本当に大事なのは、金じゃない-3
「まあ今更隠すつもりもないけど……一応スキルって普通はさらすもんじゃないぞ? 手の内を見せるようなもんだし」
「それはわかっているが、やはり気になる」
レックスがそういうと、賛同するかのようにアリスとクルルがコクコクと首を縦に振る。その様子を見て鏡は「本当にわかってんのか……?」とため息を吐き、ステータスウインドゥを開いた。そして、自分のスキルの一覧を表示する。
「スーパー……フィンガー……? ハイパーフィンガー……ねえ鏡さん」
「どうした?」
「フィンガーってつくスキル多くない?」
そして、そのステータスウィンドウに表示されたスキルの名称を見たアリスが、ポケーっとした表情でそう呟いた。一番最初に覚えたであろう自動で回復するスキル『オートリバイブ』が一番上に表示され、その次にレベル200で覚えたであろうスキル『スーパーフィンガー』という名称のスキルが表示されていた。
そしてその次に、『ハイパーフィンガー』、『ウルトラフィンガー』、『ミラクルフィンガー』、『パーフェクトフィンガー』、『エクゾチックフルバーストAct5』、『リバース』、『制限解除』、『神へ挑みし者』と、名称の表記が並んでいた。
「オートリバイブと制限解除と神へ挑みし者は前に教えてもらって知っているけど……このフィンガー系のスキルと、エクゾチックフルバースト……? この凄そうなの何?」
「慌てんなよ。一個ずつ見せてやるから。先に言っとくが、俺が既に教えた三つのスキルみたいな凄い効果を期待すんなよ? めちゃくちゃ糞スキルだから」
やけに念を押してそう言う鏡に困惑した表情をアリスとレックスとクルルは見せるが、すぐさま鏡がスーパーフィンガーの効果説明をステータスウインドゥに表示すると、それに注視した。ステータスウインドゥにはこう書かれてあった。
『スーパーフィンガー』
効果:指で弾く力が強くなる。
その効果を見て、なんとも言い難い表情をアリスとレックスとクルルは見せる。
「これって魔族のエステラーと呼ばれていた方が言っていたスキル……ですか? どれくらい指で弾く力が強くなるんですか?」
おずおずとクルルがそう質問をする。
「指一本で、指二本で弾くのと同じくらいの威力を出せるようになる」
そしてその回答に、レックスは「なんと微妙な……」と呟き、憐れんだ表情を浮かべた。
するとそのまま連続で、フィンガーと名の付くスキルを順に、鏡はステータスウインドゥを切り替えて三人に見せて行く。
『ハイパーフィンガー』
効果:指で弾く力が更に強くなる。
『ウルトラフィンガー』
効果:指で弾く力が更に強くなる。
『ミラクルフィンガー』
効果:指を弾いた時、指を痛めなくなる。
『パーフェクトフィンガー』
効果:どんな状況下で指を弾いても狙いが精確になる。
「わかるかお前ら? レベル600になるまでこの使えなさすぎるを習得し続けた俺の当時の気持ち? 鼻糞を弾いてスライムを倒せるようになったけど、普通に殴った方が強いからね?」
村人というそもそも不遇な存在で、こうもどうでもいいスキルが連続した時の絶望感が容易に想像出来てレックスとクルルは苦い表情を浮かべた。
同時に、鏡がどうして限界を超える特殊なスキルを手に入れることが出来たのか、少しだけわかったような気がした。本当に、最初の自動回復がなければ、今の鏡は本当に存在しなかったのだろう。
「で、でも! レベル……700かな? そこからフィンガーとは別のスキル覚えてるじゃない。諦めずに努力したからきっと開化したんだね! スキル名称もなんだか凄そうだし」
二人のいたたまれない表情を見てなんとかしないといけないと思ったのか、アリスが作ったような笑顔を浮かべてとっさにそうフォローする。だが、鏡はその言葉に返事することなく、ステータスウインドゥを切り替えて『エクゾチックフルバーストAct5』の詳細を表示させる。
『エクゾチックフルバーストAct5』
効果:名称がカッコいい。
「俺が一番絶望して、神をぶっ飛ばそうと思ったのがこのスキルを覚えた時だった」
真顔でそう言ってくる鏡に、アリスは何も答えられなかった。その時得たであろう絶望と苦しみと悲しみとか、そういう当時の感情がその真顔から痛い程伝わって来たから。
そしてそのまま、鏡は最後のスキルをステータスウインドゥに表示させた。
凄いスキルである可能性を一切捨て去ったレックスとクルルとアリスは、ただただ、ここまでクソなスキルをレベル700まで頑張って揃えた鏡を褒め称えて抱きしめてあげたい気持ちで既にいっぱいいっぱいだったが、それでもそのスキルに視線を向ける。
『リバース』
効果:レベルが低ければ低い程、強力な技や魔法をコスト無しに使用できる。だが、レベルが上がれば上がる程、強力な技や魔法を使える幅が狭くなる。
「このスキルって……もしかして、鏡さんが今まで簡単な技とかしか使わなかったり、魔法が使えないのって……」
何も期待せずに見たはずだったが、その効果を見てクルルが驚愕の表情を浮かべて恐る恐るそう尋ねる。すると鏡は、再びどこか疲れた雰囲気のある真顔で――――。
「このスキル覚えたの……レベル800の時な」
その一言で、どういうことなのかが一瞬で理解出来た。
弱くなるスキルの効果があるとは、クルルもレックスも思ってもいなかった。
どれだけ幅があるかはわからなかったが、今まで鏡がチャージブロウのような簡単な技は使っていたことから、レベルが最大になっても完全に全ての技が使えなくなるようなスキルではない様子だったが、それでも哀れとしか言いようがないスキルだった。
そりゃ、神を恨むのも仕方がないなと、納得せざるを得ない程に。