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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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だから俺は、守銭奴になることにした-6

 現在鏡達はデビッドを対面に、向かい側の方に椅子を四つ並べて右から鏡、アリス、レックス、ティナの順で座っている。そんな中、レックスだけがどこか落ち着かない様子で腕を組んで渋い表情を見せていた。


「私がどうしてここに来たか……わかりますかな?」


 すると、対面側でコーヒーカップを片手に持ったデビッドが、鋭い視線をレックスに向けると静かにそう呟いた。


「クルルを……姫を連れ戻しに来たのでしょう? この街に滞在し始めてそれなりに時間も経っている。誰かが王都に報告をしていてもおかしくはない」


 すると、察しがついていたのか、レックスは一瞬困った表情を浮かべるとそう言った。


「お察しの通りでございます。さすがレックス様ですな、感付きが鋭い」


 デビッドはそう言って溜め息を吐くと、コーヒーカップに口をつけて皿の上にそれを戻す。その言葉をデビッドが放つと、レックスはばつが悪そうに顔を俯けた。


「いや、ちょっと勝手に二人でシリアス展開するのやめていただけませんかね? つまり、どういうことなの? 説明と解説はよ」


 そこで、何を言っているのか全くわからんとでも言わんばかりにつまらなさそうな表情で、メロンソーダをストローで吸い上げていた鏡がそう言った。


 アリスとティナも同意見だったのか、喫茶店で注文したパフェを食べてクリームまみれになった顔でうんうんと頷く。


「おっと失礼致しました。報告にあったレックス様とクルル様をたぶらかした村人というのは……あなた様ですね?」


「報告? なんの事かはよくわからないけど、俺は鏡浩二。ご存知の通り役割は村人」


 すると鏡はそう言い、続いて「この隣の小さいのがアリス、奥にいるクリームだらけのどう見ても子供にしか見えないのがティナだ」と二人を紹介する。するとデビッドは、二人の存在も知っていたかのように表情をぴくりとも変えずに頭を下げた。


「存じております。部下の報告から聞いておりますので」


「いや、だからその報告ってのは何なの? クルルを連れ戻すって言っていたけど、それも含めて全部ちゃんと説明してくれ」


「姫様……クルル様を迎えに来たというのは事実です。ただしそれは、本来の目的とは大きく逸れた行動をしていた場合の話でございます」


 デビッドの言葉に、鏡だけではなくレックスも困惑した表情を見せた。


「どういうことですかデビット殿。部下を使って調べさせ、報告を受けているならば、僕達が魔王討伐のために行動をしていないということくらい知っているのでしょう?」


「先程、この街で暮らしているとレックス様はおっしゃいましたが、何か理由があるのではございませんか? 部下の報告では、『現在行方不明の魔王を探しだし、討伐するために旅に出てはいないが修練は怠らず、何かを目標に日々を過ごしている』と聞きました」


 その言葉を聞いて、鏡は「ああ、なるほどね」と納得する。鏡達はこの一ヶ月間、ヴァルマンの街に滞在していたものの、クエストをこなしてお金を集めるためにモンスターと戦い続けていた。それがカモフラージュになったのか、強くなろうと努力しているように報告した者には見えたのだろうと鏡は判断する。


 実際、鏡達は別で行動する日もあったため、少しだけだがレックスとクルルのレベルは上がっていた。


「それを確かめに私はここに来たのでございます。もしも魔王討伐を諦めて、ただヴァルマンの街で過ごしていたのであれば、クルル様も一国の王女。陛下の大切な愛娘でございます故、連れ返させてもらいますが……そうでないのであれば、強引にお連れ戻すことはありません。クルル様が賢者として最優先しなければならないのは魔王討伐ですからな」


 そう言うとデビッドは、再びコーヒーカップを口元へと運んだ。その瞬間、鏡はレックスに素早くアイコンタクトを送り、すぐさまステータスウィンドウを目の前に表示させて、自分のレベルをデビッドに見せつけた。


