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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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たった一人-13

「これからもう一度、二手に別れて敵の本拠地を捜索したいと思う」


「な、何を言ってるんですかメノウさん!」


 突然、思いついたかのように馬鹿げた提案をしてきたメノウに対し、ティナは焦燥する。


 今この状況で外に出たところで、無駄に仲間を失うだけであるということは、ティナにも簡単に理解できたからだ。


「だが、このままここでジッとしていたところで何も解決しない。敵の巧みな情報操作によって我々は食料庫を荒らした犯人にされるかもしれない。どちらにしろ、動く以外に手段はもうないはずだ」


「それはそうだが、当てずっぽうに探しても無駄だろう? 敵も遠慮なくこちらを捕まえに来ているのならもう僕たちに残された時間は少ないはずだ」


 レックスもそうする以外にないと考えていたからか否定はせず、冷静にメノウの考えを問う。


「その通りだ。調べる場所は絞る必要がある。可能性があるのは……ノアの中央施設。それと住居街予定地である空き地だ」


「中央施設を調べるのか? 確かにあそこが一番怪しいが……我々ではどうあがいても入れないようになってる部屋があるはずだ。前に一度調べた時にそういう結論になったはずだろう?」


「だからこそだ。きっと見落としているところがあるはず……その可能性に賭けたい」


 メノウらしからぬ当てずっぽうな考えにレックスは目を細めるが、それだけ追い込まれている状況でもあったため、それ以上何も言わずに承諾する。


「でも……二手に別れるのは危険じゃないですか? パルナさんだって……二手に別れて行動しているところを狙われたわけですし」


「いや……例え、共に行動していても同じのはずだ。アリス様の爆破魔法が防がれたように、向こうも何かしら対策を講じているはず。いくら固まって行動しようが防ぐことは出来ないだろう。ならば、やられる前に手数を増やしてこちらが見つけ出す。それが最善だ」


 メノウは暫く押し黙って周囲の発言を待つが、それ以上の名案が思い浮かばなかったからか誰も異論を唱えず、捜索は続行することとなった。


 そうと決まればと、一同はテントから飛び出して周囲を警戒する。さすがにレジスタンスの拠点内で敵も行動しようとは思っていないのか、何かが起きる様子もなく、メノウはそれぞれの地点に向かうメンバーを発表する。


 メノウ、レックス、アリスの三人が住宅街予定地へと向かい、残りの油機、メリー、ティナの三人が中央施設へと向かう。


 油機とメリーに中央施設を任せるのは、単純に二人の方が内部施設の詳細に詳しいだろうという理由からだった。その説明を行うと、一同は納得したようにそれぞれメンバー毎に分かれ、再び目的の場所へと向かい始める。


「レックス殿」


 二手に別れ、メノウたちは住宅街予定地でどこか怪しい場所はないかと捜索を開始した。


開始すると同時に、メノウは妙に緊迫した表情でレックスに声を掛ける。まるで、探すだけ無駄だから自分の話を聞けと言っているような面構えに、何か大事な話であるのを瞬時に察したレックスは、つぶやくように「なんだ?」と返事をした。


「次に狙われるのは……恐らく貴殿だ」


 そしてハッキリと告げられたその不可解な言葉に、レックスは思わず困惑する。だがすぐに、何か確信があって言っているのだと、「どういうことだ?」とその真意を問う。


「レックス殿……貴殿には犠牲になってもらいたい」


「犠牲……? 何のためにだ」


「上手くいけば、敵の裏を突くことが出来るかもしれん」


「その線が正しいであろう可能性はどれくらいだ? 僕が犠牲になる必要はあるのか?」


「わからぬ……だから確かめたいのだ。仮にそれが間違えだったとすれば、我々に挽回するチャンスはない。だが、もし私の考え通りレックス殿が次に消えれば、パルナ殿が先に消され、レックス殿が消されなかった理由に説明がつく。そうなれば……私の考えは間違いないと断定できる。だから慎重に……最後に確かめておきたいのだ」


 緊迫した空気がレックスとメノウの間に漂う。それもそのはずで、それは、レックスに命を落とすかもしれない犠牲になれと言っているようなものだったからだ。


 だが、レックスは一考すると微笑を浮かべ、メノウの肩にポンッと手を置くと「わかった」とだけ告げ、急に立ち止まって話し合いを始めた二人をチラチラと気にかけているアリスの元へと合流しようとする。


