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LV999の村人  作者: 星月子猫
第一部 
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なりたいものになればいい-2

 明らかに遠い目をしているアリスの前を、ケンタ・ウロス二体は「これは決して人間に屈した訳ではない、我々は本当の価値を理解しているのだ。よいか? 人間よ……」等と呟きながら、ガタゴトと荷馬車の音をたてながら通り過ぎて行った。


「眼が腐るかと思った。どうよ? 乗りたい?」


 鏡がそう言うと、アリスは無言で表情を変えないまま首を左右にゆっくりと振る。


「あら? 鏡ちゃんったら、ようやく起きたのねぇ」


 そして、ケンタ・ウロスと入れ違うようにタオルを丸太のような首に巻き、土木工事をするおじさんが如く良い汗をかきながら片手で大木を運ぶタカコが姿を現す。


 その瞬間、アリスはこの街は凄いのしかいないと確信した。





「んもぉー、ケンタ・ウロスに乗れば楽にいけるのに、何を意地張っているのよぉ」


 鏡達は、太陽が真上に昇り切る前に街を出て、約束していたメノウの元へと出発した。


 数日分の食料や衣服の入った大きなリュックサックを鏡とタカコが背負っている。


「鞭を打つのが嫌なら、私がバッシバシ叩いてあげたのに」


 惜しんだ表情でそう言うタカコに、鏡はアリスに視線を向けて「な?」とでも言いたげな、驚愕の表情を浮かべ、アリスも同じように怪訝な表情で頷き返した。


「俺にもプライドがある。乗るのは嫌だし、毎回あの気持ち悪い反応を見るのも嫌だ」


「わがままねえ。そこはぐっと堪えなさいよ、歩いて行くの大変なんだか……ら? あら、あれそうなんじゃないかしら?」


 そう言ってタカコが指差した先に、昨日、鏡が見たフードマントを羽織った姿ではなく、サーコートのようなマントに、王国の兵士がパーティー会場に行く際に着る正装のような服装に身を包んだ銀色の長髪の男性が立っていた。


 黙って何かを待つかのように沈黙するその姿はどこか気品を感じ、人違いかなと一瞬勘違いしそうになるが、魔族の象徴である角が渦巻いて耳の付近に二本生えていることから、それが昨日出会った魔族の男であると鏡は改めて認識した。


「メノウ!」


 そして、その魔族の男を見つけて真っ先に反応したのはアリスだった。メノウを視界に映すと嬉々とした表情でメノウの元へと駆け出す。


「あ、アリス様! よくぞご無事で……このメノウ、心配致しました」


 そしてアリスがメノウの傍へと寄ると、メノウはすぐさま片膝を地面に着けて頭を下げながらそう言った。


「ううん、メノウこそ無事で良かった」


 アリスがそう言って微笑み返すと、メノウは少し安心したのか表情を和らげて立ち上がり、鏡の方に視線を送る。


「貴様の話……嘘ではなかったようだな」


「嘘をつくメリットなんて無かったしな。あそこで嘘を言うくらいならあんたをとっくの昔に再起不能にしているよ」


 鏡がそう言うと、メノウは「違いない」と、苦笑しながら呟いた。


「あら? あらーん? いい男じゃない……ッ! 風格もあって素敵だわぁ……!」


 そして追いつくように、ズンズンと足音を鳴らしながらメノウの目の前へとタカコが姿を現す。チラチラと姿は見えていたが、その異様な口調を聞いてメノウは思わず飛び退いた。


「貴様……一体何者だ!」


 その瞬間、メノウは両手に魔力で作られた炎を纏わせて身構える。それを見たアリスは慌ててメノウに落ち着くように言い聞かせた。


「タカコさんは理解者だよ! 鏡さんと一緒! 僕を守ってくれているんだ!」


「理解者……ですと? いや、しかし……むぅ……そうなるのか」


 自分の中で勝手にタカコが味方であるという事を理解し、すぐさま魔力を抑えて構えを解く。


「まあ魔族なんだしそうなるのは仕方がないわよ。気にしなくていいからね」


「むぅ……すまない。もう知っているかもしれないが、私の名はメノウ。この度はアリス様を保護していただいたことを感謝する。よければ貴殿の名を伺いたい」


「貴殿? あ、タカコさんは女性だよ」


 アリスが慌ててそう言った瞬間、メノウは驚愕の表情を浮かべて「えっ!?」と言いながらアリスの表情を伺った。それが嘘で言っている訳ではないとわかるや否や、メノウはタカコを2、3度、見直す。


