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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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そんな現実、認めたくないから-4

「…………ぁ?」


 すっかりと冷たくなった身体に触れて、どれくらいの時間眠っていたのか、ぼんやりとする意識に鞭を打って記憶を漁り起こす。最後に記憶に残っている光景から、薄暗くなっているだけで日の沈み具合が進んでないのを見て、ほんの一時間程度眠っていたのだと自覚するのに時間はかからなかった。


「ぁあ……そうか、気を失っていたのか」


 雪の積もったモスクワの地に身体を埋もらせ、鏡は虚ろの瞳で豪雪が降り注ぐ薄暗い空を見つめた。もう実は死んでいるのではないかと思えるほど静かな空間で深い溜息を吐き、突如「大丈夫か?」と、声を掛ける。


「ご主人の懐に潜っていた故……まだ大丈夫でござる」


 すると、もぞもぞと鏡の服の中から朧丸が姿を現した。だが、その姿に活力はなく、弱弱しい動きで鏡の服から出ると、その場にポスッと座り込んでしまう。


 鏡の身体の上は、降り積もらないように何度も雪をどけられた跡があった。そのことから、朧丸がどれだけ無理をしてくれているのかがわかった。


「しかし……ご主人」


「ああ……わかってる」


 空を見上げると、2体のラストスタンドが猛速度で空を通り過ぎて行った。鏡を探しているのか、それとも鏡が逃げられないように予め先回りして遠くに配置しているのかはわからなかったが、鏡は「残念だったな」と苦笑すると、ゆっくりと立ち上がる。


「もう見つかってるし……逃げるつもりもねえよ」


 そして視線の先を建物が左右に建ち並ぶ、ガーディアンがある方向の大通りへと向けた。


 そこには既に、十五人の、戦士、僧侶、魔法使い、呪術師で構成された到達者たちが、武器を構えて待ち構えていた。見えてはいないが、これ以外にも既に数人の盗賊や狩人の役割持った到達者たちが、建物の影に隠れて狙っているのが鏡には殺気でわかった。


「透明化してても……不自然な雪のへこみのせいで位置がばれたってところか?」


「次意識を失わせる時は、せめて家屋内で頼むでござるよ……ご主人」


「ああ、気を付ける……気を付けられるかわかんねえけど」


 弱音を吐きながらも、鏡はふらつく身体を起こし、構えをとった。


 制限解除の反動のせいなのか、この寒さのせいなのかはわからなかったが、身体が思うように動かず、全身の感覚は既にない。それでも、鏡は前へと足を踏み出した。


「…………どけぇぇぇえええええええ!」


 直後、魂の叫びをあげると共に鏡は目の前に立ちふさがる戦士たちの元へと飛び掛かった。


「お前らの相手をしている場合じゃ……ないんだよ! アリスが……皆が待ってるんだ!」


 戦士の懐に入るや否や、鏡は掌底打ちで戦士の腹部から真上へと吹き飛ばす、そして左右から攻め入ろうとする他の戦士たちの接近を防ぐため、すかさず回し蹴りを放って右側の戦士をコンクリートで作られた家屋の壁へと叩き飛ばし、その後に左側から大きな斧を振り下ろそうとしてきた戦士の腕を掴んで引っ張り投げ、地面へと叩きつけた。


 その瞬間、鏡の全身に爆破魔法が襲った。それも一発ではなく、間髪入れずに何度も何度も、周囲で倒れる戦士のことなどお構いなしに。


 元々、戦士はその状況を作り出すための囮にすぎなかったのだろう。抜け出そうともがくが、身体能力低下の魔法に加え、呪術による移動拘束がいつの間にか掛けられており、鏡は抵抗出来ずにその爆破魔法を何発もその身に受ける。


 そして、身動きが取れない間に先程ダメージを与えた戦士たちの身体を僧侶が傷を癒してしまう。


「ご主人……まずいでござる!」


「わか……ってる!」


 結局、この状況を抜け出すには制限を解除する以外になく、鏡は全身に力を込めて己の全力を解き放つ。すると、莫大な力を得るのと引き換えに、激しい痛みが全身を駆け巡った。


