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LV999の村人  作者: 星月子猫
第一部 
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そんなものに、なんの価値がある?-14

 思っていたイメージと、まるで違ったからだ。冒険者の街だから、ブラッディ―バッファではせいぜい混乱とある程度の被害だけで終わるのはわかっていた。


 万が一勇者がこの街に滞在していたとしても、ヘルクロウ一体を倒すのが限界だろうとも踏んでいたし、実際勇者が使ったらしき光の斬撃も飛んできた。


 だが、ブラッディーバッファが飛んできたのは予想外だ。更に言えば、人間が飛んできたのはもっと予想外だった。


 投げ飛ばして来たブラッディーバッファは全てヘルクロウに命中していたのに、人間は命中しないという意味不明さに、魔族の男は少しずつ恐怖しつつあった。


 この街には、とんでもない何かがいると。


「まあ落ち着けよ」


「落ち着いていられるか! 予定が大きく狂っているのだぞ! くそ……これでは魔王様の威厳が!」


 背後からの声に、魔族の男は頭を抱えて取り乱しながら声を荒げる。


 そして数秒くらい経過してから、背後からナチュラルに話し掛けて来る謎の存在に気付く。あまりにも普通に声を掛けて来たため一瞬わからなかったが、こんな上空で、自分に話し掛けてこられる存在なんていない。そう考えた瞬間、血の気を一瞬で引かせ、おそるおそる背後を振り返る。


「誰だお前は……っ!」


「何その言葉流行ってんの? 通りすがりの村人です」


 自分とは対比して、あまりにも普通に、落ち着いた様子でヘルクロウに同乗する目の前の存在が異様すぎて、魔族の男は言葉を失った。ここから見える景色を普通に楽しんでいる目の前の存在、こんな状況で、当たり前かのように乗っている村人。村人?


「村人ごときが……身の程を知れ!」


 焦る中、目の前の存在が村人と認識出来た瞬間、恐れるに足らずと魔族の男は手の平を鏡へとかざし、爆破殲滅魔法を至近距離で、3発連続で放った。


 凄まじい爆発音と爆破による衝撃と炎熱が鏡を襲う……が、


「まあ落ち着けよ」


 上半身の服だけが綺麗に吹き飛んでいるだけで、魔法を当てられた本人はケロッとした表情を浮かべながら、先程と同じ言葉を放って来た。


 ダメージは受けている。間違いなく肌が焦げているし、爆発によってある程度肉が裂けて血が噴き出しているが、そうだとしてもダメージが少なすぎる。


 魔族の男は今回の襲撃作戦を任せられるくらいには実力を兼ね備えていた。今の爆破殲滅魔法も、至近距離で3発も放てば、レベル80くらいの相手なら死亡、そうでなくても瀕死状態に出来る程には威力が強い。なのにも関わらず、ケロッとしている村人のその様子を見て戦慄する。『こいつだ……』と。


「どうやってここに来た……? 答えろ人間」


「ゴリラみたいな奴に適当に蹴り飛ばされて、もう駄目だと思ったら他のヘルクロウに運よく着地して、そのまま他のヘルクロウを伝ってこっちに移動してきた」


 何を言っているのかはよくわからなかったが、先程通り過ぎていった人間ということだけ魔族の男は理解する。


「何者だ……村人ではないのだろう? 勇者か? それとも賢者か?」


「いや、だから村人だって」


 鏡はそう言うと、普通にステータスウインドのレベルと役割を開示する。その瞬間、魔族は999という数値を見て、口をガパッと開いて驚愕の表情を浮かべたまま絶句する。


「ば、馬鹿な! そんな人間いるはずがない!」


 そして数秒してから、鳴り止まない心音をなんとか抑えてそう言葉を発した。


「いや、でもいるし」


 ひたすらに取り乱す魔族の男に、鏡は会話が出来ないと困った表情で首を傾げる 。


「聞いていないぞ……お前みたいな奴がいるなぞ! これでは魔王様の立場が……!」


「あー安心しろ。俺は魔王を倒す気とか全然ないから」


「……? どういうことだ?」


「俺。魔王と魔王の娘と友達だから。名前は鏡浩二、よろしく」


 鏡のその言葉を聞いて、魔族の男は驚きと困惑が混ざったような表情を見せた。


「言っている意味がよくわからん」


「いや、だからそのままの意味だって。なんなら今、魔王の娘と一緒に居て保護しているし」


「……!? アリス様がこの街にいるだと!」


 言っていることが本当かどうかはさておき、そうだとしたら魔王の娘の御身を危険にさらすような真似をしていたと、少しだけ魔族の男は胸を痛める。


 この作戦が始まる前、魔族の男はアリスを探し回った。というのも、魔王の命令でアリスを連れて来いと言われたからだ。命令に従い、住んでいるはずの魔族の集落に向かったが、アリスの姿は既に無く、周辺を魔王軍総出で探したが見つからなかった。


