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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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己が意志-4

「メノウ……メノウ!」


 爆破魔法に巻き込まれたモンスターたちはその威力に耐えられず、消滅するかのように四散する。同時に、メノウは全身から光の塊を放ちながら、その場に力なく倒れ込んだ。


 だが無慈悲にも、モンスターはそれでも出現し続け、倒れるメノウの元へとにじり寄った。


「もう……もういいでしょ! ねえ⁉ メノウはもう戦えないのよ? テストなんてする必要がないでしょ?」


 これ以上は無駄だとパルナはバルムンクに訴える。しかし、バルムンクは表情をピクリとも変えず、倒れるメノウに視線を送り続けた。


「消えるまでがテストだ。それと……忘れているかもしれんが、メノウが消えたあとはお前たちが消える番だ……悪いがな」


「そんな……そんなのって……!」


「諦めろ。俺たちに歯向かう力も持っていない時点で、世界をお前たちだけで救うなど、元々無理な話だったんだ。もう一度言う……諦めろ。これがお前たちの運命だ」


 放っておいてもそのまま四散し、消えてしまうであろうメノウの身体に、追い打ちをかけるかのようにモンスターはにじり寄る。



『…………黙れ』



 その瞬間、背筋が凍り付くような殺気の籠った声が、はっきりと一同の脳内に響き渡る。


 それは、バルムンクに感じたことのない恐怖を与え、油機の表情を蒼褪めさせた。逆に、タカコたちには心地の良く、安心感を与えた。


 刹那、閉じられて入れないはずの空間にミシッ! っと大きな音が響き渡り、鋼鉄で作られた強靭なはずの壁に大きな亀裂が走る。その一秒後、亀裂の走った壁は吹き飛ぶように崩れ去り、その奥に広がる暗闇の中から一人の男と一人の少女の姿が現れた。


「まさか……馬鹿な、どうやって脱出……ぅ⁉」


 バルムンクが言葉を発している途中、暗闇から姿を現した男は、その場から煙のように消え去ったと錯覚するほどの速度で跳躍し、メノウの眼前に迫っていたモンスターを瞬時に葬り去ると、そのまま更に加速してバルムンクの顔面に拳を撃ちつけた。


 あまりにも一瞬のことで虚を突かれたバルムンクは、思わず言葉を詰まらせる。そして、信じられない出来事を前に驚愕し、畏怖した。


 目の前に迫った存在が、卒倒してしまいそうな殺気を籠めた眼差しを自分に向けていたというのもあったが、何よりも、スキルの効果によってダメージを背後へと全て受け流したにも関わらず、自分自身が数メートルほど背後に吹き飛ばされていたからだ。


 ただの拳から放たれた風圧で、自分の身体が背後へと吹き飛ばされた。それを理解した瞬間、バルムンクの身体から噴き出るほどの汗が放出された。


 いったい、どれだけのエネルギー量がただの殴打に込められていたのか? 想像を絶する一撃を前にして、バルムンクの心臓は危険を察して激しく鼓動を繰り返した。


「遅い……ぞ、鏡殿」


「……メノウ」


 今の一撃は感情がままに放っただけだと言わんばかりに、鏡はバルムンクに背中を見せつけ、メノウの元へと駆けつける。


「まだ……耐えれるな?」


「……善処する」


 メノウの全身から放たれる光の塊を見て鏡は握り拳を作り、自分の不甲斐なさを呪った。気付けてやれなかった自分にイラついた。


「バルムンク……それか油機、メノウを助ける方法を教えろ」


 しかし、そのイラつきを押し込み、とにかく今は命を繋げるためにと鏡はバルムンクと油機を睨みつける。だが、二人も來栖に口止めされているのか、何も言葉を発さずに黙りこむ。


「わかってないみたいだな。もっと慎重になれよ……俺はな? 今、怒ってんだよ」


 おぞましい殺気が鏡から放たれる。その恐怖を前に立っていられず、油機は身体を震わせながら腰を抜かしてその場にへたり込む。


「知らない……あたしは知らないよ」


 それが真実であるということは、油機の怯え切った表情からすぐにわかり、鏡は視線をバルムンクへと即座に向けた。


「知ろうとしても……お前には何もできんぞ?」


「メノウから放出されている魔力を補充すればいいんだろ? その方法を教えればいい」


「……そういう意味じゃない。お前には俺を倒せない……だから何もできないって言ったんだ。俺のスキルの前では、お前の身体能力は何も意味を成さないからな」


 空間が凍り付いたかのような、張り詰めた空気が鏡とバルムンクの間に流れる。


「……この期に及んで何言ってんの? 早く……教えろよ」


 声のトーンの低さが、ストレートに鏡の怒りをその場にいた一同に感じさせた。心強く感じていたタカコたちでさえ、かつてない鏡の怒りっぷりに言葉を失う。ピッタでさえ、普段は穏やかな鏡の見たことのない怒り狂った姿に、思わず冷や汗を垂らした。


「お前こそ状況をわかっていないようだな、お前の力は俺に通用しない。そして、メノウを助けられるのは俺たちだけだ。わからないか? お前は命令できる立場にない。先に言っておくが油機を人質にとっても無駄だ……その程度で俺たちの目的が揺らぐほど生半可なものではない」


「言い方が悪かったな」


「っな……」


 その瞬間、鏡の中で何かがブチッと弾けた。それと同時に、さっきまで放っていた殺気は抑えられてい

たものであるのをその場にいた一同は理解する。「今すぐその場から逃げ出せ」という危険信号が、敵である油機とバルムンクだけではなく、味方であるはずのタカコたちの身にも降り注いだ。ピッタは思わずポテンッと尻もちをつき、パルナやティナの表情は、逃げ出せという全身の要求に逆らえず蒼褪める。



「殺されたくなかったら今すぐメノウを助けろ。そう言ったんだよ」



 冗談には聞こえなかった。本気で言っている。それがバルムンクに伝わり、バルムンクは思わず一歩後ずさる。


「……いくら殺気を放とうが現実は変わらん。お前に俺を倒すことは出来ん」


「なら……試してやるよ」


 鏡が放ったその一言で、バルムンクの表情から唯一残っていた余裕が消え去った。鏡の力では自分のスキル絶対に突破できない。その確信があったはずなのに、鏡から放たれた一切の焦りも迷いも見られない、殺気だけが込められたその一言は、そんなことも承知の上で自分を殺す方法があると言っているように見えたからだ。

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