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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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だから俺は、守銭奴になることにした-5

 そしてそれから十数秒間、鏡とデビッドは何も言わずに睨み合う。まるでお互いの腹を探るように、一歩も動かずに相手の出方を伺い続ける。そして次の瞬間――――。


「クエスト発行ギルドのスタッフさん! この人です!」


 鏡がデビッドを指差してそう叫んだ。


「今このおじさんが舐めるようにそこにいるいたいけ少女を見て不敵な笑みを浮かべていました! ついでに俺にも! どっからどう見ても変質者です。本当にありがとうございました」


「ふへひっ!?」


 鏡の思いもよらぬ突然の言葉に、デビッドは声を裏返してそう叫ぶ。そして周囲にいたクエスト発行ギルドで働くスタッフは勿論、たまたま立ち寄っていた冒険者や、クエストを発行しようとしていた村人達が一斉にデビッドへと視線を向ける。


「ち、違いますぞ。わ、私は!」


 慌てて弁解しようとするが時既に遅く、油断した隙にデビッドの傍を離れて鏡の元へと向かったアリスの光景が誤解を生み、少女を保護した青年と、手を出そうとしていたナイスミドルな変質者の構図が出来あがっていた。


「おいおい……木を隠すなら森の中ってか? こんな人の多いところで犯罪行為たぁ……」


「見てあの人、目が死んでるわ。どっからどー見ても犯罪者の顔つきよ。あんな可愛い女の子をたぶらかそうだなんて……一体何を考えているのかしら?」


「変だと思ってたのよ。あの人音もなくゆっくりと入って来たと思ったら、あの女の子の後ろで立ち止まったりして。ああ……気持ち悪い」


「くっさ。とりあえずくっさあいつ。くさい」


 そんな中、周囲の連中は特に見ていた訳でもないのに言いたい放題だった。


「君。ちょっとこっちに来てもらえるかな?」


「ち、違う! 私はやっていない……本当ですぞ!」


 そしてデビッドは、クエスト発行ギルド内で警備をしていた雇われで強面の冒険者二人に両腕をがっちりと掴まれて連行される。


 その隙を見て鏡は「いまだ! 逃げるぞ!」と叫び、関わればめんどくさくなるだろうと思ってその場から逃げ出そうとした。


 ティナとアリスが鏡の後を追ってクエスト発行ギルド内から出ようとするが、理由もなく捕まり容疑を否認し続けるデビッドを見てアリスは立ち止まり――。


「その人を放してあげて、その人は何もやってないよ」


 そう言ってそのまま逃げようとはせず、デビッドの傍に寄って雇われの冒険者二人に解放を願い出た。予想していなかった行動に、冒険者二人と周囲にいた人達は困惑し、デビッドは意外とでも言いたげな感心したような驚きの表情を浮かべる。


 その傍らで、鏡が「あるぇー?」と言いながら誰よりも衝撃を受けていた。


「鏡さん。クルルさんのことを考えてのとっさの行動だと思うけど、こういうのボク、良くないと思うんだ。確かに変な目で見てたかもしれないけど、やってもいないことで罪をなすりつけるのは間違ってると思う」


「正論すぎて心が痛い。何これ」


 雇われの冒険者二人は結局何がどうなのか理解が追いついていなかったが、アリスのその証言を聞いてデビッドの腕を解放する。


 周囲で野次を飛ばしていた他の者達も、何がどうなのかよくわからない状況で追いつけないまま、野次を飛ばしていた手前引っ込みがつかないのかそのままそれぞれ散開していった。


「いやはや……これは驚きましたな。ふむ……とにかく助かりました。御礼申し上げますぞ。正直なのですな……その若さで随分とご立派な様子」


 解放されたデビッドは、アリスの目の前に立つと頭を深く下げ、そして今度は素直に嬉しそうな表情を浮かべてアリスに微笑んだ。それを見て、アリスもニコッと微笑み返す。


 そしてその微笑みを見て再び予想外とでも言いたげな表情で「……ほぉ」と呟くと、何が思案するような難しい表情へと変化する。


「まあ、考え事は後にしまして……あなたは頭がおかしいのですかな? 私はクルル様に用があるとお伝え申したでしょう」


 そして、とりあえず考えるのは後回しと言わんばかりに、思い出したかのようにグリンっと首を曲げて鏡に視線を向けると、デビッドはそう言った。


「鋭いですね。鏡さんは中々頭がおかしいです。勇者をアイドルデビューさせようとするくらいには頭おかしいです。まあ私も……そんな鏡さんの言葉にホイホイ従っちゃいましたが」


 デビッドの言葉にティナがそう答えるとと、改めて頭を下げて鏡のとった行動を、自分がやったかのように謝罪する。


 するとデビッドは「いえいえ、お気になさらず」と、頭を上げるように言い、和解したところでティナとアリスとデビッドは同時に怪訝な表情を鏡へと向けた。


「いやぁ……だってなんか、めんどくさそうなことに巻き込まれそうだったし……クルルに用があるならクルルに直接会いに行けばいいのに俺達のところに来るって、絶対裏があるし……」


「ほう……なるほど。ただ何も考えずに逃げるための口実を作った訳じゃなかったのですな。いやはやお見事。お察しの通り、皆さま方にも用があって参上致しました。まさか変質者扱いされるとは思いもしませんでしたが」


 そう言うとデビッドは嬉しそうに笑い声をあげた。


 何がどういうことなのかまだ理解出来ていない鏡達は、デビッドがどういう目的でここに来たのかを詳しく聞くため、一度広場に戻ってレックスと合流してから、広場近くにある喫茶店で話をすることにした。





「まさかデビット殿がいらっしゃるとは……ご無沙汰しております」


「お久しぶりですなレックス様……お変わりなく元気に過ごされているようで安心致しました」


 広場に到着すると、デビッドの姿を見たレックスが「どうしてここに!?」と、予想だにしていない人物の登場だったのか、どこか焦った表情を浮かべながらそう叫んでいた。


 予想外にも、レックスとデビッドは顔見知りだった。

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