気付くのが遅すぎた-11
「この十日間必要最低限の会話しかしてないぞ俺達? 「モンスターが出たぞ!」とか「そろそろ休憩しよう」とか「私に任せろ!」とか、「こっちだ」とかしかメノウ喋ってないからね? 休憩の時とか俺が話しかけても。「ああ」とか「そうだな」しか言わねえし!」
「いやしかし……特に喋ることも無かったのでな。今更聞きたいこともないし」
「もっと話せることあるだろ! メノウの昔のこととか! アリスだったらもっとこう……「ねぇねぇ鏡さん? あれ何あれ何?」とか、「鏡さん! ボクねボクね!」ってな感じで、楽しそうに何でも話すというに。メノウの達観ぶりに俺はとてもがっかりだよ。0点」
「す、……すまない」
別に会話がなくても全然気になっていなかったどころか、楽しいとさえ思っていたメノウは少ししょんぼりとした表情でそうつぶやく。
その反応が少し面白く感じた鏡は微笑を浮かべて「ま、でもそれがメノウらしいってことなのかもな」とつぶやいて溜め息を吐くと、近くにあった手ごろなサイズの岩の上に座る。
「それより……目的地に着いたっぽいけど。本当にこの森の中にあるのか?」
「ああ、魔王城の書物に記された場所は、確かにこの地点のはずだ。王都の南側に広がる小さな森の中央。そこがダンジョンの入り口になっているはずだが」
この聖の森に到着したのは今日の朝のことだった。ようやく着いたと二人は気を楽にさせるが、半日経った今でも、この森のどこかにあるはずのダンジョンの入り口を二人はまだ見つけられていない。
何度かモンスターに襲われながらも、二人はこの森の中をほぼ隅々まで探し回った。だが、ダンジョンの入り口と思わしき場所は見当たらなかったのだ。
「よっぽど入り口が小さいか……そもそも、その情報が間違っているかだな」
「馬鹿な……魔王城に古くから伝わる書物だぞ? 嘘の情報が記述されていたというのか?」
「だってな……ここ、聖の森だぜ? 王都付近にいるモンスターが隠れ家にしているスポットの中でも、特に弱いモンスターが集まり、その数も少ない場所だ。俺も昔、足を運んでいた時期があったけど、そんな凄いダンジョンがあるような場所じゃないぜ? 見たことも聞いたこともない。出現するモンスターが弱いことから、腕を上げるために訪れる冒険者も少なくないしな」
そう言われて、メノウは困惑した表情を見せた。
メノウの記憶には確かに、王都から南側に存在する小さな森の中央に、バツ印が描かれていたのを覚えている。
それも、魔王城の書庫で見つけた情報を魔王がまだ健在の時に確認した。当時、あのエステラーさえもその存在を認めた場所だった。
だが、一日かけてその場所を鏡と探し歩いたが、見当たらない。見当たらないどころかモンスターとさえ1、2回程しか遭遇しなかった。
ただただ。ここに来るまでの道中で得たお金が肩にのしかかって重いだけだ。何度か街によって、クエスト発行ギルドの銀行に預けたりしているはずなのに、それでもモンスターと遭遇するだけ増えるため、常にジャラジャラと金貨同士がこすれる音が響き渡る。
「どうする? ここから一番近い街に戻るか? さすがに王都は万が一のことを考えて勘弁願いたいが」
「あともうちょっとだけ探してみるか、どっか見落としているかもしんないしさ」
鏡はそう言うと、さっきは調べていなかった木の陰や、草を掻き分けて念入りに調べ始める。
それから3時間、鏡とメノウの二人は徹底的に聖の森を調べるが、やはりダンジョンらしき入り口は見当たらず、それらしき怪しい場所すら何も得ることができなかった。