見られなかった少女
日曜日、博士は学会に出かけて留守だった。
昼下がり、コナンは自分の部屋から一階に降りてきた。
と、哀が居間の長手ソファの上ですやすやと寝ていた。
無邪気な寝顔、あまりにも無防備、ワンピースの下からわずかに白いショーツが見えている。
コナンは物音を立てないようにそっと近づいた。
(ま、待て…俺は何を考えてる? …何で忍び寄るような真似を!)
「…灰原、おい灰原…」
哀はぐっすり寝ているようだ。
(くそぅ…なんて無防備なんだ)
コナンの目が思わず下のほうへ行く。あわてて顔へ視線を戻す。
(い、今俺は何をしようとした? …いかん!)
目を閉じ、わずかに開いた口、ゆっくりとした呼吸…口紅もしていない唇なのに…
コナンは真っ赤になって後ろを向いた。
(な、何をやってるんだ俺は!)
もう一度振り返って哀を見る。
(待てよ、そういや俺は、こいつに見られてるんだ…いや、それどころじゃねえぞ!)
コナンはじっと哀の顔を見た。そして視線を体の下のほうへ向かって動かした。
手が意志とは関係のないように動いて…
「い、いかん…」
コナンは顔をぶるぶる振った。
「おい灰原、起きろ! 風邪引くぞ!」
大声を出した。しかし、哀はまったく起きる気配がない。
「やろう…みてろよ」
コナンは変声機に口を当てた。
「久しぶりだな、シェリー」
思いっきりドスの利いたジンの声。しかし、哀はピクリともしなかった。
「おい、シェリー、起きろ!」
だめである。
コナンは哀の耳元に口を近づけた。
「シェリー、起きろ…起きないとお前のファーストキッスを…って何言ってるんだ、俺は!」
ジンの声で一人芝居、自己嫌悪のあまり思わず後ずさる。
しかし、哀はなお穏やかな息のうちに静かに眠っていた。
コナンは、呼吸も心も乱れに乱れていた。
「はあはあ…ったく、何やってんだ、俺は…」
コナンは首を降りながら二階に上がると、毛布を持って降りてきた。
そして、眠り続ける哀にそっとかけた。
「ジンの声聞けば一発で起きるかと思ったが」
優しげな表情で哀を見下ろす。
「少しは安心したのかな」
哀は目を覚ました。誰もいなかった。
かけられた毛布に気が付く。
「これは…工藤くんが?」
哀は起きあがると、ちらっと天井を見た。そこにはテレビカメラ。
地下室に降りて、ビデオデッキに接続されたモニターに向う。
さきほどのコナンの行動が一部始終録画されていた。
「ふふ…睡眠薬を飲んだかいがあったわね…いいものを見せてもらったわ、工藤くん」
(おわり)
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