疑心暗鬼の夜-10
「おーう! お前ら起きてるか……っておぉ? おいおいおいおいおい、おお? どういうこったこりゃ…………もしかしてお前ら、そういう関係だったのか?」
耳を突くような野太い豪快な声と共に、ノアを明るく照らす照明の光がテントの中へと差し込まれる。
突然視界に広がった光が眩しく、ぼんやりとする意識を揺り起こしてすぐに寝返りを打とうとするが、それよりも眠気が勝り、一同は光を浴びながらも再び夢の中へと戻ろうと瞼を閉じた。
「いや、起きろ! もう八時だぞ? 朝食の時間だぞ朝食! 朝はしっかり食べないと、一日しっかりと働くことなんてできんぞ?」
「ん……んん、朝? もう?」
まず最初に身体を起こしたのは、アースクリア内でも普段から規則正しい生活を送っていたアリスだった。トロンとした目を擦りながら、テント内をキョロキョロと見回し、隣側で眠っていたメノウの身体をゆさゆさと揺さぶり始める。
「ん……ぬ? 天使が……目の前に?」
「それ……なんか前も聞いた気がする」
アリスに身体を揺さぶられて、メノウも眠そうに目を擦りながらもようやく目を覚まして起き上がる。すると、アリスとメノウの声に耳をくすぐられてか、パルナも眠そうにとろーんとした目をしながら起き上がり、テントの扉から顔を出すバルムンクへと視線を向ける。
「んん? もう朝ぁ……? あれ? なんでバルムンク隊長がいんの?」
「お前たちがいつまで経っても起きて来ないから起こそうと思ってな。そしたらお前たちがいるんで驚きだ! そういうことなら先に言ってくれれば最初からそういう分け方にしたのに」
「なぁーに勘違いしてんのよ……ちょっと事情があってこっちに来てたんだけど、そのまま寝ちゃっただけよ……ほら、レックス、あんたもとっとと起きなさい」
パルナは眠い目を擦りながら寝床の横に置いてあった杖を持ってレックスの腹部を殴りつける。すると、「うーん……」と眠そうにしていたレックスも「うぐぅ⁉」と悲痛な声をあげて寝床から飛び上がるように起き上がった。
「起こし方が……荒い! パルナさんもうちょっと優しく」
「大丈夫よ……勇者なんだし。頑丈でしょ」
念のために怪我はないかアリスがレックスの傍によって近付き、レックスは何が起きたのかさっぱりわからない様子で周囲をキョロキョロと見回す。その光景をバルムンクは「面白いなお前らは」と、豪快に笑ったあと、「他の連中も起こしてこい、飯はしっかりと喰えよ」と言い残し、テントから出て行った。
「……昨日は、長い夜だったわね」
「全くだ……寝始めた頃は照明が少し明るくなり始めていたし、結局三時間も眠れていないんじゃないか? まだ全然眠い……」
「ほらほら、朝ご飯出来てるって! 早く行こうよ」
ぽけーっとした表情で虚を見つめるレックスとパルナとは裏腹に、アリスはてきぱきと布団を畳んで身支度を整える。
「あんた……さっき起こされたばっかりなのに元気ね」
「ボク、寝起きは良い方だから」
「日頃から素晴らしい生活習慣をなさっている証拠だ。お前たちも見習うといい」
「あんたは寝起き悪いわね」
アリスにならってテキパキと布団を畳もうとするが全く畳めておれず、逆にごちゃごちゃになっているのに気付かず手を動かすメノウを見て、パルナが冷めた視線を送る。
数分後、残る眠気に悩まされながら四人は支度を整えて外へと出る。
すると、照明が落とされた夜とは違い、朝のように明るく照らされ、その光の下の元、ワイワイと昨日見た時と同じ、賑やかなレジスタンスの日常的光景が視界に広がった。
「……昨日戦いなんてなかったみたいに、賑やかね」
「いや、そうでもないみたいだぞ?」
怪訝な表情を浮かべながらレックスは、賑やかに楽しそうな表情を浮かべるレジスタンスの隊員たちの中に、浮かない表情で深刻そうに話し合いをする二人組に視線を向ける。
明らかに周囲とは雰囲気の違う二人を前に、四人はお互い頷きあって詳しく事情を聞くためにその二人の傍へと近寄る。
「何かあったのか?」
レックスが声を掛けると、「あ……いや」と、どこか聞かれたくなさそうな微妙な表情を二人は見せる。
「誰にも言わん、相談に乗ってやれるかもしれないし話してはくれないか?」
そしてメノウがダメ押しをすることで、顔を見合わせてどうするか悩んでいた二人は、浮かない顔の理由を四人に話した。
「……食糧庫が荒らされていた?」
二人は、今日の朝食の当番だったらしく、朝に鍵を持って食糧庫へと足を運んだとのことだった。そして、食糧庫の錠前が何者かによって破壊されており、中に保存してあった食料がごっそりと無くなっていたと二人は話す。
食料はノアの住民にとって最も貴重な資源であり、ごっそりと盗まれたことが他に漏れれば混乱と不安を招くことになると表立っては話さず、こうして内密に犯人を見つけるための手掛かりを取集しているとのことだった。
こういった事例は前代未聞らしく、食糧難を理解しているノアの住民は、食糧庫に手を出せば自分たちのライフラインが脅かされることになるのを理解しているため、錠前をかけなくても決して侵入したりはしないはずなのにと、表情を暗くして朝食当番だったレジスタンスの二人は語る。
「……どう思う?」
話を聞いたあと、レックスがおもむろにメノウへと問いかける。
「間違いなく昨日の一件と関係はあるのだろう。……だが」
「目的がさっぱりわからないわね」
昨日の今日ということもあって、間違いなく敵側が意図して仕掛けてきた何かであるのは明白だった。しかし、その意図がわからず三人は頭を悩ませる。
食料を盗むことで後々自分たちのせいにし、レジスタンスにとっても正式に敵とすることで自分たちを手っ取り早く捕縛しようと考えているのかともメノウは思考するが、そうなるように陥れるにはあまりにも手運びがずさんすぎた。
現状であれば、自分たちが盗んだという証拠もなければ、自分たちのせいであるとするに必要な疑わしい要素もない。でっち上げて作るにしても、それをでっち上げた人物を問い詰めれば出所がわかり、逆に正体を明かすことに繋がってしまう。そんな間抜けなミスをするような相手とは思えず、メノウは可能性を模索し続ける。
またや、こうして無駄に悩ませることで、精神ストレスを与えるのが目的なのかもしれないと、不明すぎるその行動に頭を悩ませた。
「今は考えても仕方ないよ、とにかく皆を呼びに行こう?」
とにかく相手の目的がわからない以上、これ以外に相手がどう出るかを待つしかなく、メノウたちは最初の目的通り女性陣のテントへと向かった。
今年最後の更新となります。
今年一年間、色んな方に支えてもらってばかりでした。お世話になった分、小説を通して皆さんに還元したいと考えておりますので、来年度もLV999の村人をぜひともよろしくお願い致します。
また、今年一年間、ありがとうございました!
それでは良いお年を!