 故に、魔王と魔王の娘と友達と名乗る目の前の男の真意はさておき、アリスがここにいるという信憑性は少なからずあった。魔王に娘がいるなぞ、普通の人間に知る訳がないから。


「お前は……魔族の味方なのか?」


 ありえるはずもないが、魔族の男は一応聞いてみる。


「味方でも敵でもないね、魔王が殺されるのは仕方がないとも思っているし」


 鏡は、「人間である以上仕方がないこと」と付け足し、鏡は溜め息を吐いた。だがその言葉は、逆に魔族の男にとっての信憑性を高めた。変に魔王の味方と取り繕う方が、むしろ怪しく思えたからだ。


「魔王様を殺す気はないが、人間としての立場を守っているという解釈でいいのか?」


「ちょっと違うが、まあそんなところ」


 魔族の男が冷静さを少しずつ取り戻し、多少ながら言っていることを理解しているのを見て、鏡は表情を明るくする。


「いやーまだ会話できる奴で助かったよ。相手によっては人間ってだけで何も話しを聞いてくれなかったりするからさー」


「……私を倒しに来たわけではないなら何の用だ。アリス様を人質にとっているとでも伝えに来たのか?」


「質問しにきたんだよ」


 鏡が笑顔でそう言葉を放った次の瞬間、魔族の男は言いようのない寒気に襲われた。高い場所を飛んでいるからとか、ヘルクロウの移動速度が早くて風が寒いとか、そういうものではなく、まるで金縛りにあったかのような威圧的な気配が魔族の男を襲った。


「今回のこの襲撃作戦って、魔王の命令なの?」


「しょ……正真正銘、魔王様の命令だ! 今まで人間より受けた屈辱を晴らすべく、遂に魔王様が動かれたのだ! 人間は全て滅ぼすとな!」


「さっき、敵でも味方でもないって言ったけどさ。そういうことなら俺、魔王を殺すことになるんだけど大丈夫?」


 その瞬間、この言いようのない感覚が何なのかを魔族の男は理解した。まるで気当たりともいえる殺気を目の前の男はぶつけてきている。嘘は言わせないと訴えるかのように。


 気付けば、鏡の表情は笑顔から無表情に変わっていた。そして鏡の言葉が冗談ではないというのが、わざわざこんな場所にまで上がって真意を確かめていることから判断出来た。


「貴様……先程魔王様と友達と言ったな。あれは……本当のことか?」


「ああそれね、あんたと落ち着いて話をするために少し盛った。友達と言える程仲が良い訳ではないけど……古い知り合いかな。昔世話になったんだ」


「世話になっただと?」


「ああ、少なからずその時の魔王は人間を滅ぼしたいと考えるような奴じゃなかった。なんていうか……達観してたよ。だからこそ気になってここまで来たんだよ」


 昔を思い出すかのように鏡は目を瞑り、一度大きく溜息を吐いた。


 そして、ゆっくりと瞼を開くと魔族の男に接近し、真剣な表情で視線を合わせて口を開く。


「本当にその命令を下したのは魔王か? 魔王が直接お前に口頭でそう言ったんだな?」


 そんな真剣な表情で言葉を放つ鏡を見て、魔族の男は圧倒されながらも疑問に思う。『どうしてこの男はそんなにも魔王様が判断を下したかを気にするのか?』と。


「アリスがな、魔王は病気で倒れているって言ってたんだ」


「……アリス様が? 馬鹿な、魔王様は健在だ!」


「アリスは一人で魔王のために走り回っていたんだよ。そのアリスが嘘をついているとは思えない。ついでに言うなら、俺も魔王が人間を滅ぼすなんて考えるとは思ってない」


 鏡の言葉を聞いて、先程から放たれている殺気が自分を殺そうとしているからではないことに魔族の男は気付く。


 ただ純粋に、魔王がそんなことをするやつではないと信じているからこそ、こうして裏切られていないかを確認している。それに気付いた時、先程まで殺気により感じていた恐怖心が、少しだけ和らいでいた。

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