「その通り! 俺達は魔王討伐をしていないように見せかけて、準備をしていたのさ! 行方不明の魔王を探すのに時間を使うより、向こうから現れるのを待って、とびっきり強くなった俺達がぼっこぼこにする方が早いから!」


 そして鏡は、キリッとした至って真面目な表情でそう言った。鏡はデビッドの話を聞いて即座に「あ、これは事情を話したら色々めんどくさいやつ」と判断し、デビッドの話に合わせる行動に出た。


 正直なところ、ただでさえ人手が足りないのにクルルがいなくなるのは痛すぎるという理由と、魔族を理解し始めてくれているクルルが手の届かない場所に行かれるのは今後のことも考えると困るという理由と、クルル自身がお城に戻るのを望まないだろうと判断しての行動だった。


「そう! 僕達は決して魔王討伐を諦めていた訳ではない! 師匠の元で強くなって魔王がいつ現れてもすぐに倒せるように、修練をしていたのです!」


 そしてレックスも、鏡の行動に賛同するかのようにガタッと席を立ちあがってそう言った。


「聞いております。サルマリアでの出来事も既に報告を受けております故。大活躍されたそうですな、まさか村人でその境地に辿り着く者がいるとは……あなたがいれば、魔王もすぐに倒せそうなものですが、何故この街でカジノ等を経営しようとしているのです? 報告ではそのカジノにクルル様とレックス様も働かせようとしているとかで」


 まるでボロを出すのを待つかのように怪しんだ目線を鏡に向けながらデビッドはそう問う。確信をつくかのようなその問いにレックスは一瞬ウッと苦しそうな表情を見せるが、すぐさま鏡が目を強張らせると―――。


「馬鹿野郎! 村人の弱さをなめんなよ! レベル999でもめちゃくちゃ弱いんだよ!」


 逆切れするかのようにテーブルをダンッと叩いてそう言った。


「サルマリアで大活躍? クルルと他の冒険者達に強化魔法を受けつつ色々サポートしてもらってようやくなんとかなったようなもんだぞ? 魔王の配下であれって、魔王相手だったら絶対勝てないだろ! だからお金を稼いで強力な装備を買う。金があれば仲間を増やせるし装備も整う……完璧だろ? クルルとレックスは強くしてやる代わりに手伝ってもらってるんだ」


 吐き出すかのように並べられた饒舌な嘘にティナは「うわぉ」と少し驚く。鏡本人はこれでまだ疑えるなら疑ってみろと言わんばかりにドヤ顔をデビッドに見せつけていた。


 実際、この嘘は理に叶っていた。


 サルマリアでの一戦は、魔王本人による襲撃という情報は漏れておらず、魔王の配下による襲撃とされている。故にその嘘も通じ、魔王を倒すためにお金を稼ごうとカジノを経営するのも、魔王がいない今では効率の良いお金の稼ぎ方と解釈することが出来た。


「なるほど……そうでしたか。さしずめ、狙いはクエスト発行ギルドを通して購入出来る1000ゴールド以上の装備の数々でしょう? あれらは実力が伴っていない者に渡してはならないという古くからの言い伝えで、自力で購入出来たものでしか渡せない代物。それを知っているからこそ、こうしてお金を集めようとしている訳ですな」


 全く知らないうえに、王家の関係者であるクルルにもわかっていない情報を聞いて、「さすがクルル」と改めて一同はクルルらしさを認識する。


 幼少から修行していた身とはいえ、どうして父親である王様からその武器がもらえないかの理由ぐらい聞いとけよと脳内でツッコミつつ、デビッドの次なる言葉を鏡が待っていると――――。


「そういうことでしたら……私もお手伝いさせていただきましょう!」


 そう、予想外な言葉をデビッドから受けた。


 その予想外の言葉に鏡は、「え? この嘘続行?」と、めんどくさいのが身内に入り込もうとしていることに戦慄した。

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