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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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敗者への現実-5

「ほら、例えばあそこの壁にあるスイッチとか押したらヤバいとかお前ならわかるだろ?」


「むしろ、DANGERって書いてあってドクロマークまでついてるのに何で大丈夫だって思えるんだお前?」


「いや、むしろあからさますぎて押したくなっちゃうだろ?」


「ならねえよ」


 メリーの忠告を無視して『わくわくスイッチ。押すととても楽しいことが起きるボタン。DANGER』と書かれたスイッチのある壁へと鏡とペスはにじり寄るが、辿り着く前にそれぞれタカコとレックスに首を絞められることで阻止される。


「鏡ちゃん……いつもだったら押しても良かったけど、今はやめて頂戴? ちょっとのミスがそのまま私たちを追い詰める原因になるかもしれないんだから。ただでさえ、相手にハンデをもらって潜入できてるような状態なんだし」


「わかってるよ。肩の力を抜くためにわざとだよわざと! 変に気負いすぎると余計なミス起こしちゃうだろ? 俺の優しさだって気付い……ちょ、ギブ!」


「ソウだぞレックス……ウチも、ソノツモリデだナ……」


「いや、お前は本気で押すつもりだった」


 鏡はともかくペスは危険だからとアリスに監視を任せ、二人を制止させてからすぐ、タカコはキョロキョロと周囲を見回して状況を再確認した。


 進行方向は複数あり、どこから進めばゴールへと辿り着くのか見当もつかず、また、ここが地下施設ガーディアンの何階に位置するのかがわからず深い溜息を漏らす。


「来栖の元に辿り着くまで、一体何階層あるのかしら……フローネちゃんに全部で何階層まであるのかくらいは聞いとくべきだったわね」


「ゴールがどこにあるかもわからん……敵も、恐らく大量に潜んでいるのだろうし。天井突き破って行くにしても恐らく監視されているだろうから、不正をしても転送でまた戻されるのだろうな……先は長そうだ。体力が尽きるまでに辿り着ければいいが」


「それも含めて……来栖は試練のつもりなのかもしれないわね。力尽きるのが先か、辿り着くのが先か」


 いつ辿り着くかも、どんな脅威が待っているかもわからないダンジョンの行く先を想像し、タカコとレックスは表情を歪めた。


「一応だが、アリス。僕たちがいくら傷ついても限界になるその瞬間まで治癒魔法は使わないでくれ……いいな?」


 そしてレックスに釘を差され、アリスは不穏な表情を浮かべながらも頷いて承諾する。


 だがすぐに、そんな心配はいらないと水を差すように「いいっていいって」と、鏡が気の抜けた声を二人に投げかける。


「そんな心配、する必要なんてないよ」


 そんな理屈のない一言に、アリスとレックスは困惑する。


 直後、生い茂る木々の中に潜んで近付いていたのか、突然タカコの二倍はあるであろうサイズを持つ、鎧を身に着けたサイのようなモンスターが襲い掛かり、二人はどういうことなのかを理解した。


「今更、モンスターのいるダンジョンをクリアしろってのを試練にしてるのが笑う。それ……なんか意味あんのかね?」


 剣を振った動作を確認するよりも早く、モンスターは現れたと同時に引き裂かれたように頭から真っ二つに割かれて横たわったからだ。


 そのモンスターの前には、背負っていた大剣を片手で振り払い、付着したモンスターの血液を地面へと払い飛ばす鏡の姿があった。


「ボス……モう二体来る! 前方と背後デ一体ズツダ!」


 しかしすぐにまた、モンスターが接近しているのを感じ取ったのか、ピクピクと犬のような耳を動かしてペスが背後を警戒する。だがその警戒も無駄に終わり、ブォンッ! と重い棒が振り下ろされたかのような音が二回鳴り響くと、前方と後方から現れたモンスターは、再び現れた同時に真っ二つに割かれて横たわった。


「監視しているんだろ? だったら、試している余裕なんてないってこと……わからせてやらないとな。何をけしかけようが……無駄だってな」


 一撃一殺。鈍い光を放つ重々しい大剣を、短剣を扱うがごとく片手で軽々振るう鏡を見て、どんな相手であろうが一撃の元に葬り去られるのだろうと一同は悪寒を抱いた。


 その鏡の攻撃には、慈悲がなかった。


 鏡が素手で戦っていたのは、手加減をしやすくするため、そして武器を使わないことで殺傷能力を最大限にまで下げて相手よりも不利な状況を作り出し、経験値を稼ぐためだった。


 いつもの鏡であれば、試練と名称付けてダンジョンの番人を守らせているモンスターを相手にニ、三撃の攻撃を打ち込む必要があったが、大剣を持った鏡にその手間は最早不要だった。


 その大剣を抜いた瞬間、誰であろうと手加減するつもりはないという鏡の覚悟が感じられた。


「ペス……敵の位置がわかるなら出口もわかるんじゃないか?」


「ム……出口はワカラナイが、一際強い気配がアル場所ナラワカルゾ」


「怪しいな。とりあえずあてもないしそこに向かおう。ペスは引き続き俺に敵の位置を知らせてくれ、タカコちゃんとレックスはメリーとアリスの護衛。メリーとアリスは……何もしなくていい。俺が全部……片付ける」


 大剣に付着した血液を地べたに振り払うと、鏡はペスが指差す方向へと大剣を片手に握ったまま歩き始める。その後ろの姿に先程まで冗談を言っていた鏡の姿はなく、すぐ近くに来栖がいる事実が鏡の感情を高ぶらせたのか、殺気で覆われていた。


 同時に、どうして鏡がああまで引き返そうとしなかったのかのに気付き、タカコは頬に汗を垂らした。


「もう……抑えられないところまで来ているのね」


 立ち向かうための条件は揃っていた。来栖への憎しみ。アリスに迫る魔力消失の刻限。そして絶対に負けるはずがない、今まで己が磨きあげてきた他者の追従を許さない圧倒的な力。それらが鏡から引くという選択を奪っていた。


 一同は、そんな鏡の背を追ってダンジョンの奥へと突き進む。そして、どこかそんな鏡を悲しい表情で見つめながら、アリスが遅れて一同のあとを追いかけた。


「駄目だよ……鏡さん」


 願わくば、敵として人が現れないようにと祈りながら。

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