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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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だから俺は、守銭奴になることにした-7

「ウワーウレシイナー。でも人手は足りているので結構です」


 そして鏡はすぐさま、『あなたが来られると邪魔です』を主張するかのように嫌そうな表情を浮かべながらそう言った。


「おや? 先程、人手を募集しようとしていたように見受けましたが?」


 すると、『そう言うと思っていましたよ』と言わんばかりの表情でデビッドはそう答え返し、鏡は「ちぃっ」と舌打ちをする。


「どちらにしろ。お手伝いをさせていただかなくても、監視として傍にはいさせてもらうことになります。王から承った命令は、理由が不充分であれば連れ戻し、充分であったとしても暫くはそれが本当かどうか監視するよう言われておりますので」


「監視付きで生活しなきゃいけないとか、ストレスやばそう」


「まあそうおっしゃらないでください。監視は私だけですし、その代わりに鏡様のお仕事をお手伝いさせてもらいますよ? と、提案しているのです」


 そう言われて、鏡は難しい表情を一瞬浮かべた。正直、ほぼ嘘の状態を維持しながらこれから過ごすのは鏡としても避けたかった。


 故に、なんとか監視もなく帰っていただく方法はないかを考えていると、デビッドは一枚の羊皮紙を取り出してテーブルの上へと置く。


 するとそこには、鏡達が作成したものとは違う内容の、カジノの人手を募集する文が記されてあった。それを見て、ティナはテーブルへと乗り出してその内容を読み始める。


「初心者大歓迎。カジノの仕事が初めての人でもしっかりと働ける環境を提供致します。研修期間は一ヵ月、能力に応じて昇給もあり……なんでこんなのあなたが用意しているんですか?」


「私は監視役以前にクルル様の召使いでございますので。皆様方が人員を募集しているのを見て必要になる可能性を考慮し、あらかじめご用意しておりました」


 デビッドがにっこりと微笑みながらティナにそう答え返すと、鏡も確認するかのように出された募集用紙を手に取って内容を読み始める。すると鏡は、自分達が作った募集内容とそんなに変わらない文面に眉をひそませた。


「これがなんだって言うんだ?」


「これでもう一度募集をかけてみてください。きっと、わざわざ広場で演説をせずとも人が集まりますよ」


 そう言ってデビッドは再び笑みを浮かべた。それを見た鏡は「はは、まさか」と言いながら席を立った。半分「無理無理」と思いつつも、そのビラを持って店を出る。


 一応、現状募集のビラを貼りつけても人手が集まっていないのは事実のため、一応試してみるかと考えた鏡はクエスト発行ギルド内にてデビッドが用意した募集用紙を量産し、クエスト発行ギルドと広場の掲示板に貼り付け、広場のベンチ付近にカジノ店員募集中というカンバンをたてた受付を用意し、人が来るのを待ち続けた。





 そして二時間後。広場のベンチ前に設置された受付の前には、ヴァルマンの街に在中している村人、そして冒険者による行列が出来あがっていた。


 全員が全員、労働希望という訳ではなかったが、とりあえず話だけでも聞きたいという者からすぐに入りたいと思っている者まで、レックスが演説を行っていた時よりも遥かに興味を示した様子で集まっている。


「どーいうことなのー」


 受付を担当しているティナがせっせと次々に来る人達の日程を聞きだし、面接の日取りや希望を聞きながら人をさばいている隣で、口をポカーンと開きながら鏡がそう呟いた。


「安心して働ける職場であるということを主張しただけですよ」


「じゃあアットホームな職場っていう考え方は間違いじゃなかったのか」


 鏡はそう言うと、同じく隣で驚いた表情で行列を眺めるアリスに「さすがだなアリスたん」と言って背中をポスッと叩いた。


「考え方はそうですな。つまりは安心して働けるかどうかが大事なのです。鏡様がご用意した募集用紙には、大雑把に仕事内容が書かれているだけで、一体どんなことをするのかもわからず、ちゃんと働けるかも不安で仕方がありませんでした。なので研修期間を明記して、さらにカジノ内での仕事の種類を明確化して希望も承り、労働時間の希望も承るように記述致しました。それと、募集人数は伏せました。これらは我々が募集してきた人数から選定して管理すればよいだけですからな。人数制限があると、どうせ人数が自分以外の誰かで埋まってしまい働けないと思ってしまうのですよ。とまあ、これらの情報を出すだけで、働くための不安は取り除けます」


 その説明を受けた後、鏡はデビッドへと顔を向けなおし――。


「君、採用」


 最高の笑顔でそれだけ呟いた。その瞬間、すさまじい程のスピードでレックスが鏡の肩を掴んでデビッドから距離を離す。何事かとアリスとデビッドは二人を凝視するが、構わずレックスは鏡の肩を掴んで内緒話をするかのように顔を鏡の耳へと近付けた。