 アリスの姿を見てからタカコを見る。同じ女性とはとても思えない。


 鏡の姿を見てからタカコを見直す。むしろまだ鏡の方が女性に近いのではないかと錯覚した。


「私、タカコ・ビルダー。よろしくね?」


 貴殿と言われたのが相当癇に障ったのか、タカコは笑みを浮かべながらも異様な近付き難い黒いオーラを周囲に放ちまくっている。そう錯覚する程に、タカコの声のトーンが低かった。


「あ……う、し、失礼した。た、タカコ殿だな? よろしく頼む」


 メノウはそう言葉を返すと、タカコと握手を交わした。どっからどう見ても筋肉の塊にしか見えなかったが、アリスを保護してくれた恩人には変わりないため、ぐっと堪えて胸の奥にその感情を押し込んだ。


「改めて貴様……いや、鏡殿、貴殿にも感謝しよう。アリス様の御身を守っていただいたことを感謝する」


 そしてタカコと同じように、鏡もメノウと握手を交わす。


「さって、とりあえず旅の計画を話したい訳だが……いいか?」


 握手を交わしながら、片手に地図を持ってピラピラと動かす鏡に頷き、地面に地図を広げ、4人でそれを囲うように地面へと座った。


「一直線に行けたらいいんだけど、メノウの魔力がダダ漏れなので、身を隠して迂回しながら魔王城に向かう訳だが……その場合、どれだけ急いでも14日掛かる」


「待て、そう言えばアリス様から魔力を感じないのだが、これはどういうことだ?」


 メノウがそう聞くと、鏡はアリスに背を向けるように指示し、それに従ってアリスは角に着けられた布とリボンをメノウへと晒す。


「この布が何だと言うのだ……?」


「鏡さんが作った、魔族の魔力を抑える布だよ。これのおかげで僕、人里に初めて入ることが出来たんだ。凄い活気だったんだよ? ヴァルマンの街は!」


 そう聞いて、メノウは再び驚愕の表情を浮かべてアリスの角に巻かれた布に視線を向ける。かすかだが魔力の放出を感じ取れる。だがそれは一瞬のことで、すぐさま魔力は布に吸収されて別の何かに変化していた。


「これを鏡殿が作ったというのか?」


「たまたまだけどな。レアすぎてそれ一つしか作れなかったけど」


「……貴殿は本当に、魔族を嫌っていないのだな。むしろ……」


 メノウが言葉を続けようとしていたその瞬間のことだった。タカコがアリスを突然抱えて飛び退き、鏡とメノウも同じようにして飛び退いた。


 その直後、燃え盛る炎の塊が猛スピードで接近し、囲っていた地図が一瞬にして灰になる。


「やーっぱりね。なんか変だと思ったのよあたし」


 そして、隠れるだけ無駄とでも言いたいのか、周囲に広がる木々の一つから、勇者パーティーの一人、パルナが姿を現す。


「変だとは思っていました。昨晩、ヘルクロウから落下した人影が二つありましたから」


 そう言って、次にクルルがパルナとは反対の位置から姿を現す。


「魔族と一緒にいるなんて……信じられません! それに妹って言っていた子も……やっぱり魔族だったんじゃないですか!」


 そして、次にティナが。


「言い逃れ……出来んぞ」


 そして最後にレックスが、鏡達を囲うように木々に紛れて姿を現した。



「お前ら順番に出てくんなよ」



 一気に出て来いよと心の中で呟きながら、唖然とした表情で鏡は言葉を返した。


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