「詳細は聞かないのか?」


「どうせ僕は消えるんだろ? なら聞くだけ無駄さ。それに元々……仲間を頼れと言ったのは僕だからな。何も気にする必要はない」


 正直なところ、この状況で敵の裏を突く手段があるというのであれば、それに乗らない理由がなかった。だが一つだけ懸念な点を思い浮かべ、レックスは歩を留めてメノウに振り返り――、


「……これだけは聞いておくが、お前は大丈夫なのか?」


 レックスはどこか不安そうな顔で、再びそう問いかける。その表情は、これからやることが上手くいくかどうか不安になってきているものではなく、単純に、メノウの考えがハッキリとした段階で、メノウが敵の裏をちゃんと突くことが出来るかを、心配してのものだった。


「何がだ……レックス殿」


「いや、お前が僕を頼ってくれたのは嬉しいが……なんというかな」


「言いたいことはわかる」


 メノウも、レックスが感じている不安を理解していた。メノウが考えた作戦は、上手くいけば敵の裏を突くことが出来、形成を逆転させることが出来るかもしれない。だがそのリスクも大きく、正体を暴いたところで無駄に終わる可能性もあった。


 メノウが考えた作戦とは、レックスを犠牲にすることだったから。


 レックスを犠牲にするということは、単純に、パーティー内の戦力が著しく低下することにも繋がる。戦力が低下したパーティーで、敵と対峙できるかがレックスは不安だったのだ。


「いや……皆までも言わない。僕はお前に任せることにしたからな。師匠がいない今、頼れるのはお前くらいだ」


「すまない……私にとってもこれは最後の賭けなのだ。必ずやり遂げて見せる」


 メノウの迷いのない言葉にレックスは安堵し、もう何も言うことはないと背を見せる。


「もー二人共、ちゃんと怪しい場所がないか探してよね! ボクだけじゃん、さっきから真面目に探してるの!」


「す、すみませんアリス様」


 すると、二人だけで話し込む二人に痺れを切らしたのか、アリスがツカツカと近付いてメノウに対して文句を垂らす。


 わざとらしく頬を膨らませながらアリスはメノウを睨むが、すぐに「なーんてね」と笑顔を見せる。かつては殺し合う運命にあった二人が、手を取り合って行動する様を、ずっと魔族と人間の和平を望んでいたアリスが嬉しく思わないわけがなかったからだ。


「覚悟は決まっているみたいで安心はした……頼んだぞメノ…………」


 その時、転機は突然訪れた。


 まるで、途絶えたかのように突然レックスの声が聞こえなくなったのだ。その違和感に気付いたアリスがすぐさま視線をレックスのいた場所へと向ける。


「あれ……メノウ? レックスさんは?」


 キョロキョロとアリスは周囲を見回すが、そこにレックスの姿は無く、平地となっている住宅街予定地にはメノウとアリスの二人だけの姿しかなくなっていた。


 対するメノウは慌てることなく、黙って虚無を見つめていた。レックスが最後に笑みを浮かべて言葉を発した時、メノウは、レックスが目の前から突然消滅するかのように消えていなくなった瞬間を目撃していたからだ。


「これで……確信を持てた」


 レックスを犠牲に得た確信。敵の本拠地である可能性も高く、普段來栖以外に人がおらず、誰からも見られる心配のない中央施設に向かったティナたちだけではなく、レックスが犠牲になった理由。その確信を得たメノウはすぐさま通信機を取り出し、別行動をしているティナたちへとメノウは連絡を取った。


「……レックス殿がいなくなった」




 中央施設側と住宅街予定地側で分かれていた一同は再び合流し、住宅街予定地へと集まった。というのも、捜索を続行せずに一度合流しようとメノウが提案したからだった。


「……このままじゃ全滅するよ⁉ やっぱり二手に別れて行動するべきじゃなかったんだよ!」


 レックスを失ったことを知った油機が、いよいよ追い詰められたと焦燥し、喚き叫ぶ。


 遂に、パーティーの中でも強い実力を持つ勇者のレックスまでもがいなくなってしまった。なのに、敵の目星はまるでついておらず、ろくな対策も打てずにいたずらに時間を過ごす状態が続いていることに、アリスとティナとメリーは顔を暗くした。


『鏡と今すぐ合流する』、『昇降路を強引に起動させてとにかく逃げる』、『暫く密閉された場所にたてこもって鏡が行動を起こすのを待つ』等、様々な意見が飛び交ったが、メノウは既に腹に決めたかのような表情で――、



「いや、見えない敵を相手にあがくのはこれで終わりだ」



 一同の混乱を収めるように、メノウはハッキリとそう宣言した。

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