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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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逃げ出さないのは-3

「お父……起きるです。お父!」


「駄目でござるよピッタ殿。それじゃあご主人は起きないでござる。もっとこう……食べ物の匂いとか、美女が寝転がっているとか魅力的な何かで……」


「お前は……俺をなんだと思ってるんだ」


 ピッタに身体を揺さぶられ、鏡は朦朧とする意識のまま身体を無理やり起こし上げ、「ふわぁっ」と大きな欠伸を漏らす。それから暫く呆けて意識を少しずつ鮮明にさせてから、優しく懸命に起こそうとしてくれたピッタの頭を優しく撫で、適当に起こそうとした朧丸のおでこをピンッと指で弾いた。


「ん……んん~おはよう」


「おはようです」


「おはようでござる」


 鏡は二人の安否を確認すると、何があったのかと取り乱すことなく冷静に現状把握に努めようとする。鏡たちは、何もない真っ白な正方形の部屋に閉じ込められていた。


 そこは出入り口と思われる一つの扉以外に何もなく、ただただ白いだけの殺風景な部屋だった。


「トイレとかどうすればいいんだこれ」


 そしてまず最初に思ったことがそれだった。激しく同意なのか、ピッタと朧丸も鏡の言葉にウンウンと懸命に頷いて賛同する。


「ひたすら我慢するしかないでござるな……これも修行でござるよ」


「いやいや、脱出しようぜ。ちょっと言ってみただけだからな?」


 真面目に答える朧丸に対し、鏡は頬に汗を垂らしながら真面目にツッコミを返す。


 そのあと、気持ちを切り替えたのか、鏡は唯一の出入り口である扉の前へと移動し、壊せるかどうか軽く殴って確かめる。しかしそれでは扉は壊れず、次に鏡は全力で扉を殴りつけて破壊を試みた。だが、殴りつけた時に生じた大きな衝撃音が反響するだけで扉はびくともせず、鏡は痛そうに手をぷらぷらと揺り動かす。


「壊せないな……『制限解除』でもしないとぶっ壊せそうにない」


「なかなかに頑丈な扉のようでござるな」


「っぽいな……どうすっかなこれ。とりあえず……見てるんだったら声を掛けてきたらどうだ?」


 扉を見て思案する途中、鏡は冷たい視線を天井へと向けて突然誰かに対して語り掛ける。


 暫く、鏡たちがいる部屋の中は静寂に包まれ、まるで鏡が突然何もいないのに言葉を発したといういたたまれない空気が漂うが――、


『よくわかったね。君たちの方からは一切わからないようになってるはずなのに……君は本当にすごい。僕の想像を遥かに越える……こんな状況だというのに、妙に落ち着いているしね』


 数十秒経過してから、気付かれていると観念してか、まだ若い男性と思われる声が、何もないはずの部屋の中に響き渡った。


「うわ……マジで見てたのか、とりあえず言ってみただけだったのに、マジか、趣味悪いな」


『君は……本当に予想外な男だ』


 本当にとりあえず言ってみただけだったのか、鏡は少し引いた表情で声の主に言葉を返す。


「……來栖か?」


『そうです。君と話すのは随分と久しぶりになるかな? 報告には聞いていたが、まさか生きていたとは……おまけに、僕が作った失敗作と、逃げ出した成功作と共にいるなんてね』


 恐らく失敗作はピッタで、成功作を朧丸として差していたのだろうが、まるで物を扱うかのような呼び方が気に入らず、鏡は眉間に皺を寄せる。


「御託はいい、逃げ出す前に聞きたいことがある」


『逃げ出す? 残念ながらそれは無理ですよ。君は今、スキルを使えない状態にある。さっき自力の力で扉を壊せなかったのならそこから逃げる術はない』


 言われて、鏡は自分が持つスキルの一つ、魔力を跳ね返すことの出来るスキル『反魔の意志』を手元に発動させようとする。だが、鏡の手元には何も発生せず、鏡は怪訝な表情を浮かべた。


「……どういうことだ?」


『成功作……君たちは朧丸とか名前をつけていたね。それが逃げ出してから、力を封じ込めるための空間を作るようにしたんだよ。元々……研究の過程で人間が持つ特殊なスキルを封じ込める術は知っていたのでね。君たちを包んでいるその部屋の材質、放射されている光、空気、その全てがスキルという力を封じ込める性質を持ってる。自力で出れない以上、抜け出すには外から出してもらう以外にない』


 言われて、鏡は朧丸とピッタに視線を向けて、力を使ってみるように促す。朧丸は力が使えないことがすぐにわかったのか首を左右に振り、ピッタは深刻そうな表情で「お父……!」と声をかけ、鏡に背後に回るように促した。


 そして鏡はすぐさま背後に回り、ピッタの眼を覆い隠す。


「全然……近付かれたのがわからないです!」


 するとピッタはどこか嬉しそうに、キツネのような耳をピコピコと動かす。その様子を微笑ましくそうに「あら~……ピッタちゃん普通の女の子になっちゃったぁ?」と、鏡はまるで問題ではないかのように声をかけた。


『僕からも一つ質問してもいいかな? どうして君たちはそんなに落ち着いていられる? さっきから……妙な余裕を感じられるのだけど?』


「元々……捕まるつもりだったからな」


『捕まるつもり?』


「ああ、敵が姿を現さないんだったらこっちから捕まる方が早いだろ? どうせお前らボロを出さないだろうし、じゃあ捕まろうと思ってさ。そしたら俺たちだけじゃどうあがいてもいけない場所にも連れてってもらえると思ってさ。案の定連れてきてもらえてるから最高だよね?」


『眠らせたあと、僕が君を殺すつもりだったらどうする予定だったんです?』


「それはないって思ってたから、こうして俺は余裕の表情でここにいるんだろ?」


 沈黙が二人の間に流れる。暫くして、鏡の目の前の空中にブォンっと音をたてて來栖の顔の映ったモニターが映し出された。


『とんでもない肝の持ち主だね君は……どこまで知ってるんだい? そうならないという確信があったからこその行動なのだろう?』


「ほとんどなんとなくだが、お前が俺を捕まえたあとに殺さないってのだけは確信があった。お前は強い人間を求めてアースクリアから呼び出しているよな? そしてお前が裏でやってることは……強い生き物を生み出すことだ。なら、折角現れた強い人間をすぐに殺すような真似はしないだろうなっていう……本当になんとなくな理由だよ」


 鏡がそう告げると、來栖は嬉しそうに「くっくっくっ」と笑い声を上げ始める。


『いや、素晴らしいな君は、まさしくその通りだよ。君にはまだ利用価値がある……だから生かしてこうして暴れないように眠ってもらったのさ。もちろん……君のお仲間たちも同じだけどね?』


 來栖はそう告げると、鏡の目の前の空気中にもう一つ、クルルが移っているモニターとは別のモニターを出現させて映像を映し出す。そこには、円形状に広がる薄暗い空間の中で、クルル、ティナ、タカコ、レックス、パルナ、アリス、メリーの7人が、壁際に張りつけられるように手足を鎖で縛られ、身動きがとれないようにされている光景が映っていた。

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