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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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たった一人-15

「で、でも何でそれで翌日の朝に敵が襲ってくるんだよ? 仮に油機が敵なら、もっと早くに油機は他の敵に連絡を取り合って行動してるはずだろ?」


「我々と油機殿は常に行動を共にしていた。いわば……油機殿は常に我々が監視している状態にあった。それ故、『日課としてメリー殿と朝の運動をしている時に抜け出し、報告をする』のが最も疑われずに敵と密会する手段だったのだろう。仮に一人で抜け出している最中にタカコ殿が目を覚ましたり、我々が呼びに行ったときにテントにいなければ、疑われることになるからな……メリー殿、貴殿は油機殿に利用されたのだ」


 なんとしてでも油機はやっていないと言い切りたい。なのに反論の言葉が出ず、メリーは苦痛に歪んだ表情で手をぎゅっと握り、俯いてしまう。


「そして、タカコ殿を一人にさせてしまったうえで、タカコ殿が消えることになれば、間違いなく疑心の眼が油機殿に注がれる。それを避けるために貴殿は自分と共にいない相手を狙うように仲間へと指示をし……クルル殿が眠っていたテントの出入り口を開けっぱなしにした……違うか?」


 メノウからの鋭い視線が油機へと注がれる。全てを見透かしたかのような威圧をも感じられる視線を前に、油機は思わず頬に汗を垂らして息を呑んだ。


「他にもある。一人ずつしか消えないことから、朧丸殿のような何らかの姿を隠す力を持った他者の行動であるということ。そして、油機殿はその者と常に連絡取り合えていたわけではないということだ。本当ならもっと効率よく我々を消すことが出来たはずなのにそれをしないのは、さっきも言った通り、油機殿は我々が常に監視している状態にあるからだろう?」


「どういうこと?」


 その理由がわからず、アリスが首を傾げる。


「恐らく油機殿は、メリー殿と早朝に運動しに出かけた時に敵と密会し、我々の強さの情報を伝えたうえでこう命令したのだと思われます。『自分とは一緒に行動していない者の中で、一番レベルの高い者から順に消せ』……と。現に敵は、それに従った行動しかしていません。恐らく敵と密会したのもその時の一度だけかと」


 どこか納得したような表情で頷きながら、ティナも覚悟が決まったのか疑心の眼を油機へと向ける。すると、アリス、ティナ、メノウ、メリーの四人に視線を向けられているにも関わらず、油機はあっけらかんとしたどこか余裕のある表情で笑顔を浮かべ――、



「いやぁ……まさかばれるなんてね、すごいよ、本当にすごい。やっぱり君たちは面白いよ……!知将っていうのかな? 鏡さんとタカコさんだけ注意しとけばいいと思ってたけど、まさかメノウさんがこんなに頭が回るなんて思ってなかったよ」



 観念したのか、パチパチと拍手して、自分が犯人であることを見抜いたメノウに対して称賛を送り始めた。


「よくそこまで推理出来たね。あたし、絶対にばれないと思ってたよ。ずっと何も知らない振りして一緒にいたのに……なんでわかったの? 気付くきっかけがあったんでしょう?」


 図るかのような視線を油機から注がれ、メノウは軽く溜め息を吐く。


「……全然わかっていなかったさ。全てレックス殿が与えてくれたヒントを元に考え直した結果だ。そもそも意図なんて存在せず……そうするしかない状況であった犯行なら? そう考え直すことで自然に貴殿の存在が思い浮かんだのだ」


「あ~……だからあの時、何もしてなかった。意味がない。とかぶつぶつ言ってたんだ……すごいね。そんな小さなところまでちゃんと気にかけて冷静に分析してるなんて」


 本当に感心しているのか、油機はニコニコと笑顔を浮かべながらパチパチと手を叩き続ける。そんな油機を前に、メノウとティナは呆れたような、少し残念そうな表情で、アリスとメリーは信じられないといった表情で視線を向け続ける。


「嘘だろ油機……なぁおい!」


 まだ目の前で起こっている現実が信じられないのか、メリーがフラフラとした足取りで油機へと近付こうとするが、すぐ隣でショックを受けていたアリスがハッと気づいたかのように「駄目だよメリーさん!」と、抱きしめて制止させた。


「嘘じゃないよ。全部メノウさんが言った通り。メリーちゃんを利用したってのも……本当の話」


 まるで悪びれてないかのような、不敵な笑みが油機からメリーへと注がれる。突き付けられたあまりにも酷い裏切りを前に、現実を受け止めきれないのか、メリーは「そんな……そんな」と言葉を漏らしながらその場に膝から崩れ落ちた。


