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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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絶対的な強さの壁-5

「これは……!」


 眼前に広がる圧巻の光景に、タカコは目を見開いて言葉を漏らす。


 バルムンクが姿を現してから十数分後、鏡、タカコ、ウルガ、メリー、レックス、ペス、パルナ、クルル、アリス、ピッタ、朧丸の十人と一匹はセントラルタワー内の地下深くへと足を運んでいた。


 来栖との関係者であった者しか持たない権限で転移出来るドーム状の格納庫へと足を踏み入れた一同は、眼前に広がる全長五メートルはあるであろう重厚な黒い鋼の鎧を纏った無数の古代の兵器を前に息を呑んだ。


「お前たちはあれを小型のメシアと呼んでいたか? 姿形が同じだからアースクリア内に存在する古代兵器の名称で呼んだのだろうが……あれは別物だ。正規な名称は人類最後の砦……『ラストスタンド』」


「ラスト……スタンド? 人類最後の砦?」


 その名を与えられた意味をタカコはバルムンクに問うが、バルムンクは答えることなく、一番近くにあったラストスタンドの傍へと近寄り、ポンッと軽く手を置いた。


「ウチ……これ知っテル。恐怖の象徴……腹立つ」


 つい先日も、過去にもラストスタンドを操縦していた来栖の手の者たちに苦しめられていたからか、レックスの肩にぶら下がっていたペスは表情を歪ませて「フッー!」と威嚇をして見せた。


「悪いのはこの古代兵器じゃなくて、これを操っていた連中だ。怒りをぶつけるならそいつらにぶつけるんだな」


 そう言うと、レックスは言葉とは裏腹に突然剣を抜き去り、まるで怒りをぶつけるかのように斬撃をラストスタンドの足元の装甲へとぶつける。すると、剣と装甲が擦れる瞬間火花が舞い散り、ラストスタンドの足元には小さな傷が出来上がった。


「本物だな……僕がそれなりに力を入れて斬りつけたのにまるで傷が入っていない。一体どんな素材を使って作られているんだこれは?」


「随分と荒々しい確認の仕方だな。むしろ、ただの鉄の剣で傷をつけられるだけでもさすがはレベル200を超える勇者かと褒めたたえたいくらいだがな」


「……これを僕たちに見せてどうするつもりだ?」


「これに乗ってロシアに行くといい。こいつの性能と燃料消費なら、ノアからロシアにある地下施設……ガーディアンを往復するくらいは出来る。なに、使い方は教えてやるさ」


 その言葉に、ラストスタンドの性能を知っている一同は怪訝な表情を浮かべた。


「いいのかよ? こんなとんでも兵器……俺たちなんかに渡しちまって」


 偽物を渡しているのではないかと不安になり、鏡がペチペチとラストスタンドの装甲に触れながら、バルムンクがこれを渡してきた意図を探ろうとする。


「言っておくが燃料の都合上、移動手段以外に使おうと考えれば帰って来れなくなるぞ? まあ、どうするかはお前たち次第だが」


「まるで使わないことを勧めているみたいな言い方だな?」


「少し考えればわかることだ。向こう側もラストスタンドを多数保有している。それも操縦できる者も多数抱えてだ。対してこちらは操縦できる者もいなければ向こう側に行く意志を持った者も少ない」


 それを聞いて、鏡はこれが本物であると確信すると同時に、これを移動手段以外に使わない方が賢明であると、「理に適っている」とつぶやいて納得した。


 仮にロシアもラストスタンドを多く保有している場合、同じ力を持っている以上、単純に数が多い方が有利になる。また、ラストスタンドは全長五メートルと大きく、隠密行動にも向いていない。相手側の数もわからない状態でラストスタンドの性能に頼ろうとすれば、大きな的が迫ってきたくらいの感覚で来栖は鏡たちを一網打尽にするだろう。


 また、鏡たちの目的はロシアへの攻撃ではなく、全ての元凶である来栖を捕らえることのため、目立つラストスタンドを戦闘目的で使うのはマイナス要素しかなかった。


「間近で見ると……やっぱりデカいな。大人数で行動すればすぐにバレちまう」


 鏡は確かめるようにその場から飛び上がり、ラストスタンドの腹部の装甲が開いた操縦席の内部を覗く。


 中は薄暗かったが、中央にクッション性の高い座席とその両隣に手の甲を入れられそうなハンドルが置かれている以外には何もなく、暗くても全容がわかるシンプルな内装となっていた。


「案外誰でも乗れそうな感じがしてるな……昔に漫画で読んだロボットものの操縦席や、飛行機って呼ばれてた機械の操縦席みたいなのをイメージしてたけど」


「それは人類の英知の結晶だからな。誰でも動かすだけなら簡単に動かせるように作られている。まあ……動かすだけだったらの話だが?」


「ますます今回これを使って戦うのはやめた方がいいってことか」


 既に生身でラストスタンドと戦い、破壊した経験を持っている鏡たちからすれば、むしろラストスタンドに乗って戦うのは戦力の低下を招いた。


「この中に何人乗れるんだ?」


 それをすぐに理解した鏡は、いかに目立たないようにロシアへと渡るかを模索する。


 格納庫内にはパッと見ただけでも数十を超えるラストスタンドが保管されていたが、出来れば少ない数のラストスタンドでロシアへと渡り、見つからずに来栖の元へと辿り着きたかったからだ。


「体重にもよるが……ギリギリ三人くらいだ。今、中を見てるならわかるとは思うが、二人でも少し窮屈なはずだ」


 バルムンクの返答を聞くと、鏡は振り返り、その場にいた一同へと視線を向ける。そのまま暫く死ぬ覚悟は出来ているとでも言わんばかりの眼差しを向けてくるアリスやクルルたちの姿を見て、鏡は一度ため息を吐くと、「全員は連れていかない」と、まるで諦めさせるかのように冷たく言い放った。


「何言ってんのよ。またあんた一人でなんとかするとか言うつもりじゃないでしょうね?」


 その言い方が気に食わなかったのか、表情を歪めたパルナが腕を組んで鏡を睨みつける。だがそんなつもりはなかったのか、鏡は慌てた様子で「違う違う」と言ってそれを否定した。


「少数精鋭ってやつだ。さっきバルムンクも言ってたけど、数を連れてって戦いを挑んでも、きっと負ける。罠だって張ってるだろうしな。だから……正面からぶつかるんじゃなくて少人数でロシアの基地の内部に潜り込んで来栖を捕まえるんだ。俺一人で無理なのは……わかりきってるからな」


 まるで、一人でどうしようも出来ない自分が情けなく、巻き込んでしまうのが嫌とでもいうかのように鏡は表情を暗くする。その顔を見てパルナも察したのか軽くため息を吐いて、「なるほどね」と納得したようにつぶやいた。


「……何人連れていくつもりなの?」


「出来れば目立たないように行動したいから、ラストスタンドを使う数もニ機までに絞りたい。連れて行く人数も俺を含めて四人……多くても六人かな」


「ボク! ボクが行く!」


 その時、全員は連れて行かないという言葉を聞いて焦ったのか、アリスが勢いよく挙手をして鏡についていく意志を示す。


「……駄目だ」


 だが、アリスが同行の意志を示すだろうとわかっていたかのように鏡はため息を吐くと、冷たい視線をアリスに浴びせてキッパリとそう告げた。

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