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LV999の村人  作者: 星月子猫
第六部
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『ふーん』って感じ-11

 刃を連想させる黒い長髪、見る者を怯えさせる鋭い目元、作られたかのような整った顔立ち、そして力強さを主張するような茶色の肌。つまり全体的に黒いただの強そうなイケメン。


『このタイミングで現れたのだ。ダークドラゴン以外に考えられるのか?』


「いやいや、もうドラゴンでもなんでもないじゃん。ただの見た目ダークな人じゃん」


『あの姿でこの場に来れば、騒動が起きてしまうだろう? 色々と物も壊れる……そうなれば時間の無駄だ。そういう配慮だったが……あの姿で来た方がよかったか?』


 その説明で納得はしたが、それでも人の姿をしたダークドラゴンにまだ色々と違和感があり、鏡はダークドラゴンの傍に寄ってマジマジと見つめる。


『……なんだ?』


「いや、お前って男だったんだなーって。女とも思ってなかったけどさ」


『我に性別という概念はない。この見た目も仮の姿にすぎぬ。この姿が落ち着かぬというのであれば変えることもできるぞ?』


 説明よりも見せた方が早いと考えたのか、誰かが返答するまでもなくダークドラゴンは全身に光を纏わせて、高身長の男の姿を変化させる。纏っていた光が失われると、そこには先ほどよりも身長が低くなり、体格も華奢になったが出っ張るところはしっかりと出っ張ったグラマーな女性が立っていた。


「むしろそっちの方が落ち着かなさそう。レックスとか特に」


「鏡さん、気持ちはわかるけど、ボクこの場にいない人を悪く言うのはよくないと思うんだ」


『注文の多い奴らだ……もうさっきの姿でよかろう』


 鏡とアリスの反応が悪かったからか、ダークドラゴンは元の男の姿へと戻る。すると、話しかけるタイミングを窺っていたのか、男の姿に戻るや否やニニアンがダークドラゴンの傍へと寄った。


「顔合わせは初めてだな。前王のシモンより王の役割を引き継いだニニアンだ。至らない点は多いとは思うがよろしく頼む」


『知っておる。シモンが任せても良いと思った者だ……何も心配はしておらん。とはいえ、今回で管理者としての使命も終わるのかもしれぬがな』


「私も管理者としての仕事はこれが最初で最後だと思いたい。我が妹のこと……頼んだぞ」


「姉さま……」


 クルルを案じ、全てが上手くいくことを願って吐かれたように思えた言葉だったが、そのあとすぐにボソッと「その方が楽だから」と真面目な表情でしみじみと呟くニニアンを見て、少し感動していた表情を崩してクルルが冷めた視線をニニアンへと向ける。


「そういえば、ロイドちゃんが管理者は基本的にその国を離れられないって言ってたわよね? 確かにダークドラゴンちゃんの背中に乗せてもらえれば転送じゃない方法でも、グリドニアにすぐに行けるからって何も言わなかったけど、王女様が残るのはいいとして、ダークドラゴンちゃんは離れても大丈夫なのかしら?」


 そこで、ニニアンがダークドラゴンに任せようとしているのを見て、少し疑問に思ったのかタカコがダークドラゴンに問いかけた。


『我はヘキサルドリア王国の管理者だが、少し特殊なのだ。無論、長く離れることはできないが』


「特殊?」


「ダークドラゴンさんの元に飛ばされるのは、ヘキサルドリア王国の人間だけではないということですよ」


 ロイドがニッコリと笑みを浮かべながら、ダークドラゴンの言葉に説明を加える。


「なるほど……だからロイドちゃんもダークドラゴンちゃんのことを知っていたのね」


「そういうことです。アースの世界へと旅立てる資格をもった者を最後に審判し、外へと排出する使命を負ったアースクリアの統括者。それがダークドラゴンさんなんです」


「でもそれなら、ダークドラゴンちゃんが直接グリドニアの管轄者……セイジちゃんって人にコンタクトをとれるんじゃないのかしら?」


『本来ならばとれる。だが、今は……応答がない。仮に我がコンタクトをとれるのであれば、そもそもお主たちに来てもらう必要もないからな』


 確かにその通りだと、タカコは納得した様子で「なるほどね」と呟く。だが、それはそれで疑問があったのか、アリスが首を傾げた。


「だったら、ボクたちがグリドニアに言って管理者の人に会っても、ダークドラゴンさんと同じようにセイジさんって人にコンタクトが取れないんじゃ……」


『いや、必ず取れる。少なくとも、居場所は特定できるはずだ』


「どうしてそう言い切れるの?」


『我は実体のないシステムの存在でしかないが、ここにいるニニアンのように、人類を統括する王の役割を持った管理者は皆、必ず各国の地下施設に実体を保有している。どれだけプロテクトを展開しようが、アースに存在する実体との繋がりを隠蔽するのは不可能だ。実体との繋がりが切れるということは、死を意味するからな』


「ということは……別に管理者に会わなくても、アメリカの地下施設、『エデン』に実体を持ってる人に接触できれば位置は掴めるってこと?」


『我がいれば、そういうことになるな。対象に触れる必要があるが……座標の特定は容易い』


 ただグリドニアに赴き、現地の人々に会えばよいというだけで、そんなに慌てなくても良かったという事実に思わず鏡が、「あれ? これめっちゃ楽勝なんじゃね?」と呆け面を見せる。


「……ん? なんか増えてませんか? 誰ですかこのイケメンさん」


 そこで、レックス、パルナ、ティナの三人がようやく準備終えて宿屋の上階から姿を現した。すぐさまいつの間にか増えた見慣れぬダークドラゴンをティナが凝視する。


「俺とどっちがイケメン?」


「え? ああ、鏡さんだと思いますよ? 多分」


「適当すぎて泣きそう」


 姿を見せるや否やボケあいを始めた鏡とティナにダークドラゴンは「相変わらずマイペースな連中だ」とため息を吐くと、そのまま宿屋の出入り口へと向かって足を向けた。


『ようやく揃ったな……では、出発しよう。我も長い時間を留守にするわけにはいかぬからな。いくら簡単な任務であるとはいえど、時間がないのは間違いないのだろう?』


「この頭に直接響いてくる声……この偉そうな喋り方……あんたもしかしてダークドラゴン? 会いに行くとは聞いてたけど……まさか人間の姿になってそっちから来てくれたってわけ?」


 今までこの世界の住民には秘匿され続けていた存在が、こうも簡単に姿を現して平然と自分たちの前にいることに苦笑し、「世界を救うためにはなりふり構わないってことかしら?」と、この場にいるメンバーの濃さをパルナは改めて実感する。


 それから、ダークドラゴンが外へと出ると残った一同もぞろぞろと続いて宿屋の外へと出た。後に残された宿屋の店主を含め、たまたま居合わせた冒険者たちは「一体何事だったんだ」と、あまりにも不可解な出来事に理解できないまま目をぱちくりとさせ、一同を見送った。

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