「でも、メノウさん凄いね。よくそれだけの少ない情報の中で私って見抜けたね」


「昔色々とあってな、慎重に且つ冷静に物事を考えるようになったおかげだ。とは言っても、全てわかったわけではなかったがな」


「へぇ、例えば?」


「三日間ほど……我々を消さずに放置していたことと、食糧庫を荒らして我々のせいにし向けたことだ。油機殿が内通者で、我々の仲間を消していたのが姿を消す力を持った別の相手であるなら、わざわざ食糧庫を荒らす必要もなかったであろう? むしろ、我々を消して現状維持を望むなら、食糧庫を荒らすのはマイナスでしかなかったはずだ」


「あーあれね。あれはついでに利用させてもらってメノウさんたちのせいにしただけだよ? 食料庫を荒らしたのってあたしたちじゃないし、実は誰が荒らしたのかわかってないんだよね」


 予想外の返答にメノウは困惑する。タイミング的にみても、食糧庫を荒らしたのは今回の一件に関わりのある者の行動としか思えなかったからだ。


 だがすぐに、食糧庫を荒らしたのが油機たちではないと知り、メノウは「なるほど」と納得したように笑みを浮かべる。


 それが何の目的なのかまではわからなかったが、メノウが考える人物が荒らしたのであれば、何か意図があるのだろうと安堵し、こちらにはまだ切り札が残っているようだと笑みを浮かべる。


 その瞬間、メノウは鏡に渡されていた信号弾を撃ち放つ銃を懐から取り出し、上空へと向けて撃ち放った。そしてすぐにメノウは油機の背後へと回り、首筋に手をかざしてすぐに爆破魔法が放てるように魔力を籠め始める。


「あれ? 急にどうしたの?」


「悪いがここまでだ油機殿、何故わざわざこの場で貴殿が敵と繋がっていることを告げたと思う? こうして……貴殿に手を加える口実を仲間から得るためだ。すまないが貴殿には敵の裏を突くための人質になってもらう。これで姿を消している連中が現れても貴殿を盾に逃げることができるだろうからな。さて、色々と情報を引き出させてもらう……最早逃げることは出来んぞ? 今の信号弾は、鏡殿と打ち合わせしていた合図だ……間もなく鏡殿がこちらに来る」


「あー……残念だけど。鏡さんなら来ないよ?」


 頬をポリポリと掻きながら申し訳なさそうに放たれた油機の言葉に、メノウは怪訝な表情を浮かべて「どういうことだ?」と聞き返す。


「さっきメノウさんが結局わからなかったって言ってた疑問。私たちがちょっとの間ノアの施設内で何もせずにいたのがどうしてかって言ってたじゃない? あれね、鏡さんが独断で行動してたから、鏡さんが現れるまでメノウさんたちを餌に放置するためだったんだよね」


 油機の放った言葉で、メノウは頬に汗を垂れ落とし、「……まさか」と、声を震わせる。


「そう、もう捕まえたんだ」


 その瞬間、メノウ、ティナ、アリス、メリーの四人の背筋に悪寒が走った。


 鏡が既に捕まったというショックもあったが、それよりも、自分たちを囲むようにして、威圧的な殺気を放つ存在がいるのを感知したから。


「メノウさん、わからなかったことがあったって食糧庫の話をしたけど、メノウさんが暴けてないことがまだ二つあるから一応教えてあげるね?」


「な……に?」


「一つは頼りにしていたんだろうけど、鏡さんみたいな化け物を私たちが放置するわけないだろってこと。正直……鏡さんを捕まえた時点で、メノウさんに勝ちの目はなかったんだよね」


 周囲から発せられていた殺気は徐々に近づき、一同の息苦しさは更に増していく。


「もう一つは……あたしが与えた指示。私の傍にいない者を消せって指示だけど……それだけじゃないんだよ? 残り……四人になったら、一々ちまちま一人ずつ消しても仕方がないし……」


 何かが近付いている。なのに姿が見えない。メノウとティナとアリスとメリーはお互い背中合わせになって、周囲に近付く者に対して身構えた。


「一気に仕留めようって指示を出してたんだ」


 そして最後に油機がそう言って笑みを浮かべた瞬間、メノウたちの周囲に、十数人の敵と思われる。レジスタンスの隊員の中でも見かけた者たちが姿を現した。


「嘘だろ……おじき?」


 その中にはバルムンク隊長の姿もあり、メリーが信じられないといった表情で声を震わせる。


「あと一歩足りなかったねメノウさん。ま、鏡さんが捕まった時点で終わりだったんだけどさ。……ちなみにだけど、私を人質にしたところで簡単に切り捨てるような人たちだから。残念だけどどうしようもないよ。つまり……チェックメイト」


 戦力的にあまりにも差のある絶望を前に、四人はただ呆然と立ち尽くす以外に出来なかった。何よりも、味方だと信じていた油機が敵であったという真実に未だ向き合えず、一同は既に大きく戦意を喪失していた。


 たった一人の裏切りが、こうも全てがどうでもよくなるほどに精神にダメージを与えるとは、一同は思いもしなかった。

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