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作:いいちこ


はらはら、はら

空から限りなく舞い落ちる、雪。
世界を白一色で塗りつくしてしまったそれらに足跡を残しながら、走る。

ピイイイイイ・・・

いつもと変わらぬ、列車の出発の笛が聞こえる。
電車のドアが閉まりかけるが、私は構わず飛び込んだ。

「毎度毎度、危ないぞ。お嬢ちゃん」

いつもと変わらぬ気さくな声に顔を上げれば、やはりいつもと変わらぬ顔があった。

「車掌さん・・・」

返す私の声は、沈んでいた。
そんな私を見て車掌さんは、優しく私の頭を撫でた。

「お嬢ちゃん、今日も終点までだろ?」

手渡された切符を受け取って、学生鞄から財布を取り出す。
席に腰を下ろしながら、数枚の100円玉を車掌さんに手渡した。

「ははっ、今日でこのおんぼろ列車も廃止だってのに、相変わらず客はお嬢ちゃんだけか」

いつも明るい車掌さんが、どこか切なそうに笑う。
いつものような会話は無い。ただ、一車両しかない古びた老いぼれ列車が、白い世界をまっすぐ突き進む音だけが妙に響いた。

「来れなかったんですね、おじいさん」

自分でも驚くくらい感情の篭らない声で、私は呟いた。
車掌さんは私の視線の先を追って、ああそうだな、と返してくれた。
私の視線の先では、車掌さんとお揃いの青い制服姿の運転士さんが静かに座っている。

ああ、いつからだろうか。おじいさんを見なくなったのは。
中学校に上がって、この列車で学校に通うようになったあの頃。
あの席には、おじいさんが座っていた。

「なぁ、お嬢ちゃん。じいさんが運転士辞めてからもう何年経つ?」

・・・2年、だよ。と私。

「お嬢ちゃんは今いくつだ?」

・・・18歳。と素っ気無く。

「・・・おじさんが言いたいこと、分からないか?」

急に車掌さんの声が冷たくなった気がして、顔を上げた。

「もう諦めろって言いたいんだ。もうじいさんも定年くらいの年だし、もう戻って来ない」

今日だって来てない。最後にそう強く言う車掌さんは、怒っているような、悲しんでいるような、そんな顔だった。
確かに、車掌さんの言う通りかもしれない。
二年前、おじいさんの奥さんが病気で倒れてから、おじいさんは運転士を辞めた。
べつに親子でもなければ恋仲でもない。名前も知らないし、歳も知らない。
ただ、この列車の運転士はおじいさんで、この列車の乗客は私。そんな仲。

シュウウウウ・・キキィ・・・

終点に、着いた。
おんぼろ列車は鈍い音を鳴り響かせながら、止まった。
私は、動かなかった。

「車掌さん、もう少しここにいてもいいかな」
「・・・」

返事が無い。その代わりに大きな手が頭の上に降ってきて、優しく撫でてくれた。

ガタン

音を立てて、列車のドアが開いた。あの若い運転士さんがそうしたのだろう。
ああ、もう出て行け、という意味なのだろうか。

ガタン

また、音がした。しかし今度は、列車のドアが開く音ではない。
今度は、運転室の扉が開く音だ。

コツ、コツ、コツ

靴の音が、だんだん大きくなる。
そして、私の視界に入るか入らないかくらいのところで止まった。

「初めまして」

声の主の方を見ると、予想通り若い運転士さんが立っていた。

「初めまして」

私も返す。正直言って驚いた。
二年間もの間、運転士さんとは話したことも、顔を見たことすら無かったからだ。
前からずっと、無愛想で話しかけにくい人だろうとは思っていた。
私の予想は当たっていて、たしかに無愛想で愛想笑い一つしない。

「失礼」

運転士さんは私のすぐ横の窓を、制服の袖口で拭き始めた。
白く曇っていた窓が元の透明に戻り、窓の外の光景を露にした。

思わず、息を呑んだ。

がたん、と立ち上がる。横に居る車掌さんも息を呑んでいるのが分かった。
私たちが見たもの、それは、


雪だるま


誰が、いつ、どうやって作ったのか、何となく、いや、確実に想像できた。
手に持った学生鞄を投げ捨てて、私は列車を飛び出した。
終点駅に一つ、ぽつんとたたずむそれに向かって。
どこの庭先にもあるような、子供が遊びで作ったような、本当に普通の雪だるま。
ただ違うのは、雪だるまの頭に乗っている青い帽子。
その青は、この真っ白な世界の中で唯一つ異なる色を持ち、はっきりと存在していた。

「・・・その帽子、お嬢ちゃんによく似合うなぁ」

後から降りかかってきた声に身を翻すと、車掌さんと運転士さんが立っていた。
運転士さんは相変わらず無愛想にそっぽを向いてる。

「おじいさん、最後までこの列車は自分が運転するって・・・言ってたのに・・」

青い帽子を、手に取った。
間違いない。制服の帽子、おじいさんの帽子だ。

「・・せめて、ありがとうくらい言わせてくれたっていいのに・・・」

突然すぎるよ。
あの日、いつものように列車に飛び込んだのに、聞こえるはずのおじいさんの笑い声が聞こえなかった。それから二年間もずっと。
仕方が無いとは分かっている。ただ、悲しかった。

「この列車は、あの方のものです」

いままで黙っていた運転士さんが、ぼそりと呟いた。

「この列車の運転士は、今も昔もあの方しか居ないのです」

あの方、おじいさんのことだと直に分かった。
青い帽子を握り締め、雪の上に膝をついて私は、何年ぶりかに、泣いた。
本当に、何年も溜めていた涙が一気に流れ出すような、そんな感覚だった。

ふと両脇に温かさを感じる。
左を向けば車掌さんが、いつもと変わらぬ笑顔で笑っていて、
右を向けば運転士さんが、相変わらず無愛想にそっぽを向いて私の隣に座っていた。


雪の白さと、帽子の青が、妙に綺麗だった。







初めて真面目な小説書いた気がします。でも頑張りましたー!読んでくださって有難う御座います。評価してくださると嬉しいです!













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