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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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たった一人-7

「しかしあれだな、寝てる皆を見ているとなんだ……いたずらしたくなるな」


「子供ですか」


 とりあえず鏡は寝ているレックスの元へと近付き、鼻を摘まむ。「フゴッ」っと一瞬苦しそうな表情を見せたあと、すぐに口呼吸へと切り替えたのを見て、鏡は思わずニヤッと笑みを浮かべた。


「この状況で口を塞いだら……!」


「いや、普通にかわいそうなのでやめてあげてください」


 目をキラキラさせる鏡に、ティナは溜息を吐いて呆れながら。レックスの口を摘まんで呼吸を止める。しかし、それでもレックスは表情を蒼褪めさせるだけでまるで起きなかった。


「おお凄いですねレックスさん。全然起きませんよ」


「俺さ、初めてお前が怖いって思ったよティナたん」


「いいんですよ。よくよく考えればこの状況でしかも鏡さんが来てるのに、仮にも勇者のレックスさんが寝てるのは駄目だと思います。女性陣に手を出すのは許しませんけど」


 暫くして、レックスの首が左右に激しく動き、限界が来たのか飛び出すように「ぶはっ!」っと勢いよく起き上がる。


「な、なんだ……? て、敵か⁉」


「おはよう」


 そこはさすがというべきか、起き上がると同時に枕元に置いてあった剣の鞘を持って素早く鏡から距離を取り、身構える。暫く寝ぼけて誰なのか認識できなかったのか、目の前にいるのが誰なのかを理解するとレックスは剣の鞘を地面に置き、大きな溜息を吐く。


「どうしてそういつも……突然現れるんだ。まあ無事でよかったが」


「一応約束通りの三日後だろ今日は? とは言っても、もう聞きたい話は全部聞けたし、そろそろ行こうとは思うがな」


「なんだ? もう行くのか?」


「俺はレジスタンス連中からは死んでるってなってる以上、一緒にはいられないからな。事情を説明して一緒にいるメリットも今のところないし。話なら大体メノウには伝えたから、気になるなら後で聞いといてくれ」


 その時、妙に鏡の態度がいつもと違うような気がして、レックスは怪訝な表情を浮かべる。


 まるで、今すぐここから離れたいかのような、そんな雰囲気をレックスは感じ取った。


「……お父」


 その時、何も言わずに静かに湯呑に入れられたお茶を飲んでいたピッタが、何かに勘付いたかのようにフワフワとした獣の耳をピクっと動かし、鏡のズボンの裾をくぃくぃっと引っ張る。


「……どうやら人が来たみたいだな。そろそろ俺たちも行くよ」


「アリスちゃんや、メリーちゃんが起きるのを待ってあげないんですか?」


「顔を合わせてもすぐにいなくなるんだ。それに長くここに留まってレジスタンス連中と鉢合わせてもまずいし」


 鏡はそう言うと「行くぞ」と声を掛けて朧丸を頭の上に乗せる。


 その後すぐにメノウへと視線を向け、懐に隠し持っていたのか「これを渡しておく」と、魔力銃器とは少し形式の違ったシンプルな造りの銃を一丁渡してきた。


「なんだこれは?」


「信号弾だ。万が一敵の正体がわかったり。敵を追い詰めたりしたらこれを上空に向けて撃ってくれ。なんか……それっぽい何かが出るらしい」


「それっぽい何かとは……なんだ?」


「なんか煙みたいなのが出る。俺もノア内にはいるからさ、空に向けて撃ってくれればいやでもそれで位置くらいはわかるだろ? 緊急連絡用ってやつだ」


 メノウは信号弾を見つめながら、鏡の言葉に違和感を抱いていた。敵の能力から、敵の正体がわかるようなことは恐らくない。無論、追い詰めるような状況には恐らくならないだろう。仮に使う用途があるとすれば、敵の本拠地を見つけた時に位置を伝える時用くらいだ。



 だが鏡は、敵の本拠地を見つけた時に伝えてくれとは一言も言わず、鏡にもわかっているであろう絶対に見つかりも捕まりもしないであろう敵を見つけた時用にと言って渡してきた。



 きっと、それには何か意図があるのだろう。メノウはすぐにそのことに気付いた。ハッキリと言えない理由も恐らくあるのだろうと。


「……じゃ、行くわ」


 だが、その真意を確かめる暇もなく、鏡はテントの外へと出ようとする。


 その間際、睨みつけるかのように視線を向けるメノウに鏡は気付き、まるで誤魔化すかのように微笑を浮かべると、「皆を頼んだぜ」とだけ返してそのまま外へと出て行った。





 テントの外はまだ薄暗かった。ノア全体を照らす光が徐々に光を強めてはいたが、それでもまだ明朝であるのがわかるくらいには薄暗く、そして何より静かだった。


 周りにレジスタンスと思われる、人影は一つもない。


「……お父。どんどんここから離れていってるです」


「ここじゃ場所が悪いってか? クルルやタカコを消したみたいに俺も消せばいいのに」


「警戒しているのでござろう。なんせ、一瞬の間でもあればご主人なら捕まったところで束縛を解いて逆に攻撃を加えることくらいは簡単でござろうからな」


「なるほどな、じゃあ向こうの都合に付き合ってやるか」


 鏡は笑みを浮かべてピッタを担ぎ上げると、「あっちです」とピッタが指示を出す方向へと音を起てずに跳躍し、静かに駆け始める。


 ピッタがテントの中で何も言わずにお茶を飲んでいたのは、ずっと五感を駆使して周囲に近付いている存在がいないかに集中するためだった。そうするようにピッタは鏡に言われていたからだ。


 というのも鏡は、メノウから報告を受ける前から、敵が音と気配を出さずに行動できる力を持っているということも、クルルとタカコがいなくなったことも知っていた。


 合流を考えている以上、仲間の居場所は常に把握していなければならない。そうじゃなくても仲間の安否を常に把握するため、鏡はピッタの五感で仲間がちゃんと全員無事でいるかどうかを調べてもらっていた。


 無論、ピッタの五感で補足できる目標の範囲にも限界がある。そのため、鏡はどうしてもやらなければならない用事を済ます以外の間は、ピッタの五感で補足できるギリギリの距離で行動をしていた。幸い、朧丸の透明化のおかげでどこに居ても見つかることなく行動できた。


 そしてクルルやタカコが消えた時、ピッタは突然消えたと言っていた。それはつまり、敵がピッタの五感をもかいくぐる力を持っているのだと判断するしかなかった。


 そうなると疑問も出てくる。それならば何故、まず孤立している自分を狙わないのかと?


 何故、その力を駆使して、一気に仲間を消してしまわないのかと?


 その答えに、鏡はすぐに気付いた。

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