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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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復讐の始まり-15

「おい……それ、本気で言ってんのかよ?」


 アースを見捨てるともとれる選択を耳にして、メリーが三角巾を外しながらティナを睨み、ティナも睨まれても仕方がないと感じているからかわざとらしく目を逸らした。


「あんたわかってんの? アースクリアに戻るってことの意味……この世界を見捨てて、メノウとの約束も果たさないってことよ?」


 その時、本気で言っているとは思いたくなくて、パルナがティナへと詰め寄った。


「それでも……それでも私は……!」


「……本当にそれでいいの? それでメノウが浮かばれると思ってんの⁉」


「でも! そのメノウさんはもう…………いないじゃないですか!」


 ティナの叫び声が周囲に木霊する。近くで料理を行っていた子供たちも、見守っていた大人たちも全員が静まり、シーンとした空間が一同を包み込んだ。


「いない人のために……先の見えない戦いをするなんて、もう……たくさんです」


 そんな中、ティナがぽそりと涙を流しながらそうつぶやく。


「悪いなティナ、それでも俺は行く」


 だが鏡は、そんなティナを前にしても一切動じることはなかった。


「どうしてですか……責任ですか? あなたがアースクリアのリセットの仕組みをなんとかするって言いだした結果、メノウさんが死んでしまったから……責任を感じているんですか⁉ そんなの鏡さんのせいじゃありません! 誰だって……外の世界を知らないなら何とかしたいって思うのは普通のことです! だから……無理しなくていいじゃないですか!」


「……どっちにしたって来栖がいないんじゃあアースクリアに戻る方法はわからないだろう?」


「だったら……来栖さんの元に行かなくても、ここで動かずに安全に生活して……いつか自力でアースクリアに戻る方法を探れば……!」


「嫌だ」


 鏡が発したその一言には、少し離れた場所からでもビリッと伝わるほどの威圧的な気が籠められており、ティナは一瞬言葉を失って「ぁ……う」と怖気づいてしまう。


「ぃ……嫌だって……どうしてですか⁉」


「それが……本当に求めていたものじゃないから」


 何もかも諦めてアースクリアに帰ろうと提案するティナに対してその言葉は、「当たり前」と言われてもおかしくない返答だった。だが、鏡が何を言おうとしていたのか、言葉足らずだったがタカコたちにはなんとなくわかってしまう。


「途中で諦めて、失うだけ失って……何も得られないまま終わるなんて絶対に許されない。そんなの……死んだのも同じだ。何も変わらない……俺がメノウに顔向けできない……だから、必ず……」


 それはメノウの想いを果たすために吐かれた言葉でもなく、本来の目的を達するために吐かれた言葉でもない。だからこそ言葉足らずにもなる、ただ駄々をこねただけの発言だった。


 ちゃんとした理由なんていらない。その理由を説明してしまえば、きっと皆失望するし、その考えについてこない。だからこその適当な返し。その殺意と募った恨みを、晴らしたいという要求を隠すためのカモフラージュ。


 しかし全然隠せておらず、クルルやアリスは不穏な表情を浮かべ、タカコとパルナは不安そうにため息を吐いた。


「でも鏡ちゃん。向こうに行く手段は結局まだ見つかってないんだから、実際に戻るかどうかはさておき、アースクリアに戻るための手段は探しておいていいんじゃないの?」

 同時に、このままでは話の終着点が見えてこないと判断し、タカコが助け船を出す。



「だったら俺が教えてやろう!」



 予想外な言葉が静けさの漂う居住区に木霊する。すぐさま場に居た全員が声の主へと視線を向けるとそこには、セントラルタワー内にいるはずのバルムンクの姿があった。


「な……あなたがどうしてここにいるの⁉」


 鏡によってセントラルタワー内に閉じ込められている認識だったタカコは、すぐさま身構えて戦闘態勢に入る。だが、バルムンクは戦うつもりはないのか、両手をあげてやれやれとため息を吐いた。


「やはり……話していなかったか」


「どうせ出てこないと思っていたからな。正直、驚いてるよ」


 次の瞬間、鏡はその場に残像を残し、一瞬にしてバルムンクの背後へと回る。


「両手をあげているから何もするつもりはないんだろうけど、念のために背後には立たせてもらう」


「どちらにしろ背後に立とうが立たまいが、お前の身体能力の前に俺は無力だ。好きにすればいい」


「それで、教えてやるってのはどういう意味だ?」


「言葉通りの意味だ。ロシアに行きたいのだろう? その方法を……俺が教えてやる」


 真意を読み切れず、鏡以外の周囲に居た者たちは頬に冷や汗を垂らす。


「鏡……信じちゃ駄目よ。そんなの絶対……嘘に決まってるんだから」


 いつでもバルムンクの周囲を氷漬けにして身動きをとれなく出来るように、手元に魔力を籠めながらパルナが鏡に言葉をかける。


 パルナの言う通り、それはバルムンクがここから逃げ出すために嘘をついている可能性が高かった。そんな方法があるならば、わざわざここに来て教えずに、一人で逃げてしまえばいいはずだからだ。となれば、自分たちを罠にかけるためにおびき寄せようとしていると考えるのが普通だった。


