絶対的な強さの壁-3
「確かに最初に目につくのはそのフィンガー系のスキルだよね……でも、奇跡的に指に関係するスキルが連続で手に入っただけで、それに隠れた要素は特にないと思うよ」
「スーパーフィンガーって……指を弾く力が異常に強くなるスキルだったよな確か? 他のハイパーとかミラクルとか書かれてるのも同じようなスキルか?」
その問いかけに、来栖は頷いて「まあ、大体同じような指に関するスキルだよ」と返すと、フローネもライアンも、どこか可哀そうなものを見るような表情を浮かべた。
「レベル600になるまで指に関するスキルしか手に入らなかったのに、よくこいつはここまでレベルを上げようと思ったな、俺なら心が折れる」
「まあ彼にとってスキルなんて二の次だったと思うよ。じゃないとレベル999にまで村人の役割であげようと思わないだろうし。それに最初に得たスキルはとてもレアなものだからね」
「オートリバイブか。確か自己再生能力が異常に高まるスキルだったか? ウチにも一人いるな」
「僕のところにも昔一人いたんだけどね。その時はスキルイーターの技術を確立出来てないときだったから量産出来なかったけど。……あと、反魔の意志も中々レアなスキルだよね。接近戦を得意とする武道家の役割を持つ者以外が会得しているのを見るのは初めてさ」
「確かに異様だな……村人が手に入れられるスキルじゃない。最後に手に入れたスキルみたいだが……この時既に、接近戦において武道家を優に超えていたってことか?」
その問いかけに来栖は興味なさそうに、「さぁね」と返した。ライアンもそれに対する答えはどうでも良いと思っていたため、「……ふん」と相槌をうつだけで話を終える。
ライアンにとっても来栖にとっても、既に知識のあるスキルをどうやって得たか等どうでもよかったからだ。
「さて、残りのスキルだけど……」
来栖がそう言いながら鏡の持つスキルの一つ、『エクゾチックフルバーストAct5』をモニター上に拡大して表示させると、ライアンもフローネもいよいよ本題に入ると気難しそうな表情を浮かべた。残っている鏡のスキルはどれも、聞いたことも見たこともないスキルばかりだったからだ。
「Act5……第五を意味しているみたいだが。数値で番号の振られたスキル名は初めて見るな。どんな効果なんだ?」
「名称がカッコいい」
「え?」
「名称がカッコいい」
「ん? 今……なんて言った?」
「何度も言わせないでくれ。名称がカッコいい……アースクリアのシステムが導き出したそのスキルの詳細はそれだけだよ」
その瞬間、ライアンは呆けた顔で絶句した。
スキルとは、レベル100毎に注入される超人たちの遺伝子から作られた特殊な薬によって発現する。そして、アースクリアのシステムがスキルの名称を決定し、詳細を分析する。つまり、アースクリアのシステムが名称をつけたということは何かしらのスキルが鏡に発現していることを意味していた。
「……これは、アースクリアのシステムでも詳細のわからなかった何かの力ってことで……いいんだよな?」
「さあ? その可能性は高いと思うけど、それらしい力もこの前の彼の戦いぶりから見られなかったし、本当に名称がカッコイイだけかもしれないよ?」
「おいおい、アースクリアのシステムがその特質からスキルの名称を決定するんだぞ? システムが自分の決めた名前を自分でカッコいいと言っているようなもんだろうがそれ⁉」
「僕に言われても……僕はそこらへんのスキルの名前を決めるシステムのことはよく知らないし」
どちらにせよ、表示されているものが全てであり、それ以上のことはわからないと来栖は割り切っていた。ライアンもうだうだ言ってても始まらないと、次のスキルを表示するように来栖に促す。
次に表示されたスキルは、自分のレベルが低ければ低いほど強力な技や魔法をコスト無しで使えるようになり、高ければ高いほど使える技や魔法の幅が狭まるスキル、『リバース』だった。
そのスキルの詳細を眼にした瞬間、ライアンとフローネはほぼ同時のタイミングで来栖に「マジで?」と訴えるような視線を向けた。
「実際、彼はチャージブロウぐらいしか技っぽいのは使ってなかったね」
「……かわいそう」
本当にそう思っているのか、フローネは憐れんだ表情で口元を抑える。そう思ったのも、レベル800になった時点でこのスキルを鏡が得たからだった。
妙に悲しい気持ちにさせられて、ライアンも無表情のまま来栖に次のスキルを表示するように促す。
「一つずつ説明するの面倒だから。一気にもう二つ表示しちゃうね」
そう言って来栖は、モニターに鏡がレベル900で覚えたスキル『制限解除』と、レベル999で手に入れたスキル『神へ挑みし者』を表示する。
「さっき話していた……力を倍にするスキルと、限界を超えて強くなれるスキルか」
「聞いたことも見たこともありません。ガーディアンに残る歴代のアースクリアの出身の者たちのデータから参照しても、似たようなスキルを持っていた事例もありません」
あまりに特異すぎるそのスキルを前に、フローネとライアンはまじまじと二つのスキルの詳細を見つめる。すると、何かに気付いたのか、ライアンは「なんだと?」と表情をこわばらせた。
「倍近く、と言っていたが……正式には本来持つ力の30%を3分間だけ70%にする力なのか?」
「おや、さすがライアン。鋭いねぇ。そう、そこが特に謎な部分の一つだよ」
スキルの詳細に隠された不自然な部分に気付いた二人を見て、まだ気づけていないフローネが首を傾げる。
「どういうことですか? 何か変な点でも?」
「捉え方によって色々な考察が出来るんだよ。例えばこれが限界の30%を70%にする力って言うなら、ただの火事場の馬鹿力を発動させるだけのスキルって考えられるけどさ、ここには本来の力の30%を70%にするって書かれてる……さて、本来って何を基準としているのかな?」
言われてフローネもその違和感に次々と気付いていく。すぐに気付けたのも、おかしな点がそこだけじゃなかったからだ。