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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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だから俺は、守銭奴になることにした-3

「そうだ。クルルなら城で暇している奴等を何人か連れて来れるんじゃないか? お金は無理でも事情を話せば非番で暇そうな兵士とか召使いとかなら連れて来ても問題ないだろ?」


 そこで鏡が、思い付いたかのように手をポンッと叩いてそう提案する。


「……無理だと思います。例え魔族との全面戦争を防ぐためとはいえ、……お父様なら」


 そう言うと、クルルはどこか暗い表情を見せて押し黙ってしまった。その様子を見て何が言いたいのかなんとなく理解した鏡は、首をグリンと曲げて再びタカコに視線を移す。


「仕方ないわねぇ……今からでもまあ、方法はなくもないわ」


 そして、同じく察したからか、タカコは溜め息を吐きながらそう言った。


 元々魔族やモンスターを倒すように促しているのは王国の人間である。そのため、魔族との全面戦争を回避するために事情を話して力を貸せと言ったところで、それなら全面戦争を受けてたつと追い返されるだろう。


 魔族と人間の関係を少しずつだが理解を示し始めているクルルに対し、答えのわかりきっているお願いをさせるのは酷だった。


「それで? どんな方法なのタカコさん?」


 相変わらず頼りになるタカコに対し、アリスは期待感を込めた眼差しでそう聞く。


「ヴァルマンの街にはパーティーを募集するための広場があるでしょ? そこでカジノの店員を募集すればいいのよ」


「なるほどなぁ……でも、この街ってほとんどが冒険者だぞ? カジノで働きたい人―って言ってそんなにすぐ集まるとは思えないけどなぁ」


「そんなことないわよ? 居住区には村人の人もたくさんいるし、労働条件次第よ。それにほら、レックスちゃんやクルルちゃんのカリスマ性があれば、こんな人と一緒に働きたいって思わせることが出来るかもしれないし」


 タカコがそう言うと、レックスとクルルは少しバツが悪そうに顔を背けた。クルルは自然に出窓へと視線を向け、レックスは間違えてカウンターにいたケンタ・ウロスへと視線を向ける。


「人間よ。我々のようなカリスマ性が高い存在に憧れ羨望の眼差しを向けるのはわかる。だが、お前のような只金髪なだけのチャラオのゴミには不可能だ。諦めろ」


「やかましいわ」


 あまりにも不快な存在にレックスは再び鏡達に視線を向け直す。するとクルルを除く全員がレックスに注視しており、レックスは観念したのか溜め息を吐いた。


「僕は魔王を倒すために広場でパーティーの募集をかけた身だ。それを早くも諦めてカジノの店員になろうとしていると思われるのはいささか……な」


「なんだプライドの問題かよ。そんなつまらないのに縛られんなよな。折角新しい道を進もうとしているんだろ? 今までとは違う生活を歩むための良い一歩じゃねえか」


 すると鏡は、くだらないと言わんばかりにヤレヤレと顔を左右に振った。そしてその言葉にレックスは苦悩した様子を見せる。だが、クルルは全くといって良い程悩む素振りを見せず、ただ辛辣な表情を見せるだけだった。


「クルルさんどうしたの?」


 そしてその様子を見て、アリスが心配そうに声をかける。


「私は……王家の人間です。そんな人間が民の前でカジノの店員を募集するとなると、幻滅される可能性があります……私じゃなくて王家に、そうなればきっと迷惑をおかけします」


 その言葉を聞いてアリスにもどういうことなのかなんとなとなく察せた。要はレックスと同じプライドの問題だが、それは本人じゃなくて他人のプライドであるが故の悩み。もしそれを阻害するとなれば、自分には制御しようのない怒りを買う可能性がある。


「まあ仕方ないさ。それでも手伝ってくれるだけで充分ありがたいし嬉しいさ」


「…………鏡さん」


 その言葉にクルルは安心したのか、微笑みを浮かべる。


「宣伝募集はレックスにやらせればいい。勇者やめてアイドル始めました、このカジノで働くので一緒に皆も働いてみないか? みたいな感じで人を集めよう」


「っふぁ!?」


「今適当に言った発想だが、案外ありかもしれないな。レックスはなんだかんだでイケメンだし、アイドルの素質あるぞ……よし、これで行こう」


「ちょ、ちょっと待て師匠! 僕は一言もやるなんて言っていないぞ! 勇者がアイドルだと? そんな前代未聞のふざけた話は聞いたことないぞ!」


 あまりにも突拍子の無い発想に、レックスは慌てふためいた様子で鏡に詰め寄る。


「いいじゃんアイドル。勇者もほとんどアイドルみたいなもんだろ。モテモテだぞ? きゃーきゃー言われるぞ? 勇者で強くてイケメンのアイドルとか女の子よりどりみどりだぜ?」


「も……モテモテ? きゃー……きゃー……。よりどり……みど……り?」


 まるで洗脳されていくかのように、レックスは鏡の言葉を鵜呑みにしていく、その様子を、冷めた目線でクルルとティナとアリスは見ていた。


「アイドルといえばキャラ付けは大事だよな、どんな感じにする? とりあえず喋る時は、「えへへ……」と冒頭につけてあざとさをアピールしつつ、笑い方は

「ゲェブべガハハハ! コポォ!」で豪快に、デビュー曲は底なしの沼。これで行こう」


「キャラ……濃! さすがにそれはレックスさんがかわいそうですよ!」


 意味不明なキャラコンセプトを聞いてティナが思わずそうツッコミを入れる。だが、鏡の女の子にモテモテというフレーズに捉われてか、レックスは「アイドルか……悪くない」と、アイドルという言葉で感覚がマヒしていた。


 その後、とりあえずこうして話あっている間にも人集めのために動いた方が良いのでは? というメノウの提案により、鏡はレックス、アリス、ティナを連れて広場へと向かった。

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