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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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たった一人-10

「え⁉ 鏡さん来てたの⁉ なんで起こしてくれなかったの⁉」


「しー! 声がでかいですよ! あの人一応死んだことになってるんですから……」


 スプーンを片手に持ったアリスが思わず声を張り上げ、そのことを教えたティナが慌てた様子で周囲に気づかれていないかキョロキョロと見回す。


 鏡が去ってから数時間後、眠っていた他の者も起床し、一同はレジスタンス内に設営されている配給所の傍で、円になるように椅子に座って朝食をとっていた。


「んも……師匠は僕が起きてからすぐにいなくなったひ……起きたところでどうせ何も話せなかったと思うぞ? うまいなこれ」


「馬鹿、アリスは見るだけでもいいから会いたいのよ。本当にあんたって女心わかってないわね」


 もごもごとスプーンを口に入れて喋るレックスに対し、パルナが呆れたように溜息を吐く。


「あいふ……来てたんだな、全然気づかなかった」


 まだ眠いのか、トロンとした目でもむもむとスプーンを加えながらメリーがそう言う。


「まあメリーちゃんはまだまだ小さなお子様だから、起こしてもフニャフニャ言うだけで何も喋れなかったと思うけどね、あっはっはっはっ……はぁあ! やめてやめて! 冗談冗談!」


 だがその数秒後、メリーのトロンとした目が鋭くなり、銃口が油機へと向けられた。


「まあでも、鏡さんはアリスちゃんを起こそうとはしていましたよ? 気付いてなかったかもしれませんが、ほっぺたとかツンツンされまくってましたし」


「え⁉ そうなの⁉」


 ティナの言葉にアリスは何故か満足そうに「そっかぁー」と頬をさする。


「なんでイタズラされたのに嬉しそうなんですか……」


「いや、あれは師匠にとってイタズラではない。あれはただそこにアリスの頬があったから突いていただけだ。師匠が本格的な嫌がらせなりイタズラを仕掛けるとしても、僕以外を対象にすることはないからな」


「そうかもしれないですけど……なんでレックスさん、そんな誇らしげな顔してるんですか」


 いつもと変わらない口調で、一同は会話を続けた。そうしないと、どこか落ち着かなかったからだ。仲間を失ったことで気負いしていれば、そこに付け入れられてまた仲間を失うかもしれない。そんな考えが、嫌でも一同の脳裏によぎっていた。


「それで? あんたはさっきからどうしてそんなに怖い顔を浮かべてるのよ。鏡と何かあったわけ?」


 そんな中、数十秒に一回、「ふむ」と頷いたり、「うーん……」と唸り声をあげながら、食事にも手を付けずにメノウが考え事をしていた。


「いや……何も」


「何もなかったらそんな顔しないでしょう」


 お見通しとでも言うように、パルナはメノウを睨みつける。


 だが、メノウはその睨みにも反応を見せず、思考を巡らせていた。


 これまでの敵の意図、そして鏡の言葉の真意。受け取った信号弾を見つめながら、どうして敵の本拠地を見つけた時には使わず、敵を見つけた時にこれを使うように指示をしたのか?


 敵の本拠地は探しても見つからない場所にあるのか? それとも自分たちに敵の本拠地を見つけ出すことに期待していないのか? そのどちらの可能性も、「無駄だから探すな」と言われていないため可能性が低く、メノウは頭を悩ませる。


 結局、敵がどうやってタカコやクルルを捕まえたのかを推測をたてられただけで、他は何もわかっていない。タカコとクルルを犠牲にしておきながら、前に進めていない。メノウはそんな自分の不甲斐なさに気が滅入っていた。


 鏡が重要なことを何も話さずに出て行ってしまったのは、もしかしたら頼りにされていないのではないかとすら思えてしまい、メノウは何でもいいから自分がここにいる意味を見出そうと必死にあがいていた。


「駄目だ……何もわからない」


 色々と考えた結果、何も答えを見つけられず、メノウは溜息を吐く。


「ほら、やっぱり何か考えてるんじゃない」


「私は無力だ。与えられた情報の範囲内でしか答えを探せない……鏡殿にずっと頼りっぱなしにしていたツケなのだろうな、私だけでは、敵を追い詰めることなど……」


「なに辛気臭いこと言ってんのよぉーあんたらしくもない。別に一人で敵を追い詰める必要なんて何もないでしょう?」


 パルナの言葉に同意なのか、レックスも「その通りだ」と頷いて反応する。


「少なくとも、お前は今残っているメンバーの中では一番頼りになる。僕なんかよりもずっとな。敵の正体を知る核心的なものはないが、お前がいなければわからなかったことも多いんだ……もっと自信を持て。それに、パルナの言う通り一人で追い詰める必要なんてないんだ……もっと僕たちを頼れ」


「レックスさんの言う通りだよ! メノウが気付いたことはボクなんかじゃ気付けないことばかりだもん! 情報の範囲でしか答えを探せないって言うなら、答えに結び付けられるような情報を得られるようにボク頑張るから……」


「情報が足りないなら見つければいい……そうですね。見つからないと立ち止まるより、見つかるまであがき続けるのが鏡殿のパーティーらしい……か」


 流し目で視線を向けるレックスと、不安を誤魔化すような精一杯の笑顔を向けるアリスを見て、変に心配をかけてしまっていたとメノウは気持ちを切り替える。


 まだ何もわかっていない状況だったが、少なくとも気付けた要素はたくさんあった。


 そのことから、次の行動に繋げていけばいい。そう考えて再びメノウは思案する。


「ならば……今夜行動に移そう」


「今夜?」


「ああ、敵に怯えていては何も始まらん。多少のリスクを冒してでも……我々は敵の本拠地を暴くために動くべきだ」


 気付けた要素の一つとして、何故かはわからないままだが、敵はノアの施設内で仲間を消すのを躊躇っている節がある。その証拠として外でタカコが消されてから今に至るまで誰も味方は消えていない。メノウはそれを逆手にとることにした。


 仮に今夜、敵がノアの施設内で仲間を消す行動に出始めたとしても、敵には一人ずつしか消せない何かの理由があり、犠牲が出ても一人だけで収まる。


 このまま黙って全員が消されるのを待つくらいであれば、犠牲を覚悟してでも前へと進む。メノウはそう決意した。


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