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LV999の村人  作者: 星月子猫
第五部
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復讐の始まり-5

「パル姉……それ貸してほしいです」


「ん? ああいいわよ。はいどうぞ」


「ちょ、某はおもちゃじゃ……っふぅ!」


 以前、風呂場でも同じようにギュッと握ると「ふぐぁ!」と面白い叫び声をあげていたのを思い出し、ピッタが嬉しそうに朧丸をギュッと鷲掴む。


「こーら、ピッタちゃん。朧丸ちゃんがいくら頑丈だからって乱暴は駄目よ」


 そこでウルガの背後から、大きな岩を片腕に持ったタカコが姿を現す。タカコは大岩を豪快に地面を降ろすと、「ただいま」と言いながらウルガの肩に乗っているピッタの背中をポンッと叩いた。


「あぅ……ごめんなさいです」


「いいのよ。でも、ほどほどにね?」


 ニコッと笑みを浮かべるとタカコはそのまま素通りし、鏡の前へと足を進める。その傍らで「あ、某……このままなのでござるな」と、中途半端な救出に朧丸が肩を落とした。


「タカコちゃんも地上にいたのか。何やってたんだ?」


「獣牙族の子たちと一緒に物資の調達に行ってたのよ。私なら喰人族が来ても対処できるからって……もう引っ張りだこよ。悪い気はしないけど」


「カジノの準備の時といい相変わらずよく働くな」


「私に出来ることはこれくらいしかないもの。パルナちゃんやクルルちゃんみたいに建築に関する知識もないし…………それより、さっき話てたロシアに行く方法だけど、何か良い案があるのかしら?」


 タカコがそれを聞くと、何も良い案が見つかってないのか首を左右に振った。


 鏡は何としてでもロシアに行くつもりでいた。だが、ノアの施設に残っている者たちの面倒を見なければならないとはいえ、未だロシアに向かわずにいたのは、そのための現実的な移動手段が見つかっていないからでもあった。


「やっぱ走って行くしかないのか……?」


「前も言ったけど現実的じゃないって。いくら超人のあんたでも、問題がありすぎるもの」


「そうね……パルナちゃんの言う通り、徒歩でロシアに向かうのは自殺行為に等しいわ」


 死に急ごうとする鏡を、パルナとタカコが呆れた様子で止めに入る。


 問題は、いくつもあった。アースとアースクリアは地形が同じなため、アースクリアに存在するフォルティニア王国の場所からロシアの場所はわかったが、そこに向かうためにはいくつもの問題があった。


 一番の大きな問題が距離だった。アースクリアとは違い、馬のような移動手段もなければケンタ・ウロスのような存在もアースにはいない。仮にいたとしても、アースクリアとは比較にならないほどの強敵が蠢くアースの大地を前に、それを守りながら移動するのは困難を極めた。


 また、ロシアに向かうとなれば海を渡る必要がある。ここ数十年、レジスタンスも海に近付いたことがなく、海に関する情報も少ない。そのため、万が一海に潜むモンスターや異種族がいることを考えれば、安全と言いきれる海を渡る手段を用意しておかなければ例え鏡であろうと命を落とす。


 そして、一番の問題がロシアに向かったとしても、食料が持たないという点だった。アースクリアとは違い、アースでまともに食糧や物資を整えられる場所は地下施設ノアしかない。


 数十日分の食料を持って移動するわけにもいかず、現地確保をするにしてもちゃんとした食糧を常に得られる確証もなく、八方ふさがりの状態だった。


「やっぱ、しらみつぶしにセントラルタワー内を探すしかないわよ」


 ゴリ押しは諦めろと念を押すように、パルナは鏡に顔を近付けて指を差す。


「そういえばセントラルタワー内の調査は進んでるのかしら? 鏡ちゃん……この一週間はずっとセントラルタワー内にいたんでしょ?」


「ああ……メリーが張り切ってくれてるおかげで大分色々と調べられてるけど、それでもまだまだわからないことだらけだよ。來栖が使ってた転送装置も使えないしな。あっても使い方がわからないんだろうけど」


 そのため、鏡はこの一週間ずっとセントラルタワー内にロシアへと渡る方法がないかを探していた。この世界の技術に関してまるで知識のない鏡だったが、メリーの助力もあって少しずつだがセントラルタワー内に隠されていた秘密や部屋が、次々と見つかっている。


「こんな時に油機の使い方が見ただけでわかるスキルがあれば~ってぼやきながら、油機にもう一回会ってぶん殴るってろくに寝ずに働いてるぜあいつ。やっぱ大した奴だよ……まだまだ子供だってのに」


「ちゃんと寝てないのね……それはよくないわ。無理にでも休ませないと成長に影響が出るわよ? まだまだ子供なんだから……ていうか鏡ちゃん。あなた見てたなら休ませなさいよ」


「確かに。悪い……俺もずっと動いてたから全然気にかけてなかった」


「鏡ちゃんも休んでないのね……今日くらいはちゃんと休みなさい。メリーちゃんにも、あとで何か差し入れを持って行って休むように言いつけないと」


 鏡とメリーがセントラルタワー内にロシアへと渡る方法があると考えているのには理由があった。それは、他でもない來栖自身が「ロシアで待っている」と言い切ったからだ。つまり、ロシアに来るための何らかの方法がある。もしくは残していると二人は考えている。


 來栖は、少なくとも鏡を試すためにロシアに来てもらいたいと考えている。そうでなければこのノアの地下施設あんなにも簡単に手放すわけもなく、情報を漏らす可能性のあるバルムンクを置いていくとは思えなかったからだ。


 少しあてが外れて、バルムンクはロシアに行くための手段を話そうとはしなかったが、そうやって完全に「ない」と否定しないだけでも、ロシアに行くための手段はあるのだと考えている。

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