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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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本当に大事なのは、金じゃない-9

「悠長なことを言っている場合ではないぞ鏡殿! このまま放置するのは危険だ!」


 それから再び、アリスはカジノ内のスタッフ専用通路へと戻り、休憩所のドアノブに手をかけようとする。だがその時、休憩所の中からそんな叫び声が聞こえ、アリスは一瞬だけ萎縮してしまう。


 何事かと休憩所のドアをゆっくりと開いて様子を窺うように中を覗くと、休憩所の中には不穏そうな表情を浮かべるクルルとタカコとレックス、そして腕を組んで珍しく何かを思い悩んでいる鏡と、今にも襟の服を掴み掛かろうとする程に険しい表情を浮かべるメノウが立っていた。


「落ち着きなさいメノウちゃん。焦る気持ちはわかるけど、だからと言ってここで逃げたり隠れたりすれば、それこそそうでしたと教えるようなものだわ」


 休憩所を出る時とはまるで別人かのような真剣な表情で、なだめるようにタカコはそう言う。


「皆。な、何があったの?」


 揉め事でも起きているのかと少し不安になっていたが、そうでないと知るやいなやアリスは休憩所の中へと入り、おそるおそるそう尋ねる。すると、部屋の中にいた全員の視線がアリスへと集中し、アリスの姿を見るや否やメノウが目にも止まらぬ速さで接近し、心の底から安堵したような表情でアリスの手をとった。


「姿が見えないから心配致しましたアリス様! よくぞご無事で!」


「さっきもデビッドさんに手袋を渡しに行っただけって言ったでしょう? 大袈裟よ」


 そして、メノウのその過敏な反応を見て、タカコがやれやれと首を振る。


「さあアリス様! 私と共にここから遠く離れた地へと行きましょう! 何、あとのことは鏡殿がやってくれるはずでしょう!」


「え……嫌だよ。ボク、鏡さんの元から離れたくないもん」


 メノウの言葉にはっきりとアリスは答え返すと、メノウはあまりにも正直な否定に一瞬「ぐはっ!」と叫んで精神的ダメージを受ける。だがすぐに立ち直ると、「悠長なことを言っている場合ではないのです!」と、切羽詰まるように言ってきた。


「メノウちゃん落ち着いて。アリスちゃんはまだ何も知らないのよ」


 すると、タカコが抑えるようにメノウの身体を引っ張ってアリスから離れさせ、そう声をかける。すると少し落ち着いたのか「む……そうだな。すまない」と、疲れを感じさせる表情でそうつぶやいた。


「だが師匠。もしもメノウの話が本当なら、色々とまずいんじゃないか? 少なくとも、メノウとアリスの存在がばれれば、僕達だってただじゃすまないはずだ」


 そこで、レックスがどうしたものかと腕を組みながら鏡に向かってそう言う。対する鏡は、「んー……」と唸るだけで、何も言葉を発しなかった。


「だから! 何があったのかボクにも教えてって! ちょっといない間に何があったの?」


 自分を置いてけぼりにして話が進もうとしているのが不安になり、アリスはそう叫ぶ。


「メノウが、デビッドが王国の諜報員と話をしているのを見たんだと」


 すると、鏡がヤレヤレと溜め息を吐きながらそう言った。


「王国の……諜報員? デビッドさんが?」


 鏡の言葉を聞いて、信じられないのかアリスは表情を歪ませる。


「鏡殿のお言葉に甘え、着替えを終えて帰ろうとしていた時のことです。デビッド殿が妙に周囲を警戒して、デビッド殿が担当している酒場でも、搬入口である場所でもないところに向かっていたのが不自然に思い、あとをつけたのです。すると……このカジノのスタッフの正装に偽装した諜報員が倉庫付近に」


 そしてメノウの言葉を聞いて、アリスはすぐさま脳裏にデビッドと、スタッフが倉庫の付近で何かの話をしていたのを思い出す。自分も確かに見た光景だったため、メノウの見間違いである可能性がアリスの中で潰れた。


「本当に……その人は諜報員だったの? 本当に偽装?」


「間違いありません。確かにこの耳で聞き取りました。『こちら、王にお伝えするべき報告内容となります。現状、連中、そしてレックス様、クルル様共に不審な行動は見当たりません』と、何か書類を渡していたのを確かに見ました。途中、うろたえてしまい、聞き耳をたてているのを勘付かれそうになるり逃げて来ましたが……間違いありません」


 そして、深刻そうに言葉を吐くメノウから、それがどれだけよくない出来事なのかを、アリスはどういう影響が起きるかを理解しないままなんとなくで感じ取った。


「デビッドなら……ありえなくもないかもしれません。デビッドは昔から無駄なく仕事をこなすということで一目置かれていましたから」


 すると、不穏な表情を浮かべながらクルルがそうつぶやいた。


 そしてタカコと鏡は、瞬時にそれが何を意味するのかを理解した。


 そもそもあれだけ優秀な人材が、クルルの監視という仕事を持っているとはいえ、鏡の仕事の手伝いをするなどの無駄な行動するはずがないのだ。『魔王討伐のために日々を過ごしているかの確認』であれば、常につきまとうように監視をする必要もない。


 つまり、そうすることに理由がある。


「…………アリスの監視……か」


 そこで、鏡が困ったような表情で頭をポリポリと掻きながらそう呟いた。


 ずっと、デビッドはクルルの傍を離れないようにしていると鏡は思っていた。だが、それは実は違ってアリスが目的だったのではないかと思い直す。


 ここ最近、クルルとアリスが離れて行動することはほとんどなかった。勝手に鏡はクルルの監視と思い込んでいたが、もしそれが違っていて、アリスを監視していたのだとすれば?


「王国側は、何でか知らないけど……俺達を随分疑っているようだな」


 もしそうであれば、王国側はアリスの素性を知っており、それを暴こうと動いている可能性があった。少なくとも、王国側はアリスを疑っている。疑える程には、何かの情報を得ている。


 問題は、その情報が一体どこから漏れたかどうかだった。

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