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LV999の村人  作者: 星月子猫
第一部 
52/441

答えなんて自分次第だから-10

「あんたを殺せば……!」


 直後、パルナがそう言って手の平を魔王に向けた。パルナに魔力はもう残っておらず、これは只のふりでしかなかった。自分の命が危機にさらされた時、どういう反応をするのかを純粋に見てみたかったのだ。醜く命乞いをするのか? 何も言わずに受け入れるのか?


 だが、魔王の反応はパルナが考えていた反応と大きく異なった。魔王は笑っていた。まるで仕方のないことだと、この世界の仕組みを受け入れるかのように残念そうに笑っていたのだ。


 その傍らでは、「やめて」と懇願するかのようにアリスが涙目になりながらこちらの様子を伺っていた。


「私が生きている内はアリス様と魔王様はやらせはせん」


 そして、アリスと魔王を守るかのように立ち塞がったメノウを見て、パルナはまるで運命に弄ばれるかのような気分に陥り、かざしていた手の平を何も言わずに降ろし、そっぽを向いた。


「メノウ……よくぞアリスに加担してくれた。お前のような配下を持てたことを私は誇りに思うぞ」


「滅相もございません……全てアリス様と、鏡殿のおかげです」


 そうメノウと言葉を交わした後、ふとアリスと鏡に視線を向けると、アリスが残っていた最後のポーションを強引に鏡の口に差し込む姿が見え、魔王は微笑を浮かべた。それと同時に、自分が求めていた理想の始まりが、自分の犠牲の元に生まれたのであれば、安い代償だったと心の底から思えた。


「だが……この事態の真意は知る必要がある。エステラー……貴様、どういうつもりだ」


 魔王の一言で、その場に居た全員が上空で何もせずにこちらを見つめるエステラーへと視線を向ける。エステラーはただ黙って、何かを考えるように鏡と魔王の様子を眺めていた。


『次がいつまで経っても現れないから、折角魔王様の力を借りて、人類に危機感を与えるつもりだったが……なるほど。これは面倒だな』


 すると、エステラーは上空から不可解な言葉を脳内に直接響くように吐いた。


「次……ってなんだよ」


 そして全員が疑問に思ったことを鏡が口にする。すると、


『この世界を作った奴をぶっ飛ばしたいのだったなヒントを知る術を教えてやろう。方法は二つだ。一つは魔王様を……殺すこと』


 エステラーは言うべきか言わないべきか悩んだ後、溜め息を吐いて仕方がなさそうにそう答え返した。その瞬間、ほとんどが何を言っているのかわからないとでも言いたげな表情を浮かべる中、直感的にどういうことなのかを理解できたのは鏡だけだった。


 元々疑問に思っていたこと。魔王の巨大な力を手に入れているのにどうして自分達を殺そうとしなかったのか? 人間を滅ぼすのとは別の目的があるのではないのか?


 やろうと思えばもっと効率の良い侵攻手段があったのではないだろうか? どうして世界中に……敵意を撒き散らすような真似をしたのか? どうしてサルマリアを奪うという手段に出たのか? どうしてサルマリアの住民の退路を塞いで殺さず全員逃がしたのか?


 普通の侵攻に見えて、何か違う目的があるかのような感覚に鏡はずっと襲われていた。だがその答えが今の言葉でなんとなく理解出来た。危機感を与えて、いつの日か、魔王を倒せる存在が現れるように促していたのではないか? と。


「却下……ッ!」


 そして理解した上で、鏡は堂々とそう言いきった。それこそ、この世界の仕組みに従っているような気がしたから。


『だろうな……だから困っているのだ。そこまで上り詰めておきながら、別の手段を取るなぞ前例がない……だが、元々目指していたなら話は別だ』


「何を言っているのかさっぱりわからない訳だが?」


『……貴様が目指しているものを得てみせろ。それがもう一つの方法だ』


「それって……1万ゴールドのアイテムか?」


 鏡の問いにエステラーは黙って頷いた。何故、それを教えてくれるのかはわからなかった。だが、鏡はまるでお願いされているかのような感覚に陥った。理由はわからない。エステラーが自分から一切視線を外さずに言ってきたが故、そう思えてしまった。


「お前は……何者なんだ? 魔王の配下じゃないのか?」


 その鏡の問いに、エステラーは「配下さ。そう宿命付けられたな」とだけ呟くと、手の平を横たわる魔王へと向ける。直後、魔王はエステラーから発せられたであろう紫色の光に包まれて、まるで消滅したかのようにその姿を消した。


「魔王様!? 貴様……エステラー! 魔王様をどこにやった!」


「エステラー! お父さんを返して!」


 必死な表情を浮かべながら、メノウとアリスはエステラーに向かってそう叫ぶ。


『魔王様は私が預かる。返して欲しければ成し遂げてみせろ……もう一つの方法をな。期限はそうだな……一年だ。それまでに辿りつけなければ再び私は魔王様を使い。全力で人類を滅ぼしに掛かる』


 エステラーは最後に『次こそどちらかが生き残るまでな』と呟くと、魔王の身体を包んでいたのと同じ紫色の光に包まれると、その場から消滅するかのように姿を眩ました。


 その言葉の裏に、まるでその時は魔王を確実に殺してもらうという意味が含まれているような気がして、鏡は眉間に皺を寄せて不可解な表情を浮かべた。


「お父さん……ようやく会えたのに」


 まるで、自分の半身が引きはがされたかのように、アリスは力なくそう呟くとその場に崩れて座り込んでしまう。


「見てください……モンスターが!」


 そして、ティナが指差したその先で、エステラーが消え去ると同時に、モンスターの軍勢はまるで戦うのを放棄するかのように鏡達に見向きもせず、魔王城の方角へと次々に去っていった。


 後には、全てを出し尽くした鏡達だけがアストロの荒野に残った。目的であったサルマリアの防衛も、魔王の安否も確認出来たが、一同の胸には釈然としない大きなしこりが残る。


 エステラーの吐いた不可解な言葉の数々、そして、魔王を倒すことと1万ゴールドを手に入れることの意味。まるで、自分達はこの世界を理解していないとでも言われたかのような、解の出ない問題に悩まされているかのような気持ち悪さが残った。


「これから……どうするんですか?」


 ぼーっとモンスターの軍勢が去っていくのを鏡が眺めていると、ふいにクルルが隣に立ってそう声を掛ける。


「あんた達はどうするんだ?」


「私は……」


 顔を向けずにそう答え返した鏡の言葉に、クルルは思い詰めた表情を浮かべる。正直どうすればいいのか見当もつかなかった。クルルも少なくとも鏡と同じ感情を抱いていた。アリスと魔王の関係は少なくとも人間となんら変わりない親子の関係だった。


 まるで、魔王倒すために始まった旅が、自分の意志ではなく世界の意志によって運命付けられているような気がした。


 そしてそれは、他の者達も同じ考えだった。


「お前の意見が聞きたい、お前はどうするつもりなんだ?」


 そこで、レックスがずっと遠くを眺めて呆けている鏡へと問いかける。


 問われた鏡は全く悩んでなさそうな表情で唸りながら身体を左右に曲げ、考えてそうなふりをするが、突如何かを思いついたかのように指をパチンっと鳴らすと、


「よし、手始めにカジノでも開くかッ!」


 そう言った。




「「「「「「はい?」」」」」」




 そして、鏡が放った突然すぎる不可解な言葉に、その場にいた全員が不可解な表情を浮かべながら首を傾げ、そう呟いた。

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