絶対的な強さの壁-4
スキルとして、この力が存在するのも謎だった。その理由として、『制限解除』がスキルとしては特殊性に欠けていたからだ。
鏡の持つフィンガーと名のつくスキルでさえ、元々自身に存在していなかった力として指の強化が施される。
だが制限解除は、元々ある自分の力を開放するだけで、元々存在しなかった何かが身に着いたわけではない。いつでも力の制限を任意的に解除できる点は確かにスキルらしさがあったが、仮にこれが『火事場の馬鹿力』であった場合。人間はこのスキルの力を頼らなくとも危機的な状況に陥ったり、ちょっとした催眠に頼るだけで同じ恩恵を得られる。
それらの理由から、ダメージを背後に受け流すバルムンクのスキルなどと比べると、特殊性に欠けていた。
「……100%じゃないんだな」
「そこも気になりました。仮にこれがただの火事場の馬鹿力なら、100%の力なんて出したら身体が持たないんでしょうけど……」
「いや、それは昔の人間の話だ。強化を施されたアースクリアの人間のリミッターが解除されて身体がもたないのかと言われればそんなことはないはずだ。仮にそうだったとしても、70%の力で3分しかもたないのは意味がわからん。何故3分なんだ?」
「やっぱり……身体を維持するためなのでは……? 火事場の馬鹿力ではない……何かから」
考えれば考えるほど、そのスキルの定義のしにくさに、ライアンとフローネは気付けば次第にそのスキルが不気味に感じていた。
「そういう顔をすると思ってたよ」
すると、予想通りの反応だったのか、来栖が満足そうに笑みを浮かべる。
「だからこそ……試す価値があるのさ」
「……あんな悪趣味な方法でか?」
「そう……悪趣味であればあるほど、狂ってれば狂ってるほどいい」
まるで、それが自分の未来を切り開くとでも言うかのような醜悪な笑みを来栖は浮かべる。
「あの……そもそも試すとは何を試すつもりなのですか? スキルですか? それとも強さですか? どちらも既に来栖様は直接ご覧になられたのでは?」
「僕が試すのは可能性さ」
「可能性?」
「彼の制限解除のスキル……さっきライアンはどうして3分しかもたないのか聞いてたよね?」
「言っていましたが……それが何か?」
「僕がノアの施設をあとにする直前。捕らわれていた彼は仲間を助けるために制限解除のスキルを発動して、全速力で最下層にいる仲間たちの元へと向かってバルムンクと戦ったんだけど……戦い終わったあとでも……彼、倒れてなかったんだよね」
来栖の説明にいまいちピンッとこなかったのか、フローネは首を傾げる。
だがライアンは、その意味を瞬時に理解したのか、目を見開いて勢いよく上半身を起こし上げ、「馬鹿な」と声を張り上げた。
「与えられたスキルの効果内容が変化するなど聞いたこともないぞ⁉」
「どういうことですか?」
「ノアの地下施設は機密性を保つため、各所が勝手に移動されないようにブロックで覆われている。移動しようと思えばそのブロックを破壊するか、転移装置で移動する以外にない。全てのブロックを破壊して地下に辿り着き、そのあと戦闘も行ったとなれば……どう考えても3分では無理だ。そうだろ?」
ライアンの問いに、来栖は頷いて返す。
来栖がノアの施設を捨てたその日、鏡のスキルの詳細を確認していた来栖は信じられない光景を目の当たりにした。鏡が制限解除を発動したあと、3分を越えても鏡は戦い続けていた。少なくとも体感時間で15分以上は活動を続けていたのだ。
それを確認するまでは、ノアの施設を来栖も簡単に放棄するつもりはなかった。
「でもね……バルムンク君がノアの施設で戦う前に旧文明の兵器を利用して戦ったんだけど、その時は3分間しか持たなかったみたいでね」
「力の性能が変化した? どういう条件で?」
「さあね。でも多分だけど……僕は感情の起伏がカギだと思ってるよ」
それを聞いて、来栖がどうして【その方法で】試そうとしているのかに納得し、ライアンは深くため息を吐いて再びベッドへと上半身を倒す。
「しかし……どうしてそんなことが起こり得るんだ?」
「その理由はわかるでしょ? どう考えても彼の持つ最後のスキルを見ればわかるじゃない?」
