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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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そんな現実、認めたくないから-10

「先に言っとく……既に知ってるかもしれないけど、俺はあの一万の軍勢に成す術もなくコテンパンにやられたばっかりだ。正直、手も足も出なかった……誰も殺したくなかったからな」


 既に何度も負けていることを告げられ、一同はどよめき不安な表情を浮かべ始める。


 そんな中、鏡を良く知るティナ、クルル、パルナ、デビッドの四人だけは真っ直ぐと鏡を見つめていた。


「大切な人を来栖に殺された時、くだらない復讐心に囚われてた。何も考えずに……ロシアに向かって来栖にあって、何がなんでもどうしてこんなことになってしまったのかの理由を聞きだそうとしてた……いや聞き出せると思ってた。俺は強いって……驕ってたから」


 よほど、完膚なきまでに叩きのめされたのだろう。その時の鏡の心境を察して、傍に居てあげれなかったことを少し後悔しながら、ティナ、クルル、パルナの三人は顔を俯かせた。


「でも、俺が強いなんて勘違いだったんだ。ご覧の通り……一万人を前にボコボコさ。絶対的な強さの壁ってのを感じたよ。数の前に一人なんてゴミに等しいんだ。例えレベル999でもな」


 その時、一同に不安が押し寄せた。鏡が伝えてきたのは全て、精神を鼓舞するどころか、みじめな敗北者が語る反省文のようなものばかりだったからだ。


「それで来栖にいいように転がされて、一緒に来た大切な仲間も奪われて……もう駄目だって思った。これが敗者に向けられる現実なんだなって……でもさ、そんな状況になっても誰も殺せなかったんだ……アリスがな、あいつが……それじゃあ何も意味がないって、負の連鎖を生み出すだけだからって俺に教えてくれたから。誰も殺しちゃ駄目だって、殺さずに立ち向かおうとして頑張って……結果、今、皆に救われてここにいる」


「それならば……何故まだ立ち向かう? 勝てないのだろう?」


「そんなの……」


 しかし、シモンが鏡に問いかけたその一言で――、



「そんな現実、認められないからに……決まってる!」



 一同が鏡に向けていた目の色が変わった。あるものは目を見開き、あるものは驚愕し、あるものはその姿に畏怖し、あるものは尊敬の眼差しを鏡へと向けた。


 鏡の全身が、まるでその地に降臨した神のごとく、仄かに青白い光に包まれていたからだ。


「あんた……それ」


 鏡の身に起きた突然の異常事態に、パルナが困惑した様子で指を差す。すると、鏡自身も気付いていなかったのか、自分の身体に視線を落とすと驚愕した様子でまじまじと自分の身体を見つめ始めた。


「ふむ……鏡様、御免!」


 直後、デビッドが初歩の小さな炎の塊を作り出す魔法を鏡に向けて撃ち放つ。だが、それは鏡に触れることなく弾かれると、そのまま雪の積もる地面へと落ち、その場にあった雪を溶かして消えてなくなった。


「やはり、今試して確信しました。その青白い光……鏡様が持つ魔法の全てを弾き返すスキル。反魔の意志ではないでしょうか?」


「え? いや、鏡さんの使える反魔の意志って……確か一部だけでしたよね? 今、どう見ても全身が光ってませんか?」


 ティナの言葉通りなのか、鏡のスキルを知る全員が困惑した様子でその謎の光に視線を向けた。目の前に集まっていた部隊の者たちも、何事なのかと各々鏡に視線を向け続ける。


「おかしな話ではない。むしろ……ワシとエステラー、そしてダークドラゴンが思っていた通りの事態だ」


 だがそんな中、ただ一人、シモンだけが冷静な表情で鏡の姿を見続けていた。


「來栖様よりアースクリアに住まう人間のスキルの仕組みを聞いておるだろう? そう……レベルが100を超えるたびに過去の超人たちの遺伝子を注入し、特殊な力を引き出すというものだ。だが、その薬の注入は……最大でも9回までしか行われない」


「……どういうことだ? 何なんだよ……これ?」


 たまらず困惑した様子で鏡はそうつぶやく。だが、その表情に焦りはなく、どこか安心したかのような余裕が垣間見えた。


「わからないか? 薬の注入はレベルが100を超えるたびに自動的に行われるが、アースクリア内でレベルの表記は999で止まる。つまり、アースクリアを管理しているシステムは……最大でも9回までしかその薬を投与しないということだ」