「何を言っているんだ師匠! どうせ監視されるとはいえ、仕事にまで顔を出されたらそれこそ常にボロを出せなくなるぞ! 仕事場でこっそり今後の話とかも出来ただろうに」


「逆だ逆。あのおっさん、相当抜け目ないぞ? ああいうタイプはむしろ放置しておく方がどこで見られてるかわからなくなる分危険だ。監視出来なくなるくらい忙しく使い倒した方が俺達も楽出来るって。どうせ監視されるんだったらな」


 鏡が溜め息を吐きながらそう言うと、レックスは喉を詰まらせたかのようにうぐぐと唸り、鏡の肩から手を放す。


 鏡も最初はなんとか帰ってもらおうと考えていたが、デビッドの用意周到な優秀な働きぶりを見て、むしろ傍でこちら側が監視しておかないと危険と判断した。どこで見られているかわからないより、こちらが見ていた方がよい。それだけの理屈。


「あらあら……鏡ちゃん。一体どんな魔法を使ったのかしら? 広場に謎の行列が出来てるって噂を聞きつけて来てみたら。鏡ちゃん達の募集じゃない」


 レックスと鏡がデビッドをどうするかの話をしていると、いつの間に立っていたのかタカコが腕を組みながらそう言ってきた。突然の大女の出現にレックスと鏡は身体をびくつかせる。


「凄い……こんなに人が集まるなんて! レックスさんと鏡さんの宣伝の仕方が上手だったんですね! どういう風に募集をかけたんですか?」


 そして、続くようにクルルがタカコの背後から姿を見せてそう言い、広場に出来上がった行列を見ながら目を輝かせた。


「あれ? タカコちゃんメノウは?」


「お店でお留守番してもらっているわ。ケンタ・ウロスちゃん達だけじゃ心配だもの」


 タカコのその返答に鏡は「なるほど」と呟く。それと同時に、魔族であるメノウが、自分達がいなくても店を任せられるくらいにはこの街に慣れてくれていることに少し喜びを感じた。


「ちょっと……ティナちゃんだけに受付任せているの? んもぉ……かわいそうじゃない。ほら、ちょっと涙目で恨めしそうな表情になっているでしょ? ……手伝って来るわ」


 タカコがそう言うと、「おーいティナちゃん、私も手伝うわー」と叫んで受付の方へと駆けて行く。その間際、タカコの大きな叫び声に何事かとこちらに視線を向けてきたデビッドとクルルの視線がぴったりと合う。


 予想もしていなかったのか、突然の見知った顔の出現にクルルが驚愕の表情でデビッドの名前を叫ぶよりも早く、デビッドは少し離れた鏡達の元に信じられない速度で急接近し――。


「ふぁぁぁあ! クルル様! ご機嫌麗しゅうございます! 相変わらず荒野に咲いた一輪の花のようにお美しい……なめまわしたい!」


 嬉々とした表情でそう言った。


「ん? んんんん? んー……今なんて言ったぁー?」


 突然吐かれたデビッドの、さっきの紳士な態度とはうって変わったかのような気持ちの悪い発言に、鏡は笑顔になりながらデビッドに空耳ではないか聞き直す。


 するとデビッドは、至って真剣な表情で鏡に向き直った。


「ペロペロなめまわしたいと言ったのです。むしろこんなにお美しくて可愛いのになめまわしたくならないのですか? 男性としてそれはちょっとどうかと思いますぞ」


「んー何を言っているのかちょっとよくわからないけど、とりあえずあの時あんたの変態扱いから救ってくれたアリスに謝れ。そして俺にも謝れ」


 その言葉を聞いて、クルルがげんなりとした表情で溜め息を吐いた。その様子から、デビッドが突然変異したのではなく、昔からこういう人物であったということが窺えた。てっきりただの紳士で優秀な召使いだと思っていた第一印象が、鏡とアリスの中で一気に崩れ落ちる。


「デビッド殿は昔からこういう方だ……その、少し女性に対する愛が強すぎるんだ。気持ち悪い程に……だから僕は監視うんぬん以前に一緒に働くのが少し嫌だったんだ」


「じゃあ何でアリスとティナには反応しないんだよ」


「幼女には興味ないらしい」


「ちょっと紳士っぽいなと思っていたが、変態紳士の方でしたか。唐突に不採用にしたくなってきた。何この生物怖い」


 レックスの耳打ちに鏡はそう答えると、アリスに悪影響を与えないためにアリスを守るように自分の背後へと避難させる。アリスも少しだけ、突然の変態発言に警戒心を抱いたような表情を見せていた。


 それと同時に、鏡は極まった濃い連中が傍に集まりつつあることに戦慄し始めていた。平凡かつ平和に暮らしたい。鏡は心の底からそう願った。

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