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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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絶対的な強さの壁-6

「連れて行く人数を絞るのは敵に見つかるリスクを下げるためだ。敵に見つからないようにすれば生き残る可能性もあがる。でも見つからなければ良いってわけじゃない、見つかった時にも対処できる能力がないと駄目だ。お前に力を使わせるわけにはいかないしな」


「でも……ボク」


「今回ばっかりは足手まといだ。ハッキリ言ってやる……邪魔だから来るな」


 そう言って鏡がラストスタンドから飛び降りて地に立つと、そのままアリスの横を素通りして他に行く意志のある者を集った。


 初めてともいえる鏡の本気の冷たい態度を前に空気は緊迫し、一同はアリスに憐れんだ視線を向ける。アリスも、無下に扱われたのが悔しかったのか、声には出さなかったが拳を震わせて瞳に涙を浮かべていた。


「私は行くわ」


 だが、鏡の言っていることは間違いでもなく、このままアリスを憐れみ続けてもただいたずらに時間が過ぎるだけだと悟ったタカコが、ため息を吐きつつも挙手する。


「タカコちゃんか……むしろタカコちゃんを除くって考えはなかったから大歓迎だ」


「まあ私は武器を持たないでいいから、この中では一番隠密には向いてるでしょうね。とは言っても私だけじゃ戦力的に心細いわ……向こうの人たちに囲まれた時とか、身を守る術がないもの」


「そういう状況になった時、ティナがいてくれたらダメージとか無視して強行出来るんだけどな……まあ、あいつは来てくれないだろうけど」


 この場にはいないティナを思い浮かべながら鏡はクルルに視線を合わせると、クルルは少し表情を暗くしてその通りだと頷いた。


 ティナは最早、向こうに渡るための手段すらどうでもいいのかこの格納庫に来ることなく自室へと戻っている。別れ際、どこか後ろめたそうに、「自分を置いてどこにも行かないでほしい」と訴えるような瞳で見つめられたが、鏡にはそれを受け入れることは出来なかった。


「師匠、僕も行くぞ。むしろ僕以外に適任者はいないはずだ。いざとなれば……僕のスキル。スーパーアーマーを使って皆の盾になるつもりだ」


「うん。俺もそのつもりだった。だからレックスは強制連行で既に同行が決まってます」


「ちょっと待ってくれ師匠。僕もタカコと同じくらいには丁重に扱われたい」


 元々、連れて行きたい人材は決めていたのか、鏡は悪戯な笑みを浮かべて「冗談だ」と口にすると、レックスの肩をポンッと叩いて「それだけお前を頼りにしてるってことだよ」と、他の同行者を再び募り始める。


 その瀬戸際、レックスは嬉しそうな笑みを浮かべるのではなく、辛辣な表情を見せた。


 頼りにしてくれているのは嬉しかった。でも今の鏡からはそれが別の意図も込められているのだと、すぐに理解出来たからだ。


 察しの通り、鏡がレックスを最初に選んだのには理由があった。それは、己を犠牲にしてでも前に進む覚悟を持っているかどうかだ。


 メノウの死に際を前に、レックスはただ一人前に進もうとする姿勢を見せていた。レックスはメノウを踏み越えて前に進める強さを持っている。だから、この先に訪れるどんな困難や辛いことにも耐えられるだろうと鏡はレックスを信頼していた。


 だがそれは同時に、いざとなった時、仲間の死を乗り越えて進む強さを持っている人間に信頼を置いているということにも繋がった。それがまるで、自分に何かあった時に安心して任せられると言われているようで、どこか不快感があった。


「レックスが行クならウチも行ク。面白そう」


「……そうやって意志を示してくれるのは嬉しいけど、ペスだっけか? とりあえずあんたのことを俺はよく知らない。連れて行く前に連れて行く価値があるかを知りたい」


「ウチは獣牙族、鼻も利くシ気配にモ敏感。役に立ツゾ? 戦イにモ慣れてる」


 実際どうなのかを確かめるべく、鏡はウルガへと視線を向ける。すると、その通りなのかウルガは軽く頷いた。


「ペスは俺タちノ中デモ特に力を持っタ戦士ダ。……変わリモノダガナ。ダガ、連れて行ケバ必ず役にタツ」


「ウルガ、あんたは来てくれないのか?」


「俺は……部族のまとめ役とシテ、仲間を見てイナケレバならン。スマンが……ツイて行けない」


 ウルガも連れて行こうとしていたのか、鏡はそれを聞いて少し残念そうな顔を見せる。


「安心しろ師匠。ペスはこんな中身だが、実力は僕も実際に見て知っている。特に索敵能力に長けているから……充分役にたつはずだ」


「レックスより役にたつゾ?」


「いやいや。僕の方が役にたつから」


 だが、その心配はいらないというように、レックスがペスを褒めたたえる。その様子を見て、行く意志のない者を無理に連れて行っても無駄かと判断し、鏡もペスの同行を認めた。


「お父……ピッタも行くです。ピッタも役にたつです」


「ピッタは駄目だ。お留守番しててくれ」


「お父……ピッタが嫌いになったです?」


 ついてこようとするピッタを鏡が一蹴すると、ピッタは潤ませた瞳で鏡を見つめ始める。さすがに堪えるものがあったのか、鏡は喉を詰まらせたような顔を一瞬見せると、「それでも駄目だ」と気を取り直してピッタの頭をポンッと叩いた。


「確かにお前の五感は強力だが、今回はさすがに連れていけない。仮に敵に見つかった時、ピッタを守りながら戦わなくちゃいけなくなる。ピッタの代わりにペスがついてきてくれるんだ……今回はお留守番しててくれ」


 優しく諭そうとするが、それでも不満なのかピッタは鏡を見つめ続ける。だが鏡は次に「万が一の時、危険な目に合わせたくないんだ」と、アリスに視線を向けながらつぶやくことでピッタは鏡の心境を察したのか、鏡を見つめるのをやめて素直に「……わかったです」と答え返した。


「ま、戦う力のないやつは連れて行きたくないってのはわかるけどよ……私は絶対に行くからな」


 だがその時、明らかに戦う力を持っていない者を連れて行こうとしない態度を見せる鏡に対し、面と向かってメリーが声を掛けた。


「駄目だって言っても私は行くぞ? 何なら一人ででも強引に行く。ついでにアリスも乗っけてな」


 そして、思いもよらない予想外の言い分に、鏡は表情を歪めた。

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