「やはりそうなんですね……これで確信しました」


 何か事情を知っているのか、フローネが目を瞑って納得したように頷いた。


「なら……この力は一体何なんだ? 俺の身体に何が起きている?」


「起きているじゃない。起きていた……だ。そう……お主のレベルは999で止まっているにも関わらず、十個目のスキル、更には十一個目のスキルを新たな遺伝子の投与も行わずに得た。……思い出せ、アースクリアのシステムが導き出したお主の十個目のスキルの内容を」


 鏡が覚えた十個目のスキル『神へ挑みし者』は、レベルが999になった時に覚えた力だった。得た経験がそのままレベルの限界を超えて力となる。そしてその力があったから、鏡は村人という役割であっても、ここまでくることができた。


「正式には十個目のスキルはスキルではない。お主の身に起きたただの……異常。レベルが999を超えても成長の止まらなかったお主の身体を、アースクリアのシステムが異例の事態として急遽スキルとして扱っただけでしかない」


「異例の……事態?」


「お主は……アースクリアのシステムがなくとも、過去の英雄たちの遺伝子を注がなくとも、独自で得た経験を身体に反映させ、己が壁を乗り越えるための進化を続けたのだ。そしてその進化はきっと……肉体だけではなく、スキルにまで影響する」


 それを言われて鏡は気付く。ダークドラゴンと戦ったタイミングで得たスキル、『反魔の意志』を手に入れたタイミングがあまりにも良すぎたことに。


 それは今まで、少しの役にも経たなかったスキルばかりを手に入れていた鏡が、全方向からの魔力弾を注ぐダークドラゴンと対峙した時、まさにそれに対抗しろと言わんばかりに得たスキルだった。まさしく、己が前に立ち塞がった壁を乗り越えんとするかのように。


 そして考える。今自分の身に起きている全身を覆う光の正体を。


 仮に、ダークドラゴンと戦った時に得たスキルが、無数に撃ち放たれる魔法に対抗するために進化して得たものであるなら? 自分の弱さを呪い、『たった一人で特殊な力をもった万にも及ぶ相手にも負けず、全てを覆して対抗するため』の力を望んだ結果がこの身に纏っている光なのだとしたら?


 ここがアースクリアでない以上、鏡の目の前にはステータスウインドウは表示されない。だが、鏡には自分が新しく得たこの力が何なのかが理解できた。


 全身から溢れ出る力は、制限解除の力と酷似している。なのに、数分が経ってもその力が消える気配はない。それだけではなく、指に籠る力も今までの比ではなかった。


 ボロボロで傷ついた身体も、まだ三時間も休憩していないにも関わらず、何もなかったかのように回復している。それらの力には全て心当たりがあった。




スキル……覚醒


効果……その者は決して諦めない。その心は、全ての力を更なる高みへと進化させる。




「さぁ行け……!」


 シモンに激励され、鏡はゆっくりと頷き、遥か遠くにそびえ建つ要塞へと視線を向ける。


 絶望とも呼べる戦力差を前にしても、仲間を奪われ、一人になったとしても、まだ諦めていない自分がそこにいた。


 何度も死にかけ、何度も諦める機会があったのに全てを無視して突き進み、そして今もまた、死と敗北も恐れずに挑もうとしている。


 まだ、生きているから。まだ、立ち向かえるから。


「それでいい……僅かな勝機すら無くとも、己が運命に抗い続け、何度でも挑み、そして最後に全てを覆して奇跡を起こす者、それを人は皆……!」


 だから、鏡は再び足を前へと踏み出した。世界を救う目的を達成せんがために。大好きな人たちと笑って過ごせる世界を追い求めて。




「英雄と呼ぶのだ!」




 そして、歩き出した鏡を見て、何も言わず、何も聞かずに鏡の背後に立っていたティナ、パルナ、クルル、フローネ、油機、デビッド、ミリタリア、シモン、ウルガを含む獣牙族、ノアに所属するレジスタンスの生き残りたちもそれに続く。


 その圧倒的な存在を前に、「大丈夫か?」などと聞く必要はなかった。


 この男ならば必ずなんとかしてくれる。そんな根拠のない信用をその背中を見るだけで抱くことが出来たから。


「そうだ、俺はもう……諦めない」


 鏡の心に、曇りは一切なかった。


 背後から、鏡の気迫に感化され、戦士と化した者たちの大地を踏みしめる足音が響き渡る。


 目指すはロシアの拠点、ガーディアン。己が諦めきれない信念を貫き通すために、何かもが歪んだこの世界を正すために、止まってしまった時間を動かすために。一同は一人の英雄と共に死地へと赴いた。


「くだらない復讐心とか、役割による強さの限界とか……数による力の差とか……そんなの関係ない。負けるからなんて理由で俺は立ち止まりたくない……この命が尽きるまで、あいつとの約束を……いや、俺自身が叶えたい夢のため――」

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