氏は高らかに宣言した。
私はこの時、劣等感と屈辱と希望を胸に成功を誓った。
※現在暫定的に復帰中です。
このSSはArcadia様のサイトでも公開いたしております。
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/1(一章~四章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/2(五章~八章)
リンクはこちら→ガンダールヴは夢を見る。/3( ~最新話)
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