「神へ挑みし者……限界を超えて成長するスキルのことを言っているのか? それは身体能力だけの話だろう? いや……勝手に決めつけているだけでスキルの成長も促すのか?」
「いやいや違う違う。そこで判断するんじゃないよ」
すると来栖は、制限解除と神へ挑みし者のスキルを拡大して表示させていたのを戻し、再び全てのスキルの一覧がある場所を開く。
「……君たち普通に気付かずに彼の意味不明なスキルの詳細と変化だけに関心を示しているけどさ、一番面白いのは彼が……スキルを11個も持っているという点なんだよ?」
空間が凍りついたかのように暫く静まり返る。フローネは理解できないのか首を傾げ、ライアンは表情を一つ変えずに押し黙ったまま、数秒の時間が過ぎた。
「それが……何か? 限界を超えて成長する力を持っているんですよね? つまりレベル1100に足りる経験を得たということじゃないのですか?」
たまらず、フローネは来栖がそこまで興味を示す理由の真意を聞こうとそう告げる。
だが来栖は、「わかってないなぁ」とヤレヤレと首を振って呆れた様子で軽く鼻で笑う。
だがすぐに、ライアンが「……いや」と、信じられないといった表情で声をあげると、来栖は満足そうに笑みを浮かべた。
「気付いた? アースクリアの仕組み上。それって絶対ありえないんだよ」
「え? っえ?」
どういうことなのかわからず、フローネは困惑した様子で二人に説明を乞う。
「君もさっき言ってたじゃないか。彼はね、レベル999の村人なんだよ? そう……レベル999でしかないんだ。数値は999以降……一切変わらない。ほら、スキルって……どうやって手に入るんだっけ?」
「……まさか」
その意味をようやく理解したのか、フローネは目を見開いて言葉を失い。わなわなと震えあがる。
「俺はもう納得した。ガーディアンの人間はお前の自由に使えばいい」
そして、来栖がそうまでして試そうとしていた理由を知り、ライアンが悟ったかのような表情を浮かべると、来栖の腕に輪っか状の黄色い仄かな光が纏われる。
「ガーディアンのサブマスター権限だ。これでお前が利用できない施設はなくなる」
「助かるよ。理解してくれたみたいで」
「理解はした……が本当にやるのか? お前のやり方は……人間性に欠けすぎている。一歩間違えばその村人は壊れることになるか、もしくは取り返しのつかない敵になるかもしれないぞ?」
「でもそれが一番、試すのにてっとり早いし……可能性も高い。わかってるだろう? 僕たちにはもうそんなに多くは時間が残されていない。可能性があるかないかでテキパキと動いていかなきゃ駄目だろ? 試される者の人権なんて……知らないね。価値があるかないかでいい」
「だが焦りは禁物だ。お前ならその村人を解析して、少しずつ実験を重ねて真相を明かすことくらい出来るだろう?」
「何百年掛かるのさそれ? それに……それだって人権無視だろう?」
醜悪な笑みを浮かべる来栖のその言葉に、後ろめたい感情を抱いたのかライアンは顔を俯かせる。ライアンが言ったその方法も、決して人間的な行為とはいえなかったからだ。
「壊れるならそれまでさ、その程度だったってこと。僕たちはあくまで予定通りに動く。その予定を少しだけ崩してもいいって存在が現れただけで……全部崩そうとは思わないね」
「変わったなお前は……よくも悪くも」
「そりゃそうさ。人一人の命を気にしていても仕方がない。目的を果たせるか果たせないか……それだけしか僕は興味がないよ。例えあの村人が……身体も、心も壊れることになってもね」
それを告げると、来栖は恋人を待っているかのような焦がれた表情で、モニターに鏡の顔を映し出す。
そして、「待っているよ……鏡君」とつぶやくと、再び醜悪な笑みを浮かべ、足元に出現した光のサークルに包まれてその場から姿を消した。
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今回も加筆修正に加え、内容の大幅な変更を行っていますので、WEB版を読んでいただいた方にも楽しめるようにさせていただいています。内容変更しすぎて、WEB版にはいないキャラも登場します。詳しくは活動報告をご覧いただけたらと思います!
それでは、今後もお付き合いいただけますと幸いです。
LV999の村人をよろしくお願い致します。