この話は夏梨を主体にした長い妄想話の一部分になります。(順番としてはバースデーの次。順番どおりに投稿していくつもりなので。)全部読まなくてもそれぞれの話で完結するように書いていくつもりです。
妄想の中では、いずれ十番隊に入る夏梨ですが、十一番隊が尸魂界での夏梨の実家的な存在になります。
今回の話は、何故十一番隊が夏梨の実家なのかという、きっかけ部分を書きたかったのです。
(一番の理由は他でもない、私が大の十一番隊好きだからです。男らしい十一番隊万歳)
後、一心さんの過去とかにもちょっと話が及びます。(もちろん、すべて原作とは関係のない捏造設定です)
その1
「おい……」
無駄とは知りつつ一護は声をかけてみた。案の定その呼びかけに返事はない。
「ねえ、ルキアちゃん。むこうでお風呂って入れる?」
「ああ、各隊ごとに浴室が備わっているからな」
「シャワーは?」
「それはない。かけ湯だ」
「ふうーん」
遊子は普段使っているシャンプーやらリンスやらをビニールの袋に入れて旅行かばんに詰める。人差し指を顎に当て、ちょっと迷ってから愛用のバスキューブやクマの形のスポンジも詰めようとする。
「何やってんの遊子。遊びに行くんじゃないんだぞ!」
夏梨が横を通りかかってとがめるように声をかけた。
「だぁーってぇー」
「ルキアちゃんに言われただろ? 途中、猛ダッシュしなくちゃならないんだぞ? 必要ないものなんかもっていくなよなあ!」
遊子と夏梨は双子で、遊子の方が姉なのだが、初対面の人は十中八九夏梨が姉だと思う。
遊子は亡き母に代わって家事全般をこなす頑張り屋なのだが、持っている雰囲気がホワンとしていて、実際にかなり天然のところもあるので仕方ないかもしれない。
「一兄、邪魔!」
夏梨は立ち尽くしている一護を押しのけるようにして、バタバタとリビングを横切り出て行ったかと思うと、自分と遊子のリュックを持って戻ってきた。
「荷物はコレにはいるだけ!」
「えー!? これだけ!?」
「だけ!!」
遊子は仕方なく一度はバッグに収めた荷物を取り出して床にならべて中身を吟味しはじめた。
「おまえら本当に行くつもりなのか? 尸魂界」
再びかけられた声に遊子は無邪気な笑顔をかえす。
「うん。 浦原さんが、お兄ちゃん達の時より何倍も通り抜けやすく門を改良してくれたって言ってたし。 私たちだってもう中学生だよ?」
「それだって……」
心配そうな一護を夏梨がくるりと振り返り、
「大丈夫だよ。ルキアちゃんと一角さんが一緒なんだし。
それより、一兄。一角さんの代わりに恋次兄ちゃんが来るまで、空座町のこと頼んだよ」
そっちのほうが心配だとでも言うように一護を見た。
(恋次兄ちゃんて……)
恋次は現世派遣組の中で、ルキアに次いで現世になじみが深い。
ルキアに会うために、しょっちゅう黒崎家に出入りしていたし(本人はそんなんじゃねえと否定するがバレバレだ)、以前恋次が浦原商店に居候していたため、店の子供たちと仲の良かった遊子や夏梨も、自然と恋次になじんだ。
恋次は意外に子供好きで面倒見も良かったから、今ではすっかり懐かれてお兄ちゃんよばわりだ。
恋次もまんざらではないらしく、お兄ちゃん、お兄ちゃんと纏わりつかれてもそう邪険にしない。
これから遊子と夏梨は尸魂界に行く。およそ一ヶ月の予定で。
こういうと何だか夏休みに旅行に行くみたいだが、実際はそんな気楽なものではない。
一護がかつてそうだったように、中学に入ってから妹たちの霊力は急に強くなった。
特に夏梨。
しかし大きくなりつつある霊力は酷く不安定で、暴走すると制御が利かなくなる。
一護たちが案じていた矢先、あの事件がおこった。
それは十日ほど前のことだった。
今年は梅雨が長く、夏休みを目前に控えたその日も、霧のように細かい雨が降っていた。
学校からの帰り道、並んで歩いていたルキアに一護が声をかける。
「なあ、ルキア」
「なんだ?」
「おまえ今日何呼び出されてたんだよ」
「ああ、進路指導という奴だ」
「そういやあ、おまえどうするんだ? 来年」
「ふむ、以前の希望調査票には死神と書いて酷く叱られたのでな、今回はもう少し熟考してみたのだが……。
『いらすとれぇたぁ』と、『めいど』と、『黒崎医院のなぁす』と書いたら、担任に「夢を追うのはすばらしいが、今の私に必要なのはもっと自分の足元をよーく見つめ直すことだ」と言われた」
しかもその後、以前自分たちの担任だった越智が
「いーじゃないですか、山本先生。朽木がなりたいんだったら、黒崎医院のナースで。……っていうか、朽木、いっそ黒崎一護の嫁にしとくか?」と口を挟んできて、いっそうややこしい事態になってしまったのだが、それは黙っていることにした。
どうせここでの生活は仮のものなのだと思うと、いまさらながら切なくなって、ルキアも一護も無言のまま並んで歩く。
そんな時、突然ルキアの伝令神機が虚の出現を知らせた。
同時にまるで爆発したように突然強大な霊圧が出現したのをルキアも、霊圧探査の苦手な一護も気づいた。
「一護!」
ルキアが叫んだ時、すでに死神化した一護は空に駆け出していた。
いま急激に放たれたあの霊圧は、一護のよく知っている妹のものだ。
虚に襲われているのは妹にちがいない。
その霊絡をたどるのは、他人のそれをたどるより、はるかに易い。
しかし、近づくにつれて一護は困惑の表情を浮かべた。
はじめは夏梨の霊圧だと思っていたが、遊子のようにも感じる。
しかし遊子の霊力は昔からそれほど強いものではなかった。やはり夏梨なのだろうか。
どちらにしても一刻も早く助けなくては。
やがて、目指す河川敷沿いの空き地が目に入ったが虚は見えない。
そこにいたのは、固まったように立ち尽くす夏梨と、その腰の辺りに縋り付いている遊子だった。
死神姿の兄に先に気づいたのは意外にも遊子のほうで、その目が確かに一護を捕らえたと思うと、
「よかっ……た。おにいちゃん、きてくれた」そう言ってズルズルと地面に崩れ落ちた。
夏梨は何かに身構えた格好のまま、淡く光をまとっているように見える。
遊子を抱き起こし、夏梨の無事を確かめようとした一護の伸ばした手が、何かに弾かれ小さな火花を散らした。
よく見ると、夏梨の両手がボール一つ分くらいの間を空けて合わされるような形をとっていて、両の手のひらの間に、小さな稲妻のような光が時折奔っていく。
やがて全身を覆っていた光がすうっと消えると、体から力が抜けていき、夏梨もまたその場で意識を失った。
一護は遊子を横たわらせてから、夏梨に息があるのを確認する。二人に致命的な傷はない。
そこではじめて周囲を見回すと、川岸の柳などの木々が根こそぎ倒され、地面が一部不自然に抉り取られていた。
そしてその中心に残留している虚の気配。
(自力で倒したのか? 死神化もしないで?)
すこし遅れて到着したルキアも周囲の状況を見て驚いた。
「これは……いったい」
しかし、一護にルキアの声は届いていないようだった。
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