「ぬぅうううぐ………がぁぁぁあ!」


 それを振り切って、移動拘束と身体能力低下を受けた身体を突き動かし、鏡は爆破をその身に受けながら魔法使いの役割をもった到達者を殴り飛ばす。間髪入れずに、身体に自由が残っている間にその周囲にいた僧侶、呪術師も死なないように気絶させた。


 鏡にも、自分の身に何が起きているのかわかっていなかった。


 制限解除は本来、一度使えば半日は動けない技のはずだった。


 HPが10になり、全身に疲労による反動が残り、まともに動けなくなる。その代わり、自分の本来の力の70%の力を発揮できる力。


 それが今、少しの休憩を挟むだけで再び使用できるようになっている。それだけじゃない、制限解除の効果時間すらも、伸びていっている。元々、制限を解除した力こそが本来の力なのではないのかと感じてしまうほどに。


 無理に再使用すれば、身体の疲労を精算するかのように激痛が常に全身を襲うが、それでも、制限解除を連続で使用できる恩恵はでかかった。


 このままいけばいずれ、もっと、もっと強くなるのではないかとも思えた。


「っ! 集まってきたでござる……これ以上は!」


「ああ……ロイドが来る。あいつが来たらさすがに……それに連続で制限解除したせいか…もう身体に力が、クソッ! いつまで俺は……逃げなきゃいけないんだ⁉」


「文句言っている暇もござらん……逃げるでござるよ! ご主人は生きねばならぬ!」


 だが、そんな時間は残されていなかった。それを試している心の余裕すらなかった。


 この四日間、休むことも、ろくな食事にもありつくことも出来なかった鏡に、限界が近付いていたからだ。


 水は、降り積もる雪から確保できたが、食料は別だった。辺りに生息している動物もおらず、口に出来たのは元々腰の皮袋に入れてきていた二切れの干し肉と二枚の乾パンのみ。食料を積んでいたラストスタンドは当然の如く回収されていた。


 なのに、ろくに休めない間にガーディアンの到達者たちが襲い掛かる。離れようにも、ラストスタンドを失った今、見知らぬ極寒の地を無いに等しい体力で移動すれば、それこそ迷い果てた末に力尽きるのは見えていた。更にたとえ離れてもガーディアンから送り込まれた到達者たちがいつまでも追いかけてくる。


 仮に、到達者たちが追いかけてこなかったとしても、鏡に逃げるという選択肢はなかった。まだ、仲間がガーディアンの中で助けを待っていると信じていたからだ。タカコたちが殺された瞬間は見ていない、まだ生きている可能性がある。その可能性がまだ残されているのであれば、ここで見捨てて引くという選択は鏡にはなかった。


 仮にもう生きてないのだとしても、死んだと証拠になるその姿をみるまでは決して諦めきれなかったから。




「あぁ……またか」




 そして、五日の時間が経過した。


 指定通り、今度は家屋内で意識を失わせたのか、冷たくて硬い木で出来た床の上で目を覚ます。最後に記憶に残っているのは、あの後も戦いを重ね、制限解除を使用するための限界すらも訪れた身体に鞭を打って建物の並ぶ方角へと逃げ、すがるような想いで建物の中へと入り込んだところまでだった。


 ほんの少しだけ身体が軽く、恐らく三時間くらいの長い間眠っていられたのが窺えた。同時に、どうして今のタイミングで目が覚めてしまったのかに気付く。


「休む……暇はないってか?」


 気付けば、建物の外から自分のいるこの場所に向けて、無数の殺気が放たれていたからだ。


「すまぬ……ご主人、某も……もう、力が」


「いや……いい、よくやってくれた」


 そして、朧丸が寝ずに透明化を施してくれたおかげで、見つからずに三時間も休むことが出来たのだと察すると、鏡は微笑を浮かべて、胸元にしがみつくようにしてくっついていた朧丸をそっと、食べ物を入れていた皮袋の中に入れて振り落とされないようにすると、鏡はいつでも戦えるように構えをとった。


「あと二、三回で……終わりだな」

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