「来栖の……命令なのか」


 だが、鏡の考えは違っていた。


「察しがいいな……どうしてそう思った?」


「ずっと、来栖がわざわざお前を置いていったのが気になっていた。あれだけ徹底して情報を漏らそうとしなかった来栖が、お前をあえて置いてくのは変だ。それに……向こうに行くこと自体が罠に誘われに行くようなものなんだ、ここで俺たちに嘘をつく意味もないだろう」


「冷静だな」


 周囲が警戒し、嘘だと考える中、冷静に行動意図を読もうとする鏡に対し、バルムンクは少しだけ苦笑いを浮かべて冷や汗を垂らす。


「お前の鋭い見解は大したもんだが……少しだけ違う。俺は別に来栖に命令されてなんかいない」


「どういうことだ?」


「俺が……お前らに教えるのが最善だと考えたからだ」


「言っている意味はわからないけど……どうせ世界にとってそれが~とか言うつもりなんだろ?」


「そうだ。来栖はこの地下施設を放棄してまでお前たちを試すと言っていた。つまり……お前らにはその価値があるということなのだろう。なら、お前たちには是が非にでもロシアに行ってもらわなければならない」


 バルムンクの言葉を聞いて、背後ですぐに攻撃に移れるように身構えていた鏡は「……なるほどね」とつぶやくと、今度は楽な体制をとってバルムンクのすぐ目の前へと移動した。


「信じて大丈夫なの……鏡ちゃん?」


「ああ……信じていいはずだ。少なくとも、こいつは自分の目的を果たすためにこの施設にいる連中を騙してまで来栖に付き従っていたんだ。その来栖が俺たちを試すためにロシアに来いって言ってるんだぜ? ここで騙す理由もないだろう?」


 それを聞いてタカコとパルナは一度顔を見合わせると、不安な表情のままそれぞれ警戒を解く。


「まあ……自分の意志とは言っても、結局こうして俺がお前たちにロシアへと渡る方法を伝えるだろうと見越して、来栖は俺を置いていったのだろうがな……結局、全ては奴の手の内ということさ」


「どうしてこのタイミングで教えたんだ? 最初に言わずに黙っていたのは何でだ?」


「準備期間さ。来栖はお前たちを試すと言っていた。ならそれ相応の準備を向こうも整えなければならないからな」


 それが本当だとして、来栖の用心深さにアリスとメリーは不穏な表情を浮かべる。それだけ、ロシアが用意周到に罠を張りめぐらされていることが容易に想像できたからだ。


「俺がお前を殺していたらどうするつもりだったんだ来栖は?」


「さあな……そもそも殺さないだろうと考えていたか、どちらにしろ何かしらの方法でロシアに渡る方法を伝えていたか……それはわからんが――」


 そこで言いかけて、バルムンクは言葉を止める。


「わからんが、なんだ?」


「いや……そうだな、一つだけ教えといてやる。もう試練は始まっているとな」


 それを聞いた瞬間、鏡はガリッと歯を噛みしめる。


 言っている意味はわからなかった。わかろうともしなかった。ただただ、「どこまでお高くとまってるつもりだ?」という怒りだけが込み上げてきていた。無論、バルムンクの言葉通り、その試練とやらは来栖の中ではもう始まっているのだろう。


 内容も目的すらもわからないその試練を、自分ではなく他人を利用して行おうとしているのが、単純に鏡は気に食わなかった。


「師匠……落ち着くんだ」


 そんな憤る鏡の背中を、ペスを肩にぶら下げたレックスがポンッと軽く叩き、宥める。


「それで、そのロシアに行くための方法とはなんだ?」


 そして、鏡に代わって睨みつけるようにレックスがバルムンクへと問い詰める。


 するとバルムンクは、「お前たちも知っているものだ」と言って人差し指を地面へと向けた。


「太古の人類が残した英知の結晶。お前たちが……小型のメシアと呼んでいたものがこの地下施設の更に地下深くに保管されてある」

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